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変態アメリカ国内事情―ヒコーキ馬鹿一代編―


「評判は上々ですよ監督! 新聞でも大きく取り上げられています」

「映画館は長蛇の列です。今年の興行収入を塗り替えるのは確実でしょう」

「ハリウッドの老害たちの悔しがる様子が目に浮かびます。ザマーミロ!」


 歓喜するスタッフを前にした監督――ハワード・ロバート・ヒューズ・ジュニアは鷹揚(おうよう)に頷いただけであった。彼からすれば、今回の成功は充分に予見出来たものだったからである。


 史実では謎の大富豪として有名なハワード・ヒューズは、この世界でもハリウッド進出を果たしていた。今回の作品はヒューズ自身がメガホンを取った2作目であり、様々な困難を乗り越えて作品を完成させたのである。


(な、なんという作品だ。完成度が違い過ぎる……)


 しかし、彼の天下はわずか1週間であった。

 カポネ・ピクチャーズが送り出した映画にヒューズは鼻っ柱をへし折られたのである。


 カポネ・ピクチャーズという映画スタジオは史実では存在しない。

 イリノイ州で絶大な権勢を誇る犯罪組織シカゴ・アウトフィットが、世界恐慌で経営が傾いたパラマウント・ピクチャーズを買収していたのである。


(音が出る映画とか反則だぞ。サイレントでは勝てるはずが無いだろ!?)


 この時代の主流はサイレント、いわゆる無声映画であった。

 ヒューズの作品もサイレント映画であったが、目の前で上映されている作品は映画館を騒音で満たしていたのである。


 新生カポネ・ピクチャーズは、圧倒的な資金力にモノを言わせて最新技術を惜しみなく注ぎ込んだ。実用化されたばかりのヴァイタフォンシステムを採用したことにより、処女作でありながらアメリカ初の発声映画(トーキー)として完成していたのである。


 ちなみに、シカゴ・アウトフィットのボスであるアル・カポネはジャズの大ファンであった。映画の舞台がイリノイ州のシカゴだったということもあり、作品内ではジャズが多用されていた。


(黒人女性が主役というのも斬新だな。俺は考えもつかなかった……)


 銀幕に大きく映し出される若い黒人女性。

 彼女の鮮やかなガンアクションは敵の親指を撃ち抜き、あるいは銃の機関部に命中して無力化していく。


 カポネは黒人やユダヤ人に対して人種差別をしなかった。

 映画の主役に黒人女性を抜擢することに躊躇(ちゅうちょ)すらしなかったのである。


 アメリカ風邪で青年層が壊滅したことで黒人の社会進出が進んではいたものの、これは大英断であった。一部の白人至上主義者からは毛嫌いされたが、この映画は大衆の支持を広く受けることになるのである。


「存在しない? どういうことだ?」


 怪訝な表情となるヒューズ。

 カポネ・ピクチャーズの処女作の肝が脚本であると判断した彼は、脚本家を抱き込むべく調査を命じていた。


「そ、それが……誰もが口をそろえて言うんです。今はジョン・スミスという脚本家は存在しないと……」


 調査したスタッフも困惑していた。

 事情を知ってそうな人間を片っ端からあたったものの、カポネ・ピクチャーズ所属の脚本家の存在を掴むことが出来なかったのである。


「存在しないわけないだろう? 現に脚本は存在しているのだぞ」


 入手した脚本にはジョン・スミスの名前が記載されていた。

 表紙には直筆のサインまであったのである。


(あるいはゴーストライターということか? それならそれで都合が良いな)


 ヒューズが思い至ったのは、ゴーストライターの可能性であった。

 ギャングが所有する映画スタジオに所属するとなれば、偽名を使っている可能性は高い。専属契約でもしていない限りは金でなんとか出来ると考えていたのであるが……。


「よぅ。あんたらか? うちの脚本家を探しているのは?」


 しかし、ヒューズの動きはカポネ・ピクチャーズ側に知られることになった。

 三日も経たずして、彼のオフィスはトンプソン(トミーガン)を持ったギャングたちに包囲されることになったのである。


「……そうだと言ったら? サメの餌にでもする気ですか?」


 カポネ・ピクチャーズの最高経営責任者(CEO)にして、執行人(エンフォーサー)の異名を持つフランク・ニッティ相手に口を聞けるヒューズは大したタマである。傍に控えているスタッフたちは恐怖で震えるだけであった。


「いや、むしろ探し出して欲しい」

「……どういうことです?」


 ニッティの言っている意味がヒューズには分からなかった。

 探し出して欲しいとはどういうことなのか。


「ジョン・スミスなる脚本家は確かに存在したらしい。だが、10年ほど前から足取りが掴めない」

「死んだんじゃないのか? 10年もあんたらから逃げおおせる人間がいるとは思えないのだが……」


 謎の脚本家として、ジョン・スミスの名は第1次大戦期のハリウッドでは有名であった。しかし、戦後になると綺麗に消え去ってしまったのである。


「いや、海外に逃亡したのは確かなんだ。当時の捜査資料が残っている」

「おい、まさか……」


 ヒューズは特大級の厄介ごとに巻き込まれたことを自覚していた。

 三日前の自分が目の前にいたら、躊躇(ちゅうちょ)なくぶん殴っていたであろう。


「何も犯罪の片棒を担がせようってんじゃない。見つけ出して正式に脚本家として契約したいだけだ」


 ヒューズの懸念を察したのか、ニッティの態度は恫喝的ではなく穏やかなものであった。あくまでも表面上は、であるが。


「国内ならともかく、海外となるとうちらではからきしでな。あんたの力を借りたいんだ」


 ヒューズは、ヒューズ・ツール・カンパニーの筆頭株主であった。

 海外に積極的に輸出している数少ないアメリカ企業であり、海外に多数の事業所を展開しているために国外逃亡犯を探し出すにはうってつけだったのである。


「……協力はするが保証は出来ないぞ」

「もちろんだ。いくらなんでもそこまで期待はしていない」


 どのみちニッティの頼みを断る選択肢は存在しなかった。

 命あっての物種なのである。


 ヒューズ・ツール・カンパニーの海外事業所には、ジョン・スミスの調査部署が設立された。今回の事件に懲りたヒューズは映画業界から足を洗ったのであるが、調査そのものは継続されることになるのである。







