変態紳士の領内事情―テッド君の冬季休暇編―
「あああああああっ!? 仕事がっ!? このままじゃ休暇がヤバイぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
1937年12月28日。
テッド・ハーグリーヴスは駐日英国大使館の執務室で絶叫していた。
デスクの上に置かれていたのは、新聞に連載する予定のプロパガンダ漫画のネームとスピーチの原稿であった。本国から緊急かつ最優先との指令が下っているために拒否は不可能。悲しきは宮仕えである。
このようなことになったのは、独ソ戦の戦況が原因であった。
現在、モスクワ近郊で立ち往生しているドイツ帝国と二重帝国諸国連邦の軍団は赤軍からの猛反撃を受けている最中だったのである。
赤軍の猛攻を真正面から受ける形となったドイツ帝国陸軍は苦しい撤退戦を強いられていた。
ルフトヴァッフェと連携して要所要所で反撃をしていたものの赤軍の戦力は増大の一途であり、大量の戦車が押し寄せてくる様子は鋼鉄の津波の如しだったのである。
『このままだとアカの軍勢に押し切られるのではないか?』
『我が国がドイツを支援する必要があるだろう』
『そのためにも、世論を操作する必要があるな』
独ソ戦の戦況を鑑みた円卓の上層部は英国海外派遣軍を大陸に派遣することを考えていたが、大陸に正規軍を派遣するとなると世論が煩い。まずは世論を盛り上げる必要があったのであるが……。
『大陸の戦争に我が国は関わるべきではない』
『なんでいけ好かないクラウツどもを手助けせねばならんのだ?』
『栄光ある孤立こそが我が国の伝統であり、今後も堅守せねばならない』
円卓の世論工作は不発に終わった。
さんざんに金をかけたにも関わらず、独ソ戦に対する国民の反応は冷淡そのものだったのである。
『こうなったらドーセット公を頼るしかないか』
『アメリカの世論をも動かしたあの男なら、あるいは……!』
『ドーセット公の手下にはチョビ髭の伍長がいるというじゃないか。彼の演説ならば頑迷な国民も意識が変わるかもしれないぞ?』
『とにかく時間が無い。急いで動いてもらう必要があるな』
そこで白羽の矢が立ったのがテッドであった。
かつてアメリカの世論を操作した彼の手腕が期待されていたのである。
「やぁやぁドーセット公。今日はコミケに……って、お忙しそうですな?」
鈴木喜三郎が入室してきたのはその時であった。
大島紬にインバネスコート、ソフト帽を阿弥陀被りにしたスタイルは恐ろしく似合っていないが、これでも一国の総理大臣である。
「これは総理。見ての通りドーセット公は急な仕事が入っていましてな。よろしければ、わたしたちと行きませんか?」
「そういうことならば是非もない。同道するとしよう」
「ちょ!? サンソム卿は僕を置いていくつもりなのか!?」
本日は冬コミ初日である。
置いてきぼりにされそうになって、テッドが焦ったのは言うまでも無い。
「いや、そうは言いますけど本国からの仕事が優先だからしょうがないでしょう」
しかし、サンソム卿はドライであった。
仕事とプライベートはきっちり分ける英国紳士なのである。
「そ、そうだ。総理は残ってくれますよね? 僕との顔つなぎのためならコミケに行かずにここに居てくれますよね!?」
現職総理が英国大使館に居座ったところで何か出来るわけでも無いのであるが。
そんなことにも気づけないほどに、テッドは締め切りに追われて錯乱していた。
「悪いねぇドーセット公。警護の連中が乗り気なものだから、コミケに行かないという選択肢は無いのだよ」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
鈴木としては大使館に残っても良かったのであるが、警護の連中を放置するわけにもいかなかった。総理を警護する警視庁警備部特警課は、総理がコミケに参加するとなると異常な熱意で職務を遂行するからである。
特警は史実では存在しない部署であるが、設立には平成会が絡んでいた。
史実の警護課がベースとなっており、主な任務は要人警護である。
この世界では前例もノウハウも存在しない部署であるため、言い出しっぺの平成会に運用を任された。結果的に当時の警察組織の主流であった薩摩閥とは無縁な部署となり、彼らは平成閥と呼ばれていた。
平成会のモブで構成されているわけであるから、公務でコミケに参加出来るとあらば張り切らないわけがない。参加をキャンセルしたらどんな不興を買うか分かったものではないのである。
「悪いわねテッド。わたしたちもコミケに参加するから留守番よろしくね」
「コミケでのコスプレデビュー……緊張してきました」
「ふふっ、二人とも素材が良いから頑張ったわぁ。お披露目が楽しみね!」
「この世に神はいないのかーっ!?」
