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変態紳士の領内事情―ドーセット警察広報編―


上層部(タヌキ)どもに呼び出される覚えなんて無いんだがな……)


 テムズ川沿いに建つ赤煉瓦が特徴的なロンドン警視庁(スコットランドヤード)

 その廊下を、アーチボルド・ウィットフォード総監補は不満たらたらで歩いていた。


 スコットランドヤードにおけるアーチボルドの立場は特殊であった。

 それは彼の任務が円卓絡みに特化していることと決して無関係ではない。


 アーチボルドは、円卓がスコットランドヤードに送り込んだ人材である。

 円卓絡みの事件をもみ消す――もとい、解決するためであることは言うまでも無い。


 そんな経緯があるので、彼はスコットランドヤード上層部からは煙たがられていた。当の本人は、そんなことは全く歯牙にもかけていなかったが。


「はぁ……」


 アーチボルドは会議室のドアの前でため息をついてしまう。

 なんにせよ、呼びつけられた目的がロクでもないことは確定的であった。


「やぁ、よく来てくれた。調子はどうだね?」


 上層部のお歴々の中でも上座に座ったひと際偉そうな紳士が声をかけてくる。

 服装と階級章からして警視総監であろう。


「おかげさまで元気に過ごさせてもらってますよ。オフィスは快適ですし、定時で帰れますしね」


 多少の皮肉と嫌味を込めた返事を返すアーチボルド。

 目の前にいるのは一応の上司たちではあるが、常日頃から影に日向に冷遇されている。多少態度に出しても罰は当たるまい。


 階級だけなら幹部クラスなのに、庁舎の端っこに狭いオフィスを与えられたのみ。そのうえ部下も付かないとあれば、そのような態度を取られても仕方がないだろう。


『どこぞの特命係かな?』


 後にアーチボルドの待遇を知った腐れ縁のオリ主チートは、こう呟いたという。

 追い出し部屋という意味では共通しているかもしれない。


「……早速だが、これを見て欲しい」


 会議室に居並ぶ面々は苦々しい表情を浮かべたものの、すぐに本題に入る。

 自分たちがやっていることに心当たりがあるのであろう。


「これは?」


 写真を手渡されてアーチボルドは困惑する。

 深夜に撮影されたと思われる写真であったが、強い光源があったのかカラーで明瞭な画像が得られていた。


「これらの写真を見てどう思うかね?」

「……映画の撮影か何かですか?」


 一枚目の写真は一見すると漁船が空中に浮いているように見えたが、目を凝らすと長大な煙突に括り付けられていた。2枚目の写真は海岸で繰り広げられる銃撃戦を映しだしていた。なんにせよ、非現実的な光景であることは間違いない。


「残念だが現実だ。沖合で操業していた漁船が偶然撮影したものだ」

「んなっ!?」


 写真の内容が事実であることを告げられて驚愕するアーチボルド。

 それが意味することは、英国本国で武力衝突が発生していたことに他ならない。


「この写真はドーセットで撮られたものだ。我々は写真の詳細を政府に問い合わせたが解決済みの一点張りでな」

「あぁ。なるほど……」


 それだけで全てを察してしまうアーチボルド。

 要は事の真相を確認してこいというわけなのだろう。


「分かりました。直ちに現地に行って……」


 一秒でもこの場所に居たくないアーチボルドは、善は急げとばかりに身を翻す。

 反りの合わない上層部の連中と顔を突き合わせるのは苦痛であるし、何よりもドーセット領にはアレがある。彼の意識は既に別のことに向いていたのである。


「いや。待ちたまえ!?」

「君の任務はそれだけではないのだ!」

「むしろ、終わったことはどうでも良い。それよりも重要なことがあるのだ」


 さっさと退室しようとするアーチボルドを上層部の連中が必死に止めにかかる。

 見るからに運動不足の体で走って止めようとするあたり、尋常ではない。


「本題があるなら最初からそっちを言ってくださいよ。俺は一秒でもここに居たくないんです」

「わ、わかった……」


 階級は上なのに、アーチボルドに露骨に嫌な態度を取られても強く出ることが出来ない。両者の力関係は完全に逆転していた。


「最近は犯罪が凶悪化して犯人の検挙率は低下気味だ。このままではスコットランドヤードの威信にかかわる」

「特に組織と装備を刷新する必要がある。それも早急にだ」

「ドーセット領の治安は世界一と聞く。その優れた警察機構を視察してきて欲しいのだ」


 この世界のスコットランドヤードの実情はお寒い限りであった。

 史実よりも規模も装備も大きく劣っている状況だったのである。


 もっとも、こればかりはスコットランドヤードの怠慢が原因とは言い難い。

 史実よりも犯罪率が激減したことで組織を刷新する必要性が薄れていた。ある意味、円卓の適切な対応による被害者とも言えなくもない。


「だったらドーセットの警察に視察でも何でも頼めば良いじゃないですか? 正当な理由があれば、あちらさんが断ることは無いでしょうに」

「いや、それが……」

「正統な理由以前の問題というか……」


 アーチボルドのド正論に口を濁す上層部の面々。

 こういう状況ならば、視察なり人材交流なり理由をいくらでも付けられるはずなのであるが。


『あのド田舎に警察なんているんですか? 保安官で十分でしょうに』

『こちとら忙しいんです。そちらに割ける警官なんて存在しませんよ』

『警官を畑の見張り番と勘違いしていませんか?』


 今から二十余年前。

 当時のスコットランドヤードは、公爵になったばかりのテッド・ハーグリーヴスの協力要請をけんもほろろに断っていた。


 このことが後々まで尾を引いてしまい、現在も冷戦状態が続いていた。

 今回もダメ元でドーセット警察に打診してみたものの、返事すらもらえていなかった。


(まぁ、いいか。出張費は出るだろうし、さっさと仕事を済ませてあとは……)


