第八十一話
開いて頂きありがとうございました。
知能があるとはいえ、所詮ゴブリンだ。
農畜産業と言ってもたいした事はないだろう。
俺達はそういう共通認識を持っていた。
谷に村を作るというのはよくある事だ。
辺りは森の恵みや川の恵みが豊富……つまり資源が多い。
ある程度の人数ならそれだけでカバーできてしまう。
だが悪夢の谷はそこまで広い土地という訳ではない。
ファーストの街から見える程度の山に囲まれた位置にある谷だ。
「ここが私達の国になります」
みすぼらしい木の柵に囲われた場所に到着する。
ゴブリン達が五十匹ほど木でできた柵の外に立ち守っていた。
ゴブリンクィーン、リィンは俺達に向き直り、こう言った。
「では、ここで入国受付をしてください。入国税は一人五十リィンになります」
「「「入国税!?」」」
どうみても小さい木の柵に覆われただけの広場……何匹かのゴブリン達が寝そべっているだけだ。
「通過単位が解らないが、そもそも五十リィンって何イェンだよ」
「十イェンで一リィンになります」
五百イェンくらいか。
入国税としては安いが、こんな広場に金を払わないといけないのだろうか……?
それはカレン達も同じ思いだったようで微妙そうな顔をする。
『まぁ払おたりや。安全に巣を見物できる金額やと思えばええやろ?』
そういうマニーの言葉を代弁すると、カレン達も仕方ないかと五百リィンを出していく。
「で、どう見てもただの広場のここに何があると言うの?」
「こちらになります」
広場の奥……山に面した所にある草で隠れた扉をリィンが開くと……。
「何といえばええんじゃろうか」
「こんな事もあるのですわね」
呆然とゴブリンの街を眺めるシアとエレノア
「悪夢ね」
カレンが頭を振る
「す……すごいね」
シノブだけが単純に凄いと感想を述べる。
『なんちゅうか、言葉に困るなぁ……』
『ゴブリンの街だよね……?』
マニーとアロナ……選手達も呆然としている。
一言、感想を言わせて貰うとすれば、『どうしてこんなになるまでほっといたんだ』と。
そこは未来都市。
今の俺達が生活しているよりもよほど進んでいそうな文明を築いているゴブリン達が暮らしていた。
「山に付いた扉を開けるとこんな場所があるとはのう……まさかダンジョンを利用してこんな街を作るとは……」
シアが興味深そうに頷いた。
扉をくぐると、予想していた暗さはなく、山の中にも関わらず空には太陽が照っていた。
リィンに案内され、街のタワーに俺達は登る。
「どうです?凄いでしょう?」
宝物を見せる少女のように、リィンは手を広げ街を誇らしげに眺める。
作物が実る穀倉地帯では多数のゴブリンが畑を耕していた。
畜産業を営んでいる地域では、豚や牛、あと何種類かの魔物が飼われているようだった。
商業地域では活気にあふれた市場の公園に大きな建物。
「ほら見てください。あれは魔石で移動する乗り物です。魔力で走る車両が数列繋がり動きます。列車というのですが、馬車よりも速く目的の地域まで辿り着けますよ」
列車は環状になっており、住宅区、農業区、畜産区、職人区、商業区を複数の車両でグルグルとまわっているようだった。
「こちらが商業地区になります。露店もありますが、そちらの建物は商業ビルになっていて必要な物はそこで全て手にはいりますよ」
リィンが商業ビルの説明資料を手渡してくる。
緻密な絵が描かれており、ゴブリンが笑顔で接客しているスナップだ。
「後は大豆で作った醤油、味噌。じゃが芋の連作障害対策もばっちりです。輪作ですね」
『このゴブリン、内政チート全開やなぁ……』
マニーがリィンの話を聞きながら、うむむと唸る。
「住んでいるのがゴブリンだと言うのを除けば、ファーストの街よりも発展してるな」
「ここはダンジョンなので、ダンジョンマスター……私ですね。私が思い通りの街を作れるんです。工事費も要りませんから」
商業区の次に案内されたのは、職人区だ。
「ここでは、高品質な剣よりも廉価な剣を量産しています。鉄が貴重なのでなるべく強度を保ち、大量に作れるよう合金で作られています」
『鋳造じゃなくて鍛造、それも半自動化の鍛造で作ってるみたいだねっ』
鋳造は鉄を溶かし、型に入れ冷やして固める。鍛造は鉄を叩き、圧力を加えて成形する。
基本的には鍛造の方が強度が高くなる。
剣としての強度を持たせる場合、材料に多少の混ぜ物をしてコストを削減できる鍛造の方が有利な事が多い。
リィンから一振りの歪に婉曲した剣を受け取り、軽く振ってみる。
歪な形だと思っていた剣は空気の抵抗をほとんど受けず、軽くしなって鋭く空を切り裂いた。
ファーストの街での最上級の剣よりもいい剣だった。これが量産品で大量にある、だと……?
「形が違うのはゴブリンの体系に合わせているんです。みんな小柄なので、剣の軌道が読みにくく殺傷する事に主体を置いた物ですから」
「すげぇな。でもさっき外に居たゴブリンはこんなの持ってなかった気がするが?」
「はい。外のゴブリンがいい剣を持っていたら出所が気になるでしょう?この街から外に出る時は、剣の持ち出しは禁止になっているんです」
「なるほど」
ゴブリンが弱いからと調子に乗って奥へ進み、もし拠点に来た場合はこの国にいるゴブリン達がこういうチート武器を持って戦う事になるのか。
なんてトラップだ……。
悪夢の谷
その奥にはダンジョンがあり、ゴブリン達が自給自足の内政チートをし、チートな街が出来ていた。
読んで頂きありがとうございました。
最近、季節の変わり目のためか頭痛が多く……執筆速度が落ちています。
ごめんなさい