「チャールズ。帰ってきたばかりで済まないが急ぎで頼まれてくれないか?」

「いいですよ。じゃあ、行って来ます!」


 ペンシルベニア州の南東にあるウィローグローブ。

 真新しい飛行場には単発機が着陸したばかりであったが、ただちに折り返し便の準備が進められていく。


「やれやれ、相変わらず人使いが荒い。しかし、おかげで腕が磨けるというものだ」


 コクピット内で愚痴るチャールズであったが、彼にとってはむしろ望むところであった。操縦技術を磨くべく、ハワード・ヒューズは偽名を使ってピトケアン・アビエーションに就職していたのである。


(まさか、ここまで利益が出ないとは)


 飛行場近くのダイナーで頭を抱えてしまうヒューズ。

 ちなみに、本日は月に何度あるか分からない貴重な休日であった。


(それにしても航空郵便は金にならんな。将来性はあると思うのだが)


 現在のアメリカでは郵便事業が急拡大していた。

 それらを扱う航空事業も急成長するだろうとヒューズは見込んでいたのであるが、現状は運賃に対して諸経費が高すぎて利益を圧迫していたのである。


(もっと必要経費を圧縮するか、それとも新しい手法を開発する必要があるな……)


 思考に没頭しながらも、ヒューズはコーヒーサーバーに向かう。

 ここのダイナーはコーヒーのお代わりは無料であったが、セルフサービスなのである。


「んん?」


 思わず声が出てしまったのは、コーヒーサーバーの隣に設置されていた本棚にコミックを見つけたからであった。真っ赤で流麗なラインの水上機がデカデカと載っている表紙は、ヒコーキ馬鹿であるヒューズの心を捕らえてしまったのである。


「こ、これだっ!」


 周囲の迷惑もなんのその。

 コミックを一気読みしたヒューズは、ダイナーを飛び出したのであった。


『3分で勝負がつけば赤有利! それ以外なら青有利だよ!』

『受付はまもなく終了します。お早めにどうぞ!』

『発進5分前! 発進5分前です。観客は機体から離れてくださいっ!』


 1929年1月。

 雪がちらつく寒さのなか、ニューヨーク州ミッチェルフィールド飛行場には大勢の観客が押しかけていた。


『発進15秒前!』


 赤色の単葉機と青色の複葉機が徐々にエンジン出力を上げていく。

 しかし、車輪止めがされているので前進はしない。時折、尾部が跳ね上がろうとするのを飛行場のクルーが必死になって押しとどめる。


『5秒前! 3……2……1……GO!』


 クルーが車輪止めを外した瞬間、両機は一気に動き出した。

 エンジン出力にモノを言わせて猛ダッシュをかけたのである。


「おぉ、上を取ったぞ!?」


 先に動いたのは青色に塗装された複葉機であった。

 アイアンサイトに機影が入った瞬間に、パイロットは躊躇なくトリガーを引いた。


「なんだあの動きは!?」

「まるで滑るような動きだったぞ!?」


 しかし、放たれた30-06弾は命中しなかった。

 飛行場に命中して内蔵したペイントを派手にぶちまけただけであった。


 ちなみに、両機の機関銃に装填された弾丸は実弾ではない。

 コミックに描かれていたアイデアを、ヒューズ・ツール・カンパニーの技術陣が航空機用演習弾として実用化したものであった。


「あっ、戻ってきたぞ!?」

「機体のトラブルか!?」


 10分ほど巴戦をやって両機は着陸する。

 機体トラブルではなく、単なる弾切れであった。


 そこからパイロット同士のボクシングによる決着――なんてことはなかった。

 両機にペイント弾が命中した形跡が無いことが確認されると、ただちに弾丸と燃料を補充して勝負を再開したのである。


 今回の『空の決闘』は、ペイント弾が命中した数と場所によってポイントが付与されるルールである。なお、2度にわたる延長戦を制したのは青色の複葉機であった。


 ヒューズのエアレースは絶大な人気となった。

 しかし、そのことを快く思わない人間が大勢いたのである。







「……ずいぶん、うちの縄張り(シマ)で好き勝手やってくれたじゃねぇか」   

「おいおい、相手は堅気だぞ?」

「堅気の儲け話に我らが首を突っ込むのも野暮というもの。それでも挨拶くらいは欲しかったんだがな」


 マンハッタンのミッドタウンにあるウォルドルフ・アストリア・ホテル。

 史実では『ニューヨークの迎賓館』の異名を持つアメリカを代表するホテルであるが、貸切られたホールは異様な雰囲気に包まれていた。


 エアレースで荒稼ぎしていたヒューズは、突如このホテルに呼び出された。

 招待状が届いた時点で警察に相談したのであるが、この時代の裏社会は既にアンタッチャブルであった。拉致されるよりはと、自ら出頭するしか無かったのである。


「若輩者故に礼を失したことをお詫びします。しかし、故意ではありません。今後は良い関係を築きたく……」


 必死に弁解するヒューズ。

 裏社会の住民を甘くみていたわけではない。彼の想像以上に相手がヤバかっただけである。


「おいおい、あまり若いのを虐めてやるなよ。ここは俺に任せてくれないか?」


 洒落たスーツを着こなす男が、ヒューズを庇うように立つ。

 ヒューズほどでないにしても十分に若い。しかし、男が身に纏う雰囲気は裏社会の顔役たちに決して劣るものではなかった。


「おい、あんたは今回は関係ないだろ」

「うちのシマのもめ事なんだ。ひっこんでもらおう」

「まだ真昼間だ。ストーク・クラブに行くんなら今のうちに寝てたほうがいいんじゃないか?」


 裏社会の顔役たちは口々に文句を言うものの男は意に介さない。

 若くしてそれだけの権力を男――ラッキー・ルチアーノは持ち合わせていたからである。


 ちなみに、ルチアーノはウォルドルフ・アストリアの豪華なスイートルームに住んでいた。彼はニューヨーク屈指のプレイボーイであり、ここ最近は美女軍団を引き連れてストーク・クラブで大盤振る舞いをしていたのである。