 かくして、アーチボルド・ウィットフォード総監補はドーセット領まで出張することになった。


 新たなる出会いを想像してニヤケる顔を必死に隠しながら、ドーセット行きの特急に飛び乗ったのである。







『ヒューっ! 良いぞーっ!』

『もっともっと揺らせーっ!』

『はぁはぁはぁ……』


 欲望をたぎらせた下品な罵声が飛び交う。

 高級娼館『ラスプーチン』の大ホールでは恒例のストリップショーが開催中であった。


 かぶりつきで見ている客を他所に、後方のテーブル席に座る二人の男。

 言うまでも無く、テッドとアーチボルドであった。


『ちょっとだけよ~』

『よっ、待ってました大統領!』

『いいぞ、もっとやれーっ!』


 煽情的なBGMが大音量で流れているので離れた距離からの盗聴は不可能。

 観客たちの耳目は完全にストリップショーに向いているので、彼らに紛れて対象を監視するのは困難を極める。


 上述の理由により、娼館ラスプーチンは密談にはうってつけの場所であった。

 だからと言って、実際に密談に使用するのはどうかとも思うが。


 この場所が密談の場所に選ばれたのは、完全にアーチボルドの趣味である。

 さっさと仕事を済ませて合コンに参加することしか考えていなかった。


「……というわけなんだけど。どうするアーチー?」

「あ、頭が痛い……あと、アーチーって呼ぶな……」


 事の真相を問い質したアーチボルドは頭を抱えていた。

 どうせロクでもないことだろうと覚悟はしていたが、想定を遥かに超えた大惨事であった。


 むしろ、国際問題待った無しな案件を良くぞ隠ぺい出来たものだと逆に感心してしまう。事件が発生した時間帯と、ドーセット領の特殊性が良い方向に作用した結果に過ぎないのであるが。


「事実は小説よりもなんとやらを地で行ってたからねぇ。あ、悩めるアーチーにプレゼントだよ」

「なんだこれは? あとアーチーって呼ぶな!」


 困惑しながらも、アーチボルドはテッドからのプレゼントを受け取る。

 渡されたのはA4サイズの封筒であり、その中身は写真が添付された報告書であった。


「連中にせっつかれたらこの報告書を見せれば良いよ。辻褄は合わせてあるから文句は言われないはず」

「恩に着る!」


 柄にもなく、ストレートに感謝の言葉も飛び出たのも道理。

 上層部へどう説明したものかと思い悩んでいたアーチボルドにとって、目の前の報告書は値千金の価値があった。


 アーチボルドが持ち帰った報告書は、スコットランドヤード上層部に提出されることになる。短時間ででっち上げた割には良く出来ており、特に疑われることなく受け入れられたのである。


「ところで、話は変わるんだが。ドーセット警察(ここ)スコットランドヤード(うち)と交流してくれないのか?」


 しかし、これで全ての問題が解決したわけではない。

 というより、ここからが本題であった。


「アーチーも知ってるんでしょ? 過去にヤードの連中と何があったのか」

「まぁな。今の上層部は過去のやらかしを悔いているようだったが。あと、アーチーって呼ぶな」


 ドーセット領の治安は英国一、いや、世界一であることは周知の事実である。

 そのノウハウを知りたい警察関係者は大勢いた。


 そういった声に応えるべく、最近のドーセット警察では人材交流やノウハウの提供を行っていた。スコットランドヤード以外の警察組織に関しては、積極的に交流を進めていたのである。


「まぁ、あいつらが失礼な態度を取ってくれたおかげで日本式の警察システムを導入出来たのだから世の中何が幸いするか分からないんだけどね」


 そう言って、テッドは肩をすくめる。

 主人公補正が珍しく仕事をした一例なのかもしれない。


 スコットランドヤード側の態度にブチ切れたテッドは、警察組織のノウハウを平成会に求めた。その結果、裏取引で組織運営のノウハウが提供されることになった。


 当時の平成会は史実21世紀の警察システムの導入を進めていたが、実際は戦前の警察システムに21世紀のシステムを折衷したような形となった。


 警察関係者モブたちは現状に満足しなかった。

 しかし、実情を考慮すると既存の組織を活かしながら段階的に改変していくしか手段が無かった。


 史実21世紀の日本の警察組織をスムーズに作り上げるためにはド田舎――もとい、あまり開発が進んでいない土地が望ましい。そんなわけであるから、ドーセットに日本式の警察システムを導入すると聞いた彼らは喜び勇んで参加を願い出た。


『警察学校の建設から始めるとか大げさ過ぎじゃないか?』

『有用性は認めるが、これだけの規模を維持出来るのか?』

『あきらかに過剰だろう。あんなド田舎では金をドブに捨てるようなものだ』


 紆余曲折の末に稼働を始めたドーセット警察に対して、当時の警察関係者は冷ややかであった。あまりにも当時の常識からかけ離れていたからである。


 成金貴族の趣味と酔狂と断じた識者もいたが、これは事実であろう。

 年を重ねるごとに、ドーセット警察の装備がテッドの趣味と酔狂を反映したものになっていたのであるから。


 しかし、ドーセット領が発展すればするほどドーセット警察は有用性を証明することになった。夜間に女子供が出歩けるほどの治安の良さは、あらゆる分野でシナジー効果を生んで発展を加速していったのである。


「……俺は一応ヤード側の人間だ。並みの扱いとはいかんでも、多少は配慮してくれないか?」


 口ではそう言ってみたものの、アーチボルドとしては提案が蹴られても仕方ないと考えていた。スコットランドヤードの上層部の心証が悪くなるのは確実だろうが、元から最低値であるから問題は無い。


(うーん、どうしたものかねぇ……)


 割り切っているアーチボルドに対して、テッドは真面目に悩んでいた。

 このままだとよろしくないのは理解しているが、普通に許しても面白くない。とはいえ、現状はスコットランドヤードを許す許さない以前の問題と化していたのであるが。


 ノウハウを知りたがる警察関係者は増大の一途であったが、人材交流や資料提供には限度がある。やり過ぎて本業に差支えが出るようでは本末転倒以外の何物でもない。


『逆に考えるんだ。ノウハウを提供しなくても問題無いようにしてしまえば良いのだと』


 テッドの脳裏に髭面のジョー〇ター卿(英国紳士)が降臨したのは、その瞬間であった。

 皆で幸せになるべく、灰色の脳細胞が猛烈に回転して計画が練りあげられていったのである。







「いきなりですが、ドーセット警察を広報するために映画を作ろうと思いますっ!」

「おおおおおおっ!」


 ドーセット公爵邸(ドーチェスターハウス)の執務室。

 決意表明をするテッドに、ソファに座っていたハワード・ヒューズは思わず拍手をしていた。


「って、なんでまた急に映画を作ろうって話になったんです師匠?」

「人材交流やその他諸々でウザくなってきたので、ノウハウを映像化して大っぴらに公開しちゃおうと思ったんだよ」


 ドーセット警察の活動を映画として世間に公開してしまえば、他の警察も真似するだけで済む。過剰な人材交流や視察で本業が圧迫されている現状を改善することが出来るかもしれない。


