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第六十八話

 スキルを発動すると俺の頭上の空間が歪み、歪んだ空間から光が差し込む。

 頭に輪をつけた二十代前半くらいの光り輝く美しい女性が空からゆっくりと俺の目の前に降りてくる。

 天使は俺の前に降りると、にこりと蕩けるような微笑みを浮かべた。


『ウグイス嬢』と書かれている白い衣にラッパを持ったチビ天使が二人。

『解説』と書かれた帽子をかぶっている二人からリズミカルなラッパの音が鳴り響く。

 

「オルタニート選手、追い込まれました」

「指揮官として五戦のうち既に二連敗。負け越し寸前の土壇場ですね」

 相変わらずチビ天使達は俺を煽ってくる。

 

 空中をふよふよと浮いているチビ天使達の帽子を奪うと、すぐに奪い返されついでに顔面に蹴りを入れられた。

 こいつら、乱暴さが増してねえか……?


「人に嫌がらせをする人としても最低なオルタニート選手の代わりは誰になるのでしょうか」

 ウグイス嬢は白い衣の内側からマイクを取り出し、透き通るような綺麗な声で選手交代を告げる。


「ヤクタターズ、選手の交代をお知らせします。オルタニート選手に変わりまして、【軍神、アロナ。軍神、アロナ】

 空間の歪みから大きな弓を持った小柄な女性が現れる。

【軍神】という重い言葉とは裏腹に、筋肉質でもない普通の体系の女性だ。

 歳は……二十代後半くらいだろうか。


 役目は終わった、と空間の歪みに帰っていく天使達。

『アロナだよ、よろしくねっ』

 そう言って現れた女性は、ペロリと舌を出して少女じみたあざといポーズをする。

 ……本当に大丈夫なんだろうか。


『とりあえず、兵を見たいなっオルタさんの記憶からだと、兵とも言えない酷さっぽいけどねっ』

 そう言って、アロナはならず者兵の部屋。倉庫の一角へ布団を敷いて寝起きしている兵達の所へと向かった。


「指揮官様、なんでしょうかね」

「チッ、どうせ指示に従えとか言うだけだろ。従ったのに負けたってのによ……」

『いや、お前らは全然従ってねえだろ!』

 そう叫ぶがアロナと交代した俺の言葉は兵達には届かない。


 元々は処刑予定の囚人達。活躍すれば雇用されるとは言うものの、活躍しようと飛び出すが、若手とはいえ正規兵には全く歯が立たず。

 落ち込んでいる人も居れば、怒っている人も居る。

 

 個だけで言うと、能力が違う。

 かたや才ある者から選りすぐりお城勤めで毎日を訓練と鍛錬に費やす正規兵。

 かたや社会からはみでたならず者な上、筋肉が落ちるまで拘束された直後の囚人兵。


 獲物も向こうが訓練で慣れている剣と同じサイズの木の棒だ。

 戦うとなれば一対一でも難しい。

 

 全体で言うと、数が違う。

 相手は三倍の人数が居るのだ。

 一つの考えの元に動く……軍の連携というのは難しい。

 

 地の利が全くない。

 訓練場という相手の知り尽くした場所で、踏み込む土が固いのか柔らかいのかすら解らない。

 身を隠そうとも隠れる場所もなく、ゲリラ戦もできない。

 

 そうアロナが厳かに言うと、ならず者達はみな気分を落ち込ませていった。

 沈んだ雰囲気の中、

「大丈夫、勝たせてあげるよっ」

 そうアロナは皆に向けて言った。


 模擬戦 三日目

「では、三日目の模擬戦を始める」

「よろしくお願いしますっ」

 シフトが嫌そうに顔を顰め、アロナに向けて言った。

「今日はまともな訓練を期待しているよ、オルタ君」

「はい、今日から勝たせて貰いますねっ」


 アロナはよろしくお願いしますと頭を下げると、シフトは顔を引き攣らせた。

 

 少し離れた位置でトミンが訓練の様子を見ている。

『アロナ。トミンが見てる。昨日あんだけ吹いたんだから頼むぞ』

『吹いたのはオルタさんだけどねっ』

 

 お互いに自陣に配置させ、開始の合図を伝える太鼓の音が鳴らされる。


 シフトは百人。二十人ずつに分け、五列に並べる。

 アロナは三人一組。一班から十班までで三十人だ。

『三人一組というのは、一番パフォーマンスが出せると言われている組み合わせなんだよっ』


 アロナは中央、中軍に三組九人。右翼と左翼は少し下げ三組九人ずつ。最後に一組を右翼より少し前に配置する。

 


 昨日までのように、ならず者達は走り出さない。

『昨日まで全然言う事を聞いてくれなかったのにな』

 ただ突っ込むだけだったならず者達が、それらしく陣形らしい物になっている事に驚く。


 昨日まではそれぞれがバラバラに敵に向かって突っ込むだけだったため、単純に数の利だけで抑え込めた。

 だが今回は三人一組を徹底させている。

『勝てそうか?』

『普通は勝てないよねっ』

『寡戦での勝利とかは割と軍記物には出てくるぞ?』

『こういう訓練は別だよ』

 五百の軍で三千の軍を倒した。千の軍で五千の軍を倒した。

 そういう話は、英雄譚を見るとそこそこ転がっている。

 だが、大抵のそういう話には【理由】が存在しているのだと言う。

 

『奇襲、急襲、地形、伏兵、包囲・挟撃、武器の差、兵の差、一騎当千の兵や将軍、裏切り、騙し討ち、籠城。寡兵で破ったエピソードは大体これらのどれかだよっ』

 そしてアロナはこう続けた。

『お互いならんで、開始って合図を待っている時点で、さっきあげた中のどれが使えると思うかなっ?』

 

 夜に寝静まっている頃に攻める奇襲や急襲は無理だ。

 開始の合図を待っている時点で、両者とも準備完了だ。準備ができていない敵を攻める事はできない。

 地形も訓練場だから平地で同じ。伏兵も視界を遮る物が無い所で、相手の目の前でどこに兵を隠せると言うのか。


『武器は両方とも木の棒。兵の差はむしろ相手の方が練度が高い。騙し討ちや籠城もできないよっ』

 残るは、包囲と挟撃くらいだった。

『包囲は相手よりも人数が多くないと包囲は難しいね。機動力があれば挟撃できるけど、みんな歩兵だし回り込むのも難しいよねっ』

『じゃあどうするんだ?』


 領軍の若兵……遊撃隊がこちらの陣に向かって突撃してくる。

 中央を突っ切る形で、俺達を目掛けて走って来る。

 偃月の形のから、中軍がそのまま後ろへと引き、鶴翼の形に変わる。右翼と左翼は中軍が下がった後を埋めるように閉じた。

 挟撃が決まり、領軍の若兵達が倒れる。

 

 手早く勝負をつけようとしたシフトは、囲まれた部隊を見て軽く目を細めた。


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