「さて……ハワード・ヒューズだったか? 残念だが、ここまで拗れてしまうと無罪放免というわけにはいかん。相応の誠意を見せてもらおうか」

「せ、誠意ですか?」


 ビジネスマンとしては有能なヒューズであったが、誠意を見せろと言われて戸惑ってしまう。ビジネスの世界に誠意なんて概念は存在しないのである。


「……お金じゃダメなんですか?」

「それも一つの手ではあるな。一番手っ取り早い解決方法であるが、それでいいのか?」


 含みのある発言をするルチアーノ。

 どことなく面白がっているように見えるのは気のせいであろうか。


(金で解決するのは下策ということか……)


 ヒューズはルチアーノに試されていることに気付いた。

 目の前の男はマフィアでも屈指のビジネスマンである。ならば、ビジネスとして対応すべきであろう。


「分かりました。エアレースに関する権利その他一切を譲渡しましょう」


 裏社会の顔役たちがどよめく。

 ヒューズはドル箱を自ら放棄すると宣言したのである。


「おいおい、それじゃビジネスじゃないだろ。ただの慈善事業だ」


 呆れたような様子のルチアーノ。

 実際に呆れていたのであるが。


「確かにこれだけならば慈善事業でしょう。もちろん続きがあります」


 対するヒューズは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)であった。

 エアレースを譲渡しても十分にペイ出来る秘策が既に出来上がっていたのである。


「エアレースの運営その他一切合切はお任せします。代わりと言ってはなんですが、うちから部品を買ってください」


 自動車と違い、飛行機には日々のメンテナンスが欠かせない。

 ヒューズの秘策は、エアレース用の機体部品と消耗品を(高値で)売りつけることだったのである。


『連中がアホみたいにエアレースを開催してくれるおかげで、消耗品が飛ぶように売れていく。せいぜい搾り取ってやるぜ!』


 新設したオフィスでヒューズは高笑いしていた。

 設立されたばかりのヒューズ・エアクラフトは消耗品の販売で莫大な利益あげただけでなく、大量のバックオーダーで嬉しい悲鳴をあげていたのである。


 ヒューズ・エアクラフトでは、飛行機用の消耗品の生産はしていなかった。

 必要に応じて他所から仕入れてくるわけであるが、顧客である裏社会の住民は言値で買ってくれるので利益を出し放題であった。エアレースというドル箱を手放して信頼を勝ち取ったからこそである。


『がはははっ! 勝った! 勝ったぞぉぉぉぉ!』

『ぐぬぬ、負けた……』

『というわけで、このシノギは俺のものだな!』

『致し方ないか……』


 裏社会に譲渡されたエアレースは、賭け事だけでなくトラブル調停にも利用された。従来よりコミッションと呼ばれる話し合いの場がトラブルの調停に利用されていたのであるが、双方の意見が食い違いすぎるといたずらに時間だけを浪費してしまう問題があった。


