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変態朝鮮国内事情―K国版最終的解決編―


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」」」


 雄たけびとも悲鳴とも判別し難い声が周囲に響き渡る。

 建物さえ震えているように見える様子は、音源が圧倒的大多数によるものであることを示していた。


『東大門周辺に終結した暴徒どもはストリートを西に進み始めました。もの凄い数です。最低でも数百……いや、1000人は超えています!』


 報告するパイロットの声は悲鳴に近かった。

 漢城(ソウル)上空で偵察任務に就いているFB-1A改(ジャイロダイン)は暴徒たちの動きを克明に捉えていたのである。


 1931年6月上旬。

 漢城の治安は加速度的に悪化していた。


 相次ぐ火山性地震と、それに伴う白頭山噴火によって朝鮮半島の住民は狂乱状態であった。『日帝呪いの鉄杭』を半ば以上真面目に信じていたK国人のご先祖であるからにして、本気でこの世の終わりと信じてしまったのである。


 狂乱した住民たちは暴徒と化し、放火と略奪を繰り返した。

 直ちにウォッチガード・セキュリティが治安出動したのであるが、大量の暴徒が相手では時間稼ぎが精一杯であった。


『リメイク前のバ〇オ3かな?』


 後に撮影された映像を見たテッド・ハーグリーヴスは、こう呟いたという。

 日々の圧政で困窮する住民たちは痩せこけ、襤褸(ぼろ)を着た者が大半であった。そんな住民が大挙して向かってくる様子は某ゾンビゲーのオープニングに見えたのである。


 この状況に際し、現地の最高指揮官である本部長は漢城に駐屯する部隊に撤退命令を発していた。しかし、取り残された両班が大勢いることが判明すると一転して救出作戦が展開されることになったのである。


 朝鮮半島における特権階級が両班である。

 端的に表現するならば、世界で最も強力で最も傲慢な貴族であろう。


『朝鮮の災いのもとのひとつに、この両班つまり貴族という特権階級の存在がある』

『両班は自分では何も持たない。自分のキセルですらである』

『伝統上、両班に求められるのは究極の無能さ加減である』


 19世紀に朝鮮半島を旅行した女流探検家イザベラ・ルーシー・バードも、『朝鮮紀行』で両班を災い呼ばわりしている。両班の存在が朝鮮半島の発展に悪影響を与え続けていたのは疑いようのない事実である。


 そんな両班であるが、朝鮮半島の統治には必要不可欠な存在と言える。

 特級呪物と言っても過言では無いが、馬鹿と鋏は何とやらなのである。


 ちなみに、植民地の統治方法には直接統治と間接統治がある。

 具体例を挙げれば前者が史実日本の朝鮮併合、後者が大英帝国の植民地支配となる。


 直接統治は現地の伝統支配層の権限を極力小さくし、宗主国から任命された官僚が統治する。本国の意思を反映させやすいメリットがあるが、現地民の反感を買いやすいデメリットもある。史実日本が21世紀になってもK国民に(たた)られている原因である。


 間接統治は植民地化以前の支配者や統治機構を残存させて実際の統治を行わせ、宗主国はその監督のみを行う。広大な植民地を最小の予算と人員で統治することが可能であるが、統治機構が事前に存在していることが前提となる。史実の大英帝国が得意とした手法であり、政策の不満を旧支配者に受けてもらうので恨みを買いにくいというメリットもある。


 この世界の大韓帝国も間接統治であるが、ウォッチガードセキュリティが監督している点で異なる。対外的には大韓帝国と名乗ってはいるが、実質的にはテッドの私有地も同然であった。


 両班は間接統治において、下々の恨みの恨みを受け止める盾であった。

 今後も最低限の投資で最大限の利益を貪るためにも、両班の存在は無視出来ないのである。


『目標上空に到達した。降下を開始しろ!』


 両班の屋敷の上空に達したシエルバ W.11U エアホースから、隊員たちがラペリング降下していく。


「MOVE! MOVE!」

「GOGOGO!」


 屋敷内で火事場泥棒する暴徒を排除しながら屋敷の奥に進む隊員たちであったが……。


「ちっ、間に合わなかったか」


 隊員たちの目の前に転がっていたのは、両班の死体であった。

 手ひどいリンチを受けたのか、ミンチよりも酷い状態と化していたのである。


「ここもダメってことは、他も無理なんじゃないっすかねぇ?」

「かと言って、放っておくわけにもいかんだろ。次行くぞ次!」


 無駄足だったとばかりに踵を返す隊員たち。

 無駄口を叩く暇すら惜しかったのである。


「係長……あれ……」

「この状況で外に出たのか。それこそ飢えたピラニアの中に飛び込むようなものだぞ」


 別の屋敷では正門近くで両班が身ぐるみを剝がされていた。

 恐怖に耐え切れずに逃げたところを見つかってリンチされたのであろう。


「息はあるか?」

「ダメですね。死んでます」

「下手に生きていると回収がめんどくさいからな。次の場所へ急ぐぞ!」


 救出部隊が作戦を急ぐ理由は、友軍が時間稼ぎをしているからであった。

 わずか100人足らずの隊員たちが、桁違いの暴徒相手に必死の作戦を展開していたのである。


「課長っ! バリゲードが突破されそうです!」

「ちっ、所詮は即席か。止むを得ん爆破しろ!」

「イエッサー!」


 バリゲードが爆破されて多数の暴徒が薙ぎ倒されたが、その動きは止まらない。直前で被害を免れた者は逃げ出そうとするが、その後ろからやってくる大多数に押される形となったのである。


「下手に急所を狙わんでいい! 奴らの土手腹(どてっぱら)に確実に当てろ!」

「「「イエッサー!」」」


 隊員たちは手にしたバトルライフル(Rifle No.4 Mk3)を発砲する。

 この状況で落ち着いて撃てるのは歴戦の勇士と言うべきなのか、それとも頭のネジが外れているのか。あるいは両方であろう。


「う、撃たれたニダーっ!?」

「アイゴー!?」


 至近距離で放たれた303ブリティッシュ弾は、人体を容易く貫通して背後の暴徒たちにも襲い掛かる。銃声が聞こえたのか、混乱は後方にも波及していったのである。


「どうにか凌いだな……」


 課長――現場指揮官が、安どのため息をつく。

 まるで潮が引いていくように暴徒たちは逃げ散っていったのである。


『最後の部隊の回収が完了しました。死傷者は出ましたが最低限です』

『よくやってくれた。店を開けておくから、戻ったら存分にやってくれ』

『イエッサー! 全速で安全運転で帰ります!』


 肝心の救出作戦は両班の死体を確認しただけに終わった。

 作戦を完遂したウォッチガード・セキュリティは、ただちに漢城から撤退したのである。







「……と、いうわけで早急になんとかしていただきたい!」


 テッドに詰め寄る馮涵清(ふうかんせい)

