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第六十六話

 兵に一番求められる事は、指揮通りに動ける事だ。

 次に全体が同じくらいの練度で足を引っ張らない事が重要だ。

 そして、全体の練度が出来る限り高い状態である事が望ましい。


 冒険者は少し違う。一番求められる事は、自分自身を高い練度に保つ事だ。

 次に個が自分の役割を意識して連携を図れる事が重要である。

 

 冒険者が領軍の訓練に参加させられる事は割と良くある。

 

 いざと言う時は、徴募兵や傭兵として国防に付く可能性が一番高いのだ。

 農民、商人、工人と違い町の機能にあまり影響しない。

 

 農民を徴兵すれば食料生産ができなくなる。

 商人を徴兵すればインフラが整わなくなる。

 工人を徴兵すれば鍛冶や設備が整わなくなる。

 

 できれば戦い慣れて、鍛えられた人材を集めたい。

 冒険者を徴兵しても、目に見えて困る箇所はない。

 

 正規兵の二軍扱いだ。

 優秀であればそのまま一軍……国で雇用する事もある。

 

「ギルドから派遣されてきました、オルタニートです」

「よく来たな、私が領軍の指揮官、シフトだ」

 俺の手を強く握るシフトに、よろしくお願いしますと声をかける。

 

「模擬戦の指揮官を求められているとの事ですが、具体的に話を聞いてもいいですか?」

「ああ、こちらへ来てくれ」


「まず、オルタ君は彼らを率いて貰いたい」

 死兵として戦闘経験が豊富な冒険者を指揮に据え、傭兵、山賊、海賊、ならず者を徴用して戦うという事もある。

 それは知っていた。


 三十人くらいのならず者の集団だった。

 仮だが上官である指揮官の俺にガンを飛ばし、睨んでくる。

 

「シフトさん?」

「彼らは国を荒らしていた反社会的組織のメンバーだ。処刑が決まっているのだが、模擬戦で活躍すれば兵として雇用される」

 どうせ処刑するなら兵士達の経験値になって欲しい。

 雇用したら最前線送り、逃げても他国で逃げるならそれでも良し。

 そういう声が聞こえてきそうだった。


「彼らを率いろと……?それで模擬戦の相手は?」

「領軍の若手の正規兵だ。兵士達の経験にもなるだろう、数は百人だ」

 三倍を超える人数である。


 通常、練度に差があっても三倍を超えると勝てないと言う。

 寡兵で大群を破る物語は多くあるが、どれも策が決まるか地形や伏兵を利用して勝つのだ。


 人数をより少なくして考えると解りやすい。

 三人を相手に一人で勝てるだろうか。

 レスラーと子供くらいの差があれば勝てるかもしれないが、大の大人同士でそれほどの差は突かない。

 特に武器があれば、その差はほとんど無いに等しい。

 有名な剣士が人の三倍の速度で剣を振るえたとしても、凡人の剣士三人が一回ずつ剣を振れば同じ効果が得られるのだ。

 兵法にも、弱者を集め少数強者を攻めよとあるくらい、人数の差は覆すのが難しい。

 

「勝利しろ、とは言いませんよね?」

「そんな無茶は言わんよ。指揮官として戦ってくれればいい」

 つまり負けろと。

 

「そもそも彼らに指揮官は必要ですかね?彼らの誰かに指揮をとらせればいいのでは?」

「それだと烏合の集で相手にならないだろう?」

 指揮しても相手にはならないと思うが。

 

「正規兵から指揮官を出せばいいのでは?」

「変な癖がついたり、自信を無くされても困るのだ」

「使い捨ての冒険者の指揮なら変な癖がついてもいいですし、自信無くしても問題ないですからね?」

 そう皮肉げに言うとシフトは笑って言った。

「まあ仕事だと思って頑張ってくれ。訓練は五日間、五回の模擬戦を行う」

 

一日目

「なんで言う通り動かないんだよ!」

「うるせえ、ぶっ殺すぞ!」

 開始と同時に突っ込んだならず者達を遠くから棒を使って抑え、個別に潰していく。

「だから、お前らはここを守れって!」

「うるせえ、ぶっ殺すぞ!」

 指揮官……大将の俺を置いたまま飛び出し人数で勝る敵兵に囲まれる。

「ギブアップ、負けだ負けだ!」

 若手の正規兵達は俺が負けだと手をあげているのに、思いっきり棒で肩を殴りつける。

 ボコボコにされて勝負がついた。

 

二日目

「いいか、俺の言う通り動けよ?動けよ?絶対動けよ?」

「うるせえ、ぶっ殺すぞ!」

 開始と同時に突っ込むならず者達が個別に潰されていく。

「ちくしょう、突撃だ!」

「だから、大将を置いたまま突っ込むなって言ってるだろう、このバカ!」

「うるせえ、ぶっ殺すぞ!」

 うるせえ、とぶっ殺すぞ、しか言わない。

 俺のいう事を聞いてくれない。

「負けだって……負け」


 若手兵達は俺が負けだと手をあげているのに、棒で俺の頭を殴りつけた。

 

 訓練用の棒とはいえ、頭に受けると死ぬこともあり得る。

 頭を庇うように(うずくま)るが、その間も頭や身体を狙うように殴り続ける。

「やめろって、もう終わりだろう、終わり……」

 呂律(ろれつ)がまわらず、最初に殴られてから視界がグルグルとまわっている。

 

 終了の合図がなったあと、そっと顔をあげ兵達の顔を見て察した。

 俺を攻撃する愉悦に歪んだ汚い笑顔を見て何となく解った。


 若手の正規兵達のストレス解消に使われてるんだろうなあ、と。


読んで頂きありがとうございました(*^^)


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誤字報告してくれた方、ありがとうございます!

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