第七十六話
「相変わらず元賢者らしからぬ杜撰さじゃのう……」
シアが腕を組み俺に呆れたような顔を向ける。
確かに口止めしなかったのは俺らしからぬ軽率さだった。
「口止めしなかったから、とか見当外れな後悔しとるのかもしれんが、お主の声が聞こえておったぞ?」
「そうか。次は耳打ちするようにする」
「霧散させるわよ?」
カレンが俺の軽口に反応して、歯を剝いた。
怖い……。本当に消し飛ばされそうだ。
仕方ない、ちょっと持ち上げとくか。
「トミン、改めて紹介しておくよ」
盾にするようにトミンを俺とカレン達の間に入れる。
「彼女達は元俺のパーティーでこの街で一番の冒険者だ。実力も容姿も、冒険者のアイドルだ」
カレン達の様子を伺うと満更でもなさそうな顔で照れていた。
基本的にこいつらはチョロい。よし、もう一押し褒めればごまかせるな。
「左から順に細マッチョ貧乳美人、カレン。成コンエコロリ美人、シア。ショタコミュ障美人、シノブ。腹黒聖女美人、エレノアだ」
「あの、オルタさん。みんなすごく怒ってますけど」
トミンの声に振り返るとカレン達が鬼のような顔をしていた。
せっかく美人だと褒めたのに台無し。美人がしてはいい顔ではないと思う。
「ワシの説明だけが解らん。成コンエコロリ美人って言うのは何じゃ?」
「成長コンプレックスで小柄な燃費良さそうなエコロジーなボディを持ったロリっ子だ」
「あの、美人って最後に付ければどんな暴言も許されるとか思ってませんか?」
トミンまでが俺に呆れたように言ってくる。
先週までの模擬戦で稼いだ俺の好感度が暴落している気がした。
…… ……
「それで、この少年……トミン君を討伐依頼に連れていけと?」
カレンが嫌そうな顔をする。
基本的に冒険とは身内でまわる物だ。
「ああ。お前らならトミンを守りながら行けるだろ?」
そう言うと、カレンはトミンの肩や腕を触っていく。
「細すぎる、危ないわ。これじゃあ硬いモンスターを一撃で屠れないわよ?」
守りながらって言ってるだろ。なんでトミンを戦力に数えてるんだよ。
「大丈夫です、カレン先輩。子供の頃から剣は振っているんです。結構できる方ですよ」
トミンがふんす、と自分の胸を叩く。
「……訓練場へ行くわ。ちょっとそこで素振りしてみなさい」
カレンに言われ、自信ありそうについていくトミンが涙目で帰って来たのは十分後だった。
「酷かったわ」
「体力の無さは致命的じゃのう……」
カレンとシアが申し訳なさそうにトミンに言った。
剣技自体は基本が出来ているらしいがすぐバテてしまうらしい。
「一撃で死んでしまうかもしれませんわよ?」
聖女の回復魔法も万能ではない。死んだらそれでおしまいなのだ。
一撃で死なない程度には体力が欲しい、というエレノア。
「わ、解ってない……よ。こ、この儚さが魅力だ……よ?」
シノブだけがホクホクした顔でトミンに熱っぽい視線を送っている。
「ト、トミンくんは、わ、私が守る……よ?」
「何バカな事を言ってるのよ。アンタがエレノアを守らないと万が一の時はみんな危険になるわ」
作戦を話し合うカレン達。
それでもトミンを連れていこうと悩んでくれるくらいにはいい奴らだった。
「オルタを連れていけばいいんじゃないかのう?」
シアが訳の分からない事を言うのを止める。
「なんでだよ、俺を護衛する人が必要になるだけだぞ」
「なんで護衛して貰うつもりなんじゃ……お主がトミンを守ればよかろう」
素の俺は逆にトミンに守られるくらいのステータスしかない。
どうやら俺は選手交代でシアから過大評価されているらしい。
「もしトミンが怪我したら俺の責任になるよな?」
「権利と義務はセットなんじゃぞ。ショタ少年に師匠と呼ばれる権利には弟子を守る義務もあるのじゃ」
「ロリがショタと呼ぶな。というか俺が師匠と呼ばせてる訳じゃないぞ……」
領主様のご子息だし、トミンさんの腰にあるトミン本体は俺よりもでかいんだぞ。
続きの言葉をぐっと飲み込む。
「そう言えば、セルリアさんはどうしたんだ?お前ら一人増えたからトミン守る余裕くらいあるだろ」
「ん?パーティーには入っとらんぞ?ワシらのパーティーは五人までって決めておるからのう」
五人まで……?フォナフィナ二人は入れなくなる事が確定した。
「五人だと割りやすいじゃろ」
「確かに報酬は均等割りだからな」
基本的にお金は五の数で割りやすくなっている。
一イエン、五イエン、十イエン、五十イエン、百イエン、五百イエン、千イエン、五千イエン、一万イエン。
五で計算しやすくなるようになっているのが解るだろう。
五倍、二倍、五倍、二倍、と続いてお金が出来ているが、これは理由がある。
これは片手が五本の指で出来ており、両手で十本になっている事によるのだと思う。
指一本を一イエンとして片手で五イエン。両手で十イエン
指一本を十イエンとして片手で五十イエン、両手で百イエン
指一本を百イエンとして片手で五百イエン、両手で千イエン。
もし将来的にお札が増えるとしたら、五万イエン札、十万イエン札になると思う。
えっ、二千イエン札?そんなの見た事ないぞ?
もし発行されたのだとしたら、笑ってやろうと思った。
「いや、お前ら今四人だろ……一人足りないじゃん」
「シアとカレンはオルタさんが戻る席に、と取ってあるんですのよ?」
そうエレノアが言うとカレンとシアが顔を背けた。
嘘つけ、ツンデレ風に顔を背けても俺は騙されないぞ。
だったらなんで俺を追放したんだよ。永久欠番かよ。
『あいつは絶対に戻って来る』とか言って開けてあるベンチかよ。
「あ……れ?上級や特級のダンジョンに適した職が出るまで開けとこう、だったよ……ね?」
割と使えそうだから、戻してもいいわねっていってたよね?と。
シノブが空気を読まない発言をするが、エレノアが呆れた顔でシノブの口を抑えた。
「まあ、いいけどさぁ……俺は本当に役にたたないからな?」
トミンの初依頼につきそう事になってしまった。
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