正妻マルヴィナと愛人のおチヨ、その二人のお目付け役(?)のキャサリン・サンソム女史もコミケに参加する気満々であった。特にキャサリンは今回のコミケのために自身の分も含めて4人分のコスプレ衣装を縫っており、その気合の入りようは尋常なものでは無かったのである。
「「「じゃあ、行ってきまーす!」」」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉっ!?」
無情にも閉じられる扉にテッドは絶叫するしか無かった。
寂しい彼を慰めてくれるのは、デスクに積まれた仕事だけだったのである。
『我が大ドイツはイギリスの手など借りん! せっかくの配慮だが遠慮願おう!』
ちなみに、英国からのBEF派遣はヴィルヘルム2世から速攻で却下されることになる。欧州の盟主を自負するドイツ帝国からすれば、安易に英国からの援軍を受け入れるわけにはいかなかったのである。
もちろん、カイザーとて感情論だけで英国からの軍事介入を蹴ったわけではない。赤軍の猛攻を止めるある程度の目途が立っていたからに他ならない。
『僕の年末を返せぇぇぇぇっ!?』
テッドが事の顛末を知ったのは、冬期休暇でドーセット領に帰ってからのことである。ドイツ帝国が英国からの支援を拒否したことを新聞で知ったテッドは、その場で思いっきり絶叫したのであった。
「奥方さまにおチヨさま。このような時間にお呼びだてして申し訳ない」
旧市街地を見下ろす場所に建つドーセット公爵邸。
主人の部屋には及ばないものの、それなりに広い部屋には深夜にもかかわらず3人の男女がいた。
「……ところで、旦那さまには気取られませんでしたかな?」
部屋の主であるドーセット公爵家家令セバスチャン・ウッズフォードは声を潜める。
「新聞を読んでから自棄酒してたわ。あの分だと朝までぐっすりね」
「テッドさん、あれだけお仕事頑張ったのに無駄になりましたから……」
肩をすくめるマルヴィナと、テッドに心底同情するおチヨ。
正妻と愛人枠な二人は、セバスチャンに内密の話があると呼び出されたのである。
「単刀直入に申しますと、お二人には子作りに励んでいただきたのです。ドーセット公爵家存続のためにも、是非とも男子が欲しいのです!」
話の内容はアレであるが、セバスチャンの表情は真剣そのものであった。
長年の悲願であったお家再興が成った今、それを次代に繋げることが彼の新たな悲願だったのである。
史実の英国ではノーフォーク女公爵など女性に対しても爵位が認められているが、これらは例外中の例外である。初代の直系の嫡出の男系男子が継承するのが基本であり、それ以外は認められていない。
マルヴィナとの子であるミランダと、おチヨとの子である美知恵。
二人とも女子であるので、このままではドーセット公爵位を相続出来ないのである。
「幸いにして、お二方は未だ若々しい。子作りは不可能では無いはずです!」
現時点でマルヴィナが45歳、おチヨは31歳であるが、二人ともその年齢を感じさせない若々しさを保っていた。その異様な若々しさの理由をセバスチャンは理解出来なかったが、彼にとってはどうでも良いことである。肉体年齢が若ければ高齢出産のリスクは減らせるのであるから。
「子作りに励めと言われてもね……」
「ほぼ毎日やってますし……」
セバスチャンの頼みに困惑するマルヴィナとおチヨ。
出産時にはさすがに控えていたが、以後はほぼ毎日のように夜のプロレスに励んでいたのである。
優男な見かけによらずテッドは絶倫であり、それを絞る二人もまた性豪であった。これ以上子作りに励めと言われても、どうしろと言うのか?
(そういえば、試してみたいことがあったわね……)
ここでマルヴィナは思い至る。
それは7年前の妊娠のきっかけに関することであった。
「おチヨ、妊娠したときのこと覚えているかしら?」
「妊娠したときですか? あっ!?」
たったそれだけで、おチヨはマルヴィナが言いたいことを察した。
訝しがるセバスチャンに当時のことを説明したのである。
「なんと、そのようなことがあったとは……」
懐妊の裏話を知らされて絶句するセバスチャン。
睡眠薬を盛られて昏睡した状態で逆レイプとかドン引きものである。
「わたしが思うには、テッドには無意識に避妊してしまう能力があると思うのよ」
「そういえば、あのときは一発でしたね。お姉さま」
「にわかには信じられませぬが……しかし、これまでのことを鑑みるとその通りなのかもしれませんな」
この場に本人がいたら全力で否定すること請け合いである。
しかし、事実なのだからしょうがない。
「逆に考えれば、テッドを気絶させれば確実に妊娠出来ると思うのよ」
「わたしも新しい稚児が欲しいです。全面的に協力しますよ。お姉さま!」
マルヴィナもおチヨも、大いに乗り気であった。
先に生んだ娘たちも大して手がかからなくなり、新たなるテッドとの愛の証が欲しくなっていたのである。
(冗談じゃないぞ!? どう転んでも僕が酷い目に遭うことは確定じゃないか!?)
