試験終了
「あんなにデカいのに魔石は一つだけか」
鎧蜘蛛が落とした魔石は、ほかの魔物が落とすものとさほど変わらない。
唯一の違いがあるとすれば色合いが少し赤っぽいこと。
普通の魔石と比べてみるとその違いがよくわかる。
けれど、一個は一個だ。
「そうだ。下ろしてやらないと」
糸に吊された受験生を救うべく、糸を切断して受験生を解放。
すぐに脈を取って生存を確認する。
「よかった、生きてる。でも、それもそうか。普通は死んだら魔石になるもんな」
魔物は死ねば灰となって魔石となってしまう。
ゆえに魔物が狩りを行う際、獲物は必ず生け捕りにされる。
生きたまま死なないように食べなければダンジョンの中では生きていけない。
「魔物の習性に救われたな」
ほっと息を吐いて蝶の下に寝かせ、次の受験生へ。
そうして三人ほど救出すると信号弾を見て駆けつけてきた先輩冒険者たちが到着する。
「救助に来てみれば……なにがあった?」
「みんな鎧蜘蛛にやられたみたいで」
「鎧蜘蛛か……それはキミが?」
「はい。なんとか」
「……そうか、わかった。みんな受験生を家に帰してやれ」
何らかの魔法で宙に光源が浮かび、周囲の様子が鮮明になる。
照らし出された受験生たちは次々に救出され、安全圏へと運ばれていく。
俺が助け出した人達も同じように連れて行かれた。
「キミは剣を折り、時間を失い、体力と魔力を消費した。ほかの者たちに大きく遅れをとることになるだろう。それでよかったのか?」
「もちろん。俺が逃げたせいで死なれるよりはずっといいですよ」
「そうか。残りはあと三十分だ、最後まで気は抜くな」
「はい」
そう言い残して先輩冒険者たちは去って行く。
剣は折れ、魔力は底をついた。
けれど、まだ俺にはナイフがある。
まだ足掻けるはず。
「あと三十分。すこしでも」
ナイフを片手に駆けだし、残り時間で森林を駆け回る。
そして入団試験終了時刻が訪れた。
§
「それで、どうなの? 合格できそう?」
「さぁ? それは発表されてからじゃないと」
「そっかー。合格できてるといいね」
「あぁ」
そう返事をしつつ新調した剣を構える。
相対する真導も同じように剣を抜く。
「じゃ、いっちょよろしく!」
「じゃあ、行くぞ」
約束通り、真導に剣を教えるべく刃を交えた。
思えばあの日から随分と日常が変わったような気がする。
入団試験に挑戦できるようになるなんて思いもしなかったし、こうして真導と友達になるなんて想像だにしなかった。
人生、わからないものだな。
「隙あり!」
「甘い」
剣撃を弾いて退かせる。
「いま決まったと思ったのに-!」
「まだまだだ。ほら、もう一回」
「よーし!」
再び刃を交え、稽古は続く。
こんな日々がずっと続けば。
そう思った。