 それに対して、エアレースによる調停はスピード解決が可能であった。

 敗者は勝者の言い分を無条件で受け入れるというシンプルさで、問題を強引に解決することが出来たからである。


『金に糸目はつけん! 最強の機体を作ってくれ!』

『それでしたら、最近完成したばかりのヒューズF-2ファイターがですね……』

『買う! 即金でキャッシュだ! 納期は1か月後だ!』

『そんな無茶苦茶な!?』


 そうなると確実に勝てる機体がどうしても必要となる。

 ヒューズ・エアクラフト社では荒稼ぎした利益をぶっこんで高性能な機体の開発を進めており、噂を聞きつけた裏社会から引っ張りだこになったのである。


 グラマンやカーチスといった史実の老舗航空機メーカーも黙っていなかった。

 新参のヒューズ・エアクラフトに負けるなとばかりに、エアレース用の機体を積極的に売り込んでいったのである。







「駄目だな。これ以上スピードを上げるのは無理だ」

「風洞実験でも同様の結果が出ています」

「空力で誤魔化すのも限界だぞ。もっとパワーのあるエンジンが無いと……」


 ヒューズ・エアクラフトの技術陣は頭を抱えていた。

 これまでひたすらにスピードを求めてきた同社の機体はライバル会社に比べて優位に立っていたのであるが、既に限界に達しつつあったのである。


「あれ? そういえばボスは何処に行ったんだ?」

「さっき出かけていったぞ。多分、エンジン屋に発破をかけにいったんじゃないかな」

「こうなったらボス頼りだ。大馬力エンジンを分捕ってくれることを祈るしかないな……」


 エンジンの性能は機体性能のかなりの部分を占める。

 如何に空力を追求しても、翼面荷重を高くしても、結局最後にモノを言うのはパワーなのである。


「……これが現在試作中のエンジンになります」

「どれくらいの馬力が出るんだ?」

「目標は1000馬力ですが、トラブル続出でなかなか……」


 一方その頃。

 部下たちの期待を一身に受けたヒューズは、プラット・アンド・ホイットニー本社を見学中であった。


「よし、こいつをもらおう」

「話聞いてました? こいつはまだ使える段階では……」

「テストも兼ねてこっちで使ってやると言ってるんだ」

「そんな無茶苦茶な!?」


 ヒューズの要求に悲鳴をあげるプラット・アンド・ホイットニーの技術者。

 問答無用で却下すべき案件なのであるが断ることが出来なかった。エアレース絡みで下手に拒否しようものなら、怖いお兄さんたちがやってくるからである。


「そういえば、おたくらは液冷エンジンは作ってないのか?」

「うちは空冷エンジンしかやってないんで……」


 強引に領収したエンジンをトラックに積み込む最中、ヒューズはかねてから抱いていた疑問をプラット・アンド・ホイットニーの技術主任にぶつけていた。


「海外じゃ液冷の大馬力エンジンが開発されている。このままじゃ出遅れてしまうぞ?」

「そうは言いますけど、簡単に開発出来るものじゃありませんよ。参考に出来るものがあれば話は別ですけど」

「参考に出来るものがあれば良いのだな?」

「えっ?」


 ヒューズの発言に耳を疑う技術主任。

 プラット・アンド・ホイットニー本社に液冷エンジンが持ち込まれたのは、それから1か月後のことであった。


「サイズが空冷と違うな。細いし、いかにも速そうだ」

「ラジエーターが必要だから、そんな単純な問題でも無いような気がするが?」

「冷却に使ってるのは水じゃないのか? 組成を調査せねば……!」


 持ち込まれた液冷エンジンは、ただちに全バラされた。

 プラット・アンド・ホイットニーの技術者たちは徹底的に解析していったのである。


「ヒューズさん、あんなものどこから盗んできたんですか?」


 興奮する技術者たちから少し離れた場所でヒューズを問い質す技術主任。

 はっきり言って犯罪者を見るような目であった。


「おいおい、そんな目で見るのはやめてくれないか? ちゃんと合法的な手段で手に入れたものだぞ」

「わたしだって、エンジン屋としてそれなりに長く食っているんです。国内で実用的な液冷エンジンを作っているメーカーなんて存在しない」

「国内ならばな。こいつはメイドインジャパンなのさ」

「はぁっ!?」


 予想外過ぎるヒューズの言葉に驚愕する技術主任。

 ヒューズが持ち込んだエンジンは日本製だったのである。


「とはいっても、こいつはパワー不足だ。だからこそ民間向けで手に入れることも出来たんだがな」

「しかし、構造は参考になる。こいつを叩き台にすれば、大出力液冷エンジンを作ることも不可能ではないでしょう」

「そういうこったな」


 このエンジンは英国製『ケストレル』を平成飛行機工業がライセンス生産したものである。1922年にライセンス許可を受けた平成飛行機工業は、早くもその翌年から生産を開始していた。


 エンジン自体の信頼性は既に確保されていたものの、現時点ではパワー不足なために採用は民間向けの機体にとどまっていた。ヒューズは機体を丸ごと購入してエンジンを確保、そのまま船便で送るという荒業でエンジンを送り届けたのである。


「それにしても、日本がこれほどのエンジンを実用化しているとは……」

「あの国は油断ならないぞ。うかうかしていると追い抜かれかねん」


 日本をアジアの島国程度にしか認識していない技術主任は驚愕していたが、部品の買い付けで訪日することが多いヒューズは日本を正当に評価していた。未だ英国頼みの面があるとはいえ、アジア唯一の列強は伊達ではないことを理解していたのである。


 ちなみに、このエンジンを平成飛行機工業の技術者たちが魔改造して和製マーリンが完成することになる。1500馬力級液冷レシプロの完成に各航空機メーカーのエース級設計技師が色めき立ったのは言うまでも無いことであった。







『……時は来た! 今こそ偉大なるステイツを無法者どもから解放し、法の光をもって照らし出すのだ!』


 1935年1月某日。

 ホワイトハウスから放送されたラジオ演説に全米が震撼することになった。裏社会に従順だった故に3期目に突入していた第30代大統領ジョン・ウィリアム・デイビスは、この日をもって明確に反旗を翻したのである。


『な、なんだこいつら!? てめえら、俺たちが誰だとぐわっ!?』

『畜生!? 応援を呼べ! このままだと突破されるぞ!?』

『ふざけんな! トミーガンでこんな奴ら相手に出来る訳ないだろ!?』


 ラジオ演説と同時刻。

 キューバのグァンタナモ基地に秘匿されていた海兵師団はマイアミに上陸していた。地元でイキっていた田舎ギャングごときが抵抗出来るわけもなく、一方的に蹂躙(じゅうりん)されたのである。


「畜生、何処に行きやがった!?」

「探せ! そう遠くに行ってはいないはずだ!」


 ラジオを聞いて駆け付けた者たちが目にしたものは、無人となったホワイトハウスであった。演説はレコード盤を再生しただけであり、デイビスと閣僚たちはいち早く脱出していたのである。