 史実では満州国で司法畑を歩んだ馮涵清であったが、この世界では駐日満州国大使として日本に滞在していた。


 本国の、特に皇帝溥儀(ふぎ)の窮状を知らされた馮涵清は英国大使館に押しかけた。

 怒り心頭で大韓帝国の非道を追求されて、さしものテッドもタジタジになったのである。


「そうは言われましても……大韓帝国は歴とした独立国です。その元首がやらかしたことに責任を取れというのは無理筋ですよ?」

「そんな建前我が国では誰も信じていませんぞ!? あの痴れ者が3年前に全てゲロりましたからなっ!」


 大韓帝国を実質的に支配しているのがウォッチガードセキュリティであることは、満州国の関係者たちの中では公然の秘密であった。3年前の原爆実験による地震でビビって逃げ出した際に、高宗(コジョン)閔妃(ミンピ)が溥儀に洗いざらい話してしまったことが原因である。


 そして、ウォッチガードセキュリティのボスはテッドなのである。

 馮涵清の怒りは当然のことであった。


「陛下はご心労で倒れてしまったのですぞ!? うぅ、おいたわしや……」

「そ、それは誠にご愁傷様で……」

「誰のせいだと思ってるんですかっ!?」

「ひぇっ!?」


 怒りにまかせて馮涵清はデスクをぶっ叩く。

 テッドは終始圧倒されまくりであった。


『やはり徳の無い英国では朝鮮の地を治めることは出来ません。大清の末裔であらせられる溥儀さまこそが相応しい。かの地を献上致しますので、我らの保護を願いたく……』


 高宗と閔妃の連名による親書を読んだ溥儀は、あまりの内容に卒倒した。

 その後も体調不良で公務を休む日々が続いているのである。


(さすがに罪悪感が湧くなぁ。なんとかしないと……)


 直接の原因は高宗と閔妃(馬鹿二人)の暴走であるが、その遠因はテッドが主導した核実験に他ならない。さすがにヤバいと自覚はしていたのである。


「……確かにこのままではよろしくない。そこで提案なのですが、皇帝陛下に来日していただけないでしょうか?」

「ふむ、表向きは静養も兼ねた周辺外交の一環ということにすれば可能でしょうが……」


 唐突なテッドの提案に戸惑う馮涵清。

 しかし、悪い話ではないと直感していた。


「皇帝陛下がお戻りになるまでには片を付けます」

「よろしいでしょう。何かお力添え出来ますか?」

「国境付近が騒がしくなるでしょうが、黙認していただきたい」

「分かりました。張学良(ちょうがくりょう)国家主席に話を通しておきます」


 双方が前向きになったおかげで、とんとん拍子に話が進んでいく。

 二人が握手をしたのはそれから1時間後のことであった。


『やぁ、マイフレンド。君の方から連絡をくれるのはめずらしいね?』


 馮涵清が辞した後、すぐにテッドは国際電話をかける。

 電話先は多種兵器研究開発部(DMWD)部長のジェフリー・パイクであった。


「久しぶりと言いたいところだけど、事は急を要するんだ。以前作ったプレハブの試作品まだ残ってるよね?」

『あぁ、あれかい? 限られたスペースで最大効率を追求したヤツ』

「そうそれ。大至急持って来て欲しいんだ。1か月以内に」

『また無茶を言ってくれるなぁ……』


 受話器から呆れたような声が聞こえてくる。

 実際にパイクは呆れていたのであるが。


『……でもまぁ、君の名前をだせば何とかなると思うよ?』

「じゃあ、それで。必要なモノは財団のヒトラーに頼めば問題ないから」

『オーケー。1ヵ月以内にスタッフ込みで届けるよ』

「頼むよ。これが届かないと計画が進められないからね」


 事の緊急性を理解したパイクは手段を選ばなかった。

 たまたま英国本国に停泊していた豪華客船『エンプレス・オブ・イースト』を札束ビンタでクルー丸ごとチャーターし、突貫作業で荷物を積載して3日後には出航させたのである。


『うちは特殊部隊ではありませんよ? 生死を問わない(デッドオアアライブ)ならばやれなくも無いでしょうが……』


 箱に目途が付いたら次は中身である。

 電話先の本部長は、テッドの無茶ぶりに困惑することしきりであった。


「我ながら無茶を言っている自覚はあるよ。でも君らなら出来ると信じている」


 300人もの人間を非殺傷(ノンリーサル)で確保しろというのは、通常の軍隊どころか特殊部隊でも不可能であろう。しかし、テッドはウォッチガード・セキュリティなら作戦を遂行出来ると確信していたのである。


『普通に列車を乗っ取って帰還するのではダメなのですか?』


 本部長の疑問はもっともなことであった。

 わざわざ拉致らなくても列車ごと奪還すれば良いだけのはずである。はた迷惑な乗客たちは動く列車から飛び降りる根性など持ち合わせていないのであるから。


「奴らは半島には戻さない。鬱陵島(ウルルンとう)に隔離施設を建設するから、そっちに直接移送する」


 鬱陵島は朝鮮半島から東に140kmの沖合いに位置する島である。

 テッドは、ほとぼりが冷めるまで高宗と閔妃(とその一族)を軟禁するつもりであった。


「列車の間取りは把握してるでしょ? 作戦は立て放題じゃないか」

『それはまぁ、そうですが……』

「なにも無傷でとまでは言わないよ。二人はともかく、それ以外は縛り上げていい」


 満州国境に居座る千里馬(チョンリマ)号は、かつて遁走する朝鮮人エスケーピング・コリアン号としてウォッチガードセキュリティが慰安旅行で使い倒した過去がある。なんだかんだで2ヵ月以上乗車していたのであるから、列車の隅から隅まで知り尽くしていたのである。


『そういうことであればなんとかなるでしょう。しかし、300名はちと骨ですな』


 暗に報酬アップを要求する本部長。

 困難な仕事には、それ相応の報酬を要求するのは当然のことである。


「この作戦が成功すれば、後の仕事は増援部隊に任せられる。この意味は分かるよね?」


 ホワイト上司であるテッドは、もちろんそれに応えるつもりであった。

 ウォッチガードセキュリティの連中が何を欲しているのかは、嫌というほど知っている。莫大な出費になるが、もはや今更である。毒を食らわばなんとやらであろう。


『お任せください。万難を排して作戦を成功させてみせます!』


 慰安旅行を餌にされて俄然張り切る本部長。

 満州国境付近に居座る特別列車が襲撃されたのは、溥儀が来日して両国の友好ムードが最高潮に達したとある日のことであった。







(分かってはいたけど、問題点が山積み過ぎる……)


 テッドは報告書を読んで頭を抱えていた。

 理解していたつもりであったが、実態はそれ以上であった。


 報告書はウォッチガード・セキュリティが作成したものであった。

 大韓帝国の現状と問題点が詳細に記されていたのである。


 報告書の内容は3項目で構成されていた。

 その内容は以下の通りであった。


・異常な出生率

・識字率の低さによる意思疎通の困難さ。それに伴う政策の不徹底

・統治機構崩壊による治安悪化


(というか、出生率が7を超えてるとかおかしいだろ!? セックスしかやることないのか!?)


