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第七十一話

いつも読んで頂きありがとうございます。

このたび、タイトルを変えました!

活動報告では、タイトルで消した部分の回収予定……初期プロットの最終話予定だった粗筋を入れておきましたので、興味のある方は、良ければそちらにも目を通してみてくださいねっ

 よほど癪に障ったのか。いつもなら慇懃無礼な態度でねぎらうシフトが訓練場を出てから一切顔を見せなかった。

『あと二回勝てば終わりだねっ』

『勝てるのか?』

 飛び道具禁止。もっとも飛び道具と言ってもただの剣サイズの木の棒な訳だから、もう一回くらいいけそうな気がしないでもない。

『普通にやったら無理だねっ人数で勝る方陣を剣で倒せなんてのは無理だよっ』

『じゃあ、次はどうするんだ?』


 模擬戦 四日目

「では、四日目の模擬戦を始める」

「よろしくお願いしますっ」

 シフトが視線で射殺さんというように睨みつけるシフト。

「今日は剣を投げるのは禁止だ。きちんと用意された武器で戦うように頼むぞ?」

「今日も勝たせて貰いますねっ」


 トミンは今日も見ていた。

 こちらに軽く手を振るとアロナも手を振って返す。

 

 自陣に兵達を配置し、太鼓の音が鳴らされる。


 シフトは昨日のような方陣の中心……陣形の指揮官の位置には居なかった。

 九人九列の方陣を作り、自身は方陣の後方で残りの人数を連れ少し下がった位置へ。

 

 アロナは三人三列の小さな方陣を三組。二十七人で方陣を三つ作る。

『百人と三十人、って言うのはだいぶ違うな』

『そうだねっ』

 明らかに数が足りてない。九人九列の方陣、八十一人の方陣に対して九人の方陣のなんと心細い事か。


『英雄譚である敵兵一万を二千の寡兵で打ち破るっていうのは凄い事なんだけど、実はありえない話でもないんだよ。一万人が同時に全員で向かってくる訳じゃないしねっ』

 一万人と言いながら、一万人が行列を作って攻める訳ではない。

 攻める側は戦闘に参加しない部隊が必須だ。兵站にも伝令にも兵を出さないといけない。

 

『寡兵側は大抵防御側の決戦だからね。全兵力を集中して打ち破る。五百人人ずつに分けていれば各個撃破されうるし、地の利もある。領主の信用があれば、戦闘以外の民も協力してくれるかもしれないねっ』

『つまりはどういう事だ?』

『小さい人数になればなるほど、数の差って言うのはバカにできないんだよっ』

『そういうものなのか?』

『だからその差を埋めるために工夫が居るんだ。飛び道具であったり、罠であったり、武器の性能であったりねっ』


「進め、敵は半数以下の人数だ。押しつぶせ!」

 歩兵のみの模擬戦だ。歩兵戦は特に士気が重要になる。

 大男が大声で叫びながら命を奪おうと突進してくると、戦った経験の少ない人間は恐怖で固まる。 

 だが、こちらも大声を張り上げて士気高く敵に向かっていく姿を見れば、流れにのって動ける。

 剣同士の戦争というのは、士気が高い方が有利に進められるのだ。


『その点、飛び道具は強いよねっ』

 敵の届かない位置から攻撃できるというのは戦闘において有利なのだ。

 飛び道具のメリットは、威力よりも届かない位置から攻撃できるという特性にある。

 敵を恐れず攻撃ができるため、士気が低くても、未熟な弱兵でも数えられるような戦力になり得るというのが一番のメリットだ。

 熊相手に剣で戦うのはよっぽど鍛えている人でもなければ、戦う気力すらおきない。

 だが罠にかかった熊を、熊の手が届かない位置から攻撃できれば、どんな弱兵でも攻撃できる。

 

 だが当然デメリットもある。

 弓は矢が必要でコストがかかるし、習得までに時間がかかる。

 スリングは発射までに時間がかかるし命中率が悪い。

 大量の飛び道具を扱える兵を揃えて戦果を挙げるためには、訓練や兵装を整えるコストと時間が歩兵よりもかかるのだ。

 

 遠くから攻撃できて、コストが安く、扱うのに時間がかからない武器。

 そういう武器が存在する。


 槍である。


 兵を前進させ飲み込もうとするシフト。

「前進せよ、人数差があるのだ。包み込んで倒せ!」

 

 ならず者達が持った武器を持ち構えたのを見て、アロナは満足そうに頷き、シフトは構えられた武器を見て思わず声を漏らした。

「なんだそれは……!」


 アロナはならず者達に伝え、自分の武器……木の棒を長くする事を伝えられ準備をしていた。

 開始の合図までの時間を使い、木の棒を四つ布で固く縛って繋げてただけだ。

 本当の戦場でこんな事をしていたらおかしくなったと思われるだろう。


 だが武器に当たったら以降戦闘に参加してはいけない、というルールで

 そして魔法で武器があたったアウトを管理しているこの模擬戦においては、有効な武器だった。

 

「敵を近づけさせないようにねっ」

 三人三列で、一列目は槍を地面に固定するようにしてしゃがみ、二列目は前列の方へと向けて中腰に。

 後方は背の高い者が槍を前へ向け構えていた。

 

 剣道三倍段という言葉がある。

 最近は素手に対して剣で戦うと三倍の技量が必要だ、と勘違いしている人もいるが、本来は槍や薙刀に対して剣で挑む場合を言う。

 

 剣のリーチは一メートル程度。四つの木の棒を繋げた槍は四メートル。

 長さはリーチを取る意味でも威力でも剣に勝る。

『西には長槍兵、東には三間槍兵。長い槍を使って打ち破るという話はいっぱいあるんだよっ』


 剣を持ち槍兵を倒すためには、槍の間合いの四メートルを超えて、剣を振るわなければならない。

 

 歩数に直して、一歩で一メートルを踏み込む大男だとしても、四歩。

 時間に直しても一秒以下の速度で四メートル踏み込むのは難しい。

 それに対して、槍を突き出した兵は、来た方向に舵をとり兵にあたるように動かせば良い。

 この、武器が当たればアウトという模擬線においては、威力は必要ない。

 リーチを使って、踏み込んでくる前にあてればよいのだから。

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