部屋の扉の前で盗み聞きしていたテッドは戦慄していた。
トイレで目が覚めたテッドは、現在進行形で3人の密談を聞いてしまったのである。
(まずは落ち着こう。この場を離れて何も聞かなかったことにするんだ)
静かに深呼吸しながら、ソロリソロリと扉から離れようとするテッド。
しかし、幸運の女神というものは彼に対してはどこまでも残酷であった。
(今の物音は……テッドね)
わずかな物音であったが、マルヴィナの耳は捉えていた。
テッドにとって最大の不幸は、地獄耳な彼女がドアに近い場所にいたことであった。
「セバスチャン。おそらくテッドが盗み聞きしたわ。急ぎコードXXの発動を」
全て聞かれた前提で行動するべきであろう――マルヴィナはそう判断した。
同時に日本に帰るまで逃げられたら面倒だとも。
『コードXX発動! 繰り返す。コードXX発動。各員は最優先で任にあたれ!』
館内放送を聴くや否や、メイド達は仕事を放棄して館内の捜索を開始する。
もちろん、ターゲットはテッドである。
腐ってもテッドはオリ主チート枠であった。
マルヴィナの技量をもってしても、逃げに徹するテッドを捕縛するのはかなり難しい。搾り取る前に消耗しては本末転倒であろう。
そこでセバスチャンと一計を案じた結果がテッド捕縛指令『コードXX』であった。家令が主人を捕縛することに同意することなどあり得ないのであるが、ドーセット公爵家全体の利益を考慮すれば些事なのである。
ましてや、ドーセット公爵家は過去に一度断絶していた。
主家が断絶したことで野に下り、長らく放浪していたセバスチャンの一族郎党からすれば世継ぎが全てに優先される。この件に関しては、テッドの尊厳などゴミクズ以下と言える。
『旦那さまどこですか~?』
『隠れても無駄ですよ。おとなしく投降してください!』
『ベッドの裏には……いないか』
コードXX発動で騒然となるドーチェスターハウス。
寝ていた者たちも叩き起こされてローラー作戦で屋敷内の捜索が開始されたのである。
『申し訳ありませぬが、旦那さまは現在取り込み中であります。伝言なら承りますが?』
受話器からテッドとは違う声が聞こえてきたことに英国宰相ロイド・ジョージは眉をひそめる。この回線は首相官邸とドーチェスターハウスを結ぶホットラインである。テッド以外の人間が電話に出ることなど通常はあり得ない。
とはいえ、面識が無いわけでは無い。
電話に出たのはドーセット公爵家のハウススチュワードであるセバスチャン・ウッズフォードだったからである。
「そういうことであれば、かけなおすとしよう。テッド君によろしく伝えておいてくれたまえ」
別段、取り急ぎの用事というわけでもない。
直接話さずに済んで良かったとさえ思っていた。今のテッドがご機嫌斜めなのは確定なのだから。
テッドが不機嫌な理由――言うまでも無く、年末の急ぎ仕事が原因である。
この仕事のせいでクリスマスも冬コミも潰れてしまったわけであるから、恨み節になるのも当然のことであろう。
とはいえ、ロイド・ジョージにも言い分はある。
独ソ戦の戦況に危機感を抱いて仕事を押し付けたのは事実であるが、テッドが激怒した直接の原因である新聞の一件は外務省のやらかしが原因だったのである。
去年の11月の時点で独ソ戦の戦況がドイツ帝国(と二重帝国諸国連邦)にとって不利なことを円卓側は把握していた。それ故に、パウル・フォン・ヒンデンブルク大統領に密かに軍事介入を打診していたのである。
『共産主義と共に戦うという体裁にすればカイザーを説得する自信はある。軍事介入の準備を急ぎ進めて欲しい』
ヒンデンブルクからの内諾を取り付けることに成功した円卓は、独ソ戦へ軍事介入するための世論工作を急いだ。結果的に円卓の世論工作は不発に終わり、年末にテッドの体力とSAN値を大幅に削ることになったのであるが。
『これはどういうことだヒンデンブルク!? 余はイギリスの軍事介入など認めてはおらんぞ!?』
不幸の始まりは、不慣れな外務省の役人が正規の外交ルートで軍事介入の詳細を送付してしまったことであった。あくまでもヒンデンブルクへの私信として送付するはずが、駐英ドイツ大使館に手渡してしまったためにカイザーの目に触れてしまったのである。
『この時ほど、イギリスの外交スタッフの無能を呪ったことは無かった』
後にヒンデンブルクはこのように述懐したと言われる。
激怒したカイザー相手に説得を試みるのは無理ゲーに等しいのである。
『ドイツ帝国政府 イギリスに軍事介入を打診』
『欧州にユニオンジャックが翻る? 国民に広がる不安』
『都市部での暴動発生 イギリス軍事介入の報道が原因か』
さらに悪いことに、英国の軍事介入の一件がドイツ国内のマスコミに漏れてしまった。戦時にもかかわらず報道統制がされていなかったので、マスゴミ様はやりたい放題であった。
『我が大ドイツはイギリスの手など借りん! せっかくの配慮だが遠慮願おう!』
国内の不穏な動きを断つためにも、カイザーは毅然たる態度を見せる必要があった。戦局挽回の手筈は整いつつあったし、元より英国の軍事介入を認めるつもりも無かったのである。
『僕の年末を返せぇぇぇぇっ!?』
しかし、そんなことは年末のド修羅場進行を味わったテッドには関係無い。
クリスマスと冬コミを犠牲にしてまで完成させた仕事の意味が無くなったことを知った彼の失意は如何ほどのものであろうか。
普段ならほとぼりが冷めるまで放置するところであるが、恒例の年始の挨拶をすっぽかすわけにはいかない。そんなわけで、ロイド・ジョージは内心では胸をなでおろしていたのである。
「……ところで、少々騒々しくないかね? 」
受話器から聞こえてくるのはセバスチャンの声だけでは無かった。
受話器越しだというのに激しい物音が聞こえてくる。
『閣下がお気になさる必要はございませんぞ。ちょっとした訓練でございます故』
受話器から聞こえてくる声は平静そのものであった。
セバスチャンとも長い付き合いである。その彼が言うのだから問題は無いはずである。しかし……。
「年始から訓練とは熱心なことだが……訳ありなら力になるが?」
受話器越しに聞こえてくるメイドたちの声はテッドを探しているようであった。
どう考えても尋常とは思えない。
『閣下にご心配をかけてしまうとは汗顔の至り。恥ずべきばかりですな』
受話器からは、何かが壊れたような音が聞こえてくる。
しかし、セバスチャンは以下略。
「そうか……とにかく、テッド君にはよろしく伝えてくれ」
何かを察したロイド・ジョージは静かに受話器を置く。
彼に出来たことは、テッドに幸あらんことを祈ることのみであった。
ロイド・ジョージの予感は的中していた。
ドーチェスターハウスで発生した騒動は、落ち着くどころかさらなる拡大を続けていたのである。
「旦那さまどこですか~?」
「隠れても無駄ですよ。おとなしく投降してください!」
律儀にノックしてから入室してくるメイドたち。
物騒なセリフを度外視すれば、掃除をしに来たようにも見えなくもない。
「ベッドの裏には……いないか」
「代わりにエロ同人誌があったわ。晒しちゃいましょう」
「あんた、人の心無いの?」
メイドたちは容赦なく主人の部屋を蹂躙していく。
その様子は史実マ〇サの強制調査の如しであった。
(ちょ、僕の秘蔵のお宝をぉぉぉぉぉぉっ!?)
