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第六十一話

 宰相の派閥の兵士の動きに合わせて、老貴族達もあわせて兵に捕らえるよう命令を下す。

 エルブンシアが小国とはいえ、今ここにいる兵士達は毎日訓練をしている職業軍人だろう。

 綺麗な等間隔の陣形で、全員が動きを揃えて抜剣する。

 

 カレン達のような特級職はいなくとも、国のトップクラスだ。

 上級の中でも経験を積み、特級に近い実力の人物もいる。

 

 魔法に長けたエルフの国であるため、魔法の方の実力も合わせれば、特級剣士と言っても勝負は解らない。

 

 兵達は自分達に支援をかけ、宰相達を守るような位置取りをして、俺達を囲っていった。

 

 この人数差だ。

 強兵を集めた兵達は、一貴族あたり二十人。東西南北の四貴族に宰相派閥の二十人を加え、百人程が囲っていく。

 強兵で構成される二十人の部隊が五つもあるのだ、負けるはずがない、と。

 

 宰相も四貴族も、戦う兵達もそう思っていた。

 自分で支援をかけ、カレン達の死角から一人がカレンの足を狙い飛び出した。


 死角の位置から足を狙い動きを止め、後は嬲り殺しだと。

「遅いわね」

 カレンは死角の位置から足を狙った鋭い斬撃を、軽いステップで躱すと伸びた手を虫でも払うように切り付けた。

 別の位置から、また兵士が一人飛び出す。小槍で、突くように押し出したが、

「狙いが甘いわね」


 戦いにさえなっていなかった。敵が一振りする前にカレンは三度剣を振るう。

 敵の一振りは剣を振りきる事もできず届く前に見切られ、かわされ、攻撃を受ける。 

 カレンの剣の一振りは確実に最低でも一人以上の兵を戦闘不能にした。

 

 蹂躙、という言葉がしっくりくるほどの戦いぶりだ。

『返り血も躱すレベルの剣士なんて初めて見たよ』

 そうアジュールは呟いて、俺達は邪魔しないようにと一歩後ろへ下がる。


 特級剣士に向かうのは無謀だとシアの方を見るが、老貴族の直の旗下ではあるが主筋だ。

 元王族のシアに向けて攻撃をするのは躊躇いを覚えるのか、動きはしなかった。。

 

 もしシアに手を出せば……支援を受けている今であれば城ごと吹き飛ばす程の大魔法を数秒で構成できる。

 下手に刺激をするべきではない、と首を振り兵士達はカレンを抑えにまわるが……


「これで終わりね」


 最後の一人を死なない程度に袈裟懸けに斬り下ろし、カレンは剣をしまい一息つく。

 一太刀どころか返り血を受ける事もなく、カレンは兵士達全員を倒し終わった。

「死なない程度にしておいたわ」

 そう言って、カレンは満足そうに剣についた血を振り払うと、鞘へとしまう。

 死なない程度と言っても特級聖職者の異常なエレノアの回復ありきを基準とした死なない程度だ。

 全員が四半刻も放っておけば死ぬくらいの重傷である。

 エレノアが忙しそうに、兵士達を死なない程度にまで回復をさせていく。

 

「ば、バケモノどもめ……」

 残されたのは宰相とエルブンシアの地方を治める老貴族達が残された。

「これでようやく話ができそうだね。そもそも今回の責任は、王を殺害した宰相。宰相を選出した君達にあるよね」

 そうアジュールが言うと、

「ち、違う……私達は宰相がまさかアジュール王を殺害するとは思っていなかったのだ」

「そうだ、まさかこんなに愚かだったとは思わなかったのだ」

「シア様、貴方は自分の国が、エルブンシアが滅びても良いと言うのですか?」


「残念じゃが、儂はもう自分の国ではないしのう……」

 そう言って、シアはロット国の国民証と貴族証を取り出す。領地無しの子爵扱いだ。

「ば、バカな!王族が他国の貴族になるなど……!ありえない!」

 そういう宰相に、アジュールは言った。

「平時ならそうだね。王が殺害され犯罪者として処刑されそうな内乱が起きた土地の王女様だよ?」


 俺達は牢から逃げた翌日、観光ついでに大使館へと行き、すぐに現状を訴えた。

 内乱に加え処刑するという映像に証言する人もいるのだ。保護されない訳がない。

 特級魔法使いとして活動していた事もあり、ロット国はすぐに自国への亡命を受け入れてくれた。


 エルブンシアの王城に集まっていた民衆達が宰相達と貴族に対して侮蔑の視線を向ける。

 貴族達が起こした内乱や偽王の擁立を起こしたために、シア王女が亡命を受け入れられたのだ。


「それと、エルブンシアが滅びるじゃと?」

 そう言ってシアは首を傾げて続けた。

「領主がそれぞれの土地を。宰相と偽王とで中央を浄化するだけじゃろう?」

 

 ノブレス・オブリージュ。

 高貴な者は義務がある。

 水魔法に長けたサラブレッドの王族達とは異なり、効率は落ちる。

 民衆達の監視の元で、食事と睡眠時間を除いて常に浄化をし続けて領地を維持する事になるのだろう。

 エルフの寿命は長い。これから何年、何十年、何百年と寿命が尽きるまで、国土を浄化をし続ける事になるだろう。


 宰相と偽王、貴族達は民衆に引きずられるように連れていかれた。


『そろそろお別れかな』

 ショタエルフのアジュールはそう言って俺に笑いかけた。

 シアにそっくりな笑顔に、俺はお礼を言う。

『ありがとな、アジュール』

 そしてふと思い出したように、俺は浄化の魔石の事を尋ねてみる。

『作っていたこの浄化の魔石はどうするんだ?』


『それはオルタくんにあげるよ。効率的な魔石の作り方をセルリアとシアに伝えるのが目的だったしね』

 シアがエルブンシアを救いたいと思えば、浄化の魔石を作って浄化をすればいい。


『エルブンシアは浄化の魔石を売っていたけど、もう外に出す余裕はなくなるから……いろんな国に影響が出てくるよ』

 浄化の魔石は需要が高いわりに供給が少ない。

 エルブンシアが供給しないとなれば、浄化の魔石の価値は大きく上がる。

 

 そしてアジュールは俺に重なって、少しずつ薄くなって消えて行った。

 

『シアを宜しくね。シアは誰にも嫁にやらないと言ってたけど、オルタ君になら。責任を取ってくれるなら手を出してもいいよ』


【選手交代スキルに、蒸発エルフ アジュールが追加されました。名指しで交代する事が可能になりました】

【近くにシアが居る場合は特別なスキル無しでアジュールが出て来られるようになりました】

 ……お前がシアに会いたいだけじゃないだろうな。


「ん、どうしたのじゃ?オルタ……?」

「なんでもねえよ。よし、帰るか」

「今回のお主はなかなかカッコ良かったのぅ。見直したぞ?」

 シアの頭をアジュールがやっていたのを真似て軽くポンポンと叩く。

 いつもなら飛んでくる罵声も、今回は飛んで来なかった。



2021.01.23

誤字報告ありがとうございます!

報告して頂いた方に感謝を(^^)/


新型コロナ……では無いですがちょっと体調を崩しており更新が遅れております。

たのしみにされている方には申し訳ありません。


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