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第七十四話

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「あ、ありえない。なぜ、なぜ負けたんだ……」

 領主はくだらない物を見るように、シフトを白い目で。

 トミンはやや憐みを込めた意地悪い目でシフトを見ると、シフトは領主とトミンの視線を受けて首を振った。

「こ、これは……インチキです。私が負けるはずがない!」

「正々堂々と戦ったと思うんだけど、何がインチキだったのかなっ」

 シフトの言葉にややアロナがムッとする。

 シフトはやや怯えた表情を浮かべ、片手で汗を拭う。

「だ、だがインチキに決まってる。あんな人数で正規の領軍と真正面から当たって勝てるはずが無いんだ」

「そうだよね、確かに勝てるはずがないくらいの戦力差だよねっ」

「そ、そうだろう!貴様がどんなインチキをしたのかは知らんが領主様の前で恥をかかせおってただで済むと思うな!」


 そういうシフトに、領主は呆れたように溜息をついた。

「オルタ君と言ったな。素晴らしい戦いだった。貴方のような英雄が領地に居てくれてとても喜ばしい」

 そう言って領主は俺を指揮官として呼び、あまり対応できなかった事を詫び、俺を褒めた。

「なっ、こんな下賤な冒険者に対して頭を下げる必要は」


 インチキだと思うのは構わん。

 だが私の目には正々堂々と戦っていたように見えた。

 あんなろくに訓練もされておらず、牢で身体をなまらせたようなならず者達だぞ。

 若手とはいえ正規の領軍を率いるお前の三分の一以下の人数で勝ったんだ。

 あからさまでなければインチキをしてもいい、ならず者達を率いて勝てと言えば彼に勝てるのか?


 領主からのその一言でシフトは何も言えずに黙った。


 巨大な木馬に入って夜中に街を奇襲しようが、崖の上から石を落とそうが、川をせきとめ利用しようが。

 たとえインチキをしていたとしても、ズルいと皆から叫ばれたとしても。

 不利な条件で相手を倒せる人物……それは英雄なのだ。


「依頼完了だ。シフトにもいい薬になる事だろう」


…… ……

『また戦う時には呼んでねっ』

『俺は平和主義者だから戦う事も滅多にないぞ。非暴力主義者だ』

『オルタさんは誹謗力が高いからねっ煽り癖を辞めないとまた出番があると思うのっ』


 非暴力と誹謗力をかけたんだろうが、それは間違っている。

『俺がするのは批判や非難だ』

『何が違うのかなっ』

『批判や非難は事実に対して煽る事だ。誹謗は事実じゃない事で煽る事だ』

 

 カレンに脳筋というのは批判や非難だ。

 カレンはレズだと噂を広げるのが誹謗だ。

 

『……煽るのもほとんどはお前ら選手達だからな?』

 俺自身が相手を煽る事なんてほとんどない。

 結果的に煽っている事はあるが……。

『まあ、暇なら呼んでねっ』

 そういうアロナに、俺は頷いた。

 

『まあでも、軍を率いる事は基本的に無いからな?暇つぶしの相手になって貰うくらいだぞ』

 別に領軍の指揮官という訳でもないし、というとアロナは首を傾げた。

『軍じゃなくても、仲間を率いれば効果は発揮されるよっ』

 パーティーリーダーとかでもいいよというアロナに、俺は腕を組む。

 パーティーリーダーかぁ……。

 カレン達の事が思い浮かんだが、首を横に振った。

『俺をパーティーリーダーにしてくれ、負けないから大丈夫だ』

『何言ってるの?私達は負けた事ないわよ?』

 あいつらは全員が一騎当千だ。負ける姿が想像できない。

 負けが命を失う事と等価である冒険者において、そういうリーダーが必要なのだろうか。


『まあそっちも無いな。お前が暇ならいつ出てきてもいいぞ』

 俺は基本的に暇だからな、と言うとアロナは嬉しそうに頷いた。

 

 最近は、頼んでなくても選手達が傍にいる事が多い。

 特に商売の女神様とかな。

 

『軍神アロナ、ありがとな』

『オルタニートさんに、私の加護がありますようにっ』

 そしてアロナが俺に重なり、少しずつ薄くなって消えて行った。

【選手交代スキルに、軍神 アロナが追加されました。名指しで交代する事が可能になりました】

【軍神アロナの加護を取得しました。軍神により、仲間を率いた際のステータスに補正がかかります】

【選手交代【身体交代】を手に入れました。選手達から身体だけを借りる事ができるようになりました】

 選手交代【身体交代】?なんだこれ……。

 

「まあ、いいか……ファーストの街に帰ったら俺はしばらく働かないぞ」

 そう言って俺は、依頼の完了証明を受け取り、ファーストの街へと戻ろうと馬車へ乗り込む。


「じゃあ行きましょうか」

「……待て、トミン。なんでお前が居るんだ」


「冒険者から学ぶ事も多いだろう、オルタさんの元で面倒を見て貰えと」

「いや、お前……」

 まさか領主の子息を攫ったとかで指名手配されたりしないだろうな。

「無理だ、おかしいだろ……」


 そう言うと、トミンは懐から一通の手紙を取り出す。

『冒険者オルタニート殿の管理の下でのみ、トミンが冒険者として活動する事を認める』


 そして結構な金額の金貨が一緒に入っていた。

「金貨か。領主様はこれでお前の面倒を見ろと言ってるのか……」

 トミンは何も言わず笑顔で俺に目を合わせる。


 報酬と同額はありそうな金貨を数え……俺は仕方ないと頷いた。

 お金がある以上は、依頼なんだろう。

 領主からの依頼は断れないって言ってたしな。


 馬車に乗ってファーストの街。冒険者ギルドの俺の固定位置へと戻って来た。

 窓から風が入るベストな位置だ。


「冒険者登録しに来ました。トミンといいます」

 冒険者ギルドに一人の女の子のような可愛らしい容貌の少年がやってきた。

 オルタニートの弟子で、貴族らしい。


「受付嬢や女性冒険者達にモテモテだな。うらやましい」

 冒険者ギルドで登録して戻って来たトミンにそう言ってやる。

「これからよろしくお願いしますね、師匠」

「……ああ」

「あ、そう言えば証文は返してくださいね」

「証文……?」

【訓練の際に領軍が勝利した場合、依頼を成功と認める。また、追加報酬として依頼額と同額を支払う。トミン=ファースト】


 ……依頼でもなんでもなかったが、誘拐の手配書は回って来てないらしいので多分大丈夫だろう。

 そう思いたい。


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