メイドたちの傍若無人ぶりをテッドは隠れて見ていることしか出来なった。
彼が声を出さずに悶絶している間にも、ベッドの下に隠されたお宝はジャンルごとに整頓されてデスクの上に並べられていったのである。
「出来たわ!」
「おぉ、これは凄いわね……」
「ジャンルごとに並べつつも表紙の色合いを活かしてグラデーションと化す。あなたってば、プロなの?」
その美しい並べ方はプロの並べ師の仕事とそん色ない出来栄えであった。
テッドのお宝は押収品の如く扱われたのである。
(あのメイドたち絶対に許さんぞ……って、まずは脱出を優先すべきか)
テッドが潜んでいたのは部屋に設置された隠し通路であった。
お約束の展開ではあるが、このような隠し通路は史実では珍しいものではない。
史実の中世の城は隠し通路が設計段階で組み入れられており、水源ともつながって長期的な籠城を可能にしていた。この世界のドーチェスターハウスも同様であり、テッドの部屋は可動式の本棚から地下の隠し通路へ通じていたのである。
ドーチェスターハウスが建てられた当時は隠し通路は機能していた。
1919年から始まった大規模改修工事の際に調査されているので、それは間違いない。
『これを機に館の防衛力の強化をと思い立ちまして。専門家を呼んで大々的に手を入れたのです』
セバスチャンが陣頭指揮を取った改修工事は大規模かつ徹底的なものであり、改修には数万tのコンクリートが使用された。ドーチェスターハウスは外観はそのままに、史実の高射砲塔に匹敵する頑強な建物と化していたのである。
(このまま奥に進むしかないか。だけど……)
改修工事で隠し通路が潰されている可能性をテッドは懸念していた。
最悪の場合、行き止まりで袋のネズミになりかねない。
(わずかだけど風が吹いてくる。賭けてみるか)
唾で濡らした人差し指に、ひんやりとした感触。
それが何を意味するのかは言うまでもないであろう。
「うげっ……」
隠し通路を進んでいる最中に、テッドは思わず声を出していた。
彼が持つ懐中電灯は、幅数メートルに渡って崩落した通路を照らし出していたのである。
この隠し通路は石灰岩を掘ったトンネルであり、ドーセット公爵家の前身であるドーセット伯爵家時代に作られた。しかし、数百年が経過した隠し通路は長年の浸食で脆くなっており、改修工事で使用された大量のダイナマイトの振動に耐えきれずに崩落していたのである。
「!?」
背後から声が聞こえたような気がして振り返るテッド。
予想に反して後ろには誰もいなかったが、遠くから何かが近づいてくるような気配が感じられる。もはや、一刻の猶予も無かった。
「……はぁっ!」
助走して崩落した場所ギリギリを踏み切る。
そのまま全身のバネを活かして跳躍、空中でダイブ姿勢に移行して前回り受け身で華麗に着地した。マスタークラスのバーティツ使いであるテッドは柔術の達人でもある。飛び込み前回り受け身など目をつぶったままでも余裕であった。
「……今度はパルクールか。もうなんだってやってやらぁ!」
少し進むと断崖が道をふさいでいた。
まさに一難去ってまた一難であるが、先に進まねばテッドの尊厳破壊の危機である。
「よっ、ほっ、ふっ!」
薄暗い地下トンネルの内部を走り、跳び、登っていく。
さすがはチートオリ主と言うべきか。常人には追随出来ない速さで道なき道を踏破していったのであるが……。
「……ゴール! って、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」
隠し通路の出口は天井から崩落した巨大な石灰岩によって塞がれていた。
隙間が無いことも無いが、大の大人が潜り抜けることは不可能であった。
『今、声が聞こえなかった? やっぱり旦那さまはここを抜けていったんだわ!』
『気のせいじゃない? こんなの普通の人が通れる場所じゃないわよ?』
『それは、わたしたちが普通じゃないって言ってるようなものだけど?』
テッドの不運はさらに続く。
遠くからメイドたちの会話が聞こえてきたのである。
『旦那さまを捕まえてマルヴィナさまに褒めてもらうんだ。えへへ……』
『ご褒美は何が良いかしら? 新たな愛人に立候補するのも悪くないわね』
『そんなことしたらマルヴィナさまに折檻されるわよ?』」
『それが良いんじゃない! あんたも一度味わったら病みつきになるわよ』
『なんてこと。身近に変態がいるとは思わなかったわ……』
『おチヨさまの写真でオ〇ニーしている貴方にだけは言われたくないわ!?』
崩落した隠し通路を抜けてくる彼女たちも尋常な存在では無い。
マルヴィナによって一騎当千の強者に鍛え上げられた変態――もとい、メイドたちであった。
「えっ、どういうことかしら?」
「そんな馬鹿な。他に抜け道は無いはずなのに……」
「どこかに潜んでいるかも。手分けして探し出すのよ!」
テッドを捕縛したご褒美を夢見ていたメイドたちであったが、現実はそんなに甘くなかった。彼女たちの目の前には崩落した出口しか存在しなかったのである。
(どうなってるんだこれは?)
