第七十九話
最初、ゴブリン達はどんどん数を増やして俺達を取り囲み襲ってきていた。
ギャッギャッギャ
嘲笑うかのように。
圧倒的な強者の立場だと思っていたのか。
怯えた人しか見た事が無かったのか。
バカにするようにゴブリン達は、俺達に突っ込んできた。だが……
ギャアッギャアッ!?
カレンとシアの圧倒的な火力にゴブリン達は逃げ惑う。
「大丈夫よ、これくらいなら数がいくら増えても勝てるわ!」
「じゃのう……経験値稼ぎにピッタリじゃの」
カレンが剣を振るうと複数匹の首が宙を舞う。
シアが杖を振るうと多くのゴブリン達が爆発に飲まれて倒れる。
隊列を組み竹槍を持って戦うゴブリン達は、自分の持っている槍が切り飛ばされ
絶望に満ちた怯えの表情を浮かべた。
死を覚悟するように十字を切るゴブリン。
子供を背に庇うゴブリン。
仲間の死体に張り付き嗚咽するゴブリン。
そういうゴブリン達を倒していく。
「お前ら、よくああいうのを殺せるよな……」
ヒギィィィィ、ヒギュァァァァ。
子を失ったであろうゴブリンが小さな小ゴブリンの死骸を抱き、目からボロボロと涙を流していた。
「戦闘は同情したら負けなのよ」
「ほら、ああいう人間っぽい仕草をされたら良心が痛むだろ」
「痛まないわよ?」
「痛まんのう」
「魔物相手に何を言ってますの?」
「ま、魔物だし……ね?」
カレン達が何を言っているのか理解できないと首を傾げる。
「だって魔物なのよ?人を襲うのよ?同情するんだったら、人を襲わない家畜の肉を食べるのを辞めなさいよ」
そっちの方が残酷じゃないの、と。
ヤレヤレ、という風に肩をすくめるカレンにちょっとイラっとした。
「所詮、奴らは魔物じゃ。人型でやや似ていようが言葉を理解する知能も無いし、害獣みたいな物じゃぞ?」
カレン達の言うとおり、確かに魔物相手に同情する方がマヌケだろう。
「ああ、なんて事なの……」
一匹のティアラを被ったゴブリンだった。
俺達の姿を見て、青褪め……いや、元々顔は青いからよく解らないが。
口に手を当て、信じられないと目を大きく見開き、ゴブリン達と俺達を交互に視線を移動させている。
「なんでこんな事をするんですか。ああ、酷い……酷いわ……」
そういうのを見て、俺はシアに尋ねる。
「おい、喋るゴブリンが居たぞ……」
「喋っとるのう……」
「ボスね、新種を倒すと名前が付けられるのよ。冒険者冥利に尽きるわね」
ゴランドラゴンは冒険者ゴランが見つけた新種のドラゴンだ。
ミルスクロウは鳥獣研究科、ミルスが見つけた新種のカラスだ。
「なるほど、カレンゴブリンか」
そう言うと俺の顔の目の前に剣が寸止めされて突きつけられる。
「……自分の名前を付ける必要は無いでしょう?そうね、プリンセスゴブリンと名付けましょう」
カレンが剣をプリンセスゴブリンに突きつける。
目を丸くして剣の先を見つめるプリンセスゴブリンは、祈るように膝を付いた。
「わ、私はゴブリンではありません。私は……人間なんです。呪いを受けこのような姿に……」
声をあげ、さめざめと泣くプリンセスゴブリン。
「あの、事情をききませんか?」
そういうトミンにカレン達は困ったように武器を下ろした。
『おいおい、そんなウソに騙されるのか?』
空間の割れ目から顔を出し、そう言ったスキャム。
武器を下ろして近づこうとするトミンの腕を引っ張り、俺はカレン達に向けて叫んだ。
「武器を下ろすな!」
『観察』……詐欺師は観察力が無くてはならない。
人は感情の動きに対して表情や動作等に反映する。
全てが観察により見通せるようになる。
そのスキャムが、このゴブリンが嘘をついていると言うのだ。
『せやなあ、そんな呪いあったら高く取引されるやろな。権力争いとかゴブリンに変えて放逐しとったら解決しそうやん』
マニーがそんな事を言いながら、プリンセスゴブリンの傍に浮いて観察する。
『残念ながら、そんな呪いは無いなぁ……』
「そんな呪いは存在しない!そのゴブリンは嘘をついている!」
そう言うと、にやりと笑ってカレンは武器を再度構える。
それを見て怯えるプリンセスゴブリン。
「や、やめてください。なんでその人が言う事を簡単に信じるんです?」
「普段のオルタはくだらない嘘はつくし、くだらない軽口を言う。普通は信じられないわ、だけど……」
「そうじゃのう……」
「そうですわね」
「て、敵が出てくる所で、嘘はつかないんだ……よ?」
そう言って、カレン達が武器を構える。
『ああ、ボクこれ見た事あるよっ』
アロナがそう言って空間から現れる。
『ゴブリンキング?いや、ゴブリンクイーンかな?ゴブリンの頭にティアラや王冠が浮かぶと、進化して高い知能を持つんだよっ』
「そいつはゴブリンキング、いやゴブリンクイーンだ!頭にティアラが浮かんでいる。進化して高い知能を持ったんだ!」
三人の神様の解析結果を俺はオウム返しに口にする。
「ほう……そう言えば確かに。実物を見るのは初めてじゃが、ワシの書物にあった通りの姿じゃのう」
書籍蒐集マニアのシアが納得したように頷いた。
手柄分捕り?いや、こいつらは俺のスキルみたいなもんだし……俺の力みたいなもんだしな!
二週間ほどお休みしました。
今日は少し短め、リハビリさせてください。
「コロナ落ち着いたから出張。行ってこい」
「ウェェェェ……」
急な出張となり、ようやく戻ってきました!
ホテルと出張先のつらい往復は終わり……また平穏な日常が。
書くペースを戻していけるかなぁ……。
読んで頂きありがとうございました!




