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変態英国グルメ事情―WW1レーション編―

挿絵(By みてみん)


「……で、今回はどういった要件で呼び出されたのでしょう?」

「じつは軍のレーションに関して貴殿の知恵を借りたいと思いまして」

「我ら兄弟を助けると思って協力願えないだろうか」


 土下座をせんばかりの勢いで頼み込むアーチボルト・マカノッチーと弟のジェームズ。彼らの目は切実であった。


 スコットランドの港湾都市アバディーン。

 そこから北へ60kmほどの場所にある港町フレーザーボロウにテッドとマルヴィナは赴いていた。


 フレーザーボロウには、マカノッチー社という缶詰製造会社がある。

 史実においては、ボーア戦争時代からレーション用の缶詰を英軍に納入しており、第1次大戦でもそのまま配給された。


 缶詰の中身は牛肉で出汁を取った薄いスープに、カブ、ニンジン、タマネギ、インゲンマメを入れたシチューである。社名からこの缶詰はマカノッチーと呼ばれていたが、この缶詰がクセモノであった。


 マカノッチーは前線の兵士にはすこぶる評判が悪かった。

 30分ほど湯煎する必要があったが、前線の塹壕の中でそんな調理は不可能だったのである。


 冷めたままだと牛脂が固まり、黒く変色したジャガイモの塊が入った缶詰は見るからに食欲を減衰させるシロモノであった。カブとインゲンマメの相性も悪く、耐え難い悪臭を放っていた。さらに言うならば、マカノッチーを食した兵士たちが放つおならの臭さも問題であった。


 マカノッチー兄弟は円卓の重鎮であり、テッドと面識があった。

 史実知識を活用して改善を模索していたのであるがどうにもならなかったので、縋るような思いで依頼したのである。


「そういうことであれば現物を食したほうが早いかもしれませんね」


 説明するよりも、現物を見せた方が早いと判断するテッド。

 未来のレーションを召喚するべく呪文を詠唱を開始したのであるが……。


「ちょっと待てぃ! レーションの改良をするというのに、それを食する軍人を参加させないとはどういうことか!?」


 突然の闖入者によって召喚呪文は中断された。

 立派な黒ひげをした男と、その部下らしき軍人達がドカドカと踏み込んでくる。


「……閣下は、エジプトへ赴任中だった気がするのですが?」

「こんなに面白い……じゃなかった、重大なイベントに参加しないわけないだろう。事後承諾で休暇をとってきた!」


 テッドは立派な黒ひげ――ホレイショ・ハーバート・キッチナー陸軍元帥とも面識があった。


 円卓会議で何かにつけて対立するチャーチルとの間に立ち、利害調整をしているうちに気に入られてしまったのである。今では事あるごとに『陸軍(アーミー)に入らんか?』と言われる始末であった。


「あぁ、こ奴らなら心配いらん。ボーア戦争以来の部下で円卓メンバーでもある。遠慮なくやっていいぞ!」


 キッチナーと部下達の乱入によって、レーションの改良は迷走していくことになるのである。







(『21世紀 コンバットレーション』で検索……これと、これと、あとこれも外せないな~)


 脳内でグー〇ル検索したイメージの中から選別していく。

 床下から浮き出た魔法陣の光芒が最高潮となり、唐突に消えたその場にはいくつもの箱が転がっていた。


「これが未来のレーションなのか!?」

「凄い、軽い!?」

「こんなに調味料が!?」


 21世紀のレーションを直接手に取って感動する軍人ズ。


「テッド殿、これはどうやって食するのですか?!」

「ハリー! ハリー! ハリー!」


 マカノッチー兄弟も、初めて見たレトルト食品に大興奮であった。

 一刻も早く食すべくテッドに説明を求める。


「基本的にレトルトは湯煎ですが、加熱材がっ……」


 説明しようとして、だぶついたズボンの裾を踏んで顔面ダイブを敢行する。


「痛たたた……」


 鼻血を出して涙ぐむテッド(ショタ)

 それを見てプッツンしたマルヴィナが暴走する。


「テッド様お怪我をしていますね!? 今すぐ治療とお召替えをっ!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 黒い弾丸と化したマルヴィナに拉致られるテッド。