旧市街地にたどり着いた少年は困惑していた。
普段も賑やかではあるのだが、ここまで騒々しくはない。
「おじさん。騒々しいけど何かあったの?」
「なんだ、ぼうずは知らないのか!? あれだよあれ! おっと、俺もこうしちゃいられねぇ! じゃあなぼうず。早く家に帰って母ちゃんを安心させてやれよな!」
少年に事の次第を尋ねられた露店のおっちゃんは、ラジオを指差すと足早に飛び出していく。残されたのは無人になった露店と少年だけであった。
『繰り返し臨時イベントをお知らせします。ただいま『ご当主さまを探せ! 見つけ出したら1万ポンド』が絶賛開催中です。お忍びで街に出られているご当主さまを見つけ出して賞金をゲットしましょう。以上、ラジオドーセットからでした!』
この時代の1万ポンドは、史実21世紀の円に換算すると8000万円以上となる。領民たちが目の色を変えるのも当然と言えよう。
(僕を捕まえるためだけにそこまでやるのか!?)
少年は絶句する。
言うまでも無く、彼はテッド・ハーグリーヴス本人である。
危うく袋のネズミにされかけたテッドであるが、隠し通路からの脱出に成功していた。召喚スキルを使用してショタ体形に変身、小さくなった肉体で崩落の隙間を上手く抜けることが出来たのである。
大人たちはテッドを完全にスルーしていた。
目の前の少年がテッド本人だとは思いもよらぬから当然であろう。
しかし、領民たちの鬼気迫る捜索にテッドの背筋は凍り付いた。
ほとぼりが冷めるまで潜伏するつもりであったが、考えを変えざるを得なくなったのである。
(元に戻ったら領内で山狩りされちゃうぞこれは。さっさと領外へ出よう)
テッドはドーセット領から脱出することを決意した。
手っ取り早く脱出するべく高速バス乗り場へ向かったのであるが……。
「ごめんなさい。僕ちゃんだけだとバスには乗れないのよ」
「えー!? だって小人料金が書いてるのに……」
「乗るのは一人で大丈夫だけど、手続きは保護者同伴が原則なのよ。乗るならお母さんを連れてきて。ね?」
チケット売り場で受付のお姉さんにやんわりと断られてしまう。
あげくに、迷子扱いで警察を呼ばれそうになって慌てて退散するハメになった。
(バスがダメなら鉄道を使うしかないか。駅はどっちだったかな?)
バスがダメでも鉄道がある。
ロンドン行の特急が発着する新市街地のドーセット中央駅を目指したのであるが……。
(な、なんで……!?)
タクシーで駅前ロータリーに着いたテッドは、車窓からの眺めに真っ青となった。駅周辺にはメイドたちがたむろしていたのである。
テッドが知る由も無かったのであるが、メイドたちはテッドの捜索のために駅前に駆り出されていた。彼女たちはマルヴィナの世話係でもあり、メイド部隊の中でも精鋭中の精鋭であった。
「まいどあり! またのご利用を」
「う、うん……」
ドアを閉めた瞬間に、メイドたちからの視線が容赦なく突き刺さる。
金髪碧眼の少年がタクシーから降りて来れば注目を集めてしまうのはしょうがない。
(うぅ、胃が痛い……)
テッドの秘密を知る者はこの場には居ない。
それ故に身バレする心配は無いのであるが、思わずお腹をおさえたくなるほどのストレスにさらされていたのである。
(平常心、平常心……)
平静を装ってメイドたちの横を通り過ぎようとして――派手にすっ転んだ。
緊張のあまり、足元がおろそかになっていたのである。
「ちょっと!? 大丈夫!?」
「怪我してない!?」
「医療キット持ってきて!」
転倒したテッドに殺到するメイドたち。
その様子はまるでピラニアの如しである。
「血が出てるじゃない!? ちょっと舐めさせて!」
「顔赤くしてる。かわいいなぁ」
「ちょっと、くんかくんかさせて?」
「うわっ、ちょ、らめぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
メイドたちは純粋に心配していたが、同時に性癖を拗らせていた。
主人に感化されたのか、大のショタ好きだったのである。
(もうどうにでもなれ……)
ショタの肉体では満足に抵抗することすら出来ない。
テッドに出来たことは、黙ってメイドたちに弄ばれることのみであった。
「うん、血は止まってる。これで大丈夫ね」
「何があったのかは聞かないけど、最近は物騒だから一人歩きには気を付けるのよ?」
「なにかあったら遠慮なく力になるわよ? マルヴィナさまほどじゃないけど、ゴロツキ程度ならワンパンしてあげるわ」
『物騒なのはおまえらだろ!?』と口から出かかって辛うじて自制するテッド。
見た目こそ純然たるヴィクトリアンメイドであるが、大の男なんぞ瞬殺出来る戦闘力の持ち主なのである。
(というか、こいつらマルヴィナ付きのメイドなのか!?)