 統計数が少ないためデータの正確性に疑問が残るものの、漢城における合計特殊出生率は7.25であった。これは史実21世紀の出生率1位のニジェール(6.82:2021年)すら超える数字である。


 農場と牧場が集中する半島南部の一部地域に至っては、出生率が8を超えていた。喰うに困らないだけの食料があり、娯楽が無いとなれば人間ヤることは一つしか無いのである。


(現状は明らかに人口爆発状態。これを放置すれば……)


 原住民(ネイティブ)が半島からあふれ出て悪さをする未来がテッドの脳裏によぎる。

 そして、その尻ぬぐいをすることになるのは間違いなく自分だろうと確信出来たのである。


(いっそ、コンドームを大量配布するか? 焼け石に水だろうけど、やらないよりはマシだろうし)


 テッドの考えは後に実行されることになる。

 日本の某コンドームメーカーに大量発注されたコンドームは『アサルト1』の名称で半島内に大量にばら撒かれたのであるが、焼け石に水どころか費用を無駄にしただけであった。


(識字率10%未満とか、半島は未開の地を通り越してファンタジー世界なのかな?)


 識字率に関する報告の冒頭を見ただけでため息をつくテッド。

 漢城のみでの調査であるが、その識字率は8%程度しか無かったのである。


(半島で教育に一切金をかけなかった結果がこれか。史実の日本はある意味偉大だったんだなぁ)


 この数字は朝鮮王とその一族、両班を除けば全員文盲と言っても過言では無い。

 未開の地に莫大な予算と人員を投下して、曲がりなりにも近代国家の礎を作り上げた史実の大日本帝国の偉業にテッドは驚愕しきりであった。


(最低限の読み書きくらいは出来たほうがうちで働いてもらうには都合が良い。かといって、本格的な教育制度を構築するのは無駄が多すぎる)


 近代的な教育制度が起ち上る前にもかかわらず、寺子屋教育で史実の日本は驚異的な識字率であった。しかし、半島には寺子屋は存在しない。識字率の改善にはまず学校を作る必要があったのである。


(うちで雇う分だけ教育を施すか。馬鹿正直に半島全土に学校なんて作ったら、それこそ史実の二の舞になるし)


 この問題に際し、テッドは極東朝鮮会社(FEKC)からの出資で学校を作ることにした。

 学校の卒業生はFEKCが運営する農場や牧場、鉱山などに送り込まれることになるのである。


 学生たちへの教育は全て英語で行われることになった。

 職場の上司は全て英国人なのであるから当然の措置であろう。さらに言うならば、わざわざハングルを発掘する理由も無い。お優しい大日本帝国とは違うのである。


 教育レベルそのものは史実の小学校高学年レベルで抑えられる予定であった。

 生前はK国ウォッチャーだったテッドは、K国民に余計な知恵を与えたらロクなことにならないことを知悉していたのである。


(両班がいなくなればマシになるかと思ったのに、逆に悪化するってどういうことなの?)


 最後の治安悪化の報告に至っては、もはや乾いた笑いしか出なかった。

 史実のヨハネスブルクよりも酷い状況であり、テッドはあきらめの境地に達していたのである。


(せめて漢城だけでも治安を回復したいけど治安維持に金を使いたくない。しかし、このままだとあいつらを漢城に戻せない。どうしたものか……)


 テッドの本音としては、資源と食料さえ得られれば治安なんぞどうでも良かった。馬鹿正直に治安回復を目指そうものなら、利益を食い潰すことが分かり切っていたからである。


(って、あれ? なんで奴らを帰す必要があるんだ?)


 思考のループに陥りかけていたテッドであったが、ここでふと我に返る。

 高宗と閔妃、さらにはその一族を漢城へ帰すのは当人たちの強い要望というのもあったが、何よりも国としての体裁を最低限整えるためであった。


(あいつらが自主的に帰りたくない環境を整えれば問題無いな。そうすれば漢城は放置しても問題無くなるし)


 まさにコロンブスの卵の如き発想の転換と言える。

 大韓帝国皇帝が帰りたくないと言うならば、ウォッチガードセキュリティとしては従うしかないのである。


 テッドは日本の特撮第一人者である円谷英二(つぶらや えいじ)に映画製作を依頼した。

 予算と人員が惜しみなく投入され、この世界の若き円谷はその才能を思う存分に発揮したのである。


『いつまでこんな島に閉じ込めておく気よ!?』

『そうだそうだ! 儂は大韓帝国皇帝なのだぞ!?』


 鬱陵島に軟禁されて3ヵ月。

 ついに閔妃と高宗がブチ切れたのであるが……。


『今すぐ戻りたいとのことですが、この状況の漢城にお帰りになりますか? どうしてもというならば船をご用意しますが?』

『『……』』


 円谷渾身の作品は、特撮でありながらリアルと見まがうほどの(偽)ドキュメンタリー映画として完成していた。市内で暴虐の限りを尽くす暴徒たち、リンチされて原型をとどめない両班の死体、東京大空襲の如く廃墟となった漢城その他諸々エトセトラ。


 実際よりもちょっぴり、いや、かなり脚色された映像を見せられた高宗と閔妃は震えあがり、漢城へ帰る気を無くしてしまった。二人に付き従ってきた一族の者たちも以下同文である。


『もうそろそろ戻ってよいんじゃないの!?』

『あれからもう3年は経ったのだぞ。漢城も復興したのではないか?』


 それでも、時折思い出したように二人は漢城への帰還したいと喚き散らした。

 その都度、高貴な服を着せた人形を民衆がボコボコにしたり、高宗らしき人形の首を切断するデモの映像を見せて黙らせたのである。


 ちなみに、映像は完全なフェイクであった。

 帝都の撮影所で作ったシロモノであるが、一目で見破ることは不可能なクォリティだったのである。


 大量の(偽)ドキュメンタリーを見せることで、さしもの高慢ちきな連中も大人しくなっていった。荒れ果てた漢城へ無理に帰還するよりも、衣食住が保証された鬱陵島に居たほうがマシと思うようになったのである。それこそがテッドの狙いであった。