「それは名案です。そういうことなら監督は俺に任せてください!」

「もちろん。そのつもりで呼んだんだよ」


 テッドがヒューズを呼びつけたのは、映画の製作を依頼するためであった。

 この世界のハワード・ヒューズも映画製作者として有名だったのである。


「ところで、映画の脚本はどうするんですか?」


 いくらヒト・モノ・金を集めたところで、脚本が無いと映画は作れない。

 ヒューズの疑問は当然のことであろう。


「ふっふっふ。抜かりはないよ。僕がちゃんと作っておいた!」

「おぉ、さすがです師匠!」


 デスクの上に置かれたのは分厚い脚本であった。

 構想1時間、取材3日、執筆半日の力作(?)である。


「早速拝見しますね!」


 そう言って、ヒューズはテッド謹製の脚本に目を通し始める。


「……」


 読み進めるうちにヒューズの表情が険しくなっていく。


「師匠、これダメっすわ」

「な、何故に!?」


 ヒューズの容赦ない感想に絶句するテッド。

 本人としては自信作だっただけに衝撃も大きかった。


「絵コンテも付いて凄く分かりやすくて映像化しやすい。じつに良く出来た脚本なんですけど、内容がその……」

「なんでさ!? 取材してこれ以上無いくらいにリアルな内容だぞ!?」


 言い淀むヒューズにテッドは噛みつく。

 この脚本のために、ドーセット警察に無理を言って取材したのである。はいそうですかと、納得出来るわけがない。


「誰が好き好んで横断歩道の渡り方とかを映画館に見に来るんですか!? 需要無いですよこんなの!?」

「そ、そんな……」


 ヒューズの指摘は至極当然のものであった。

 ドーセット領内の交通ルールを、わざわざ映画館に見に来る人間は相当な物好きか変人であろう。


「というか、この脚本の構成どこかで見たことあるんですが? というか、師匠は素人じゃないですよね?」


 ヒューズには脚本を手にした瞬間から違和感を感じていた。

 どこかで見たような気がしていたのである。


「……思い出した! ジョン・スミスだ!」

「んなっ!?」


 その名前が出た瞬間、テッドは硬直する。

 たちまちのうちに全身から脂汗が流れ、息も荒くなる。


「もっと早く言ってくれれば良かったのに。昔はジョン・スミスを探すのに苦労を……って、師匠? 師匠!?」


 ここに至って、ヒューズはテッドの様子がおかしいことに気付く。

 思わず後ずさるが、無情にも背後の壁に行く手を阻まれる。


「ふふっ、ヒューズ君。君は良い弟分だと思っていたのだが……僕の黒歴史を知ってしまった以上、このまま帰すわけにはいかない!」


 血走った目でにじり寄るテッド。

 その様子は尋常なものではない。このままヒューズがバッドエンドを迎えるかに思えたのであるが……。


「はい、そこまで」

「ぐぇぇっ!?」


 いつの間にかに背後に忍び寄っていたマルヴィナ()が延髄チョップを叩きこむ。

 完全な不意打ちでクリーンヒットした一撃は、テッドの意識を完全に刈り取った。


「隙を作ってくれて礼を言うわ」

「え、あっ、いや、そんなつもりじゃなかったんですけど……」


 あまりの急展開にヒューズは混乱していた。

 まるで質の悪いホラー映画を見せられている気分である。


「あ、あの、その、師匠は大丈夫なんですか?」

「うちの夫は鍛えているから平気よ。手加減もしたし」


 ヒューズの心配に事も無げなマルヴィナ。

 まるでランチの注文をしているような気楽さであった。


 愛人がいるとはいえ、ドーセット公夫妻の世間の評判はおしどり夫婦であった。

 噂と実情の乖離にヒューズの混乱が加速したのは言うまでも無い。


「時間が無いからもう行くけど、脚本を探しているなら書庫に行ってみなさい。気に入ったのがあったら持って行っていいわ」

「い、イエスマム!」


 時間が惜しいとばかりに、マルヴィナはテッドを担いで去っていく。

 その後ろ姿が妙にうきうきしているように見えたのを、ヒューズは気のせいだと思いたかった。


「……こ、これは!?」


 広大な書庫の一角。

 映画の脚本が収納されている棚の前でヒューズは驚愕していた。


(さすがは師匠だ。これほどの脚本が書けるとは。ジョン・スミスだったのは伊達じゃなかったんだな)


 猛烈な勢いでヒューズは脚本を読み進めていく。

 そこには街一つを舞台にしたパニックホラーが記されていた。


 ヒューズが監督に就任したことにより、映画作りは一気に具現化することになった。テッドが一時不在になったのをこれ幸いと、ドーセット警察の広報映画は大幅な方針転換が行われたのである。