テッドは、メイドからマルヴィナの名前が出たことに戦慄する。
このまま駅前でグズグズしていたら褐色の大魔王が降臨しかねない。
(一刻も早くこの場を離れないと!?)
必死に口実を探すテッドであるが、神はテッドを見捨ててはいなかった。
視界の片隅に見知った存在を見つけることが出来たのである。
「あ、いたいた。おじさん!」
そう言って、駆け出した先にはトレンチコートを着た男がいた。
テッドは馴れ馴れしく男に絡む。
「うわっ!? なんだいったい……」
「いいから! 話を合わせて!」
「お、おぅ……」
真剣なテッドの表情に、トレンチコート姿の男――アーチボルド・ウィットフォード副総監補は押し黙る。下手な三文芝居で脳筋メイドたちを騙して駅前から離脱することに成功したのである。
「んー、たまにはこういうのも良いよなぁ」
たこさんウィンナーを口に放り込みつつ、ユニオンジャックの旗が乗ったチキンライスをスプーンで崩してパクリ。ウィンナーの塩味と甘酸っぱいチキンライスが口内で幸せなハーモニーを奏でる。
メイドたちから逃亡することに成功した二人はランチ中であった。
中年のおっさんとショタの組み合わせは、家族サービスするパパと息子に見えなくもない。
ちなみに、このレストランはドーセットへ移住した平成会のモブが経営していた。史実21世紀のメニューが再現されており、観光客に人気のスポットであった。
「……おまえさん、こういったのが好きなのかよ?」
ご機嫌な少年もどきをジト目で見つめるアーチボルド。
テッドが食していたのはお子様ランチだったのである。
「お子様ランチはヘルシーで栄養バランスが取れているうえにお値打ちなんだよ。この体形なんだから注文してもおかしくないし」
エビフライをぶっ刺したフォークを振りつつ、テッドが反論する。
言っていることは間違ってはいない。史実においても、お子様ランチは女性のダイエットメニューだったのであるから。
「……で、アーチ―はなんでドーセット領にいるのさ?」
テッドは食後のジュースを飲みながら疑問を口にする。
円卓所属とはいえ、普段はスコットランドヤードでデスクワーク中心の人間がドーセット領にいることは不自然極まりない。テッド絡みで特命を受けたなら話は別であるが。
「アーチ―じゃない、アーチボルドだ! それはともかく、今回は仕事じゃない。プライベートだ!」
「プライベートぉ? 観光目的にしては、妙に気合が入ってるような気が……」
トレードマークのトレンチコートはクリーニングしたのか、下ろし立てのように汚れ一つない。髪型もきっちり整えられて、ほのかに香水の香りも漂ってくる。
「……まるで、デートに行くみたいじゃないかって、まさか!?」
ここでテッドは思い至る。
ロンドン在住のアーチボルドが、わざわざドーセット領に来た理由は一つしかないことを。
「おうよっ! 今度こそ嫁さんゲットだぜっ!」
「やっぱりかぁぁぁぁぁ!? それしかないのかアーチー!?」
アーチボルドはニュードーチェスターの高級娼館『ラスプーチン』で開催される合コンイベントの常連であった。過去にベッシー・ウォリス・ウォーフィールドという特大の地雷女に遭遇したというのに、懲りずに婚活しているのである。
「だからアーチーって呼ぶな! その名を呼んで良いのはマイハニーだけだぜっ!」
アーチボルドはキザったらしく、ニヤリと笑う。
結婚適齢期はとうに過ぎているものの、収入もルックスも抜群でトークも上手い。合コンイベントの常連であり、婚活女子から引く手あまたなのであるが……。
「でも、最後にヘタレるじゃん」
「うるせーっ!? 俺は肉食な女は好かんだけだ!」
途中までは上手くいくのであるが、いろんな理由で最後にヘタレてしまう。
ウォリスとは別の意味で難物なのである。
「というか、女性の質が落ちてねぇか? 最近はガツガツしたのばかりだぞ。俺はおしとやかな女性が好みなんだ」
合コンイベントに苦言を呈するアーチボルド。
実際に肉食系や地雷女が増えているので、あながち的外れな批判ではない。
「僕に言われても困るんだけど。あれはラスプーチンの管轄だし」
だからと言って、こちらにクレームを持ち込まれても困るのであるが。
実際に合コンイベントを取り仕切っているのはテッドではなく、娼館街の顔役であるグリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチンなのであるから。
「そもそも、そういう女性は普通にお見合いするでしょ。アーチーもお見合いしたら?」
なんだかんだ言っても、出世ルートを突き進んでいたので上司からのお見合い話に困ることは無かった。しかし、紹介されるのはテンプレの如きお嬢様でアーチボルドは物足りなさを感じていたのである。
合コンではいろんなタイプの女性と出会うことが出来た。
お見合いを毛嫌いしていたアーチボルドが合コンにハマるのは必然だったのである。
「いや、合コンにハマって上司からのお見合いを蹴りまくったら、最近はお見合い話が来なくってな……」
「自業自得じゃないか!?」