 非力なショタの身では抵抗は不可能であった。


「「「……」」」


 あまりのことに固まってしまう兄弟と軍人ズ。


「なんだまたか。マルヴィナ君にも困ったものだな」


 全く動じていないキッチナー。


「その、閣下。よろしいのですか?」

「あの二人のとんでもぶりは今に始まったことではない。それよりも試食だ」

「は、はぁ……」


 かくして、主人公不在のまま未来のレーション試食会が始まったのであった。







「同じシチューなのに、なんでここまで違うんだ!?」

「冷めたままでも普通に食べれるとか反則だろう!?」


 史実1989年製ドイツ軍レーションのErbseneintopf(エンドウ豆のシチュー)を食してむせび泣くマカノッチー兄弟。


 冷めたままでもポテトサラダ風に食べれて普通に美味しいシロモノである。

 温めれば具だくさんのシチューとなり、野菜と肉の素材の味が生きているシンプルかつ濃厚な味は、マカノッチーと比べるのもおこがましいレベルであった。


「あちちっ!? なるほどこいつで温められるのは便利だな」

「すげぇ!? ビーフステーキが入ってやがる!?」

「ビーフジャーキーもあるぞ! でもなんかソイソース臭い……」


 お隣では、軍人達がMREヒーターで火を使わずに温めることが出来ることに感動していた。史実では酷評される味の悪さも、彼らからすれば気にならないどころか普通に美味しいレベルであった。


「けしからん! じつにけしからんぞっ! 未来のカエル喰い共はこんなものを食っているのか!?」


 史実フランス軍レーション2001年モデルを貪り喰うキッチナー。

 さすがに食に拘るフランス人が作っただけのことはあり、別次元の味であった。


「なんだこのシチューは!? まるで作り立てではないか!?」


 牛肉とニンジンのシチューは、ニンジンはトロリと柔らかく、牛肉はジューシーでプリプリである。調和のとれた味付けも絶妙であり、この時代ならば高級レストランでなければ味わえないレベルであった。


「ポークミートも最高だ! これを食べたらコンビーフなんて喰えんぞ!?」


 ポークミートは、コンビーフのように肉の細かい繊維が残り、史実のシーチキンのような食感である。適度に甘みのあるラードが混ぜられており、口に入れるとトロリトした脂と肉の繊維が上手く混ざり合い、旨味がじわじわ滲み出してくる。これがまた付属のクラッカーとじつによく合うのである。


「閣下だけずるいじゃないですか!? 俺らにもくださいよ!?」

「あっ、馬鹿者!? これは全部(わし)のだ!?」

「こうなれば、実力行使あるのみ。奪い取れーっ!」


 大の大人が(未来の)フランス軍レーションを奪い合う。

 実に醜い光景が繰り広げられたのであった。







「……しかし、まぁ。いろいろ食べたが、やはり大英帝国のレーションが至高であるな」


 オートミールブロックをかじるキッチナー。

 自慢の黒ひげが乱れているが、本人はまったく気にしていない。


 オーツ麦を主原料としたクッキーの一種がオートミールブロックである。

 厚さは6mm程もあり、しっかり焼き固められているので食べ応えがあり、噛み砕くと穀物の香ばしい香りが口の中に広がる逸品である。


「その通りですな。このチョコレートプディングもじつに美味しいです」

「わたしは甘党なので、このボリュームは嬉しいですな」


 チョコレートプディングを貪り喰うマカノッチー兄弟。

 お互いに目の周辺にアザが出来ているが、やはりというか両人とも気にしていない。


 チョコレートプディングは、チョコ生地にムース状のチョコレートクリームがかけられた見るからに甘そうな一品である。見た目に反して甘味は押さえ気味であり、しかも200gもあるので甘党ならば満足出来ること間違いなしである。


「このビスケットは凄いぞ!? フルーツが入ってやがる!?」

「これならいくらでも食べられるぞ!」


 フルーツビスケットの味に感動する軍人ズ。

 彼らもレーション争奪戦でボロボロであったが、元気にビスケットを食していた。


 生地にドライフルーツの果肉が全体に散りばめられてしっかり焼き固められているので、そこそこ硬いボリっとした食感である。味は穀物の風味とフルーツの甘酸っぱい風味が交じり合い、素晴らしいものであった。


