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第六十話

「な、き……貴様!」

 アジュール……選手交代したオルタニートの姿を見て、声をあげたのは宰相だけだった。

「シア様はどこだ!」

「えっ、処刑したんじゃないの?」

 煽るように言うアジュールに、宰相が顔を赤くする。

「シア様を渡せ!王族の義務を果たして貰おう!」


『それは本当にシア様を騙る偽物だったのだ!』

 先ほど言った会話を同じように再生すると、宰相は黙った。


「偽者にも義務があるというなら、本物扱いされている偽物の方が義務を果たすべきではないのかな?」

「だ、だが……」

「宰相もそこの偽アジュール王も水魔法は使えるんでしょう?なら宰相と二人で浄化を頑張ればいいよね」


 そう言うと、偽のアジュール王は首を横に振った。


「浄化を魔石に貯めるとなると……魔力が不足しているので」

「そうだ、シア様……特級魔法使いくらいの水魔法の使い手でなくては魔石に浄化を入れるのは無理だ」


「魔石に貯めなくても、移動して浄化を直接かければいいんじゃないかな?浄化の魔力も少なくて済むだろう?」

 領主貴族も水魔法には長けているはずだし、全員で協力しながら浄化をかければいいんじゃないかな?

 そうアジュールが言うと、宰相だけではなく貴族達も文句を言い始めた。

「バカな事を……そんなもの奴隷ではないか!」

「エルブンシアの初代はそうやってたよね?」

 アジュールがそう言うと貴族達も騒ぎ始める。

「そのような無駄な事をするなら、国を無くした方がマシだ!」


「そうかい……?それなら良かった」

「そうじゃな、儂らの行いは無駄な事じゃからな……」

 シアも湧いて出てくる。

「な、シ、シア様!いったいどこに!?」


…… ……

『オルタくんも大変だねえ』

『変わってくれよ!選手交代しただろ!』

 攻撃を躱したりする時に何もない空間に囮を作り操作する事ができる魔法がある。

 そのデコイの座標を俺の位置にピッタリ合わせ、俺の言葉をアジュール経由で伝えているのだ。

『そんな魔法使うよりも、こいつらを相手にする方が楽だろ』

…… ……


 牢から出た俺達は兵士のデコイを作り、自分達の座標へと合わせた。

 攻撃を躱せる……魔法も騙せる高度な偽装が可能なのだ。

 兵士に偽装した俺達は隠し通路を通り城外の宿屋へと移動する。

 いくら探しても、デコイによって偽装された俺達の姿は見つかる訳がない。


 後は観光しながら民衆が王城に乗り込むタイミングで紛れて入り込み、タイミングを待っていた。


「シア様、浄化の魔石を作っていただきたい!」

 宰相だけでなく貴族達がこぞってシアの元へと集まる。

「国を無くした方がマシだと言っておったじゃろうに……」

 そう口を尖らせシアは自分達が宿屋に潜伏中に作った浄化の魔石をいくらか出す。

「父上を殺害し儂と母上を偽となじり、儂の仲間をも処分しようとした国の為に出す必要があるのかのう?」


「それは、この宰相の独断で……」

「宰相職は貴族達で決める枠じゃろう。お前らに責任がないとは言わせぬぞ?」

 有無を言わせぬ強い口調で、宰相達に言う。

「貴族制でもなんでも良い。お主らが望んだ権力じゃ。好きにすれば良い」

 シアはアジュール王を思い出したのか、宰相と貴族達を睨んだ。

「父の仇のお主ら……反逆者のお主らの為に何かをするのはまっぴらじゃ」

「捕らえろ!エルブンシアの命運がかかっておるぞ!」

 東部、南部、西部、北部。中央の兵士達が俺達に剣を向ける。


「浄化するくらいなら国を潰すと言ってた口で、よく言えるわね」

 俺達が剣を抜き、構える。

「シア様、セルリア様は殺さず捕らえよ!他はどうなっても構わん!」

 貴族と宰相、偽王が兵達に怒鳴るように指示を出す。

 

 それを聞いて、カレンは剣を抜き

「舐められたものね……」

 そう言って、微笑み、シアに向けて言った。

「シア、これはもう仕方ないわよね……?」

 

