あ・りとるびたー・う゛ぁれんたいん2
バレンタインと聞いて、少しだけ復活しました。
その日、実里君にヴァレンタインのチョコを渡して、家に帰った時のこと。
リーシェも家に上がってもらって、二人でお茶でも飲もうと、リビングに向かったら、
「えぇ、届いた? うんうん、よかった~」
ママが電話(固定)で話しているところだった。
普段から、ふんわりとした雰囲気で、朗らかな人だけれども、電話をしている時の横顔は、何だか私たちとそう変わらない年頃の女の子に見えた。
ふとママが私たちの方を見て、手でおかえり、いらっしゃいと合図をして、冷蔵庫を指さした。
昨日作ったチョコレートケーキが入っているから、食べていいよ、という合図だ。
「そうそう、うん、ちゃんとできるんだから」
何やら嬉しそうに、自慢げに話している。
パパと話している……訳じゃなさそう。
お友達……リーシェのママ、ファナおばさんが相手なら、家に呼んでいるだろうから違う、かな。お隣だし。
でも、ああして話すようなお友達って、他にいたかな?
考えもそこそこに、リーシェには先に私の部屋に向かってもらい、私は冷蔵庫の中からすでに切り分けられているチョコレートケーキを二つと、インスタントのホットココアを準備する。
「いいなぁ~。麗歌のチョコ、私も久々に食べたいなぁ」
その名前が聞こえてきたとき、ふと手が止まった。
私の知り合いに、同じ名前の人がいるからだったけれど、同名の別人だろう。
それにしても、ママがあそこまで砕けた話し方をする相手なんて、レイカという人とは余程親しい間柄なのだろう。
おっと、私も親友を待たせすぎちゃだめだ。
ケーキとカップを乗せたお盆を持って、私は自室へと急いだ。
「一香はいいなぁ~。麗歌と七音さんのチョコ、同時にもらえるんだもの」
『そこは仕方ないと割り切ってもらうしかないですね』
「はいはい、仕方ないかなぁ」
『それに、麗歌と俺が作ったものが、もうじき君の家に届くはずです』
「まぁそれはうれしい!」
『これで許してくれますか?』
「許しましょう! かつてのメイドさんと執事さんのプレゼントだもの!」
『あれはメイドと執事じゃ……このやりとり、毎年やってますし、そろそろ飽きませんか?』
「飽きないわよ。だって、年に一回だし」
『そうですか。じゃ、麗歌にかわりますね。さっきから君と話したくてたまらないようだから』
「ふふっ、わかったわ」
『旦那さんにもよろしくとお伝えください。それと、ラウラさんと実里だけれど』
「わかってる。わかってる。うん、優しく見守ろうと思うわ」
そう言って、娘の自室の方へと顔を向ける。
今頃、あの子たちは楽しんでお茶会をしているに違いない。
「なんだか、懐かしいな」
『ん?』
「貴方と麗歌と、一緒に居た頃を思い出しちゃった」
『なら、旦那さんやファナさんたちと一緒に、ウチに来てください。あとひと月もすれば、桜がみられる頃ですから』
「そうするわ」
『一香ちゃん、そろそろかわってもらえるかしら?』
『わかったよ姉さん。それじゃ、俺はこれで』
「うん、ハッピーヴァレンタイン」
『ええ、ハッピーヴァレンタイン』
私の兄のような人は、最後にそう言った。
それから、私の姉のような人と一緒に、十分以上、話に花を咲かせた。
ママと一緒に作ったチョコレートケーキにリーシェと一緒に舌鼓を打ち、ホットココアに口をつけていると、リーシェが「ねぇ」と英語で話しかけてきた。
「そういえばラウラ。ママから、今年、ママのお友達の家に遊びに行かないかって言われているの。それも日本国内で」
「そうなんだ? ファナさん、日本にもお知り合いがいるのね」
「なんでも、ママとナズナおばさんが昔お世話になった人たちの家なんだって」
「ということ、私も一緒に行くことになるかな?」
「そうだったら、うれしいかな」
「まぁ、そうだといいけれど。それにしても、ママたちの知り合いって誰だろ?」
「うーんとねぇ」
スプーンの先端を下唇に当てたリーシェが天井を一瞥して、
「昔、ナズナおばさんを助けてくれていたご姉弟なんだってぇ」
「さて、それじゃあ皆のチョコも準備しようか」
「そうね。ところで、ヨシルちゃんはどうする?」
「あの子の方は姉さんたちに任せた。俺よりも、姉さんたちにもらった方がうれしいだろうし」
「ふふふ、そうかもね。そうだわ一香ちゃん」
「ん、何だい?」
「ハッピーヴァレンタイン。私と七音ちゃんからのチョコよ」
お読みいただきありがとうございます。
去年投稿した、あ・りとるびたー・う”ぁれんたいんの続きです。
今回登場した人物たちは、ぎるてぃせぶんに登場、または名前だけ出てきた人たちです。
少しだけ紹介をば。
円迎寺ナズナ:ラウラの母親。とても朗らかな女性。多忙な両親に心配をかけまいと抱えていた寂しさを、突然現れた姉弟に救われたことがある。
麗歌:一香の姉を自称する女性。のんびりした性格で、みんなのお姉さん。
一香:実里の親戚で、親族のことを温かく見守っている青年。
七音:一香の奥さんで、幼馴染。麗歌とも古い付き合いで、姉妹のように仲が良い。ナズナのこともよく知っている。
ファナ・オーエン:リーシェの母親で、ナズナとは中学生時代からの親友。明るく物怖じしない性格で、よくリーシェの姉と間違われる。
ヨシル:一香の双子の妹の実娘。かわいいもの好きで、妹とバイトで知り合った後輩などが大好きらしい。
こんなところでしょうか。
主人公たち以外の人物の目線の話なども好きなので、リハビリもかねて書いてみました。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
さて、バレンタインデーの日付を過ぎていますが、2月14日の26時だと思えば……!(半泣
冗談はさておき、サエぼ含めて、もう少々お待ちくださいませ。
令和四年二月十五日 リアルの多忙さにホットコーヒーで一息つきながら。