 大韓帝国最後の支配階級は鬱陵島で余生を全うすることになる。

 300人もの穀潰し(ごくつぶし)を養うのに必要な出費は膨大なものとなるが、半島に帰還して好き勝手やられるよりはマシだとテッドは自ら言い聞かせていたのである。







「……最近、集まりが悪いな。皆忙しいのか?」

「そんなはずは無いぞ。ここに匿ってもらってからは無茶な〆切とか無いし」


 英国ハイランド地方サザランド。

 郡都ドーリックの一軒家では、元過激派モブたちが深刻な表情で顔を突き合わせていた。


「なぁ、やっぱりドーセット公に詫びを入れたほうが良いんじゃないか?」

「そうしたいのは山々だが、今の状態で謝ると火に油になりそうなんだよな」

「仲直りするなら、恩を売る形にしたほうが無難だろう。今の状況で馬鹿正直に頭を下げて許してくれると思えない」

「勢いで(あね)さんについていったのは失敗だったかなぁ」


 モブたちがこんな場所に居るのは、同人誌絡みでトラブルになったところをサザーランド公爵家四女ローズマリーに救われたからである。結局は自業自得なのであるが。


「皆、無事だったか!?」


 突如扉が開け放たれて、モブが転がり込んでくる。

 息が絶え絶えなのは必死になって走ってきたからだろうか。


「おいおい、どうしたんだよ? そんなに慌てて」

「それどころじゃない! 見たんだよ!?」

「見たって何を?」

「ドーセット公のメイドを見たんだよっ!」


 メイドと聞いてモブたちの顔が一斉に青ざめる。

 ドーセット公爵家のメイドは、ただのメイドではない。その見た目とは裏腹に素手で大の大人を瞬殺出来る武闘派メイドなのである。


「いやいやいや。メイドなんてこの時代に珍しくないだろ?」

「そうだぞ。なんでドーセット公のメイドって分かるんだよ?」

「こんな北の果てまで追手を差し伸べるほどドーセット公も暇じゃないはずだぞ」


 モブたちが希望的観測を述べるのは現実を受け入れがたいからであろう。

 内心では事実だと理解はしているが、それを口にするのは恐ろしかったのである。


「俺は嘘は言ってない! 実際にメイドが同志を拉致るところを見たんだっ!」


 転がり込んで来たモブはさらなる衝撃発言をぶちかます。

 現実逃避中の大半のモブは聞き流してしまったが、一人のモブが耳聡く聞きとめていた。


「……おい、おまえ目の前でそれを見たのか?」

「あぁ。だから必死になって逃げて来たんだ!」


 転がり込んで来たモブは、『何言ってんだ?』といった表情となる。

 しかし、それも一瞬のことであった。


「……あの超人メイドたちから、ピザデブのおまえが逃げ切れるとは普通に思えんのだが?」


 冷静なツッコミにピザデブは凍り付く。

 今更ながらに泳がされたことに気付いたのである。


「ヤバいぞ。今すぐダンロビン城に避難するべきだ!」

「姉さんはロンドンのコミケに行ってるはず。今行っても門前払いですよ!?」

「じゃあ、どうすれば良いんだよ!?」


 差し迫った危機に取り乱すモブたち。

 見苦しいことこの上ないが、喚く以外に出来ることが無いのも事実なのである。


「ホールドアップ!」


 そして現実は非情であった。

 モブたちは、突入してきたメイド部隊に一網打尽にされたのである。


「……あの、どこに連れて行くつもりなのでしょうか?」

「ドーセット公と直接話させてください! これは誤解なんですっ!」

「俺たち反省しています! だから……!」


 モブたちはメイドたちに必死に弁解する。

 目隠しされたまま両手にお縄で連行される様子は、まごうこと無き罪人であった。


「黙って歩きなさい痛い目に遭いたくなければ。ご領主さまからは両手と顔以外は武力行使の許可が降りてますので」

「「「ひぃぃぃぃっ!?」」」


 対するメイドたちは塩対応であった。

 養豚場のブタを見るかのような冷たい目を見ることが出来なかったのは幸運だったと言える。そっちの趣味を持つ人間からすれば残念なことだったかもしれないが。


「無事だったのか!?」

「あぁ。拉致られたときはどうなるかと思ったぞ」

「その分だと、お前らも拉致られたっぽいな」


 思わぬ場所での再開に喜ぶモブたち。

 潜伏していた元過激派たちは全て捕らえられていたのである。


「しかし、俺たちをこんな部屋に閉じ込めてどうするつもりなんだ?」


 モブの呟きに反応したかのように、突然部屋が暗くなる。

 一瞬悲鳴があがったものの、それはすぐどよめきに変わる。スクリーンに見覚えのある顔が映し出されたからである。


『やぁ、諸君。久しぶり』

『君たちには仕事を頼みたい』

『見事やり遂げてくれれば、前回の件はチャラにしてあげよう』


 モブたちの選択肢は『はい』と『YES』しか存在しなかった。

 彼らに拒否権など最初から存在していなかったのである。


『それじゃあ、現地に到着するまで船旅を楽しむと良いよ』


 テッドのメッセージを最後にスクリーンは沈黙する。

 そして聞こえてくる汽笛の音。


 モブたちが部屋の外に出れた頃には、陸地ははるか彼方であった。

 強制的に5週間ほど船旅を楽しむことになったのである。







「文盲でも簡単に理解出来る教材を作れって無茶過ぎるだろ!?」

「しかも語学だけでなく、最低限の常識と職業マニュアルまでとかドーセット公は鬼や! 鬼すぎるっ!」

「でも、これが終わらないと帰れないんだよな……」


 英国人居留地の建物の一室。

 元過激派モブたちは、目の前に積まれたテキストを見て頭を抱えていた。


 テッドの依頼は効率的な教材作りであった。

 既に朝鮮学校(コリアンスクール)で学校教育が始まっていたものの、学生の大半が文盲なために教育に苦労していたのである。


 なお、コリアンスクールの学科は以下の通りであった。


1年目で最低限の語学と一般常識

2年目で職業別知識


 現状は1年目で大半の学生が落第という有様であった。

 この現状にテキスト中心の教科書から脱却する必要があると考えたテッドは、元過激派モブたちを頼ることにしたのである。


「……文盲にいきなり文字主体の教科書を見せたって、そりゃダメだろう」

「イラストを増やすというか、イラスト主体にする必要があるな……って、あれ? それってもはや同人誌なのでは?」

「つまりは、同人誌描き放題ってことだな!」

「だが、その前にアルファベットを理解してもらう必要があるぞ」


 テキストを斜め読みしながら、今後の仕事について議論するモブたち。

 様々な意見が出たものの、結論はアルファベットを理解してもらうということであった。


「音楽だ! こういうのは音楽に限る!」

「そういえばアルファベットの歌なんてあったな」

「前世の奴らって、サッカーとかでドドンガドンってやってたろ? あれをベースに出来ないか?」

「音楽に合わせた振り付けも付けよう。その方が覚えやすいだろうし」


 アルファベット教育でモブたちが目を付けたのは音楽と踊りであった。

 史実のK国民が赤い悪魔(笑)を応援するときに多用していたコールを流用して太鼓メインのアルファベットの歌と踊りを完成させたのである。


