第八十三話
「それより途中にあった家畜部屋、怪しいわよね」
部屋に入り、リインが居なくなったところでカレンがそう言った。
家畜と呼ばれるためにはいくらかの条件がある。
まず、餌のコストだ。
当然、安い飼料や不要な飼料で生存できるほうが望ましい。
人は牧草を消化する事ができない。食べても栄養をほとんど取れずに出てしまうのだ。人にとって有毒な植物も、動物によっては食べられるケースもある。
もし肉好きな肉食動物の肉牛が居たとして。
「シャトーブリアン美味しいモー」
そう言いながら毎日ミディアムレアのステーキを所望して、将来的に得られる肉よりもその牛が食べる場合、それは家畜とは呼ばれない。
愛玩動物である。
次に成長までが速いこと、繁殖能力が高いこと。
家畜として都合の良い特性を持った個体同士で交配を繰り返すことにより品種改良していくのだ。
猪の中で気性がおとなしく、牙が小さく、太っている猪を交配させて家畜の豚にする。
鶏の中で羽根が小さく、あまり飛ばず、大人しく、卵をよく生む鶏を交配させて、家畜の鶏にする。
成長が速く次の世代へ進められる方がより家畜として都合が良い。
ある程度の知能と知性があること。
高すぎる知能を持つと家畜化しづらい。
ある程度の知能がなければ命令に従わない。
性格が穏やかなこと。
大人しく從ってくれる生き物が望ましい。戦士何人がかりで押さえつけるような生き物はダメだ。
理想を言えば人間一人で複数個体の面倒が見られればベストだ。
発情期が長い事。
発情期が数年に一度、と言う動物に最適な交配をするのは難しい。少なくとも一年に一度、一ヶ月くらいの期間があれば望み通りの交配がしやすい。
群れ、序列を作る生き物であること。
序列のある集団を作る動物は、家畜として最適である。暴れず、逃げず、ボスの命令に従ってくれることが望ましい。
場所を取らないこと
スペースをあまり必要としない生き物がベストだ。
カレンに家畜の条件について答える。
「そう言う豆知識解説をさせると腐っても賢者っぽいのぅ」
「元賢者をなめんなよ?あと俺は腐ってない。俺の賞味期限はまだまだだ!」
「オ……オルタは、割と便利キャラだよ……ね」
「そうですわね。それで、オルタさんはゴブリン達が何を飼ってると思ってますの?」
俺は解らないと首を振る。
「豚や牛、猟犬とかはどうじゃろうか?」
シアの言葉に俺は首を振る。
「いや、豚や牛、猟犬は牧場エリアにおったぞ?」
「そうだな、それにそう言う動物なら見せても構わないだろうし、建物の中で飼う必要がない」
「ドラゴンとか魔獣はどう?」
ドラゴンや魔獣を家畜化しているのでは?と言うカレンに首を振る。
「いや、無理だろ。ドラゴンだと知能が高すぎるし強すぎる。それに食料が足りない」
家畜化するための第一条件として、野生に身を置くよりも安全に良質の餌が得られなければならない。
だが最強種のドラゴンにとっては安全に餌が得られるため、家畜化するには良質な餌を大量に安定して渡す必要があるし、そもそも群れないドラゴンを番で確保するのは無理だ。
それに知能もゴブリンより高く、家畜として従う番を確保する事もできないだろう。ゴブリン達は広大な牧場を構えているが、あれだけでは足りないだろうしな。
「じゃあなんだと思うのじゃ?」
わからない。家畜化されるべきものは牧場で見たし、足りないものがあったか?羊や山羊も牧場にいたしな……。
『オルタはんはなんでわからんのかな?いや、その考えを避けているのかもしれへんけどな』
『人間は過去にやってただろう。今でも場所によってはやってるかもしれないがな』
『家畜って言葉だと解りにくいかもだけど、貴族的な思考なら出てくるのかもね。エルフはそういうことをしてないけど、ヒトの貴族のトミン君に聞いてみたらいいんじゃないかな』
選手達がそう言うので、一応トミンに話を振ってみる。
「トミンはなんだと思う?」
「えっ、ぼ、僕ですか?」
わからん……。もしかしたら家畜部屋というのもブラフで兵器開発してるのかもしれないしな。
「なぁ、リィン達が何を飼ってるか予想できるか?」
「……あの、さっきまで師匠が言っていた家畜の条件を満たす都合が良い生き物がいますよね。すっごく嫌な考えですけど……」
勿体ぶるトミンに、俺は何かに気付いた。
人間も過去にやっていて、
今もやっている場所もあり、
貴族には解りやすいかもしれない動物。
「家畜ではありませんが、さっきの条件を満たしている動物がいますよね」
「何なのじゃ?」
「エルフの人はあまりそういうことをしませんが、ヒトは……今でもしているところがありますね。家畜って言葉は不適切かもしれませんが」
高すぎる知能は家畜化できないと行ったがそれならば知能を落とせばいいのだ。
文字を教えず、教育を施さず。年中交配可能で二足歩行のためスペースも必要とせず、群れを作り命令に従う最適な生き物。
「ヒトってその条件を全て満たしてますよね」
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