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第六十二話

 護衛依頼を終えた俺たちは、ロット国ファーストの街へとゲートを使って戻った。

 慌ただしい日はもう終わりだ、俺はいつものように冒険者ギルドの隅っこの席を陣取る。


「あんだけ働いたのは久しぶりだ。もう俺はしばらく休む。絶対働かないぞ」

 冒険者ギルドの隅の机で俺はつっぷし、のびをする。

「オルタ、いつも働いているような口ぶりは誤解を生むわよ?」

「働いてたじゃないか!」

 カレンがヤレヤレ、と首をオーバーに振り、シアやシノブ達と顔を見合わせる。

 困った子供を見るように、みなが覚めた目で俺を見やる。


「まあ、いいけど。私達は冒険に出るわよ?」

 護衛から帰って来て、すぐに依頼を受けようとするカレン。

「まだ暴れたりないのか?」

「違うわよ……。ロットの街をしばらく留守にしてたから、難度の高い討伐依頼が残ってるのよ……」


 冒険者ギルド、少しは仕事しろよ。


「ごめんね、今回は私達の国が原因だし私も手伝うわ。連れていってちょうだい」


 カレン、シア、エレノア、シノブ。いつものメンバーにシアの母、セルリアを加えて並ぶ。

 むさ苦しい冒険者達の中、素人に混じったアイドルチームのようだな。

「まあ、頑張れよ」

 俺が手をヒラヒラさせると、カレン達が微妙そうな顔をする。


「オルタ、もう冒険者に戻ったんだし……今日は私達と一緒に行く……?」

 そういえば前にスキルを借りる能力を得た時に無双して冒険者に戻されたんだったな。

「行かねえよ……俺、お前らのパーティーじゃないし……」

「なあ、オルタ……そんなにいつまでも拗ねんでも良かろう、ほれ、わしらと一緒に」

 シアの言葉にも俺は首を振る。

「あんだけ働いたのは久しぶりだ。もう俺はしばらく休む。絶対働かないぞ」

 ギルドに戻って来た時と同じセリフを言う。

 

「怠ける癖が付くと戻すのに大変ですわよ?」

 大丈夫だ、もう既に怠け癖がついてる。

  

 怠け癖、というのは中々に抜けるのに時間がかかる。


 毎日同じ事をルーチンのようにしていると、習慣になる。

 習慣になれば苦痛がなくなる。

 

 毎日働いている人は、働く事に苦痛を覚えない。

 毎日時間がかかる通勤も、苦痛を覚えない。

 作業のようなログインボーナスを貰い周回するソシャゲも、苦にならず続ける事ができる。


 習慣が外れた時、そこからまた習慣化するのには、かなりのエネルギー……意思が必要になるのだ。

 新しく始めるよりも強いエネルギーが必要になる。

 

 毎日働いている人が、会社を辞めれば働く事が苦痛になる。

 遠い通勤先も、近くに引っ越せば元の場所から通うのは考えなくなる。

 ソシャゲもいったん消して一月ほどたってしまえば、再びソシャゲをしようという気力が消え失せる。 


「明日から本気を出す」

「それ、明日が永遠に来ない奴じゃろう……」


 異世界に行ったら本気を出す、だと異世界に連れていかれると本気を出さないといけない。

 だが明日は永遠に来ない。明日という概念は常に平等に、どの時間軸でも訪れていないのだから。

 ビバ!明日という概念!

 

「……そう、じゃあ私達は行ってくるわね」

 そう言ってやや肩を落としてカレン達が冒険者ギルドから出ていく。


 冒険者ギルドの冒険者達が依頼を決めて出ていく中、俺はいつもの席で机に突っ伏して日向ぼっこをする。


 窓から入る暖かい風、揺れる草木を眺めながら、俺は呻くように言った。

「暇だ……」

 俺のダラけ具合に、ギルドマスターが疲れたような態度で目頭を揉み、俺に声をかける。

「暇だ暇だと言うくらいならお前も依頼を受けたらどうなんだ?」


「明日から本気を出す」

「ちょうどよかった、明日から開始の依頼だ。今日は依頼受託のサインだけでいいぞ」


 明日の日付が入った依頼書を持ってくるギルドマスターに、俺は軽く舌打ちする。

「……断る」 

「……クズめ。働きたくなくても月に一回は依頼を受けろよ?」

 領主命令で冒険者に戻したのに規定依頼数に満たず除名になったら責任問題になるからな。

 そう言ってギルドマスターは奥の部屋へと戻っていく。


『本当に暇だ。何か面白い事は無いか……?』


『……働いたらええんと違う?』そう冷たく言うマニー。

『働きなさいよ……』こちらも冷たい偽カレン。

『働けばいいだろう』とスキャム。

『働きなよ……』アジュールまでが俺を非難する。


 働けという選手達に、俺はそっぽを向いた。

『……働こうとしてたのに、言われたからやる気無くなった。今やろうとしてたのに!』

『それ反抗期の子供の言いぐさだよ……』

 外見ショタのアジュールが子供のようだと呆れたように首を竦める。

『片付けようとしてたのに、ママが片付けろと言うからやる気無くなったんだ!』

『誰がママや……』

 こちらも呆れたようなマニー。

 

『稼がなくてもまだお金があるしな……まあ金が無くなったら働くさ……』

 選手達と頭の中で会話を楽しんでいると。

 

「貴様がオルタニートか……?」

 聞き覚えの無い声に振り替えると、そこには衛兵が四人程で俺を囲むように立っていた。

「あ、ああ。そうだ……が?」

 俺が頷くと、手に持った槍を突きつけられ、手枷をはめられる。

「な、なにするんだ。俺は何もしてないぞ?」

 そう俺が言うと、衛兵は首肯する。

「そうだ、何もしてないのが問題なんだ……」

 ん……?

「貴様……税金を払って無いだろう」

 

 確かに、払っていなかった……。

ひさびさの更新です。体調不良が続き、急な用事も入り。

だいぶ開いてしまいましたが、無事更新できました。

習慣化は大変ですね……取り戻せるよう頑張ります!

読んで頂きありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1.少し上がりすぎた?主人公の株がいい感じで落ちました(笑) 基本ダメ人間なので、まあ、冒頭の解雇も概ねしょうがないんですよね。 2.まだ、物語が続きそうなところ。後書きであらかじめ伝え…
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