「凄い!? アルファベットをあっさりと理解してしまったぞ!?」

「今までの私たちの苦労は何だったんだ……」

「歌と踊りにこれほどの効果があったとは。これは是非本国でも取り入れねば!」


 朝鮮版アルファベットの歌は教育現場で大歓迎された。

 過激派モブたちが描いたアルファベットの同人誌――もとい、教科書と併用することで識字率は劇的に改善したのである。


「掃除用のバケツとスープのバケツを区別しているだと!?」

「きちんとトイレを使っているぞ!?」

「ちゃんと意思疎通が出来る……わたしは夢を見ているのか?」


 アルファベットを理解出来るようになったらしめたものである。

 英語教育と並行して、一般常識を描いた同人誌を読ませたことで学生たちは急速に常識を学んでいった。


 過激派モブが作った教科書の唯一の難点が教材の雑多さであった。

 ストーリー仕立てにしているため、教科書1冊あたりの内容が薄い。結果として教材が増えてしまうのである。


「彼らの作った教材は素晴らしい。ただ1点の問題を除いてだが……」

「1冊あたりの内容が薄くて、結果的に教材が増えてしまうのがなぁ」

「だが、奴らに分厚い文字主体の教科書を渡しても投げ出してしまうだけだ。この場合は正しいやり方だと思うぞ」


 それでも現場の教師たちには歓迎されていた。

 教材が多いものの、系統立てて整理されているので順番に使用すれば問題無い。同人誌形式なので読ませるだけで理解してくれるのである。


「いやー、嘘みたいに学校が静かになったなぁ」

「俺らが来たときとは雲泥の差だな」

「時折ファビョるけど、逆に安心するというかなんというか」


 3ヵ月もすると学生たちの態度が目に見えて改善していた。

 曲りなりにも学校として機能するようになっていたのである。


「1年目の教育は目途がたった。次は2年目だな」

「しかし、これだけだと資料が足りないな」

「うむ。リアリティを追求するには取材が必要だろう」


 語学と常識の教育に目途が付けたと判断した過激派モブたちは、職業別の教科書作りに着手することにした。職業別の教科書を作るにあたって必要なことは現場を知ることである。そう考えたモブたちは、ダメ元で校長に取材の許可を申し出たのであるが……。


「職場を取材をさせて欲しい?」

「はい。職場の教科書作りをするには、作り手が現場を理解する必要があるのです」

「そういうことであれば何でも言ってくれ。君たちは既に十分な実績をあげているし、こちらからも是非ともお願いする」


 いともあっさりと取材の許可が降りた。

 しかも、最大限の便宜を図ると確約までされた。とんとん拍子過ぎて、モブたちが逆に困惑してしまうほどだったのである。


「……取材そのものは順調だった。いや、順調過ぎたな」

「現場の人もめっちゃフレンドリーで詳しく教えてくれたし、写真もいっぱい撮れた」

「取材しか出来なかったがな」


 モブたちの取材は成功裏に終わったが、取材にかこつけて遊ぶことには失敗した。そもそも、英国人居留地を除けば基本的に中世から進歩していない半島に遊ぶ場所などあるはずが無いのである。


「あの文字だけのマニュアルがこうも分かりやすくなるとは、彼らは天才だな……!」

「というか、このイラストのモデルって俺じゃね? 美化され過ぎて恥ずかしいんだが」

「ここまでお膳立てしてもらったのだ。我らが失敗することは許されんぞ!」


 職業別の教科書も現場では抵抗なく受け入れられた。

 学生たちにも特段問題が生じることもなく、翌年から卒業して即就職していったのである。


「くぅぅ、これで半島とはオサラバダー!」

「やっと、やっと文明のある場所に帰れるぅっ!」

「1年かぁ。長いようで短かったな……!」


 朝鮮半島南部の釜山港。

 その桟橋では、モブたちが解放された喜びにむせび泣きしていた。


「帰りはクルーズ船とか太っ腹だなドーセット公は」

「行きとは大違いだなぁ」

「あの時は犯罪者扱いだったから、やむを得ないのでは?」

「止めろ。思い出してしまうだろ……」


 一等客用のプロムナードデッキから離れていく岸壁を眺めるモブたち。

 1年足らずではあったが、その濃密過ぎる体験は骨身に刻まれたのである。


 モブたちは、今回の件で(みそぎ)は済んだと思っていた。

 しかし、テッドの怒りは収まっていなかった。以後も面倒事を押し付けられることになるのである。







「それで今回はどういったご用件なのでしょうか?」


 1934年1月某日。

 ドーセット公爵邸(ドーチェスターハウス)の執務室には、元過激派モブたちが集められていた。


「君たちのおかげでコリアンスクールの運営は順調だよ。その手腕を見込んでまた依頼をしたい」


 依頼と聞いてモブたちは嫌な予感を禁じ得ない。

 しかし、反論しても良い事は無いので黙って話を促す。


「現在の朝鮮半島は人口爆発状態が続いている。これを放置するとロクでも無い未来が待っているだろう」


 朝鮮半島の合計特殊出生率はさらに上昇しており、1933年における大韓帝国の出生率は半島北部で8.5、半島南部に至っては9.7という史上空前の多産ぶりであった。


「半島がネズミ算でヤバいというのは理解しましたが、こういう場合は一人っ子政策とかで出生率を抑制するべきではないのですか?」


 モブの疑問はもっともなことである。

 史実では出生率を抑制するための政策もあった。中国の一人っ子政策はその最たるものであろう。


「今の大韓帝国は中央政府が鬱陵島に避難している状態で政策を出せないんだよ。せめて、漢城の両班たちが生き残っていたらなんとかなったんだろうけど……」


 ため息をつくテッド。

 鬱陵島に支配者層を隔離して好き放題出来ると思ったら、まさかこんなことになるとは思ってもいなかったのである。


「個別に避妊を徹底するというのは? コンドームとピルを併用すれば効果があるはずですが」

「この時代にピルは無いよ。コンドームはあるけどね」


 確かにコンドームとピルを併用すれば高い避妊効果を期待出来る。

 少なくても平成の世では、それが常識であった。


 史実では高容量ピルの実用化が1960年代、安全な低用量ピルに至っては1973年に実用化されている。個人的なコネで大手製薬会社に依頼をしているものの、完成の目途は立っていなかったのである。


 ピルとは違い、コンドームは既に実用化されていた。

 アサルト1の名称で日本の理研護謨工業に発注して大量にばら撒いたのであるが……。


「コンドームを大量にばら撒いて使用法も指導しているけど、全然効果が無いんだよなぁ……」


 テッドは知る由が無かったのであるが、この時代のコンドームはゴワゴワした乾燥タイプであった。平成会チートのおかげで史実よりはマシな品質になっているものの、史実21世紀で主流になっている潤滑駅に浸してあるウエットタイプとは雲泥の差があったのである。


 ゴムの質が悪いせいで途中で萎えることもしばしばであり、装着せずに事に及ぶことが多かった。発注された大量のアサルト1はガッカリウルフのまま終わってしまったのである。