「大統領閣下。よくぞご無事で」

「なに、ここまで来て簡単に死ぬわけにはいかんからな。さぁ、我々の手でアメリカを取り戻すぞ!」

「「「アイアイサー!」」」


 海兵隊総司令官と固い握手を交わすデイビス。

 裏社会の住民たちがホワイトハウス近辺を血眼になって探しているのを他所に、当の本人は海路でフロリダ入りを果たしていたのである。


 圧倒的な戦力を保持しているにもかかわらず、海兵師団の北上速度は遅々たるものであった。これはデイビスが地域住民への慰撫工作に時間を割いていたからである。


「聞いたか!? 大統領は今後10年間は税金を払わなくてよいって言ってるぞ!?」


 デイビスの慰撫工作で特筆すべきは10年間の無税化であった。

 不正蓄財していた地元のギャングやマフィアの財産を没収することで財源に充てることにしたのである。


『うわ、どうみても銀行にある大金庫じゃないか。こんなのがなんで個人の邸宅にあるんだよ?』

『中は札束とゴールドと宝石だらけだ!? ちょっとくらいネコババしても……』

『おい馬鹿止めろ!? 誰かこいつをMPに突き出せ!』

『冗談だよ!? 本気にするな!』


 犯罪も脱税もやりたい放題なので、その金額は膨大なものとなった。

 州政府の予算を軽く10年は賄えるだけの金額を没収することが出来たのである。


 これに加えて、復興債もデフォルトされた。

 連邦政府の予算を圧迫していた莫大な償還から逃れることが出来るだけでなく、購入者の大半である裏社会の住民たちの収入も絶てる一石二鳥の良策であった。


「ちゃんと法律で裁いてくれるってよ。もうギャングどもに頭を下げなくて良いんだな!?」


 司法と警察の復活も住民たちから歓迎された。

 これまで地元ギャングたちの横暴ぶりに地域住民はストレスを溜め込んでいたのである。もっとも、地元警察は癒着と汚職のオンパレードだったので開放地域の治安の大半はミリタリーポリス(MP)が担うことになるのであるが。


 デイビス率いるアメリカ解放軍が慰撫工作に力を入れるのは、政府としての正当性を主張するためであった。同年3月にトロツキー率いる革命軍がテキサスで蜂起しており、地域住民を味方に付けないと後ろから撃たれかねない状況だったのである。


「このままではヤバい。確実に破滅だ……」


 1936年1月。

 閑散としたオフィスでヒューズは頭を抱えていた。


『今年中に東海岸沿岸州を奪還する! いずれアメリカは真の姿を取り戻すだろう』


 デイビスの解放宣言から1年が経ち、東海岸はメリーランド州までが既に解放軍の支配領域であった。ホワイトハウスを奪還したデイビスは、年始のラジオ演説で改めてアメリカ全土解放を宣言していたのである。


『労働者たちよ団結せよ! この国に巣食う薄汚い連中を粛清(しゅくせい)するのだ!』


 その一方で、トロツキー率いる革命軍はアメリカ南部から中西部を支配領域に置いていた。規模こそ大きいものの、装備と練度に劣ることを自覚している革命軍は解放軍との正面対決を避けていたのである。


 結果として、裏社会の住民たちご自慢の私設軍隊は解放軍と革命軍に挟み撃ちにされることになった。三つ巴でありながらも、真っ先に脱落しかかっていたのである。


 ヒューズ本人はギャングもマフィアも大嫌いであった。

 連中を相手に荒稼ぎしているのは、嫌いなヤツから搾り取る程度の認識でしかない。


『ヒューズはマフィアと癒着している』

『ライバルを蹴落とすために手段を選ばない卑劣な男』

『解放軍に吊るされる候補ナンバー1』


 しかし、周囲の人間はそうは見ていなかった。

 完全に裏社会側の人間として見られていたのである。


(ここも閑散としてきたな……)


 ヒューズ自らトラックを運転して、ニューヨークのメインストリートを進む。

 いつもなら難癖をつけて小銭を巻き上げようとするチンピラはいなかった。前線に駆り出されたか、逃げ出したかのいずれかであろう。


(まぁ、おかげでこちらも動くことが出来るのだがな)


