第六十三話
税金……それは領地の基幹機能の一つである。
【酒池肉林】酒を以て池となし、肉を懸けて林となす。
酒を池に満たして美女を侍らせてるという贅沢ごとの印象があるが、
火の上にのせ立ち上る煙が林のようだ……とかなんとかで肉は肉欲とは関係ないらしい。
税金ときくとこういうイメージを持ってしまうが……
人が住むにあたって必ず外敵が現れる。
野生動物や魔物、人と土地を得ようと侵攻してくるような他領地に住む人間などだ。
軍は徴用兵よりも当然、職業軍人の方が選りすぐられ精鋭になる。
朝に畑を耕し昼から訓練をして眠る十人の兵士よりも、厳しい軍人基準を満たし、
素質がある上に朝から晩まで訓練をする職業軍人の方が当然強くなる。
その職業軍人のお金はどこから出てくるのか?税金からだ。
平等に判断しなければ裁判も金の積みあげ競争になるかもしれない。
見張りの衛兵を民営化すると賄賂で大きな犯罪を見逃すかもしれない。
税金を払う事により、領地の治安は維持されていると言ってもいい。
上下水道や道路や橋の整備。
すぐに利益を見込めないような探索事業や教育に研究開発事業。
領地の人が受けている恩恵の基本的な部分は、この税金から作られている。
某国では、テロに次いで脱税が重い罰を受けるらしい。
どっちも国を滅ぼす行為だ、と。
それは解る。うん、だけど……
「ギルドの仕事は清算日に税金を引かれた額が支払われるんじゃないのか?」
なんのための清算日だよ……と俺が悪態をつき衛兵に言うと、衛兵は首を横に振った。
「そっちじゃない……」
「そっちじゃないって。土地も財産も無いぞ、なんの税金だよ」
「所得税だ……。隣街のギルドから」
『9,785,000イエンか。こんな額、週に五十万イエン貰ってた賢者時代でも見た事ないぞ』
あぁ、アレか……うさぎの角か。
あれはギルドとの直接取引だから税金かかるんだっけ……。
「すみません、忘れていました。いくら払えばいいんでしょうか?」
ゴネても得は無い。頭を下げて額を尋ねると……
「年間に八百万イエンを超える場合は七割だな。それに追徴課税が入る」
リルイとカガリに貸した百六十万イエンを引くと、銀行の金を全部おろしてギリギリ。
具体的には子供のお小遣いくらいしか残らない額になってしまった。
「次からギルドを通さない商売はきちんと申し出るように……」
お金を取られ、説教され、ようやく解放され詰所から外へ出る。
まあ、お金は構わない。こっちには強い味方がいるのだ、どうにでもなるだろう。
『マニー様、マニー様』
『なんやの?』
『どうか、どうかご加護を……具体的には、またお金を稼いで頂きたく』
『交代は嬉しいんやけどな、オルタはんもたまには働いたらどうやの?』
甘えすぎやで?とマニーが冷たく首を振る。
『選手交代使ったら、そら稼いだるけど……』
『そうか、じゃあ……』
『わっちのアドバイスを聞かんと金作る道具代わりにするんやね?軽蔑するで?』
色々とお世話になっているマニーにそう言われて、俺は踏みとどまる。
…… ……
夕方になり、服を少し汚したカレン達が帰って来る。
「……朝からずっとそれやってるの?」
「朝と同じ格好じゃのう……」
カレン達は、俺を見て呆れている。
どんだけ暇なんだ、とでも思ってそうな顔だった。
「違う……今日は大変だったんだからな」
朝は楽な体勢を取ろうとして机に突っ伏していた。
今は税金を支払いお金が無いが、働く気力もなく突っ伏しているのだ。
「税金を納めていなかったらしいぞ」
ギルドマスターがバカにしたように言う。
「まあ、これで依頼を受けないといけないわよね?ねえ、オルタが良ければ付き合ってあげてもいいわよ」
「そうじゃな、金が無いならワシらと一緒についてきてもよいぞ?」
朝は『一緒に行こう』、と対等な立場だったのだが
『付き合ってやろう』『ついてきてもいい』と上から目線にシフトしていた。
「……いやだ、働きたくない」
駄々をこね、ぐずる俺にシアが腕を組み、
「でも、お金が無いなら働くしかなかろう?」
聞き分けがない子供を言い聞かせるような言い方で働けと言ってくる。
「どうせ働くなら頭を使うのがいい。冒険とかじゃなくて、何かないだろうか?」
「なんで冒険者ギルドに登録している冒険者が冒険を嫌がってるんですの……」
「オ、オルタは、か、賢くないよ……ね?」
シノブがキョトンとした顔で心を抉って来る。
「そもそもお主は頭を使うのにむいとらんじゃろう?」
元賢者になんて言いぐさだ。
何かいい方法は無いだろうか……。具体的には、今日食べるご飯も無い。
「もうほっときなさいよ……」
いつ注文していたのか。シアがビールとチキンステーキを俺の目の前に並べて食べ始める。
俺がじっとシアの食べる姿を眺めていると、気持ち悪そうに身体を引いた。
「な、なんじゃ?」
「腹が減った」
そう言うとシアは、ふむ?と声をあげ、
「……頼めばよかろう?」
正論で返してきた。
「金がない」
「……我慢すればよかろう?」
「くれないか?」
「……いやじゃ」
シアが、クズを見るように不躾にで俺を睨む。
アジュールに交代していた時にデレていたシアはどこにいってしまったんだろう。
「おい、オルタ。頭を使う仕事が欲しいんだろう?ちょうど指名依頼が来ているぞ」
【領軍の訓練、模擬戦の指揮官として冒険者の派遣を求む】
その内容の下には、ロットの街の領主印がおされていた。
「領主からの指名依頼だ、断れねえぞ?良かったな」




