21 騎士との交流・2
本日2回目の更新です。
sinoobi.com様の「期待の小説週間ランキング」で2日連続1位をいただきました。「まだ多くの人の目に触れられていないだけで、読んでもらえれば上に行けそうな作品をピックアップする目的で作られたランキングです」だそうです! わーい!
「どうか、あなた方の力を貸して下さい」
頭を下げたまま、私は騎士たちの方に意識を集中させた。耳を澄まして、彼らがどういった感情をこちらに向けているかを探る。
「子供が親を恋しがるのは当たり前だ! 隊長、ここは力になってやりましょう! 俺だって息子が突然姿を消したら心配でたまりませんよ」
「そうですよ、この子たちがいなかったら僕も死んでいたかもしれません。受けた恩を返さないなど騎士として恥の極みです」
最初に大きな声で私たちの味方をしてくれた人の言葉を皮切りに、次々と賛同の声が上がる。それを聞きながら、ほっとして力が抜けそうになりつつ私は顔を上げた。
「……だ、そうですよ」
クリスさんは、笑っていた。その顔を見て、彼は自分の部下たちがどういう反応をするか、ほぼ予測できていたのではないかと気付く。
「我々に何ができるかはわかりません。ですが、できうる限りの協力を約束いたしましょう。騎士の誇りに誓って」
「騎士の誇りに誓って!」
一列に並んだ騎士が、剣を胸に当てる。剣を持った籠手と鎧、金属のぶつかり合う音が響いた。
お、おおおおおおおお!! かっこいいー!
「かっこいい……」
私の横で杏子ちゃんが崩れ落ちた。なんか特攻刺さったみたいだな……。そして多分私は鎧と剣のガチャガチャに食いついたのに対して、杏子ちゃんは一直線にクリスさんの顔を見つめている。
「かっこいい!」
「かっけー!」
子供たちも騎士の格好良さに大興奮だ。とりあえず、険悪な雰囲気は回避できたし、むしろ協力を約束してもらえたのは大収穫。
そして、こちらには更に彼らの心を掴むための切り札もある。――よしっ!
「ありがとうございます!」
大事なのは、まずは御礼。これは子供たちにもいつも言っていること。
「これから野営ですよね? 子供たちの椅子は安全に野営をするための力もあります。同行させて下さい」
そして、恩を売りつつ張り付く。一緒にご飯を食べると尚いい。特に相手は騎士団だから、危険を一緒に乗り切って食事を共にする関係というのは親近感を抱く可能性が高そうだし。
「黄色いコンテナ、何が出た?」
声かけると、楓ちゃんが走って確認に行った。オークの群れは数が多かったから、私の期待通りなら、時間からいっても『たくさんのお弁当』が出るはずだ。
「お弁当だよー!」
やっぱり! 私は小さくガッツポーズをした。
トロルまんはひとり当たり4個ずつくらい食べられたから、今お弁当が出ても食べられない子も多い。
「子供たちが魔物を倒すと、こうして食事や飲み物が出るんです。先程のようにお菓子だったり、時には毛布や他の物のこともあります。――まるで、必要な物を把握されているように」
気持ち悪さもわかって欲しくて、私はそこは正直に説明した。さっき目の前でトロルまんを出された騎士たちは、再び目にする光景に驚いたり感心したりしていた。
「このような話は聞いたことはないが、神の御業としか思えないな」
お弁当箱を開けながら、ひとりの騎士がため息をつく。今回のお弁当には箸ではなくて子供用フォークが付いていた。相変わらずサービスいいな!