『はい、エキストラの方はこちらに集まってくださーい!』


 旧市街地と新市街地(ニュードーチェスター)を分離するように横断するメインストリート。

 普段は人と車の往来が激しい場所に、エキストラが大勢集まっていた。


「どんな感じになるのかな? 完成が楽しみ!」

「俺らはちょい役だから、大して映らないと思うぞ?」

「だからこそ、目立つように頑張る必要があるんだよ!」


 集まっていたのは市内在住の地元民であった。

 普段着姿が大半であったが、目立ちたいがためにお洒落している者もそれなりに居た。


 その数ざっと1000人超。

 映画に出られると聞いて喜び勇んで参加しているのかと思いきや、意外なことにそういった輩は少数派であった。


「エキストラやるだけで、これだけもらえるなんて領主さまも太っ腹だよなぁ」

「メイドさんの手料理……はぁはぁ」

「お巡りさんこいつです」


 どちらかというと、破格の報酬とロケ弁に釣られた人間が多かった。

 特にロケ弁はメイド部隊によるフィールドキッチンであり、いつでも熱々の料理が提供されていたのである。


「この映画製作保険ってなんだ? ワンコインで入れるから俺は加入したけど……」

「怪我したら治療費全額支給してくれるらしいぞ。もったいないから俺は入らなかったけど」

「エキストラで怪我なんてするわけないだろ。大げさだよなぁ」


 この時代としては、エキストラの任意加入保険があるの画期的と言えた。

 裏を返せば、怪我をするリスクがあるという意味でもあるのだが……。


『これからシーン6の逃げ惑う市民たちのシーンを撮ります。皆さんは必死の形相で逃げてください!』


 拡声器を片手に助監督が大声でがなる。

 これが撮影直前の最後の打ち合わせである。


「先頭を走らないと映らないんじゃないか? 気合入れて走らないと」

「むしろ表情が大事じゃないか? 必死さを出さないと採用してもらえないだろう」

「いやいや、目立つ格好が大事だろ」


 余裕しゃくしゃくなエキストラたち。

 映画撮影の大変さを理解しておらず、その代償をすぐに払わされることになった。


「シーン6レディ……アクション!」


 ヒューズの指示と同時に助監督がカチンコを鳴らす。

 同時にエキストラたちが一斉に走り出す。


『きゃー!?』

『逃げろーっ!』

『おまえらどきやがれ!? 追いつかれちまうじゃないか!?』

『うわーん!? ママー!?』


 1000人以上のエキストラが逃げ惑うシーンは圧巻であった。

 その迫力はまさにハリウッド映画に匹敵するものだったのであるが……。


「ぐぇぇぇぇっ!?」

「痛い痛い!? 踏むんじゃない!?」

「おいっ!? 動かなくなったぞ!? 担架持ってこい!」

「撮影中止! 撮影中止ですっ!」


 1000人もの人間が走り出したら急には止まれない。

 転倒したエキストラが後ろから次々と踏まれる事故が発生して、撮影は中断に追い込まれた。


「骨折したのに自腹かよ!?」

「保険に入っていて良かった……」


 怪我したエキストラたちは対照的な運命を辿ることになった。

 保険に加入してか否かである。


 あまりの怪我人の多さに映画製作保険は強制保険に切り替えられた。

 未加入者も対象にされたので、後に医療費が全額負担されることになる。


 もっとも、ドーセットは領民皆保険なので医療費は一部負担で済む。

 よほどの重傷でも無い限り、エキストラの報酬だけでお釣りが出た。


『おっ、この表情良いな。本当に骨折したみたいな表情だ』

『監督。この人本当に骨折してますよ?』

『これも良いな。まさに断末魔の表情だ』

『この人も心停止してから蘇生してますからね……』


 怪我をした人間の見せる表情や仕草は下手な役者の演技よりもリアルであり、ヒューズはそういう映像を好んでピックアップしていた。映画が公開されると、そのリアルな演技(?)は良くも悪くも注目されることになるのである。


『シーン12を撮りまーす! 出演する方は集まってください!』


 ちんたら撮っていたら完成が何時になるか分かったものではないので、別の場所では同時進行で撮影が行われていた。


「俺らって、最後まで抵抗してからやられる役なんか……」

「単に逃げるだけの役よりも良いだろ? 最初に出てくるポリス共よりはマシな扱いだぜ」

「思う存分に撃てるのは良いな!」


 別の場所で撮影を行うのは、堅気の人間に迷惑をかけないようにする意味もあった。なにせ、撮影に参加するのはマフィアやギャングの皆さんなのであるから。


「シーン12レディ……アクション!」


 ヒューズの指示と同時に助監督がカチンコを鳴らす。

 同時にエキストラな裏社会の住民たちは銃を抜く。


「往生せいやぁぁぁぁぁぁ!」

「どてっぱらに鉛玉をたらふく食わせてやるぜ!」

「ファミリーを舐めんじゃねぇぇぇぇっ!」


 黒服の男たちがM1911を、あるいはトミーガンを容赦なくぶっ放す。

 アメリカ時代にさんざんにやっていただけのことはあって、リアルそのものな銃撃戦であった。


『モデルガンなんかで迫力のある絵が撮れるか!?』

『リアルさを出すなら実銃だろうが!?』

『使い慣れた得物じゃないと、うまく演技出来る自信が無い……』


 なお、今回のシーンの撮影にはプロップガンではなく実銃が使用された。

 別の場所で撮影するのは、リアルさと安全を確保するという意味もあった。


 映画の撮影は順調に進んでいったが、彼らは脇役に過ぎない。

 主役たるドーセット警察の場面の撮影も突貫工事で準備が進められていたのである。







「うひゃー、これ全部セットなのかよ!?」

「壁の落書きまで再現してあらぁ。写真にしたら絶対分からないぞ!?」

「どんだけ金をかけたんだか。良く出来た間違い探しだな。これは……」


 目の前の光景に目を剥くエキストラ役の警官たち。

 元は畑だった場所に市街地の1ブロックが丸々再現されていたのであるから、驚くのも当然であろう。


『シーン15を撮りまーす! 出演する方は集まってください!』


 拡声器を片手に助監督が大声でがなる。

 それを聞いた警官たちは慌てて走り出す。


「やべぇ、場所何処だっけ!?」

「おまえはあっちだろ!」

「何号車だったか忘れたぁ!?」


 なにせ、街の1ブロック分を丸々再現したのであるからとても広い。

 最初のうちは、エキストラが場所を間違ってリテイクを繰り返すことも常であった。


「シーン15レディ……アクション!」


 ヒューズの指示と同時に助監督が以下略。

 静まり返ったメインストリートが、パトカーのサイレンで埋め尽くされる。


 その数ざっと30台あまり。

 恐ろしいことに全て実車である。


 スコットランドヤードですら、これだけのパトカーを保有していない。

 ここらへんが、ドーセット警察が頭がおかしい呼ばわりされる理由なのかもしれない。


「時間が無いぞ! バリゲード設置を急げ!」

「なんとしてもここで食い止めるんだ!」


 停車したパトカーから飛び出す警官たち。

 彼らはパトカーを利用してバリゲードの設置に勤しむ。


「!? 来ました! 奴らです!」

「撃ちまくれっ! 奴らを接近させるなぁ!」

「ファイアー!」


 ウェブリーリボルバーが、ステンガンが、エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガンまで猛射される。数十人の警官が同時に発砲するので、その迫力は凄まじい。


 この時代の制服警官であれば警棒の装備がせいぜいであったが、ドーセット警察は全ての警官が標準で拳銃を装備済みであった。これに加えて、サブマシンガンとリボルバー式のグレネードランチャーまで付いてくる。ここらへんも、頭がおかしい呼ばわりされる理由だろう。