 桟橋に係留されている飛行艇に荷物を積み込んでいく。

 飛行艇――シコルスキー S-42は当時最新鋭の大型飛行艇であり、彼がこの日のために用意したものであった。


「第1、第2エンジンスタート……アイドリング確認! 第3、第4エンジンスタート……アイドリングOK、油温正常!」

「針路クリア! スロットルアップ!」

「……60……70……80マイル! テイクオフ!」


 誰にも見送られることなくS-42はニューヨーク港を離水した。

 バミューダ諸島と洋上タンカー給油、さらにはアゾレス諸島を経由したヒューズは単身で英国への亡命を果たしたのであった。







「まさか史実の世界的大富豪が亡命してくるとはな」

「植民地人たちは何も言ってきていないのか?」

「内戦中で混乱しているのだろう。外交ルートでは何も言ってきてない」


 ヒューズの亡命は円卓で緊急集会が開かれる事態となった。

 この世界でも屈指の大富豪であり、アメリカ内部の情報にも通じていると思われるヒューズの亡命を拒否する選択肢は存在しなかったのであるが……。


「戦争難民という形でなら即座に許可出来るのだから大人しくしていれば良いものを」

「身の安全を確保するためでもあるのだから、こちらの条件を受け入れてくれないと困る」

「自由にさせると何かとんでもないことをやらかす気がしてならない。史実だと突飛な性格をしてたからなぁ」


 円卓はヒューズに対して、偽名による新たな経歴の用意や居住や活動の一部制限を申し入れていた。これに対して、ヒューズは無条件の亡命受け入れを求めていたのである。


「ヒューズを優遇すると他の連中が煩く言ってくる可能性がある」

裏社会の住民(あいつら)は情報源としてはそれなりに期待出来る。そうそう無下には出来ん」

「尻に火がついているから、もう少し足元は見れるだろうがな」


 じつは、同時期に裏社会の住民たちも英国への亡命を希望していた。

 ヒューズの亡命を優遇すると、同じ条件にしろと騒ぎ立てることは目に見えていたのである。


『……それで、僕のほうに話を持って来たわけですか』

「うむ。何か名案はないものかと思ってな」


 結局、その日の円卓会議では結論を出せなかった。

 英国宰相にして円卓議長のロイド・ジョージは、事態を打開するべく日本にいるテッドに連絡をとったのである。


『裏社会の連中はこちらで引き取りますよ』

「それは助かるが、良いのかね?」


 予想だにしなかったテッドの返事にロイド・ジョージは驚く。

 まさか厄介者を積極的に受け入れるとは思ってもいなかったのである。


『じつは連中に目を付けられてましてね。ちょくちょく探りを入れられてるんです』

「なんだと!?」


 またしても驚愕するロイド・ジョージ。

 アメリカ内戦で裏社会側の旗色が悪くなるのと同時期に、ドーセット領には不審な人物の出入りが急増していたのである。


 相手の弱みを握って支配するのが裏社会の住民のやり口である。

 しかし、ドーセット領に向かった連中の末路は悲惨なものであった。


 住民に聞き込みをすれば、ドーセット公爵家の家宰(ハウススチュアート)であるセバスチャン・ウッズフォードの一族の人間に捕縛されて行方不明になった。


 特に悲惨なのはハニトラ要員であった。

 娼館に監禁された彼女たちは、娼館街の顔役(ラスプーチン)が持つ規格外のビッグマグナムで洗いざらい吐かされたのである。


(いざとなれば密入国してドーセットに潜伏するつもりだったのか? 危ないところだった……)


 ロイド・ジョージは、裏社会の住民の強かさに舌を巻いていた。

 このまま連中の足元を見ていれば、確実にテッドに迷惑がかかることになっていたであろう。


『ちょうどカジノを運営出来る人材を探していたところです。僕としてはカジノは好かんのですが、観光客が煩くて……』

「まだ、あの一件を引きずっているのかね? あれは不幸な事故としか言いようがないだろうに」


 10年前の悪夢をテッドは未だに忘れてはいなかった。

 一時的な肩代わりとはいえ、軍人の皮を被ったギャンブラー相手に400万ポンドもの損失を被ったのである。


 この一件は、円卓メンバーが嫌がらせを兼ねてやらかした案件であった。

 すったもんだのあげく、理不尽にもテッドが尻拭いすることになったのであるが。


 結果として円卓におけるテッドの発言力は増すことになった。

 しかし、この一件は確実にトラウマとなってしまったのである。


 その後はカジノは閉鎖されていたのであるが、観光が充実したドーセット領でカジノが無いのは片手落ちであった。観光アンケートでもカジノの再開が長らくトップであり、テッドも対応しないわけにはいかなかったのである。


『裏社会の住民ならカジノの運営にも長けているでしょう。僕としては丸投げするつもりでいます』

「カジノなら安定した収益も見込める。もったいなくないかね?」


 テッドとしては、カジノの利益はいらないから面倒事も丸投げするつもりであった。連中がカジノで大損をしようが手助けするつもりは無かったのである。


『まぁ、最低限の監督はしますよ。観光で食べてるのに悪評が広まるのは勘弁願いたいですからね』

「それを聞いて安心した。いくらなんでも連中を野放しにするのは問題だからな」


 テッドの返答を聞いてロイド・ジョージは安堵していた。

 とにもかくにも、厄介な連中の受け入れ問題は解決したのである。


『ハワード・ヒューズに関してはなんとも言えませんね。かなりの偏屈と聞きますし、こちらから条件を出しても従わないのでは?』


 残る問題はハワード・ヒューズの処遇であった。

 亡命に際してロイド・ジョージは本人と直接面談していたのであるが、噂に違わぬ変人だったのである。


「ふむ、ならば直接話してみてはどうかね?」


 変人には変人をぶつけるに限る――そう考えたかどうかは定かではないが、ロイド・ジョージは意図的にテッドとハワード・ヒューズを引き合わせようとしていた。


『そうしましょうか。今度、僕がドーセットに戻ったときにでも』

「了解した。日程はこちらで調整しよう」


 そんなロイド・ジョージの思惑をテッドは知る由も無い。

 しかし、テッドはロイド・ジョージとは違う思惑でハワード・ヒューズとの面談を了承していた。


 未だ開発途上なドーセット領は慢性的な人材不足であった。

 多少性格的に偏屈であろうが、有能であれば逃がす手は無い。


 それに性格が偏屈というならば、ヒトラーという前例もある。

 『人材コレクター』の異名は伊達でなく、テッドはハワード・ヒューズを本気で取り込もうとしていたのである。







「ハワード・ヒューズです」

「テッド・ハーグリーヴスです。ようこそ、ドーセットへ」


 1936年3月某日。

 ハワード・ヒューズとテッド・ハーグリーヴスはドーセット公爵邸(ドーチェスターハウス)で対面を果たしていた。


 変人同士でウマが合ったのか、初対面であったが双方ともに好印象であった。

 その後もしばし歓談を続けた両人であったが、頃合いと見たヒューズは意を決して問いかける。


「……ドーセット公は、エアレースを開催するつもりはありますか?」

「エアレース? いいねぇ。ああいう派手なイベントは客寄せになるし、やれるならやりたいね!」

「ほ、本当ですか!?」


 テッドの返事にヒューズは歓喜していた。

 英国に亡命してから、初めて自分がやりたいことを理解してくれる人間に出会えたのである。


「しかし、エアレースといってもいろいろあるよ? シュナイダーカップみたいに水上機レースや、ナショナルエアレースのように陸上機で競うのもあるし」

「じつは……」


 ヒューズは、自ら開催したエアレースの詳細を告げる。

 それを聞いたテッドは目を丸くして、書斎から1冊の同人誌を持って来た。


「こ、これは!? 間違いない! あの時のコミックだ!」

「僕としては、アメリカの片田舎に自分の同人誌があったのを激しくツッコミたいんだけど……」


 複雑な表情となるテッド。

 目の前の変人に影響を与えたのが自分が描いた〇の豚の同人誌だと知ってしまえば、さもありなんであろう。


「それにしても、航空機銃用のペイント弾のアイデアをモノにするとは思わなかったよ。この技術、うちに買わせてくれないかな?」

「師匠が言うなら喜んで! むしろタダで持って行ってください!」

「し、師匠?」


 変人に師匠呼ばわりされて、思わずのけぞるテッド。

 名将は名将を知るならぬ、変人は変人を知ると言ったところであろうか。


 ヒューズ・ツール・カンパニーで開発されたペイント弾は、後に実弾と弾道を一致させる改良が施された。英軍ではペイント弾とガンカメラを併用することで効果的な訓練が行えるようになったのである。