「……ところで、史実の日本人が低出生率でセックスレスだったのは何故だと思う?」


 史実の日本の出生率(1.26:2023年)は世界的に見ても最低レベルであった。その原因がセックスレスによるものであることは言うまでも無いことである。


「エロゲのおかげですよね!」

「過激なエロ同人誌のおかげに決まってるだろ」

「充実した風俗以外に何の理由があるというのだ?」


 テッドの質問に即答するモブたち。

 生前はそっち系の仕事に従事していたためか、思い当たる点があったのであろう。


「そこまで理解しているなら話は早い。ここからが依頼の話だよ。半島で性産業を起ち上げて欲しい」

「「「……はぁ?」」」


 予想外な依頼内容に、モブたちは間の抜けた声をあげる。

 言わんとすることは理解出来るが、現実的に実現出来るとは思えない。


「僕も馬鹿なことだとは思ってるよ。だけど、現実的な選択肢としてこれしか無いんだ」


 しかし、テッドは真剣であった。

 唖然とするモブたちを無視して言葉を紡ぐ。


「やろうと思えば直接的な手段で解決することは出来る。今の僕にはそれだけの権力と武力があるからね」

「でも、生前はあれだけ絶滅してしまえと思っていたけど、実際にそれが出来る立場になってしまうと躊躇してしまうんだ。上に立つ者としては失格だね……」


 この問題に際して、テッドは長らく悩んでいた。

 悩んで、悩みまくった挙句、決断を下すことが出来なかったのである。


(((傍若無人なチートオリ主かと思っていたけど、この人も苦労しているんだなぁ……)))


 そんなテッドの様子を見たモブたちの想いは一つであった。

 この世界は、な〇う系主人公がチート無双出来るほど甘くは無いのである。


「それに、武力を行使すれば間違いなく恨みを買う。リスカブスに延々とつき纏われるのは勘弁したい」

「あー、それは確かに」


 心底納得してしまうモブたち。

 アレに延々と粘着されるのは確かにキツイものがある。


「その……性産業を起こすって言われましたけど、現地の法律とかどうなっているのでしょう?」


 モブの疑問はもっともなことであった。

 史実日本の風俗は風営法で容赦なく摘発されている。風俗を営業することは法律との戦いと同義なのである。


「法律なんて存在しないから、好き勝手やって良いよ。そもそも半島には風俗の概念そのものが無いからね」


 この世界の朝鮮半島は日本に併合されていない。

 史実と違い、法律も中世レベルで止まったままだったのである。


「開店資金も含めて必要なものは全てこちらから出そう。経営が軌道に乗るまでは全面的に援助する。自立出来るようになったらそのまま独立してもらって構わない」


 モブたちを決意させたのは、テッドが提示した契約内容であった。

 リアルだったら投資詐欺と疑ってしまうほどの破格の条件だったのである。


(生前に企画倒れした画期的な風俗を経営してやるぜ!)

(究極のオナホールを作って大儲けだ。ぐへへ……)

(この世界で実用的なコンドームを作る。コンドーム王に俺はなるっ!)

(無修正で同人誌を作り放題ってことか!? 半島でアダルト専門コミケを開催してやるぜ!)


 野望に燃える元過激派モブたちは、争うようにして朝鮮半島へ渡った。

 雨後の筍の如く性産業が勃興したのは、それから数年後のことであった。







(あいつら頑張り過ぎだろ。まさかここまで効果が出るとは……)


 報告書に目を通したテッドは驚愕していた。

 一部地域では二桁に達しようとしていた半島の合計特殊出生率が半減していたのである。


 元過激派モブたちが朝鮮半島に渡って既に10年が経っていた。

 テッドとの契約に基づいて彼らは性産業を起こし、半島で一大勢力となっていたのである。


(というか、送金は止めて欲しいんだよなぁ。上納金のつもりなのかねぇ?)


 事業が軌道に乗るまでの諸経費の弁済は契約に含めていなかった。

 赤字でも続けて欲しいがためであったが、どういうわけか利益の一部を財団に寄付してきたのである。


『条件が破格過ぎて逆に怖い。肥え太らせてから刈り取るつもりなんじゃないか?』

『ドーセット公ならやりかねん。利益の一部を納めてご機嫌を取らねば……!』

『せめて起業にかかった初期費用だけでも弁済しておかないと、後々面倒なことになるぞ!?』


 競合相手がいないため、モブたちの事業は莫大な利益をあげていた。

 思わぬ形で生前の夢をかなえることが出来たのであるが、順風満帆過ぎて逆に不安になってしまったのである。


 元過激派モブたちは欲望には正直であるが、基本的に小市民であった。

 テッドは事あるごとに返済は不要と伝えたのであるが、上納金は継続されたのである。


 右肩下がりの半島の出生率は1950年には1.9となり、ついに大台を割り込んだ。とはいえ、これまでの異常に高い出生率によって半島の人口は既に1億を超えていた。この時点では、本格的な人口減少はまだ先と見積もられていたのである。


『お父さま、いえ、大臣閣下。朝鮮半島の最新の人口動態の報告です』


 1960年4月某日。

 無任所大臣テッド・ハーグリーヴスは、今代の駐日英国大使から国際電話を受けていた。


「もうそんな時期だったか。月日が流れるのは早いねぇ」


 長女――もとい、駐日英国大使からの報告は大韓帝国の人口動態の件であった。

 動態調査はこれで20回目あったが、それまでの間にテッドは党派を超えた無任所大臣となり、成長した娘が英国大使として日本に赴任するなど取り巻く環境は激変していたのである。


『まずは出生率なのですが、平均で0.8になっています。北部では0.6、南部では1.0です』

「20年前と比べて十分の一か。まさに隔世の感があるなぁ」

『総人口は9800万人です。前年比で2%の減少で10年連続の減少ですね』


 この時点で人口は1億人を切っており、しかも人口減少は目に見えて加速していた。半島の平均寿命は男女平均で50歳を少し超える程度であり、出生率の減少が人口減少に直結していたのである。