しかし、ハマり過ぎて上司の覚えが悪くなったのは自業自得であろう。
お見合いのテンプレお嬢が恋しくなっても今更手遅れだったのである。
「……なんでついてくるんだよ?」
露骨に表情をしかめるアーチボルド。
娼館街へ向かおうとしたら、テッドが金魚の糞の如くついてきたのである。
「そんな!? アーチーは僕を見捨てるの!?」
対するテッドは必死であった。
ショタな身のままでは不便極まりない。アーチボルドがいてくれると、いろいろと助かるのである。
「こぶ付きで合コン出来るわけないだろうが!? あとアーチーと呼ぶな!」
金魚の糞と化したテッドに、アーチボルドは容赦がなかった。
子供連れで合コンイベントに参加するわけにもいかないので当然の反応と言える。
結局、テッドは娼館街でアーチボルドと分れることになった。
さすがに合コン会場に同伴するわけにはいかなかったのである。
(まぁ、いいか。ここなら素性を気にする人間もいないだろうし。ある意味ラッキーかも)
娼館街には様々な身分の人間が出入りするために素性は問わないのがマナーであった。その結果、王位継承権を持つ公爵が家族ぐるみで出入りするほどにフリーダムな場所と化していたのである。
「なんだぁ? 子供が泊まるのかよ?」
安宿の主人はテッドを見て困惑していた。
最初は迷子かと思ったくらいである。
「お金はあるから良いでしょ?」
「そりゃまぁそうだが。1週間で良いんだな?」
主人は値踏みするようにテッドを見つめる。
毛糸の帽子にマフラー、カーディガンに短パン、ロングソックスでショートブーツを履いた金髪碧眼の少年。どこからどう見ても貴族のお坊ちゃんである。
「チェックアウトが面倒だからチップ込みで全額前払いしておくね」
「……頼むから、うちで面倒は起こさないでくれよ?」
上客どころか、とんだ厄ネタではないかと思い始める安宿の主人。
しかし、目の前に積まれた大金の前に沈黙するしかなかったのである。
「いらっしゃいませー!」
「さぁどうぞ。焼きたて熱々ですよ!」
「ベイクドモチョモチョ? うちのは蜂楽饅頭だよっ!?」
娼館街にある屋台は今日も盛況であった。
平日にもかかわらず、様々な身分や服装をした紳士淑女が屋台に殺到していたのである。
(完全に日本の祭りの屋台じゃないか。あいつら頑張り過ぎだろう)
その様子をテッドは呆れたような表情で見やっていた。
お好み焼きを食べたせいか、口周りがソースと海苔だらけで恐ろしくサマになっていなかったが……。
ドーセット領における屋台の大半は平成会の元過激派が営業している。
開店資金が安く済むうえに腕次第で稼げて現金収入なので、同人稼業の副業にうってつけだったのである。
最近では兼業から本業にシフトする元過激派モブも増えていた。
たこ焼き、焼きそば、タイ焼き、から揚げなど日本の屋台の定番から、ベビーカステラやイタリアンスパボー、ケバブ、果ては真名を呼ぶと戦争が起きる〇〇焼きなどなどエトセトラ。史実知識を活かして一儲けしてやろうと、日々激烈なバトルが繰り広げられていたのである。
この場所でしか食べられない食べ物も多く、屋台目当てで娼館街に通う者も多い。しかし、素性を隠した様々な身分の人間が集まれば何も起こらないわけがない。屋台周辺は娼館街の中でもトップクラスのトラブル多発地帯でもあった。
「おや、坊やは迷子なのかな?」
そして、テッドもトラブルとは無縁ではいられなかった。
身なりの良い紳士に声をかけられていたのである。
(げぇっ!? マウントバッテン公爵!?)
紳士の顔を見て心の中で絶叫するテッド。
よりにもよって、テッドに声をかけてきたのは恋の両生類ことルイス・マウントバッテン公爵だったのである。
「大丈夫かい? 親御さんはどこにいるのかな?」
マウントバッテンは心配するように寄り添いながら、テッドの尻に手を伸ばす。
恋の両生類の面目躍如というべきか、無駄に手際のよいセクハラであった。
「大丈夫です。あっちにママを待たせてるんで!」
「あ、ちょっと!?」
テッドはその場から全力で駆け出す。
小柄な体躯を活かして人混みをすり抜けることで、魔の手から逃れることが出来たのである。
(何も考えずに走ったけど、ここは何処だろう?)
気が付けば、大きな屋敷の前であった。
小綺麗な建物に見事な手入れのイングリッシュガーデンは、持ち主の趣味の良さが伺える。
(ね、眠くなってきた……)
唐突に襲ってきた急激な眠気にテッドは困惑するが、頭脳は大人でも肉体はショタに過ぎない。肉体の疲労に精神も引っ張られていたのである。
「……」
夢遊病者のようにフラフラと、テッドは意識が混濁した状態で屋敷の敷地へ入り込む。そのまま物陰に隠れて寝落ちしたのであった。
(……知らない天井だ……って、ええええええええ!?)
テッドがは知らぬ間にベッドに寝かせられていた。
それだけならばまだよかったのである。しかし……。
身体を動かそうにも思うように動かせない。
横を見れば中年女性の顔がドアップで迫る。テッドは女性に抱き着かれていたのである。
(アイエエエエエエ!? ウォリス・シンプソン!? ナンデナンデ!?)