「粉末だというのに、このミルクティーは大したものだな!」


 紅茶をすすりつつ唸るキッチナー。

 英軍レーションの紅茶はティーバッグではなく、ミルク成分が加えられた粉末のインスタントミルクティーである。


 お湯を注ぐだけで濃厚な紅茶の香りが漂い、味もミルクが入っているためにマイルドで渋みも無い。下手な茶葉から抽出するよりも美味しいという紅茶中毒な英国紳士も納得な完成度である。


「ミルクティーもですが、ココアも凄い! 水だけでここまで濃厚な味になるとは!?」

「ホントにレーションのココアなのか!? こんな上品なココア味わったこと無いぞ!?」

「このココアをボーア戦争時代に飲みたかったなぁ……」


 軍人ズはココアを味わって感動していた。

 英軍のレーションにココアが取り入れられたのは意外と古く、19世紀末のボーア戦争のレーションには既に採用されていた。


 粉末ミルクが混入されているために、水だけで作れるのが特徴である。

 甘味とカカオの苦みに程よくマッチした上品な味は、彼らが今まで飲んでいたココアとは別次元であった。


 英軍レーションの最大の特徴は、紅茶の習慣に対応したスナック類の豊富さである。史実の他国レーションに比べるとドリンクとスナックが非常に多く用意されており、戦場でも紅茶を楽しむ国民性が如実に反映されている。史実でネタにされた砲火後ティータイムは伊達では無いのである。







「あ~っ!? 僕のレーションは!?」


 平和なティータイムはショタ(テッド)の悲鳴で中断された。


「「「あ……」」」


 フランス軍レーションのあまりの美味しさに争奪戦を繰り広げたのである。

 他国のレーションも美味し過ぎて貪り喰ってしまい、残り物などあるはずも無かった。


「楽しみにしてたのに……」


 精神が肉体に引っ張られているのか、子供っぽく涙ぐむテッド。


「あぁ、涙ぐむテッド様も素敵……」


 後ろで顔を赤らめてクネクネしているメイド(マルヴィナ)は全力でスルーである。

 テッドがショタ化したときのための服装を常日頃持ち歩いているあたり、彼女のショタコンは筋金入りであった。


(いかん、テッド殿を宥めないと後が怖い……!)


 内心焦るキッチナー。

 テッド自身は、穏健な性格なので多少怒る程度で済むであろうが、我に返ったマルヴィナが何をするか分からない。基本的にテッドに関すること以外は無関心を貫く彼女であるが、主人の敵と認めたものには容赦がないのである。