 せめてもの救いは、ゴム弾が標準であったことだろうか。

 暴徒鎮圧が主目的なので非致死性(ノンリーサル)が重要視されていたのである。


『シーン45レディ……アクション!』


 無線越しにヒューズの声を聴いたパイロットはスロットルを開く。

 ロールス・ロイス マーリンが唸りを上げ、機体が加速していく。


『タリホー!』


 夜空を飛行している2機のフェアリー FB-1A改 ジャイロダインが目標を発見、直ちに攻撃態勢に移る。一気に高度を下げて、地面を舐める勢いで接近していく。


『こちらでも視認した! 先にいかせてもらう!』


 先行した機体の機首に搭載されたM2重機関銃の猛射が地上を薙ぎ払っていく。

 人体に命中すれば手足がもげる威力であるが、今回の撮影では地上掃射がメインなので問題無い。


『こいつも喰らえ!』


 後方から援護する形となったもう1機が、主翼兵装架に搭載されているRP-3ロケット弾を発射。その威力は12.7mm弾とは比較にならない。命中した場所にはクレーターが出来るほどであった。


 無双しているジャイロダインであるが、テッドの脚本には存在しない。

 じつは、ヒューズが派手な演出が欲しくてねじ込んだシーンだったりする。


 ノンリーサルに気を使っているドーセット警察にとって、ジャイロダインの武装は過剰に過ぎた。そのため、平時の運用では弾丸もロケット弾も搭載していない。逆の言い方をすれば、有事には即武装出来るということでもあるが……。


「GOGOGOGO!」

「MOVE! MOVE!」


 超低空でホバリングするジャイロダインから、武装した隊員が次々と降りていく。彼らこそ、ドーセット警察の最精鋭である特殊武装攻撃班(SWAT)(Special Weapons Attack Team)であった。


「じゃまだ貴様らぁ!」


 隊員の一人が木製ストックを肩付けしつつ、オブティカルサイトを覗く。

 走りながらもターゲッティングは正確であり、次々と命中させていく。


 他の隊員も同様の動きで、次々と敵を屠っていく。

 彼らが目指す先は悪の秘密研究所であり、そこに居ると思われるマッドサイエンティストであった。


「はーい、カットぉ! お疲れさん!」


 ヒューズの声が現場に響き渡ると同時に、緊張感にあふれていた現場の空気が一気に弛緩する。遂にラストカットを撮り終えたのである。


「や、やっと終わった……」

「これで地獄から解放される……」

「試写会が楽しみだなぁ」


 その場に居た誰もが撮影が終わったことを喜び、そして安堵していた。

 完成した映画は試写会を兼ねて領内の映画館で無料公開されることになるのである。







「なぁ、映画見たか!?」

「見た見た。凄かったなぁ」

「俺、どこに出ているか気になって、ずぅっと探していたよ」


 1942年4月。

 ドーセット領では映画の話題でもちきりであった。


 莫大な予算と人員を投入した映画であったが、その製作期間は3か月足らずであった。これはヒューズの手腕もさることながら、製作に時間と人手を要する特撮や特殊効果が少なくて済んだことが大きい。


 実銃と実弾を使用したので、爆発などの特殊効果は不要であった。

 大量のエキストラに特殊メイクを施す必要があったので、そちらのほうに時間がかかったくらいである。


「ヒューズさん、是非うちで配給させてもらえませんか!?」

「馬鹿を言うな!? うちで扱わせてもらえばキックバックが……」

「てめぇふざけるな!? 我が社で扱うに決まっているだろう!?」

「えぇぇぇぇ……」


 試写会を兼ねた無料公開から1週間後。

 ドーチェスターハウスの執務室では、ヒューズが映画配給会社の社長たちに取り囲まれて困惑していた。


「……」


 デスクに座ったテッドは、ゲ〇ドウポーズで威圧していた。

 時折、ヒューズがちらちらと視線を向けてくるがスルーする。


(どうしたものかねぇ。一応目的は果たしているのだけど……)


 気が付いたら拉致監禁されていて、脱出してきたときには全てが終わっていた。

 ヒューズがジョン・スミス印の脚本に手を加えて映画を完成させていたのである。


(描写はだいぶ過激になったけど、ドーセット警察の仕事ぶりはきちんと映してるんだよなぁ……)


 映画を通してドーセット警察を知ってもらえれば、人材交流その他諸々の雑事は減らせる。そうなれば、本業にも差し支えることは無くなるはずであった。


 ヒューズが作成した映画はハリウッドな作品と化してはいたが、テッドの要望は叶えられていた。書庫から脚本を抜き出して改変を加えたのは許せないが、完成度が増しているので文句のつけようがない。


「……映画の件に関しては全てヒューズに一任する。この際、監督が最後まで責任を取るべきだろう」

「えっ、ちょっ!?」


 まさか丸投げされるとは思わなかったのか、ヒューズは焦りだす。

 しかし、テッドとしても自分が一切関わっていない映画を丸投げされても困るのである。


「おぉ、ありがたい! ドーセット公、ヒューズ殿をお借りしますぞ!」

「ささっ、詳細な条件を煮詰めましょうねぇ」

「あぁっ!? 抜け駆けすんな!?]

「し、師匠助けてーっ!?」


 アブラギッシュなおっさんたちに連れていかれるヒューズ。

 その様子をテッドは黙って見送ったのであった。


『ポリス・ヒストリー 歴代興行収入1位に』

『連日の満員御礼 長蛇の列続く』

『問い合わせが殺到して電話回線がパンク ドーセット警察は異例の記者会見』


 ポリス・ヒストリーの名前で全世界に公開となった映画は、当時の常識を超える興行収入を叩き出した。これには配給会社もにっこりであった。


『パパ、ドーセットの警察ってゾンビと戦うためにいるんでしょ!? 僕も入りたい!』

『いや、さすがにアレはフィクションだよ。ちゃんと書いてあっただろう?』

『ヤダーっ!? 入りたい入りたい入りたいぃぃぃぃぃぃっ!?』


 広報映画は子供たちにも大人気であった。

 ストーリーが分かりやすい勧善懲悪物であったのが幸いしたのかもしれない。史実21世紀の感覚からすれば、ちょっとグロいパ〇ーレ〇ジャーを見せられているようなものであろう。


『……とりあえず、体を鍛えることから始めようか。体力が無いと警察官にはなれないぞ?』

『うん、頑張る!』


 史実ではキャプ〇に憧れてサッカー選手を目指した子供が大勢いた。

 この世界では、警察官に憧れる子供たちが急増したのである。


『特報 ポリス・ヒストリー2制作決定!』

『映画関連株軒並み上昇 期待の現れか』

『監督は前作と同じハワード・ヒューズ氏か? 本人に直撃取材』


 ミリオンヒットを叩き出した映画は、ほどなくして続編の製作が発表された。

 二匹目のドジョウを狙った配給会社の先走りであったことは言うまでも無い。


『続編? 好きにやらせたら? 特に反対する理由も無いし』


 続編製作ついては、テッドは静観を決め込んでいた。

 いろいろとツッコミたいところではあるが、ドーセット警察の広報にはなるので反対する理由が無い。それに下手に横やりを入れようものなら、作品のファンに何を言われるか分かったものではない。


