第八話
二本目です
元々、かさばる素材なだけに必要になったらギルドに買いに来る、という薬師達は多い。
「すみません、一角ウサギの角はありませんか?」
「申し訳ありません。ただいま品切れでして……」
「困るよ、ポーションが作れないじゃないか」
一角ウサギの角を買おうとやってくる薬師達が増えている。
彼らは全員ギルドへの納品待ちだった。
戻っても抽出に使う一角ウサギの角が無いから仕事にならないのか、彼らはギルドで待っていた。
「すみません、一角ウサギの角はありませんか?」
「申し訳ありません。ただいま品切れでして……」
「すみません、一角ウサギの角はありませんか?」
「申し訳ありません。ただいま品切れでして……」
薬師達が増えていき、ギルドに対する愚痴を言い合っている。
「そもそも一角ウサギの角が薬師にとって必須なんだから定期的に依頼を出して在庫を確保しておくべきだろう」
「そうだな、これだと商売にならない。少し買いだめしておいた方がいいかもしれない」
ポーションを作る薬師達が全員で一角ウサギの角を貯め込むようになったら?
倉庫の管理費用がポーションに上乗せされ値段が上がる。
ポーションの値段が上がれば、一番ポーションを必要としている冒険者達が文句を言うだろう。
ギルドマスターはあたりを見回し、すぐに動かせるパーティーを探す。
「カレン、すまないが依頼を受けてくれないか?」
「いいわよ。何の依頼かしら?」
「一角ウサギの角を取ってきてくれないか?」
「一角うさぎ!?いいけど、報酬は?」
A級パーティーに頼む事ではない。
「一本、百五十……いや、二百イエンで買いとる。これがギルドの販売額だ、これ以上は無理なんだ。頼む、受けてくれないか……」
「マスター、言いたくはないけど。一角ウサギを狩るのは簡単よ。でもかさばるし、そこそこ角は重いの。荷を圧迫するから一人二十本。四人だと頑張っても百本持てるくらいよ」
「それで構わない。行ってくれないか?」
ギルドマスターがカレン達に頭を下げるが、カレン達は冷ややかな目でギルドマスターを睨む。
「二百イエンで買いとるとしてもワシら全員で動いて二万イエンじゃぞ?一人割りすると五千イエン。わりにあわんのが見えとるのじゃが」
「そこを何とか……。カレン、頼む。前にオルタニートにパーティーを抜ける説得をしてやっただろう?」
シアがギルドマスターの必死な声に、溜息をつく。
同意が無ければパーティーメンバーを追放する事はできない。オルタを説得して抜けさせたのはギルドマスターの力添えもあるのだ。
「……仕方なかろうのう。じゃが……」
渋るカレン達に、ギルドマスターは一つのアイデアを思いつく。
「それじゃあ討伐依頼にしよう!一匹あたり百イエンだ。お前らの火力なら千匹は簡単に狩れるだろ?角を集める専用の冒険者も出す。それでどうだ」
ひたすらウサギを狩り、討伐依頼のウサギを狩るカレン達と死体からひたすら素材を集める冒険者の二段構えだ。
「ちょっと待てよ!俺達に死体漁りのような真似をしろっていうのか?俺達がウサギを狩ったら討伐報酬は出るのか?倒す方が素材を集めるより稼げるだろうが!」
集める専門として数えていた冒険者達が騒ぎ出す。
「……そうだな、討伐依頼にもしておこう。一角ウサギ一匹あたり百イエン出す。これは誰が狩っても有効とする」
仕方がない、とギルドマスターが決断する。
「薬師の皆さま、ご安心ください!このA級パーティーカレン達をはじめとする、うちの優秀な冒険者達が受けてくれるそうです!」
半ば強引に進められカレン達は、仕方ないと了承する。
カレン達のパーティー、そして素材集めの冒険者達での複数パーティーで編成され、一角ウサギの場所に辿り着く。
「何よこれ……」
一角ウサギを狩り続けるオルタの姿があり、そこに一角ウサギは全く存在していなかった。
…… ……
「ん?あれカレン達じゃないか?」
「ああ、アンタが追い出されたパーティーやね」
カレン達が近づいてくると、マニー(俺)を睨みつける。