「先生、俺まだお腹空いてない」
智輝くんがうなだれながら報告してきた。まあ、それも予想通りだよ。
「さっきのトロルまん、何個食べた?」
「4つ」
「やっぱりね。仕方ないね。無理に食べなくていいよ。お弁当は騎士さんたちに食べてもらおうね」
「うん」
智輝くんは自分の分のお弁当箱を持つと、近くの人に渡した。
「食べて下さい」
「あ、ああ。ありがとう。……いいのですか?」
後半の言葉はクリスさんに向けられたもので、クリスさんはそれに頷いてみせる。
「先程も食べさせてもらったのだし、構わない。よければ、火を熾しましょう。たき火を囲んで食べる食事は格別なものです」
そして私たちは、力強く燃え上がる火を囲みながら、一緒にオークの出したお弁当を食べた。
「へええ、こりゃ凄い。坊主たち、いつもこんなものを食べているのか?」
ジェフリーさんという最初に私たちの味方をすると宣言した騎士は、お弁当箱を持ち上げて殊更に大きな声で驚いて見せた。
兜を外し、ガントレットと胴鎧を脱いだ騎士たちは比較的軽装だ。胡座をかいたジェフリーさんの両脇には雄汰くんと太一くんが座っていた。もしかしたらさっきふたりを馬に乗せていたのは彼なのかもしれない。
「うん! でもこれは、幼稚園の時のお弁当なんだ」
「幼稚園?」
「小学校入る前に通ってたところだよ」
「小学校に通う前に通うところ、か。驚きだ。先生、あんたらの世界では一体どのくらい学校に通うんで?」
ジェフリーさんは凄くフランクで、私のイメージしている「熟練冒険者のおっさん」にかなり近い。そのせいか、私もこの人に対しては肩に力を入れずに話すことができた。
「6歳で入学する小学校の6年と、その後の中学校の3年間は必ず通います。これは国が決めた『義務教育』で、親は子供を学校に通わせる義務があるんです」
「6歳から合計9年も親が子供を学校に通わせる義務がある!? 魔物がいない世界から来たと言ってたし、そんな国は余程豊かで平和なんだろうなあ」
「ええ、まあ……」
私は苦笑して言葉をぼかした。この前行った村なんかは、絶対子供が学校に行ったりしていない。昔の日本もそうだけど、学校で学ぶ余裕なんかなくて親の手伝いをしないと食べていけない地域もまだ世界には多い。私の父なんかは日本は貧しくなったと嘆くけども、まだ日本は平和で豊かな方だろう。
「小学校に入る前に、幼稚園というところに2年か3年通う子が多くて、親が仕事で忙しい場合は1歳にならない頃から保育園というところに入る子供もいます。それと、中学校を卒業したら、だいたいはまた3年高等学校に、場合によってはその後も大学というところで勉強します。大学は学ぶ学問によって2年か4年か6年か。一番多いのは4年で、私なんかがそうですね。えーと、だから、小学校から数えると16年学校に通ったって事でしょうか」
「この国では16年も学業を修めたら学者ですね。貴族でもそれほどの教育を受ける者はごく僅かです」
「つまり、ミカコさんは貴族の令嬢なのですか?」
興味津々で訊いてきたのはハリーさん。一時期瀕死で、桂太郎くんの椅子で一命を取り留めたという。騎士団の中では若くて、私と大して変わらないように見えた。
「違いますよ。私たちの国には身分の差がないんです。うーん、説明が難しいんですが、『政治に関わらない、国の代表としての王』のような方がいて、他は全て平民です。ああ、でも、100年ほど前だと確かに貴族はいましたね」
「想像も付かないな。政治をしない王がいて、他は全て平民で、それなのに16年も教育を受けられる国……」
考え込んでしまった人がいるので、私は慌てて声を上げた。
「仕組みや歴史を説明すると理解できると思いますが、長くなるので今はやめましょう。日直さん、今日は颯太くんと美玖ちゃんだね。ご飯の前の挨拶をお願いします」
「はーい!」
「はい! それじゃ、手を合わせてください」
騎士たちは立ち上がった颯太くんと美玖ちゃんを見て、見よう見まねで合掌をする。
「いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
子供と大人の声が混じったいただきますが響き渡る。今夜のお弁当は白いご飯と、鶏の照り焼きと、カブとキュウリに塩昆布が入った浅漬け、そして風呂吹き大根。照り焼きの下にはレタス。うん、今日も美味しそう。それに、肉体労働職の成人男性はだいたい肉が好きと決まっている。お弁当、グッジョブだ!
「これは、カブ? こんな食べ方があるのか。へええ!」
「コメをこんな風に食べるのは初めてだが、うまいものだなあ」
「お口に合うようで良かったです」
食文化の違いは少し心配だったから、私は本音でそう呟く。
「我々は食わず嫌いなど言っていられませんからね。食材を現地調達することもありますし、温かい食事が食べられるなら文句はありませんよ。それに、これは間違いなくとても美味しい。これが毎食食べられるなら、我々も魔物を必死で倒すんですが」
クリスさんは小さなフォークを持って、ご飯を一粒もこぼすことなく、驚くほどの大口であっという間にお弁当を平らげていく。やっぱりそこは軍人さんなだけあって早食いなのか。
和やかに食事は進んでいく。食べ終わった子と騎士はおしゃべりに興じ、お互い見知らぬ世界の話に目を輝かせていた。
その中で、妙に静かな子がふたり。
葵ちゃんと俊弥くんだけが、話の輪の中に入っていない。表情も固く、黙って食事を続けていることが私は気になっていた。
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