『続編なんて考えてなかったのに……どうしてこうなった……』


 ヒューズは再び映画監督としてメガホンを取ることになった。

 大々的に報道されてしまったことで、退路を断たれてしまったのである。


『ゾンビの次はネッシーかよ!?』

『あそこの警察ならリアルでやれそうで怖い』

『そのうち宇宙人とも戦うかもな』

『戦うんじゃね? 次回作は宇宙人が相手だと専らの噂だし』

『マジかよ……』


 続編も大人気となり、以後シリーズ化が決定。

 ヒューズの趣味と酔狂で強大な敵と戦わされることになるドーセット警察は、良くも悪くも世間での知名度が爆上がりすることになった。


『煩わしい他警察からの人材交流や視察は減ったが、映画に関する質問は増える一方だ』

『このままだと業務に差し支えてしまう。なんらかの手を打たねばなるまい』

『専門の部署を起ち上げるのはどうでしょう? 質問を受け付けるのはもちろんのこと、こちらからも積極的に宣伝するのです』


 映画に関する質問が殺到したドーセット警察では広報課が設立された。

 質問に答えるだけでなく、積極的に宣伝をすることによって警察の意義とあり方を社会に周知することが目的であった。


 ちなみに、広報課にもっともお世話になったのは平成会の元過激派と言われている。作品にリアリティを求める彼らは、それこそ根掘り葉掘り質問しまくった。その熱意は専用のQ&Aが広報課で配布されるほどであった。


 彼らに根負けしたドーセット警察は、描写に制限を設けないことを宣言。

 これは当時としては画期的なことであった。以後の同人誌に出てくる警察組織はドーセット警察そのものか、それをモデルにしたものとなったことは言うまでも無い。


 有名作品や業界と積極的にタイアップするのもドーセット警察の特徴であった。

 史実日本の警察のノリで防犯ポスターや商品が作られていったのである。







「「「……」」」


 スコットランドヤードの上層部は終始無言であった。

 スタッフロールも終わり、室内には映写機の作動音だけが響き渡る。


「……馬鹿げている。だが、無視することは出来んな」


 最初に口を開いたのは警視総監であった。

 どことなく疲れているように見えた。


「ゾンビと戦うシーンはともかくとして、それ以外のシーンでは実際に使用される警察の装備がこれでもかと描写されてましたからな……」


 側近の一人が映画を評価する。

 それはもう嫌々というか、不承不承といった感じではあったが。


「組織の描写も詳細だ。指揮系統がじつに分かりやすい。大いに参考にする必要があるでしょう」

「パトカーで巡回するのは素晴らしいアイデアです。あれをやるだけでも、犯罪率は激減するでしょうな」

「今後は犯罪も凶悪化するでしょう。警官に銃を装備させるのは悪くないと思います」


 列席している幹部たちの反応も映画に対しては概ね良好であった。

 エキストラとして本物の警官が多数出演していただけのことはあり、そのリアルさをスコットランドヤードの上層部は高く評価していたのである。


「ドーセット警察を手本にして組織の刷新をはかるべきだろう」


 警視総監の発言に反対する者はいなかった。

 ただ一人を除いては、であるが。


「組織の刷新に反対はしませんが、どこから予算を持ってくるのです? 今年の予算はもう全部使い道が決まっていますが……」


 所詮世の中は金である。

 先立つものが無いと何も出来ない。このまま改革の機運は尻すぼみになるかと思われたのであるが……。


「映画を見て思ったのですが……あいつらって、まるで軍隊ですよね。だったら、軍から装備を払い下げてもらうのはどうでしょう?」

「「「それだっ!」」」


 軍から格安で装備を譲り受けるアイデアは、まさに天啓であった。

 その場の居た者全員が、もろ手を挙げて支持したのである。


『そちらで余っている装備を譲り受けたい』

『正直お勧めは出来かねます。目ぼしい装備はほとんど譲渡してしまいましたし』


 スコットランドヤードからの要請に対して、陸軍は良い顔をしなかった。

 譲渡出来そうな装備は、既にほとんど残っていなかったのであるから。


『この際何でもよい! 何も無いよりはマシだ!』

『そこまで言うならば……』


 積極的にゴミ――もとい、用途廃止装備を引き取りたいとまで言われたら陸軍としては頷かざるを得なかった。もちろん、ノンクレームノンリターンを念押ししたのは言うまでも無いことである。


「うおお、俺らもドーセットの連中みたいに拳銃装備だぜぇ!」

「装備してるとチンピラどもが逃げ出すからな。確かに有用だな」

「腰の重みが心強いねぇ」


 1か月後。

 スコットランドヤードの警官たちには、陸軍から払い下げられたエンフィールド・リボルバーが支給された。


 しかも数千丁もの拳銃がタダ同然であった。

 もちろん、これには理由がちゃんとあった。


「いや、これ、めっちゃトリガーが重いんだが!?」

「反動は弱いからコントロールはしやすいが、トリガーが重すぎるせいで狙いがそれちまう」

「ハンマーがあるやつはまだ使えるが、ハンマー無しのタイプは使い物にならんぞ……」


 払い下げられたエンフィールド・リボルバーの中には、戦車兵向けのモデルが多く混ざっていた。このタイプは狭い戦車内で取り回せるように撃鉄(ハンマー)を無くしてDAOダブルアクションオンリーにしており、発砲するのに支障が出るほどトリガーが重かった。警官たちから苦情が出るのも当然と言えよう。


「こんな馬鹿デカイやつ、どうやって扱えってんだよ!?」

「ちゃんとゴムパッドが装着されてますから、石畳で運用出来ますよ!」

「石畳が80t超えの重量に耐えられるわけないだろうがぁぁぁぁぁ!?」


 同日同時刻。

 陸軍に車両を引き取りに来た警官は、目の前の車両に目を剥いていた。


 砲塔を取り去った長大な車体の上に屋根付きの座席を増設、鉄キャタピラには特注の大型ゴムパッドを装着することで石畳や道路での走行にも対応した新時代の護送バス兼装甲車。単にTOG2のなれの果てとも言う。