「久しぶりやね、カレン。どしたん、ここは一番弱い魔物の一角ウサギしかおらへんけど?」
「ちょっとオルタ。これはどういう事よ」
カレンがキレていた。
「なんやの……わっちの能力やとウサギ狩りしかでけへんの知っとるやろ?」
一角ウサギが居なくなった場所で悪びれずに答える。
「何か問題でもあるん?アンタらに追い出されたから仕方なく一角ウサギを狩っとるんやで?それとも能力が低い冒険者にウサギを狩るなって言うん?」
追い出された、を強調して悲しそうに顔を伏せるマニー。
だが傍にいる俺の角度からはマニーが舌を出しているのが見えていた。
「……で、でも。迷惑になってるのよ」
「それ新人冒険者にも言えるん?一日中ウサギ狩り続けて五千イエンくらいしか稼げない新人冒険者に、何万も稼いでるアンタらが『迷惑だから辞めろ、ウサギを狩って経験値を貯めるな。強くならずスラムで物乞いしながら暮らせ』とか言うのん?」
「……限度ってものがあるでしょ?狩り尽くしてるじゃない!」
「なんやの……ポーション作る薬師がさわいどるわけでもあるまいし」
「そうよ、騒いでるの!なんでこんな事するのよ!ポーションが作れないでしょ!あんたのおかげで一角ウサギの討伐依頼が出たのよ!」
そしてマニーはほくそ笑む。
「ああ、ややこしい事になっとるんやね。ほなら一緒にギルドもどろか?どうせカレン達もする事ないやろ?」
そして俺達はカレン達とギルドに戻る。
ギルドマスターが駆け寄って来る。薬師達から圧力をかけられたのか、助かったという顔をして駆け寄り、俺の顔を見て顔を顰めた。
「オルタ、おまえよく顔を出せたな。ギルドから一角ウサギの角を買い占めやがって」
「はあ……?禁止されとらんやろ?それともギルドはわっちみたいな弱い冒険者には物を売らんって言うん?あんまりと違う?」
「そうは言ってない。ただお前が買った一角ウサギの角を返して欲しい。薬師達が困ってるんだ、お前が買った額で買い戻そう」
「あー、そら無理やね。わっちギルドから買った一角ウサギの角は納品したからもう無いで?」
「の、納品……?どこにだ!」
「はぁ……?冒険者への直接依頼は禁止されとらんやろ。依頼主を言えと言うん?それ法で禁止されとったやろ?」
直接依頼をした依頼主の情報を開示する事は禁止されている。
ギルドとしてはギルドを通した方が金になるのだから。ギルドから依頼主へ圧力をかける事ができてしまう。
冒険者は依頼主情報を言ってはならない事になっているのだ。
そしてマニーは涼しい顔でカウンターへ行き、冒険者カードを差し出す。
「一角ウサギの討伐依頼出とるらしいやんか。こなしてきたで。よろしゅうな」
「……はい」
『受付嬢がキレてるようだが』
『そらキレるやろ。クレーム対応にギルドマスターからの文句に晒されたらストレスたまるで?』
「えっと、五千八百七十二匹!?五十八万七千二百イエン……!?少々お待ちください!?」
受付嬢がギルドマスターに報告しに行く。
「おい、どうやって狩った。こんな数狩れないだろ」
「ああ、巣を潰したからな。金出して高威力爆弾買うて爆破したったからもうしばらく一角ウサギはポップせえへんよ?」
爆弾?爆破?とかたまるギルドマスターに
煽るようにマニーは言う。
「ギルドマスター!わっち弱くなっても街のために尽くしとうてなぁ!討伐依頼になっている魔物を倒して町の平和守れるなら、と赤字覚悟で爆弾使うたったで!特別ボーナスとか欲しいなぁ」
そしてギルドマスターが顔に青筋をたてる。
一角ウサギは弱いが素早い魔物だ。普通に倒すのは大変だが巣穴に潜った所で爆弾で倒せばいっきに倒せるだろう。
当然素材は手に入らないし、討伐依頼になっていないから爆弾分が赤字になるのが見えている。うまみが全くない愚行だ。
そして、オルタが言う事が本当なら
「巣を潰しただと!?一角ウサギの角はしばらく手に入らないって事じゃないか!」
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