 マルヴィナの戦闘力は円卓内では有名である。

 彼女が本気になれば、瞬時に室内が阿鼻叫喚と化すであろう。


「あー、テッド殿? まずはこちらを食べてもらえないだろうか?」

「……これは?」


 キッチナーが差し出した金属缶を見て首をかしげるテッド。

 それは史実の350ml缶を少し大きくして楕円形に成型したようなシロモノであった。


「我が軍のレーションだ。ボーア戦争時代から採用されているものだ」


 言いながら缶の中央にある金属ベルトを弾き剥がしていく。

 ベルトが外れると二つの缶詰に分解された。


「わぁ、こんなふうになってるんですね」

「ちなみに中身はコンビーフとココアの缶詰になっておる」


 感心しながらコンビーフ缶を開けるテッド。

 なお、開け方は史実では絶滅した巻き取り鍵式である。


「うわっ、めちゃくちゃしょっぱいし、油っぽい……!?」


 思わず吐き出してしまうくらいの塩気と脂である。

 生前は国内のコンビーフしか食べたことないテッドにとってはきつい味であった。


「うぅ~っ、ココアで口直しを……って、15分も煮込む必要があるの!?」


 史実のココアは、溶けやすい加工をされているのでお湯を注ぐだけで作れるが、この時代のココアは完全に溶かすのに時間がかかるものであった。


「……コクが無くて微妙な味」


 史実のバン〇ーテンと比べるのは酷であろう。


「分かるかね!? 我らはこのようなものを食べているのだよ!?」


 ここぞとばかりに畳みかけるキッチナー。


「うぅ、済まない。死んだ戦友には悪いと思ったが、あまりの美味しさに我慢できなかったんだ……」

「こんな美味しいレーション、食べる機会が二度とないと思ったら口が止まらなかったんです」

「全てはカエル喰いのレーションが美味過ぎるのが悪いんだ!」


 他の連中も必死に言い訳する。

 英軍レーションの不味さにテッドが同情してマルヴィナをとりなしたことにより、今そこにある危機(マルヴィナの制裁)を回避することに成功したのであった。







「……テッド殿、このレトルトというのは実に便利ですが、今の時代で作れるものなのですか?」

「レトルトは、史実だと1950年代の技術ですので難しいでしょうね」

「うぅむ、ならば缶詰で対応するしかないですね……」


 レトルトの早期実用化が難しいことを知って残念そうな表情をするマカノッチー兄。史実において1950年代に米軍に採用されたのがレトルト食品の始まりである。


 当時のNASAにも採用されて透明なレトルトパウチに入れられた宇宙食は注目を浴びたのであるが、既に冷蔵庫が普及していた当時のアメリカでは普及しなかった。1968年にレトルトカレーが日本で販売され、その利便性から爆発的に普及していったのである。


「それよりもメニューを再現したほうが早いと思いますよ? 奪い合うくらいなんだから美味しかったんでしょ?」


 まだ根に持っているらしくジト目なテッド。


「採算を度外視すれば、メニューの再現だけなら不可能では無いのかもしれませんが……」

「大量に納めることが前提のため、市販品よりもコスト管理が厳しいのですよ」


 マカノッチー兄弟はテッドの提案に否定的であった。

 場合によっては使用する食材すら指定されることがあるレーションでは、市販品のような対応は難しいのである。


「仮にメニューの再現をしたら、兵士たちによる争奪戦が起きるんじゃないかな」

「前線でこれが食えるなら殺してでも奪い取るかも……」

「下手なレストランよりも美味しいから横流しが蔓延るな」


 史実においてもレーションが美味過ぎることによる弊害を軍上層部が懸念し、米軍のDレーションは茹でたジャガイモよりマシな味程度になったとされる。軍人ズの意見も、もっともなことであった。


「とすると、実際に食する兵士たちの意見を取り入れて地道に改良していくしか無いですね。では、この件はこれで終わりということで……」


 自分の出番は終わったとばかりに、閉会宣言をするテッド。


「いやいや、まだ終わりじゃないぞ」

「え?」

「これを見るが良い」

「……MREヒーター?」


 キッチナーから手渡されたのは、MREに付属している簡易加熱材であるMREヒーターであった。


「水さえあれば火を使わずに温かいレーションが食べれるのは画期的だった。我らが欲しているのはこういうアイテムなのだよ」

「なるほど、温めれば大概のものはそれなりに食べれますからね」

「冷めてもレーションが美味いに越したことは無い。しかし、前線の兵士たちにとって何よりも得難いのが温かい食事なのだ」

「むむむ……」


 説得に心動かされるテッド。

 確かにこのままだと片手落ちであろう。


「……分かりました。では、日を改めてまたやりましょう」

「「「よっしゃぁぁぁぁぁ!」」」


 テッド以外は大喜びであった。

 ある者は純粋にレーション改良のきっかけが掴めると喜び、またある者は再び美味いレーションが食えることを喜び、およそ一人がショタを愛でることが出来ることを喜んだのであった。







「……え~、それでは第2回レーション改良会議を始めます」


 げっそりとしたテッドが開会を宣言する。

 予定では3日後のはずが、急遽予定を繰り上げて翌日開催となったのである。


 テッドの体内感覚では、三日もあれば元の姿に戻れるはずであった。

 それ故に当初は三日後に開催することになっていた。


 たった三日のためにスコットランドの北の端からロンドンまで往復するのはめんどくさい。そのために、アバディーン市内のホテルに滞在することにしたのであるが、これが不幸の始まりであった。


『……マルヴィナさん、どうして部屋を一つしかとってないの?』

『申し訳ありません。部屋に子供一人だけ泊めることは出来ないと言われまして』

『それならしょうがないか……でも、どうしてベッドが一つしか無いの!?』

『それはもちろん、わたしの趣味です』

『ああああああああ!?』


 同室でベッドは一つ。

 日中もこの姿では外出もままならず、夜は逃げることも出来ない。


『いや、そこはっ!? ちょ、やめてぇぇぇぇっ!』

『ふふふふ……』


 このときのテッドは知る由も無かったのであるが、マルヴィナによる『濃厚接触』によって召喚魔法で失った年齢を補填することが出来たために翌日には元の姿に戻れたのであった。なお、貞操は辛うじて守られたようである。


(フランス軍レーション、英軍レーション、あとは……)