「いやぁ、ここまで改造するの楽し……ゲフンゲフン! 大変だったんですよ。受領願いますね」

「い、いや、しかしだな……」


 ニコニコ顔な工兵たちに対して、受け取りに来た警官たちは青ざめていた。

 こんなものを何に使えというのか。しかも、1台や2台ではない。


「その、もう少し小さいのが良いなぁ……なんて……」

「ジャパンの(ことわざ)に大は小を兼ねるって言葉がありますよ。大きいことは良いことなんです!」


 スコットランドヤード側は、最初はカーデンロイド戦車を希望していた。

 しかし、カーデンロイドは海外で引っ張りだこで陸軍での在庫は枯渇してしまっていた。代わりに寄越したのが、TOG2改造車だったわけである。


 エンフィールド・リボルバーやTOG2だけでなく、陸軍からは多数の装備がタダ同然で払い下げられることになった。


 払い下げ品の中には掘り出し物もあって、大変に重宝された。

 しかし、その大半は箸にも棒にも掛からぬ粗大ゴミであった。


 怒りに任せて叩き返したいところであるが、ノンクレームノンリターンで約束してしまったので返品は不可能。スコットランドヤードでは、ゴミを有効活用するべく必死に頭を捻ることになる。


 とんでもない外れくじを掴まされたスコットランドヤードであったが、それでも改革は進められていった。それを見た他方の自治体警察も、旧態依然とした体制を変革していくことになるのである。






以下、今回登場させた兵器のスペックです。


コルト M1911


種別:軍用自動拳銃

口径:11.43mm

銃身長:127mm

使用弾薬:11.43mm×23mm(.45ACP弾)

装弾数:7+1発

全長:216mm

重量:1130g(弾薬除く)


史実における傑作自動拳銃。

この世界でも同様である。


ドーセット領へ移住した裏社会の住民たちが大量に持ち込んで現在も使用している。昔から使い慣れているというのもあるが、この世界の英国にまともな自動拳銃が無いのが最大の原因である。


映画『ポリス・ヒストリー』には、裏社会の住民のトレードマークとして登場している。ストッピングパワーに優れた45ACP弾がゾンビに有効という設定があり、善戦した後に全滅するという役どころであった。



※作者の個人的意見

ガバなんて捨ててメイドインブリテンな自動拳銃使えよと思ったのですが、この時代の英国製の自動拳銃って、ウェブリー&スコット セルフローディングピストルくらいしか無いんですよね。あんな不格好な自動拳銃を使うくらいなら、無理してでも裏社会の住民たちはガバを使うよねということでw






トンプソン・サブマシンガン


種別:短機関銃

口径:11.43mm

銃身長:267mm

使用弾薬:45ACP弾

装弾数:100ドラムマガジン

全長:860mm

重量:4900g

初速:285m/s

発射速度:600~1200発/分

有効射程:100m


マフィアとギャングご用達。

この世界においては、ドーセット領に移住した裏社会の皆さんが大量に持ち込んでいる。


映画『ポリス・ヒストリー』には、ガバと共に裏社会の住民のトレードマークとして登場している。ストッピングパワーに優れた45ACP弾がゾンビに有効という設定があり、善戦した後に全滅するという役どころであった。



※作者の個人的意見

トミーガンなら、45ACP弾を連射出来るからゾンビ相手に有効だと思うんですよね。タイラントみたいなBOWには効かないだろうけど。






ウェブリー・リボルバー


種別:リボルバー

口径:11.43mm

銃身長:106mm

使用弾薬:.455ウェブリーMK2弾(11.43X19R)

装弾数:6発

全長:286mm

重量:1.1kg(弾薬除く)


自動排莢装置を備えた中折れ回転式拳銃。

この世界では英国陸軍とドーセット警察の制式拳銃でもある。


使用する455ウェブリー弾は官給拳銃として採用された中折れ回転式拳銃用の銃弾としては特に強力なものとして有名であるが、ドーセット警察ではゴム弾が使用されているので殺傷力は低下している。


映画『ポリス・ヒストリー』でゾンビに警官たちが命中させても何度も起き上がる描写が印象的であるが、これは殺傷力の低いゴム弾を使用しているためにゾンビにダメージを与えられていないという設定に基づくものである。



※作者の個人的意見

実弾の455ウェブリーだったら、ゾンビなんていちころだと思うのですけどねぇ。ゴム弾でも命中したら死ぬほど痛いでしょうけどw






ステンガン


種別:軍用短機関銃

口径:9mm

銃身長:196mm

使用弾薬:9mmパラベラム弾

装弾数:32/50発(箱型弾倉)

全長:760mm

重量:3180g

有効射程:46m


史実で大量生産されたサブマシンガン。

この世界では最初からMk2の仕様で生産されており、英国陸軍だけでなくドーセット警察にも納入されている。


ドーセット警察ではゴム弾を使用しているので殺傷力は低下している。

映画『ポリス・ヒストリー』では、ゾンビ相手に多数命中させるも致命傷を与えることは出来なかった。



※作者の個人的意見

命中と威力のバランスに優れる9パラですが、ドーセット警察はゴム弾使用なのでゾンビ相手には無力に近いです。至近距離で命中させれば、それなりの威力は出せるかもしれませんけど。






エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガン


種別:グレネードランチャー

口径:37/38mmスタンダード弾

使用弾薬:非致死性の催涙弾、ゴム弾、照明弾、殺傷性の炸裂弾、HESHなど

全長:780mm

重量:4235g

有効射程:使用弾薬によって異なる


史実英国のワロップ・インダストリー開発のリボルビング・グレネード・ランチャー。


この世界においては、某オリ主チートが召喚したものを円卓がリバースエンジニアリングして量産化に成功している。現在は陸軍とドーセット警察に納入が継続中である。


なお、陸軍では対戦車戦闘が主目的である。

これに対して、ドーセット警察は催涙ガス投射が重視されている。


映画『ポリス・ヒストリー』では、大口径なゴム弾をギリギリまで引き付けて撃つことでゾンビの手足を一撃で吹き飛ばす描写が為されている。



※作者の個人的意見

グレネードが使えればゾンビ相手に無双出来たのでしょうけど、ゴム弾しか使えません。口径40mm近い大口径なゴム弾頭が生身に直撃したらタダでは済まないと思いますけど。






フェアリー FB-1A改 ジャイロダイン(警察仕様)


全長:7.62m  

全幅:1.27m(主翼除く)