 ちなみに、機体を整備する人間にはペイント弾はウケが悪かった。

 機体に付着したペイントを落とすだけでも面倒なのに、弾道を維持するために弾頭に付属している金属製シェルが機体の外板に(へこ)みを作ってしまうからである。


 ペイント弾を撃つために機関銃にコンバージョンキットを組み込む必要があるのも問題であった。ペイント弾を撃てるようにすると実弾が撃てなくなるのである。


 このようなデメリットがあるため、航空機用ペイント弾が採用されたのは英軍だけであった。その英軍でも後に廃止されてしまい、完全にエアレース専用となってしまうのである。


「師匠、ここに飛行場を作るのですか?」

「そうだけど、師匠呼ばわりは止めてくれないかなぁ……」


 エアレースを開催すると決めたその日のうちに、港町ウェーマスを下見することになった。テッドの信条は即断即決即実行なのである。


「ところで、どれくらいの規模の飛行場にするのですか?」

「現状なら500mもあれば十分なのだけど、小さい飛行場を作って後で拡張するくらいなら最初からでっかいのを作ったほうが後々楽なんだよね」


 テッドのズボラ――もとい、先見の明によって2000m級の滑走路を2本持つ本格的な空港として完成することになる。当時の飛行機の性能を考慮すると過剰なまでの広さであったが、後のジェット化にも対応出来たので結果的には大正解であった。


 ちなみに、この空港は後にハワード・ヒューズ空港と名付けられてドーセットの中核空港となった。地方空港でありながら、国際便発着枠をもつ英国有数の空港として発展していくことになるのである。


「今日からエアレースの開催だ。書き入れ時だぞ!」

「いつもより大量に仕入れたが、これでも足りるか不安になるな」

「なんにせよ、景気の良い話だよな」


 エアレースはウェーマスの住民には大好評であった。

 押しかける観光客相手に利益が出せるし、見世物としても素晴らしかったからである。


『年に数回? 馬鹿言っちゃいけねぇよ。どうせなら毎週やってくれ。あれだけ稼げる機会なんてそうそう無いんだぞ』

『エアレースは村おこしに最適だ。是非ともお願いしたい!』


 ヒューズは年に数回程度エアレースを開催出来れば良いと考えていた。

 しかし、ウェーマスの住民からの要望で月に数回、場合によっては毎週エアレースを開催することを強要された。おかげで、機材やパイロットの手配で駆けずり回るハメになったのである。


『機体は古いが、空戦の基本は変わっちゃいない。訓練にはうってつけだな!』

『実際に敵機を撃てるってのは良いな!』


 エアレースはパイロットにも好評であった。

 実戦と変わらないドッグファイトが可能なので、腕自慢のパイロットがこぞって参加したのである。


『はーはっはっは! これだよっ! この感じだよ! 現役を引退しても忘れられんわ!』

『くっそー!? 引退したロートルのくせに!? 落ちろやぁっ!』


 意外なことであるが、現役の空軍パイロットが退役したパイロットに不覚を取ることが多かった。旧式な機体に不慣れなところを、上手く突かれる形となっていたのである。


 この世界のハワード・ヒューズは、ドーセット領に定住してエアレースに心血を注くことになった。さらには、航空会社の経営にも辣腕を発揮して莫大な利益をあげることになるのである。






以下、今回登場させた兵器のスペックです。


シコルスキー S-42


全長:20.73m   

全幅:36.03m    

全高:5.3m     

重量:8984kg 17273kg(全備)   

翼面積:123.5㎡

最大速度:300km/h

実用上昇限度:4788m

航続距離:3088km

武装:非武装

エンジン:プラット・アンド・ホイットニー ホーネット 空冷星型9気筒 660馬力×4

乗員:4名

乗客:37名


ハワード・ヒューズがアメリカ脱出のために用意した大型飛行艇。

史実のヒューズが購入したS-43の兄貴分にあたる機体である。


S-42はS-43よりも大型で高性能であったが、大西洋の無着陸横断は不可能であった。そのため、いったんニューヨークからバミューダ諸島まで飛んで給油、その後アゾレス諸島へ向かう途上で手配していたタンカーに寄って給油、さらにアゾレス諸島で給油してから英国本土へ向かうという力業で亡命を果たしている。



※作者の個人的意見

飛行艇で大西洋横断なんて楽勝でしょうなんて思ってたら、海外の飛行艇って意外と足が短いんですね。というか、日本の飛行艇がおかしいだけか。途中で給油しようにも島々が少なくて、小説書き終わってから気付いて滅茶苦茶焦りました。最終的にはタンカーでの洋上給油なんて力業で解決しましたが。この世界のヒューズ君もお金持ちだから、これくらいは軽くやってのけるはずです。

アメリカの内戦に乗じてヒューズ君をゲットです。

余計なおまけも付いてくることが確定しましたけどw


>カポネ・ピクチャーズ

自援SS『変態アメリカ国内事情―ギャング・マフィアに非ずんば人に非ず編―』参照。

史実でも世界恐慌で倒産しかけたパラマウント・ピクチャーズを、カポネ率いるシカゴ・アウトフィットが買収しています。


現在はFBIの押収品保管庫に山積みにされていた脚本を実写化してぼろ儲けしています。史実だとパラマウント映画で有名ですが、この世界だとカポネ映画って呼ばれるんですかねぇ?