 なぜシアが牢屋に捕まった時にあれだけ取り乱していたのか。

 なぜカレン達が牢に入れられ、力やスキルを封じられても大人しかったのか。

「絶対に暴れるでないぞ……?儂の国じゃからな……!」

「解ってるわよ、シアがいいと言うまで。私達が直接襲われるまでは何もしないわ……」


 なぜアジュールが偽装をかけてまで隠し通路を通って逃げるように城から出たのか。

 もしカレンパーティーでなければ、多勢に無勢と逃げるように脱出するしかなかっただろう。


『押し通る事もできるんじゃないか?』

『そんな事したらエルブンシアが潰れちゃうよ……』

 

 カレン一人であれば……それでも規格外だが特級剣士。剣の天才と言うだけである。

 パーティーは四人居るのだ。

 カレン達四人が揃えば、直接的な戦闘力……継戦力では俺が知る限り敵う者はいない。

 カレン達はソロでも屈指の強さを持つが四人揃った時は比類なき規格外なのだから。

 

「……う、うむ」

 シアの一言が待てをさせた狂犬を解き放った。


 エレノアが輝くような金髪をかきあげ、祈りを捧げる。

 聖女はスキルでもなく性質として、呪いやデバフ効果を無効化する。

 牢ではめられていた力を封じる首輪も実はエレノアに効果は無かったのだ。

 本気で逃げようと思えば、エレノアが解呪を唱えればすぐに逃げる事も出来たのだった。

 

「それでは支援しますわね……」

 特級聖職者、聖女のエレノアが支援をする。

 信者数が多い女神教の聖女様の支援は、はっきり言っておかしい。

 信仰により魔力切れを気にすることなく永遠に支援を打ち続ける事ができるのだ。

 さらも特級聖職者の支援能力に加え、聖女は信仰を集める事で支援効果に補正がかかる。

 

 特級聖職者のエレノアの支援により、カレン達の力が大幅に上がる。

 

 支援職のエレノアの元へ、拳闘武道家のシノブが庇うように立つ。

「支援だ、支援を潰せ!」

 宰相がそう叫ぶ。

 カレンとシア。特級剣士と特級魔法使いが、協力な支援(バフ)を受けているのだ。

 支援を潰すというのが、真っ当な戦術だろう。

 

 兵士達が一斉にシノブとエレノアに対して槍を付きだすが、それらは全部弾かれる。


「き、きかない……よ?」

 武器を持たないシノブは拳闘……殴りあう戦いに関しては特級の実力を持つが、

 レア職業である拳闘武道家は、その条件を満たす時に補正があるのだ。


 ビキニアーマー剣士が速度と防御力の大幅上昇に加えて【遠距離攻撃無効】を無効化するように

 マイクロビキニ魔法使いが【近距離攻撃無効】と【常時回復】を持つように

 戦場を素手でうろつくなど正気の沙汰とは思えないこの職業もまた、チート性能なのだ。


 拳闘武道家が素手で相手と戦う場合、まるで【殴り合う所を見せて楽しませろ】というような神の意思により【殴る以外の攻撃を完全に無効化】する。


 【フェアな勝負をしろ】というような神の意思により、【複数人数での攻撃は無効化】される。

 剣はおろか蹴りも無効だ。殴り合いでしかダメージは通らない。

 さらに【セコンド(一番近くの味方)への攻撃無効化】がある。

 この場合、セコンドは一番近くにいる仲間……エレノアになる。

 

 もっとも殴りあうため決め手も無い。

 相手がシノブだけだと特級武道家が連続で相手をして殴りあえば沈むかもしれない。

 だが一番近くにいるのは特級聖女のエレノアなのだ。

 エレノアの強力な支援を貰ったシノブの意識を一発で刈り取るような、そんな一撃のパンチを貰わない限りエレノアが回復させてしまう。

 そんな一撃は特級武道家でも無理な話だった。

 

 エレノアとシノブのコンビの支援は、倒される事も支援が途切れる事も無い。

 不沈の支援コンビなのだ。

いつも読んで頂きありがとうございます。

早いもので、もう六十話になりました。


余裕ができたら、章に分けて見やすくしようかなぁ……と考えていたりします。

ある日突然、章にわかれていたら、作者を褒めてあげてください。

褒めれば伸びるタイプなので(*^^*)

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