翼幅:5.38m

全高:3.07m 

ローター径:15.768m   

機体重量(自重/全備):1829kg/3377kg   

最大速度:250km/h

航続距離:430km

上昇限度(実用/限界):3150m/2180m(地面効果なしのホバリング限界)

武装:RP-3ロケット弾×6(主翼兵装架)

  :M2重機関銃(機首) 

  :兵員4~5名or貨物1000kg(機体内貨物室)

エンジン:ロールス・ロイス マーリン 軸出力1500馬力+ガスジェネレーター(チップジェット用)

乗員:2名(パイロット+ガンナー)


ウォッチガード・セキュリティによって試験運用されている複合ヘリコプター。

FB-1A型の改良型であり、スペックに変更は無いもののコクピット周りがサイドバイサイドからタンデム形式に再設計された。


1930年の中華人民義勇軍の鎮圧において満足な運用実績を残し、翌年から英陸軍への納入が開始されている。ドーセット警察本部に納入された機体は、カラーリングが変更されている以外はスペックは陸軍向けと同一である。


映画『ポリス・ヒストリー』では、ラスボスが立てこもる研究所までの移動手段として描写されている。本来の運用では武装は装備しないのであるが、演出のために実弾を装備してロケ地を盛大に耕すことになった。



※作者の個人的意見

機体にでっかく『POLICE』ってペイントすれば警察用です(暴論

ドーセット警察のSWATは装備も練度も充実しているので、某製薬会社の特殊部隊か、あるいは西部な警察ばりに派手に活躍してくれることでしょう。






EM-2


種別:アサルトライフル

口径:7.2mm

銃身長:623mm

使用弾薬:.280ブリティッシュ(7.2mm×43)

装弾数:20発

全長:889mm

重量:4600g(弾薬除く)

発射速度:毎分450~600発/分

銃口初速:771m/s

有効射程:500m


英国陸軍の次期制式小銃のトライアルに提出されたアサルトライフル。

史実では木製ストックでありながら、ブルパップ式レイアウトとオプティカルサイトを初めて採用した小銃であった。


この世界のEM-2はブルパップ式レイアウトの弱点を補う改良が為されており、史実のFN F2000を参考にして前方排莢を実現した。銃身の上に排莢ポートを設けているため、外見的にはオリジナルより縦に厚みが増している。


前方排莢を採用したことで左右どちらのポジションからでも問題無く撃てるようになり、使い勝手は増している。オプティカルサイトを併用すると命中精度も高く、実際にテストした兵士たちからは好評であった。


前方排莢など複雑なシステムを組み込んだためにコスト高となり、次期制式小銃のトライアルには敗れてしまった。しかし、EM-2にほれ込んだテッド・ハーグリーヴスが金にモノを言わせて製造会社を買収。現在も細々と生産を続けている。


映画『ポリス・ヒストリー』ではSWATが使用している。

ダットサイト越しに次々と命中させており、SWATの練度の高さを描写していた。



※作者の個人的意見

FN F2000の前方排莢は、使い勝手と騒音の低減を両立出来るブルパップの一つの完成形だと思っています。ならば、組み込むしか無いよなぁ?というわけです。構造的にはそこまで難しくないので、EM-2に組み込むことも不可能ではないでしょう。






エンフィールド・リボルバー


種別:リボルバー

口径:9mm

銃身長:127mm

使用弾薬:.380エンフィールド(9mmX20R)

装弾数:6発

全長:260mm

重量:765g(弾薬除く)


第1次大戦時の英軍の制式拳銃。

現在はウェブリー・リボルバーに更新中である。


用途廃止となって処分を待つだけであったが、スコットランドヤードに譲渡されることになった。その大半が戦車兵用のダブルアクションオンリー拳銃であり、まともに撃つにはヘラクレス並みの腕力が必要だとまで言われていた。



※作者の個人的意見

中折れ式なので某紅の豚のカーチスの如く、『ハイヨーシルバー』ごっこが出来るのが最大のメリットだと思いますw






TOG2


全長:10.00m  

全幅:3.1m  

全高:3.00m  

重量:79.3t  

速度:13km/h

行動距離:160km

主砲:オードナンス QF 18ポンド砲

装甲:76mm/76mm(車体正面/側面) 50mm(車体背面) 

   114mm/76mm/53mm(砲塔正面/砲塔側面/砲塔天蓋)

エンジン:ロールス・ロイス・ファルコン3 液冷エンジン 275馬力2基+電気モーター駆動

乗員:6名


第1次大戦の英軍の主力戦車。

あまりのデカさに戦後も持て余していたが、改造されてスコットランドヤードに譲渡されている。


※作者の個人的意見

TOG2の砲塔を撤去したら長大な車体でいろいろ出来るじゃね?と思ったらとんでもないゲテモノが出来てしまいましたw

映画のバイオハザードは嫌いじゃないのですが、どうせならゲームのほうを忠実に再現した実写映画を見てみたいんですよ。ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ?あれはあれで悪く無いんですけど、ゲームに比べてスケール感がなんというか……(個人の感想です悪しからず


>アーチボルド・ウィットフォード総監補

登場する度に昇進する出世魚。

これ以上出世させると動かしづらいので、さすがに打ち止めです。


>『どこぞの特命係かな?』

本家のほうでは、キャリア組なのに警部だったり。

本編でも、どんなトリックを使ってるんだと言われる始末。ノンキャリならともかく、キャリア組だと警部なんて単なる通過点ですからねぇ(;^ω^)


>『ちょっとだけよ~』『よっ、待ってました大統領!』

これが分かる人はおいらと同世代ですw


>時間が惜しいとばかりに、マルヴィナはテッドを担いで去っていく。

気絶しているうちに済ませないといけませんからね……(意味深


>そこには街一つを舞台にしたパニックホラーが記されていた。

某製薬会社が黒幕なゲームを丸パクリしただけだったりします。


>ポリス・ヒストリー

もちろん、元ネタはポリス・ストーリーですw


>TOG2改造車

戦後の日本でも戦車や装甲車が再改造されて民間で使用されました。

もっとも、使い勝手はあまりよろしくなかったようですが……。


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― 新着の感想 ―
気絶したテッド君が、マルヴィナ奥様に拉致監禁された。これは子種ゲッ... おっと、誰か来たようだ。
映画かあ・・・奇抜そうでいて、この時代だとかなり真っ当な発想ではありますよねw テレビもビデオも動画配信もないんだから。 そうでなかったらそれこそテッドくんお得意の漫画が教育媒体としては適してるかと。…
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