「順調なようで安心したよ。ところで、今度は何時戻ってくるんだい? そろそろ婿の顔も見たいんだけど?」

『わたしはお父さま一筋なのですが』

「頼むから母さんの前で言ってくれるなよ? もう修羅場は懲り懲りなんだ」

『そこらへんの話は帰国してからにしましょう。なるべく早く帰りますので、お土産を期待していてください』


 受話器を置いたテッドは、嫌な予感を禁じ得なかった。

 実際、長女が帰国したときに特大の修羅場が発生して巻き込まれることになるのである。


「……おや、ハロルド・ウィルソン首相閣下ではないですか。何か御用かな?」

「ドーセット公、他人行儀はよろしくないですぞ?」

「いや、僕は保守党なんだけど。なんで労働党の内閣で仕事をさせられてるんですかねぇ?」

「それは無任所大臣なんて便利なポストを用意した保守党の先達に言うべきでしょう」


 1970年4月某日。

 時の英国は労働党政権であったが、テッドは無任所大臣として便利屋扱いされていた。


「はぁ、いい加減引退したい。孫と遊びたい……」

「ははは、それはともかく。最近は移民問題であちこちで問題が出ておるのです。何か良い案はありませんか?」


 テッドの苦悩なんぞ知ったことで無いとばかりに、ウィルソンは難題をふっかける。


「そういうことであれば、朝鮮半島に移民させよう。現地からも人口減少で移民の要請があったし」


 この問題に対して、テッドが導き出した解答は明快であった。

 急激な人口減少で現地の産業に悪影響が出ている半島への移民を提案したのである。


「あそこは確か独立国でしょう。勝手に移民させて良いのですか?」


 主権国家に許可なく移民を送り込むのは侵略と同義と言える。

 ウィルソンが懸念するのも当然のことであった。


「あそこは僕の私有地も同然でね。いろいろと無理が効く場所なんだ。君も他言は無用だぞ?」

「わたしとしては問題が解決するなら何でも良いです。責任はドーセット公にとってもらいますし」

「そう思っているなら、今すぐ僕を解任してくれても良いのよ?」

「残念ですが、エイプリルフールはとっくに過ぎておりますよ」


 テッドの提案により、1970年代の労働党政権下では移民政策が加速した。

 大英連邦の各地でトラブルを起こしていた移民たちは朝鮮半島に送られたのである。


 出生率の急減による人口減少に加えて、移民の増加で1970年代半ばにはK国人は少数派に転じた。その後も坂を転がるように減少していき、1980年代後半には1万人以下にまで減少したのである。


『高麗共和国の建国をここに宣言する!』


 2000年1月。

 ミレニアムで世界中が湧きたつなか、朝鮮半島では新たな国家が誕生した。


 高麗共和国は大英連邦からの移民から構成される国家である。

 人種構成はアフリカ系が最多で、黒人国家と言える。


 テッドは生きてその瞬間を見ることは出来なかったが、彼の悲願は達成された。

 高麗共和国は大英連邦の一角として、資源と農牧に力を入れていくことになるのである。






以下、今回登場させた兵器のスペックです。


フェアリー FB-1A改 ジャイロダイン


全長:7.62m  

全幅:1.27m(主翼除く)

翼幅:5.38m

全高:3.07m 

ローター径:15.768m   

機体重量(自重/全備):1829kg/3377kg   

最大速度:250km/h

航続距離:430km

上昇限度(実用/限界):3150m/2180m(地面効果なしのホバリング限界)

武装:RP-3ロケット弾×6(主翼兵装架)

  :M2重機関銃(機首) 

  :兵員4~5名or貨物1000kg(機体内貨物室)

エンジン:ロールス・ロイス マーリン 軸出力1500馬力+ガスジェネレーター(チップジェット用)

乗員:2名(パイロット+ガンナー)


ウォッチガード・セキュリティによって試験運用されている複合ヘリコプター。

FB-1A型の改良型であり、スペックに変更は無いもののコクピット周りがサイドバイサイドからタンデム形式に再設計された。


1930年の中華人民義勇軍の鎮圧において満足な運用実績を残し、翌年から英陸軍への納入が開始されている。



※作者の個人的意見

見た目はヒューイコブラに主翼を付けて推進用プロペラを付けたような感じです。

ここまでやるなら普通に戦闘ヘリを作ったほうが早いような気もしますけどね(苦笑






シエルバ W.11U エアホース 


乗員数:4~5名

全長:27m(ローター含む)

全幅:28.96m(同上)

全高:5.41m

メインローター径:14m

空虚重量:7437kg 

最大離陸重量:18438kg 

発動機:ロールスロイス ダート RDa.10/1 2750馬力+残留推力3.34kN ×3 

最高速度:260km/h

巡航速度:170km/h

上昇限度:3640m

航続距離:570km

武装:非武装(ドアガン設置可)


戦前にテッドが召喚したシエルバ W.11エアホースを、この世界のシェルバオートジャイロ社が改良したもの。胴体前部に単一ローター、後部に横並びローターという現時点では世界唯一のトライローター機である。


試験運用されていた11T型をさらに改良したタイプであり、エンジンが航空用レシプロからターボプロップに変更されている。エンジンの搭載数も2基から3基に増やされており、総出力が増強されたことでペイロードも飛躍的に増大している。


胴体中央部にエンジンを置き、そこから延長軸で3つのローターを駆動する機構となっている。胴体後方部は荷物室となっており、貨物なら10t程度の積載が可能である。


1931年の漢城暴動の際には、要人救出のためヘリボーン作戦を展開した。

作戦そのものは失敗に終わったものの、その有用性が評価されて陸軍に採用されている。



※作者の個人的意見

史実ではペーパープランだった11Tをさらに改良したモデル。

カタログスペック的にはチヌークを参考にしているのでこの程度の性能は出せるはずです


CH-53Eスーパースタリオンの最大離陸重量は33tでペイロード14.5tなので、エアホースに5000馬力以上のターボシャフトを3基積みすればそれ以上の性能が出せるはず。でも的がデカいから敵から狙われまくりそう…(汗






Rifle No.4 Mk3


種別:バトルライフル

口径:0.303インチ(7.7mm)

銃身長:25.2インチ(640mm)

使用弾薬:303ブリティッシュ(7.7mm×56R)

装弾数:15発

全長:44.5インチ(1130mm)

重量:4600g(弾薬除く)

発射速度:毎分700発前後

銃口初速:744m/s

有効射程:1000ヤード (約918m)


自動小銃化したリーエンフィールド小銃。

円卓が再現したRifle No.4 Mk2を、テッド・ハーグリーヴスが召喚したM14を参考にして自動小銃化したモデル。


後のアサルトライフルに比べると重く、威力も過大であったが、塹壕越しに撃ち合いする際には、その威力と火力が重宝された。


1930年から280ブリティッシュ弾を使用する次世代ライフルの開発が進められており、採用後は予備兵器として保管されることになる。



※作者の個人的意見

280ブリティッシュ弾を採用する次世代のアサルトライフルはブルパップにするか、Rifle No.4 Mk3を弾薬に合わせてサイズダウンしたものにするかは考え中だったりします。テッド君は前者を推しているんですけどねw






エンプレス・オブ・イースト


排水量:65480t

全長:290.5m

全幅:32.0m

高さ:54.0m

吃水:11.0m

機関:大型艦船用デルティック16基4軸推進   

最大出力:158000馬力

最大速力:30.5ノット

乗組員:850人

旅客定員:1等旅客820人

    :2等旅客610人

    :3等旅客980人


ジョン・ジェイコブ・アスター4世が私財を投げうって建造した豪華客船。

完成した当時は、世界最大最速の豪華客船であった。


本船の最大の特徴は、搭載するエンジンである。

QEクイーン・エリザベス型高速戦艦の近代化改装のテストベッドとなるべく大型艦船用のデルティックが搭載された。喫水線下の区画は細かく区画化されており、機関もシフト配置されるなど実質的に軍艦であった。


このエンジンを搭載した恩恵で、地球を1周してお釣りがくる程の長大な航続力を得ることに成功している。その高速力と長大な航続力、大量の物資運搬能力を買われて、様々な作戦に投入されている。