 床下から浮き出た魔法陣の光芒が消えたその場にはいくつもの箱が転がっていた。今回召喚したものは、フランス軍レーションと、お茶請け用の英軍レーション、そしてプラスアルファである。


「はい、皆さん注目!」


 早速レーションを食べようとする連中に、手をたたいて耳目を集めさせるテッド。身体が縮んでだぶだぶな服を着たショタがやると、恐ろしく様になってない。


「今回の目玉はこれです!」


 そう言いつつ、テーブルの上に金属製の箱を置く。

 端の開閉式のカバーを開けて、中に円筒状の物をセット。装填レバーを押し下げて、つまみを一気に左下に回す。


「「「おおおおおおおお!?」」」


 カチっ、という音と共に着火。

 ギャラリーは大興奮である。


「テッド殿!? これはいったい何なのですか!?」

「カセットコンロです。日本の発明品で、僕のいた時代ではよく使ってました」

「これがあれば、塹壕内でも湯煎が可能になるな!」

「構造は簡単ですし、ガスボンベにガスを充填すれば何度でも使えますよ」


 史実におけるカセットコンロは、岩谷産業が1969年に発売した『イワタニホースノン・カセットフー』が最初である。21世紀においてもアウトドアや被災地など様々な局面で大活躍していた。


「お次はこれです」

「なんだこの布袋は?」

「使い捨てカイロです。揉んでみてください」

「……んん? おおおお!? 温かくなってきた!?」

「鉄の酸化反応で発熱するんですよ。中身は企業秘密なので僕も知らないのですけど」


 使い捨てカイロは、史実では1975年に旭化成工業(現・旭化成)が開発・商品化したのが始まりである。当初は鍼灸院向けだったのであるが、またたく間に普及して海外にも多く輸出されていた。


「素晴らしい! これがあれば塹壕の住環境が一気に好転するぞ!」

「温かい飯が食えるし、塹壕足(トレンチフット)も駆逐出来るな!」


 満場一致でカセットコンロと使い捨てカイロは採用が決定。

 円卓技術陣の奮闘によって、第1次大戦でその威力を発揮することになるのである。


「ありがとうテッド殿。やはり貴方を招いたのは間違いでは無かった!」

(わし)からも礼を言わせてもらう。貴殿の献身によって、多くの将兵の命が救われることになった」

「い、いやぁ、それほどでも……」


 手放しの賞賛を受けてまんざらでもないテッド。

 このまま終わればプロジ〇クトX張りな感動ストーリーだったのであるが、そうは問屋が卸さなかった。


「うっ!?」


 背中に柔らかい感触。

 振り向かなくても誰であるかはテッドには分かる。


「テッド様、会議は終わりのようですね?」

「えぇ!? う、うん……」

「さぁ帰りましょう。でも、その前にお召替えをしましょうね。お気に入りの服があるんです」

「た、助けてーっ!?」


 テッドの叫びは意図的に無視された。

 誰だって大魔神(マルヴィナ)は怖いのである。この後、散々に着せ替え人形にさせられて彼のSAN値は大幅に削れたのであった。

というわけで、自援SS第2弾です。

今回はコンバットレーションに焦点を当ててみました。


レーションの歴史は意外と古く、ナポレオン時代にまで遡れます。

瓶詰から缶詰、そしてレトルトやフリーズドライになって現代にいたるわけです。


肝心のレーション試食の描写は、『THE戦闘糧食』様の試食レポートをぱk……もとい、参考にさせていただきました。世界各国のレーションや自衛隊の戦闘糧食の試食レポートもあるので、興味のある方は是非見てください。名前でググると真っ先にヒットするのでアドレスは載せませんので悪しからず。


本当なら自分で手に入れて食すべきなんですけど、レーションの入手は難しいんですよね。ヤフオクにはMREが出品されてたりするのですが、当たりはずれが怖いですし。


カセットコンロと使い捨てカイロがあると塹壕生活?が捗ると思います。

カセットコンロは湯煎はもちろん、暖房にも使えますし。足元に置いてトレンチフットの解消にも役立つかと。使い捨てカイロも同様ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] レーション試食はようつべでトッカグンの動画をよく見てます。たまにカビてたり中身が破裂してるのを見ると自分で買うのは躊躇しますよね。値段もそこそこ高いですし。 温め方にしても水とヒートパックを…
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