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第七十八話

「カレン。右から来てる!」

「シア、正面のは少し大きいぞ気を付けろ」

「エレノア、シノブがやや疲れてる。バフをかけろ」

「シノブ、疲れているんだろうがエレノアがバフの準備をしてる、もう少し耐えろ」

「こら、トミン危ないぞ。もう数メートル下がれ。少し離れた位置で応援するんだ」


「「「「うるさい!!!」」」」


 イライラしたような口調でトミン以外にうるさいと言われた。

「あの、オルタさん……戦わないんですか?」

 トミンが怪訝そうな顔で言うが首を振って否定する。

「あいつらの傍に行ったら邪魔になるだろ」

「そ、そうなんですか?」

「そうだ。適材適所だ。あいつらを見ろ、いかにも血に飢えてますって顔をしているだろう?」

 

 文化的な俺には無理だ。

 

「ゴブリンの数が多いので、やはり戦った方がいいのでは?」

「ゴブリンの数が多いからこそ戦わないんだ」

 

 俺が手伝う事によってあいつらの足を引っ張るとまずいだろ。

 だから手伝ってはダメなんだ、とトミンに教えてやると納得したかのように頷いた。

「なるほど」


「いや戦いなさいよ!」

 カレンが俺の方をじっと睨み、そう叫んだ。

 顔は明らかにこっちを向いているのに、切りかかるゴブリンの攻撃を躱している。

 

 後ろに目がついているのか、殺気を感じ取っているのか。

 冷静に眺めるとコイツラの動きがおかしいのが解る。

 こんな奴らと一緒に戦えるものか。今の俺はトミンより弱いぞ

『応援なんかするからやで。黙っとれば何も言われなかったやろうに』

 空間の歪みから顔を出すマニー。

 ゴブリンがカレンに飛びつくが、蚊を払うように剣を軽く振るだけで首が飛ぶ。

 

『カレンさんやるねっ首をどんどん飛ばしてるよっ』

『シアも頑張ってるよね』

 軍神アロナとアジュールも空間の歪みから顔を出す。

 

 特にアロナはパーティー戦のため、変わって欲しそうにウズウズしている。


『まさにファンタジーな剣士だな』

 スキャムもカレンの動きに関心したように頷く。

『ファンタジーってなんだよ』


『漫画やアニメ、小説や映画などで剣を振るうと首が飛ぶようなシーンを見たことがあると思うが、あれはファンタジーだ』

『ファンタジーなのか?普通に斬首刑とかで見た事あるぞ』

『……抵抗されなければ、落とすのは簡単だろう』


 首をネックと言うだろう。

 弱点と言う意味も持っている言葉だが、その言葉が示すとおり首は脆いのだ。

 

 脊髄は神経と繋がっている。損傷すれば身体が動かなくなる事もある。

 脳に血液を届けるための太い血管もある。

 空気を肺へ送る気管や食べ物を胃に送るための食道がある。

 なのに、腰や脚の骨とは比べ物にならないくらい骨が細く、あたりを見回すために可動域が広い。

 腰と違い、頭部と首はしっかり固定されていないのだ。

 

 そう講釈をたれるスキャム。

『だが、それなら弱点の首を攻撃しているカレンはそこまでファンタジーではなさそうだが』

『暗殺者がそっと背後から忍びより首を折るのは可能だ。だが、剣をふるって敵の首を飛ばすというのはよほどの実力が無いとできない』


 ファイティングポーズをとって構えれば、肩や腕、武器が首を守るようになっているのが解るだろう。

 それが空手でも、ボクシングでも、剣道でも。

 構えは、首を守るようになっている。

 

 その形から当然の事だが首は顔に近い位置にある。必然的に目にも近い。

 余所見をしたり不意を突かれなければ普通に反応し、庇う動作をする。

 腕が首の前に出されるだけで、首を飛ばすためには腕ごと切り飛ばすような軒並みならぬ威力の斬撃を繰り出すか敵が隙を作る瞬間を狙わなければならない。

 

 攻撃の後のカウンター

 一瞬の隙を見切るような剣

 ガードしようとしても間に合わない程の鋭く速い斬撃

 

『きちんと振るえなければ相手の首を飛ばすのは難しいのだ』

『なるほど……ん?』


 カレンがゴブリン達を切り付けた後、こちらの方へとやってくる。

 俺はイイネ、と言うようにサムズアップすると、カレンは剣の柄頭で俺の腕を打ち付けた。

 軽く振り下ろした形だが、金属製の柄頭は地味に痛い。


「戦えって言ってるでしょうが!」

「無理だって最初から言ってるだろうが!」

 逆ギレすると、カレンは舌打ちしてまたゴブリンの所へと走る。


『ちょっとは戦うてあげたらどないなん?わっちのスキルなら貸したげるで?』

『ボクのスキルは個人の戦いを底上げするような物じゃないから、あんまりアピールにはならないねっ』


 商売の神、詐欺師の神、軍神、強いて言えばコピーカレンだがカレンの目の前でカレンのスキルを使うのもまずそうだ。

 アジュールの魔法……いや、それもなぁ。

 

 変な能力を貰って、後々にそういうスキルを持っていると計算されるのも面倒臭い。

 そう言っているうちに、カレン達がゴブリンの群れを殲滅し終わってしまった。


 息を切らすカレン、魔法を使いすぎて疲れたのかへたり込むカレン。

 エレノアとシノブは守りに入っていたため余裕があったとは言え、ボロボロに汚れている。

「お疲れ様、ご苦労様、大儀であった。どれがいい?」

「なんで上から目線なんじゃ……」


 冷たいカレン達の視線を受けながら、俺はにこやかに提案する。

「どうだろう、これだけ間引いたのなら割と依頼は終了にしてもいいんじゃないだろうか」

 そういう俺に、カレン達が首を振る。

「何を馬鹿な事を言ってるのよ。壁の近くでこんだけ沸いてたら谷の中心部はもの凄い事になってるわよ?」

「下手すれば手に負えない災害級の奴が育ってるかもしれんのう……」

「ここで戻っても、また同じような依頼が出続けるだけですわよ?」


 あまり乗り気ではなかった癖に、カレン達は谷の奥へ進むように話し合う。

 多数決を取るが、引き返そうという意見は俺の一票だけだった。


『まあ、危なくなったらわっちのスキルかしてあげるで?テレポートあったら奥で危なくなっても逃げられるやろ?』


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