1931年に英国本土から鬱陵島まで物資輸送を行っている。

ベルファストから鬱陵島まで1万1千浬余り、平均速力26.5ktで18日という記録は現在も破られていない。



※作者の個人的意見

忘れないうちに書いときます。

名前の元ネタは小娘オーバードライブ4巻『誰も知らない戦争(下)』に出て来た帆船の名前です。

元過激派モブたちは朝鮮半島に骨を埋めることになりました。

テッド君の怒りを買ってたし、半島では好き放題出来たので双方WIN-WINな関係と言えるでしょう。


自援SSは設定&ネタ帳を兼ねているのですが、あまり時代を広げ過ぎると本編で齟齬が生じないか我ながら心配になります。問題が生じたら後でこっそり修正しますけどね(汗


>『リメイク前のバ〇オ3かな?』

イメージ的にはPS版ラストエスケープのオープニングに出てくる選抜警官隊ですね。殺到するゾンビの群れ相手に奮戦しますが急所を狙わなかったせいで始末しきれずに全滅しています。


馮涵清(ふうかんせい)

史実満州国の政治家です。

満州国崩壊後の行方は不明になっています。


>3年前の原爆実験による地震でビビって逃げ出した

本編第79話『切り札』参照。

溥儀に歓待されたときに、酒の勢いで大韓帝国の実情を思いっきりぶちまけています。


>ジェフリー・パイク

この世界ではテッドくんのマブダチです。

多種兵器研究開発部(DMWD)のトップとして、日夜テッド君の召喚物の解析と怪しげな研究に邁進していますw


>豪華客船『エンプレス・オブ・イースト』

自援SS『 変態アメリカ国内事情―ギャング・マフィアに非ずんば人に非ず編―』参照。名前の元ネタについては、兵器スペック詳細に書いてあります。


鬱陵島(ウルルンとう)

お隣さんが意図的に竹島と間違っている島。

半島から竹島が目視出来るわけないだろうが(呆


>合計特殊出生率

2以上無いと人口の維持が難しいのですが、先進国の大半はそれ以下だったり。

フランスがかろうじて2を超えていますが、他の国はそれ以下で日本はG7の中で下から2位という惨状です。


>『アサルト1』

某ロボットゲーの赤カブトではありません。

史実のコンドーム『突撃1番』に分かりやすい名前を付与したらこうなっただけです。ちなみに、突撃1番は陸軍版で、海軍のは『鉄兜』だったりします。


極東朝鮮会社(FEKC)

朝鮮半島を開発している合資会社。

英国政府も出資しているので事実上の国策会社ですが、テッドくんが増資して持ち株比率が下がったので影響力は減じています。


>史実のヨハネスブルクよりも酷い状況

『景福宮から半径100mは強盗にあう確率が200%』他にもありますが省略。

各自で妄想してください(オイ


円谷英二(つぶらや えいじ)

史実だとこの時期は干されていたのですが、この世界だと特撮ファンなモブが独自に援助してそうです。


>特撮でありながらリアルと見まがうほどの(偽)ドキュメンタリー映画

構成は某ゾンビゲーのRE3のオープニングみたいな感じ。

しかも白黒なのでゴジラマイナスワンのモノクロ版みたいなリアリティになってます。


>高貴な服を着せた人形を民衆がボコボコにしたり、高宗らしき人形の首を切断するデモの映像

史実の下半島の恒例行事(酷

困窮する人民がそんなものを用意出来るはずがないと分かりそうなものですが、彼らは疑う事無く信じてしまいました。


>大韓帝国最後の支配階級は鬱陵島で余生を全うすることになる。

衣食住は保証してましたし、女もあてがいましたが避妊もきっちりやってたので増えることなく自然消滅しています。


>サザーランド公爵家四女ローズマリーに救われたからである。

自援SS『変態紳士の仲人事情―ローズマリー・レブソン=ガワーの花嫁修業編―』参照。


>アルファベットの歌

正式名称は『ABCの歌』です。

昔、公文の英語教室で歌わされた気がしますw


>赤い悪魔(笑)

イタリアの赤い不良品じゃありません。

お隣の赤いヤツは最近は振るわないし、未来も無さそうですねぇ。


>「掃除用のバケツとスープのバケツを区別しているだと!?」

元ネタは旧日本陸軍の朝鮮兵に対する注意書きです。

奴らが当時から変わっていないことが良く分かる内容ですので、興味がある人はググってください。


>しかし、テッドの怒りは収まっていなかった。

実績をあげたから迎えを寄越しただけで、出来なかったら半島に放置する気満々でした。事故だったとはいえ、幼馴染の性癖を捻じ曲げてくれたのですから残当ですよね。


>一人っ子政策

中国で実施された人口抑制政策。

劇的な効果をあげたものの、人口減少が加速して撤回されています。


>ガッカリウルフ

某スパロボのアサルト1の大変がっかりする姿を指します。

詳細はニコニコ大百科あたりで検索してくだされ。


>今代の駐日英国大使

テッド君の長女(30歳)が務めています。

名前はまだ秘密。


>ハロルド・ウィルソン首相閣下

史実では2度労働党で政権を率いた稀有な人。

戦後最高の労働党党首のランキングで3位になった有能な人ですが、本編でテッド君に本格的に絡めるかは現時点では不明です。


>無任所大臣

史実だと日本だけでなく他国でも似たような制度はあるのですが、定義はまちまちです。この世界の英国の場合、下手なポストに配属すると後々まで悪影響が出ると判断されて『何処にも属してない大臣』として彼専用のポストになりました。事実上の何でも屋であり、保守党政権下では馬車馬の如く扱き使われてたりします。


労働党政権になってお役御免かと思いきや、『どこにも所属していないのだから、労働党政権下でも問題は無い』というトンデモ理論でテッド君を無任所大臣に指名。労働党政権下でも相談役として扱き使われることになります。


>高麗共和国

ミレニアムに誕生した半島国家。

名前に反して国民の大半はアフリカ系黒人で使用言語は英語というワケワカメ国家です。資源と農牧メインの史実アルゼンチンのような産業構造をしていますが、北部の資源を掘りつくした後は南部の農牧がメインになります。北部は核実験場としてのみ機能していくことになるでしょう。


テッド君の意向で宗教別の住み分けが実施されていることも特徴。

半島の南半分の行政区分はキリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教で4分割されています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何と言う合法的K国抹殺www 皇帝一族も、60越えたらもうよそへ行こうって気はなくなるだろうなあ。上げ膳下げ善で飯が出てくるんだし。 両班はまあ因果応報としかw >平均寿命50才 そーか…
[一言] これは酷い(褒め言葉) 人口減少の陰謀だと騒ごうにもアレ過ぎてまともに取り扱われないだろうところが酷い(褒め言葉)
[一言] 流石は円谷のおやっさんだ! そう簡単には見抜けねえぜ!!
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