>ヴァイタフォンシステム

映画がサイレントからトーキーへ移行する時代に、アメリカで開発された最初期のサウンドシステムです。構造が簡易でサイレント映画に後付けで音声を追加することが可能だったので、フィルム自体に音を録音できる光学式のサウンドシステム(サウンド・オン・フィルム)が実用化されるまで広く普及していました。


>彼女の鮮やかなガンアクションは敵の親指を撃ち抜き

親指落〇しです。

漫画アニメならともかく、実写でやると結構エグいですね(汗


>カポネは黒人やユダヤ人に対して人種差別をしなかった。

史実でもカポネは白人が密造酒を作ると罰しましたが、黒人が作る密造酒は見逃していました。逆差別ですねw


>ジョン・スミス

本編第23話『ジョン・スミスの幻影に踊らされる者たち』参照。

シドニー・ライリーと組んでアメリカでやりたい放題でしたが、BOIの追跡を避けるためにタイタニック号でアメリカから脱出しています。


トンプソン(トミーガン)

ギャングマフィアのトレードマークな45口径サブマシンガン。

この世界だと需要数多だから、量産効率を上げるために省力化モデルになってるに違いないです。


>「いや、むしろ探し出して欲しい」

金の卵は手元に置いておくに限るのです。

いくら大量の脚本があったとしても、いずれは尽きるでしょうし。


>ピトケアン・アビエーション

イースタン航空の前身です。

年代が微妙だったのでこっちを採用しています。


>ダイナー

アメリカの庶民レストラン。

ファーストフード、コーヒー、ジュークボックスがおいらのイメージですねぇ。


>真っ赤で流麗なラインの水上機

具体的にはサボイアの赤いヤツです。


>航空機用演習弾

有りそうで無いのが航空機用ペイント弾。

おいらはファントム無頼を読んで実在すると信じてましたよ。今はネット検索ですぐバレますけど、当時はそんなものはありませんでしたからねぇ。


>ストーク・クラブ

1929年から1965年のまでの間、マンハッタンにあったナイトクラブです。

フランク・シナトラ、ウィンザー公爵夫妻、アーネスト・ヘミングウェイ、オーソン・ウェルズ、J・ポール・ゲティ、ケーリー・グラント、マリリン・モンロー、その他新聞王のハーストやルーズベルト、ケネディなど訪れた著名人をあげたらキリがないセレブの巣だったりします。


>ルチアーノはウォルドルフ・アストリアの豪華なスイートルームに住んでいた。

チャールズ・ローズという偽名で堂々と住んでいたらしいです。

別室には当時のセレブたちが住んでいたので、彼らともお友達だったとか。


>ヒューズの秘策は、エアレース用の機体部品と消耗品を(高値で)売りつけることだったのである。

本体を安く売って消耗品で儲けるというのは、現在でもプリンタやコピー機で見られる商法です。下手に安いモデル買うとカートリッジ代が高くつくんですよね(´;ω;`)


>平成飛行機工業がライセンス生産したものである。

本編第49話『策謀する円卓と平成会』参照。

テッド君が血反吐を吐く勢いで平成会の頼みを叶えた結果、平成飛行機工業はケストレル製造のライセンスを獲得しています。あと100オクタンガソリンの製造技術もゲットしてたりします。


>この日をもって明確に反旗を翻したのである。

後世の歴史家にはアメリカ内戦が始まった日として認定されています。


>演説はレコード盤を再生しただけ

この時代、ラジオでレコード盤を再生することは普通にやっています。

玉音放送はその最たるものですね。


>シコルスキーS-42

本当はヒューズが史実で事故ったS-43を登場させたかったのですが、航続距離が短すぎて断念しました。


>バミューダ諸島と洋上タンカー給油、さらにはアゾレス諸島を経由

太平洋と違って、大西洋って本当に島が無いんですよね。

あれこれ計算したけど、どうにもならずにタンカーによる洋上給油を採用することに。これじゃ紺〇の艦隊だよ!?


>じつは、同時期に裏社会の住民たちも英国への亡命を希望していた。

自援SS『変態紳士の領内事情―怪僧ラスプーチン編―』参照。

機を見るに敏な連中ですから、敗色濃厚となったら一目散です。ちなみに、ご自慢の私設軍隊は善戦したのですが赤いナポレオンの手腕と精強無比な海兵師団に挟まれて壊滅することになります。


>規格外のビッグマグナムで洗いざらい吐かされたのである。

本人のブツはホルマリン漬けされてるのですが、大きさは30センチを超えてるらしいです(白目


>2000m級の滑走路を2本持つ本格的な空港として完成することになる。

ジェットを運用するなら、やはりこれくらいは欲しいです。

ところで、うちの実家の屋久島空港の滑走路はいつ2000mまで拡張されるんですかね?(真剣


>航空会社の経営にも辣腕を発揮して莫大な利益をあげることになるのである。

史実のヒューズは航空機の操縦や製造だけでなく、航空会社の経営にも進出しています。トランス・ワールド航空をアメリカを代表する航空会社に育て上げるなど、間違いなく有能と言えるでしょう。コンベア880?知りませんなぁ(すっとぼけ

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[良い点] ヒトラーに続いてでんせつポケモンがまた一人w ほら、個人用ロケットエンジン作ってロケッティア誕生させてよ、やくめでしょ。 そしてアメリカ内戦キター! 第二次シビルウォー! 僕らはこれを待…
[良い点] ハワード・ヒューズの亡命。 [気になる点] エアレース自体が英国で大いに発展するよ。 映画業界も音声映画が主流になるから、今回は裏社会の住人に先見性があったと判断する。 [一言] アメリ…
[良い点] ハワード・ヒューズに師匠と呼ばれるテッド君 [一言] ハワード・ヒューズがドーセットに亡命とか。 平成会との繋がりもできそうだし、何が生まれるか楽しみ。日本にハマったら面白いな。
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