テッドは完全に混乱していた。
抱き着いている女性に面識があったのである。
テッドが迷い込んだのはウォリスの屋敷であった。
物陰で寝落ちていたテッドを、ウォリスが発見して保護(?)していたのである。
ちなみに、この世界のウォリスは英国では有名人であった。
かつて、造船業大手のキャメル・レアード社の御曹司との破局が大々的に報じられたからである。
その後も『恋多き女』として短期間に大恋愛と破局を繰り返し、慰謝料と財産分与で財を成していった。ドーセット領に定住してからは婿探しにターボがかかり、未婚男性からはナマハゲの如く恐れられていたのである。
「あぁん、そんな、激しい……」
「むぐーっ!?」
ウォリスは寝言を言いつつ、強く抱きしめる。
テッドの小さい顔面が胸元に埋まってしまい呼吸困難となった。
「ぶはっ!?」
「うぅん……」
火事場のクソ力で抱擁から辛うじて抜け出すテッド。
幸いというべきか、ウォリスはまだ寝たままであった。
「もう、一人にしないで……一人は嫌なの寂しいの……」
ウォリスの寝言に思わず足を止めてしまうテッド。
しかし、何も言わずにその場を後にしたのであった。
テッドが元の姿に戻れたのは、それから三日後のことであった。
ほとぼりも冷めただろうと屋敷に戻ったのであるが、待ち受けていたのは修羅場だったのである。
「首筋にキスマークなんて、ずいぶんお楽しみだったようねぇ?」
「酷いです! あんなに心配したというのに!?」
テッドはウォリスが付けたキスマークに気付けなかった。
もっとも、キスマークを消したとしてもマルヴィナの鋭い嗅覚を誤魔化すことは出来なかったであろうが。
「いや、ちょ!? 違うんだ!? これは不可抗力ってやつで……」
「「問答無用!」」
「っあー!?」
怒り狂った正妻と愛人によって、テッドは休暇が終わるまでひたすら搾られることになった。しかし、二人が当初の目的を忘れてしまったせいで休暇中に妊娠することは出来なかったのである。
テッド君の不幸っぷりに涙が止まりません(´;ω;`)
微妙に愛人フラグが立った人がいますが、多分気のせいです。
>栄光ある孤立
19世紀末のイギリスの非同盟外交政策です。
絶大な経済力と海軍力を背景にして、いかなる国とも同盟を結ばず国際紛争の無縁で繁栄を誇りました。日英同盟が締結された時点で孤立もクソも無いのですけど。この世界では第1次大戦を英国と共に戦ってくれた数少ない国なので身内扱いされていたりします。
>かつてアメリカの世論を操作した彼の手腕が期待されていたのである。
本編第13話『メディア謀略』参照。
>鈴木喜三郎
この世界の歴代総理で一番はっちゃけている人。
開き直った人は強いのです。
>セバスチャン・ウッズフォード
ドーセット公爵家家令にして御家至上主義者。
普段は有能ですが、公爵家存続が絡むと主人を陥れることすら躊躇しない狂信者です。
>睡眠薬を盛られて昏睡した状態で逆レイプとかドン引きものである。
自援SS『変態紳士の領内事情―ロマノフ公来襲編―』参照。
>プロの並べ師の仕事
こち亀でネタにされていましたが、押収品を並べて報道陣に公開するのがお仕事です。並べ師というのは俗称で、実際に並べているのは若手署員だったり。都道府県警ごとに並べ方に独特なセンスや特徴があったりします。
>『これを機に館の防衛力の強化をと思い立ちまして。専門家を呼んで大々的に手を入れたのです』
本編第46話『帰郷』参照。
>史実の高射砲塔に匹敵する頑強な建物と化していたのである。
解体出来ないほど頑丈なのですが、手を加えまくったせいでドーチェスターハウスに歴史的な価値はほとんどなかったりします。
>主人に感化されたのか、大のショタ好きだったのである。
入りたての頃は素直で良い子たちだったのです。
地獄のマルヴィナブートキャンプでマルヴィナから洗脳――もとい、おねショタ同人誌を布教されて染まってしまっただけです。
>アーチボルド・ウィットフォード副総監補
登場するたびに昇進している出世魚なオリキャラ。
珍しく今回は不幸な目に遭ってはいませんが、合コンの結果は散々な結果に終わっています。
>過去にベッシー・ウォリス・ウォーフィールドという特大の地雷女に遭遇したというのに
自援SS『変態紳士の領内事情―アーチボルド・ウィットフォード警視長の受難編―』参照。
>実際に肉食系や地雷女が増えているので、あながち的外れな批判ではない。
この世界の合コンにもヤバイ婚活女が増えていたりします。
>王位継承権を持つ公爵が家族ぐるみで出入りするほどにフリーダムな場所
自援SS『変態紳士の領内事情―ロマノフ公来襲編―』参照。
>イタリアンスパボー
最近の屋台の定番ですが、じつは日本発祥だったりします。
スパゲッティをカリッと揚げてお好みの味にするシンプルかつ奥深いメニューです。
>真名を呼ぶと戦争が起きる〇〇焼き
おいらの地元だと蜂楽饅頭です(鹿児島県民
>ルイス・マウントバッテン公爵
この世界ではロマノフ公爵家の3女マリアと結婚して公爵になっています。
結婚しても両生類ぶりは相変わらずです(酷




