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昼と夜の森林


 生命(VIT)41、攻撃(ATK)56、防御(DEF)40、魔力(MAG)62、抵抗(RES)44、速度(SPD)71。

 高い機動力と最低限獲物を仕留められるだけの火力を持ち合わせた職業。

 目深にフードを被ることで顔を隠し、音もなく移動するその名はアサシン。

 自らが発する音を限界まで減らして近づき、魔物の不意を打つ。

 風切り音でこちらの存在に気付いてからではもう遅い。

 その時にはすでに刃は標的に到達し、その命を刎ね終えている。


「これで十個目か」


 灰になった死体から魔石を拾う。

 入団試験開始からしばらく、今のところは順調。

 職業、アサシンは魔物を見付けやすく、気取られ難い。

 不意打ちで仕留められる魔物が相手ならまず負けないだろう。

 けれど。


「おっと」


 魔物の気配を察知すると共に足音が響く。

 咄嗟にその場から飛び、木の上に身を隠す。

 息を潜めて気配を消していると、真下を大きな魔物が通り過ぎていく。

 グラスドレイク。

 生命(VIT)55、攻撃(ATK)65、防御(DEF)95、魔力(MAG)95、抵抗(RES)45、速度(SPD)85。

 ステータスを盗み見て息を呑む。

 まともに戦えば敗北は必至。

 魔石の数を競う試験の内容上、グラスドレイクとは戦わないのが最適解。

 深緑の鱗に包まれた大蜥蜴がこの場から去るのを息を殺して待つ。


「ふぅ」


 どうにか見付からずにやり過ごせ、ため息を吐くと木から下りる。


「いつかあいつも倒せるようになりたいな」


 遠ざかる足音を聞きながら、グラスドレイクとは逆方向へ。

 なるべく慎重で堅実な行動を心掛けて魔石を稼ぐ。

 深追いはせず、数が多ければ引き、敵わない相手とは戦わない。

 時折、挟む休憩時には真導に奢ってもらったカロリーバーを囓る。

 おでん味はまた買ってもいいかな? と思うくらいで蟹味ほど悪くない。

 食事を終えると残り時間はあと半分、頑張ろう。


「ん? もうすぐ夜か」


 懐にしまっていた携帯端末が震え、予めセットしていた時刻を告げる。

 雑嚢ポーチから蝶のランタンを取りだし、光り輝く蝶が羽ばたく。

 ちょうどそのタイミングでダンジョンが夜に切り替わり、周囲の一切が闇に染まる。

 周囲にある光源はこの蝶たちだけだ。


「こうなると……アサシンでいる必要もないな」


 魔物は夜目が利く。

 例え明かりを付けなくても目敏く見付けられることだろう。

 どちらにせよ、こちらから暗闇に乗じた魔物を視認することが難しい以上、アサシンは不向き。


「ジョブチェンジ」


 ここはやはり使い慣れた剣士でいい。

 目深に被っていたフードを掻き消し、右手は常に剣の柄に。

 視界が悪い以上、より周囲の物音に注意を配りつつ前進。

 襲いかかってくる魔物を返り討ちにし、落ちた魔石を探すのに一苦労したりしていると、ふと光の筋が見えてくる。


「これ、蝶の鱗粉か。ほかにも買った奴がいるんだな、当たり前だけど」


 蝶のランタンも市販品なので当然同じものを持っている受験生もいる。

 それは人が通った証であり鉢合わせないように進路を変えて歩く。

 しかし。


「また?」


 また鱗粉の筋を見付けて方向転換。

 すると、また少しして同じものを見る。


「……おかしいな」


 先ほどから見るこの鱗粉。

 これらはすべて同じ方向に向かって伸びている。

 もちろん行きか帰りかの判断は付かないけれど、一方向を指し示すようではあった。


「あの先になにかある……のか?」


 そこまで思考が至った、その瞬間。

 右脚に何かが纏わり付く。

 それに気がついた頃には遅く、凄まじい力で足を攫われた。


「なっ!?」


 体勢を崩し、倒れ、そのまま引きずられてしまう。

 向かう先は鱗粉が指し示していた方向。

 これで理由がわかった。

 みんなこうやって引きずり込まれたんだ。

 あの方向へ。

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