表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/85

第八十話

「確かに私はゴブリンクイーンです。名前はゴブリィン。気軽にリィンと呼んでください」

 フレンドリーに自己紹介するリィンにカレン達は戸惑いながら、武器を少しだけ下げる。

 

「それより、貴方達はなぜ私達を虐殺するのですか。私達が何をしたと言うのでしょうか」

「何をしたって……ゴブリンは村とか襲ったりするでしょう」

 そう言うと、リィンは首を振って心外な、と。

「それは一部のゴブリンだけですよ」

「一部のゴブリン……?」


「人の中にも子供を襲ったりする犯罪者が居るでしょう?」

 女性を狙ったり、子供を狙う犯罪者は確かに居る。

「その犯罪者を一人指して、これだからこの街の人間は。この国の人は。人間という種族はって言われたら」

 どう思いますか?とリィンが言う。

 

「確かに村を襲ったゴブリンは悪でしょう。ですが、そのゴブリン一人のせいで他の善良な民も死ぬべきだと?」

 そして一呼吸区切りリィンは続けた。


「それは罪が重すぎませんか?」

「貴方達は何もしてないと言うの?」

 カレンが戸惑いながら問うが、リィンは首肯した。

「誓って私達は人の村を襲ったりはしていません」

 私達はクリーンでホワイトなゴブリンですよ、と。

 顔や身体の色はグリーンなのにホワイトだと笑みを浮かべ言った。


「ホワイトぉ……?」

 カレンが疑わしそうにリィンに目を細めた。

 

「じゃがこれだけの人数じゃ」

 リィンの周りには、ゴブリン達が集まって俺達を囲んでいる。

 百……いや二百匹以上いるかもしれない。

 俺達から数メートルのスペースを置いてとりかこむようにしている。

 

「この悪夢の谷にはそんなに大量の食糧があるとは思えんのじゃが?」

 生き物は物を食べないと生きていけない。水を飲まないと生きていけない。当然の摂理だ。

 つまり食料が無ければ群れは存続できないのだ。


 ゴブリンというのは強い魔物ではない。どちらかと言えば弱い魔物の部類に入る。

 一匹の群れからはぐれたゴブリンを倒しても自慢にならないどころか笑いものになるだろう。

 その体躯は小さく、人で言うと十歳にも満たない程度の体躯だ。

 だが、小さいとは言え食べる物は必ず必要になる。

 

「私達は農業、畜産業により生活しています」

「ほう……?ゴブリンが農畜産業を……?」

 シアが興味深そうに言う。

 

 人と動物を隔てているのは道具の使用だと言われている。

 では知能が高く道具を使うチンパンジーは人だろうか。

 人とは言われないだろう。チンパンジーはチンパンジーだ。

 

 例え複雑で初見ではどう扱うか人でも解らないような銃器を、組み立てて扱うチンパンジーもいる。

 

 では……現代人との違いは何か。

 交換という概念であると言われている。

 農業は種を植えればすぐにできるわけではない。作物を作るためには、長い年月が必要になる。

 

 畜産も羊を飼えばすぐに増える訳ではない。面倒を見て何年も世話をしてようやく乳や肉が得られるようになる。

 その長い年月に対して、対価が無ければ農業をしている者は飢えて死んでしまう。

 

 目先の利益だけで考えると、狩猟や採集という今日食べられるものを生み出す作業に比べ、

 農畜産業は今日、明日に結果が出る訳ではない。

 

 もし知性がない生き物が種を植えて苺がなったとしても、他の生き物に取られておしまいである。

 獣が魔物が農業や畜産に手を出さないのはこのためである。

 

「農業や畜産による生活。交換制度を兼ねた社会性を持つならば、可能じゃろうな。しかしそれは……」

「ゴブリン達は村……いや、人数で言えば町。もしかすれば小国に匹敵する程の規模を持つかもしれないわね」

 人の領分に手を伸ばしたゴブリンにカレンとシアが顔を顰める。

 

 ただ人を襲うだけのゴブリンから、知性を持ち畑を耕すゴブリンとなった場合

 ゴブリンを殺害してまわるのは害獣を狩る行為から侵略に変わる行為となる。

 

 人は虎やライオンに負ける。熊にもサメにもワニにも負ける。

 野生動物と戦った場合、人が素手で勝てる動物なんて数える程だろう。

 身体を鍛え上げている冒険者や、一撃で全てを灰燼に帰すような魔法使いでなければ、勝負にもならないだろう。

 だが人は野生動物に支配されてはいない。

 

 ゴブリンは小柄で人の子供程度の大きさしか持たない。人はゴブリンよりも強い。

 剣を振るい銃を扱う程度の力があれば、不意をつけば冒険者でも命を落とす。

 そしてゴブリンは繁殖力が強い生き物なのだ。下手をすれば人は……


「私達の街に案内しましょう」

 そう言ってリィンは俺達に先導して歩き始めた。


「オルタ、どう思う?」

 カレンが俺に耳打ちする。

「どう思うって……?」

「退治するべきだと思う?」

 悩むカレンに、俺は頼れるアドバイザーに聞いてみる。

『どう思う?』


『駆除すれば良いんじゃないかなっ』

『駆除するんなら早い方がええと思うで?規模が大きくなったら揉める事になるで。人権派、いやゴブ派っちゅうんかなぁ』

『農業を営んでいるなら財に変えられる。そして人は財で動く者も多いしな』

 三人の神様達がアドバイスしてくれる。


『人間の立場で言えば、やけどな?』

 マニーがそう言って耳を指す。

『手を伸ばすんも人の勝手や。まぁ共存できるなら共存してもええと思うけどな』

 現代では、エルフは人と同じように扱われている。

 ゴブリンがその枠に入るかどうか。

 


「まあ、とりあえずゴブリン達の町へ行ってみようぜ」

 そう俺はカレン達に声をかけた。


読んで頂きありがとうございましたっ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