第六話
天使とチビ天使達は、俺に軽く手を振ると、歪んだ空間へと帰っていく。
河川敷には、俺と商売の神、マニーが残された。
十代半ばくらいに見える獣耳を付けた褐色少女だ。
「よろしゅう、わっちは商売の神やで」
小さな体躯の愛らしい顔立ちのマニーと呼ばれた少女は楽しそうに俺を覗き込んだ。
謎なスキルを使ったら神様を自称する可愛い少女が現れた。
「商売の神様って言ったか?もしかしてお金をくれるのか?」
お金をくれる少女を召喚するスキル!ダメ男の思い描く夢のスキルが俺の手に、と少し興奮する。
「やる訳ないやろ、商売の神様やで。商売せんで金を与えるのはわっちを舐めとるよ。バチ与えるで?」
商売って言ってもなぁ。俺商人じゃないし、とマニーに言うと
「商売しとるやろ?労働して対価を貰うんも、労働というサービスを売っとる。立派な商売やで。人が生きるためには必ず何らかの商売をしとるんや」
「貴族で金に困ってないような奴はどうなるんだ?」
「それは親が働いとるやろ。領地運営も商売やで?」
「じゃあその貴族の子供で働いていない奴はどうなんだ?」
「愛情を注ぎ可愛がられる子供を演じる商売をしとるやろ?パパ大好きって言ってお小遣いをねだる娘も、物を欲しがるキャバ嬢も、恋人におねだりする彼氏や彼女も、自分に好意を寄せてくれる人物を演じとる労働の対価やで?」
えぇ……全部演技なのかよ。
少女から歪みを感じる。
「で、いくらお金がいるん?」
「いくらでもいいのか?」
一兆イエンとか言えば稼いでくれるのだろうか。
「あんまり無茶な額言うたら長なるよ?」
「……?長くなるとまずいのか?」
「【選手交代】スキルはオルタはんの姿が見えなくなって、わっちがオルタはんに見えるようになる。今のオルタはんは、身体が無い幽霊みたいなもんやね」
なるほど……。無茶な事は言わないようにするか。
「でもあんまり小さい額で何度も呼び出すんはダメやで?」
「何か制限があるのか?」
「来るのが面倒臭い」
面倒臭いだけかよ
「今日と明日で稼げるだけ稼いで、とかできる?」
「いけるで?」
じゃあ額よりも時間や日数指定の方が正解か。
「じゃあ、取り合えず今日と明日稼いで貰っていい?」
少女に金を無心するヒモのような発言に対して
マニーは「任せとき」と薄い胸を叩いた。
「さて、それでお金はいくらあるん?」
俺が戸惑っているのに少女はイラついたようで、俺の足を蹴り言った。
「お金!時間も金みたいなもんやからな。無駄遣いやめや」
「三百八十イエン」
「解った、もうええ、予算無しやね。ちょっと神パワーで金策を考えるわ……あんたはそこらの川でなんかいい感じの木や綺麗げな石を拾うとき」
「木や石……?野宿でもすんのかよ」
…… ……
酒場の外でオルタニートが座っていた。
石や木を露店のように値札を付けて並べている。
「お、そこに居るのはカレン達に捨てられたオルタじゃねーか。お前何してるんだ?」
酔っぱらった冒険者達が酒場から出てきて、オルタを見つけてからかうように言った。
「ん?なんだかオルタいつもと雰囲気違わないか?」
「そうか?わっちはいつもとおんなじやで?」
俺に見えているらしいマニーが冒険者達と話をしている。
「あ、せやせや。これ、これどう思う?」
マニーが指さしたのは俺が川で拾った石だった。
「お、おお……?なんか綺麗な石じゃねえか」
「このあたりのカーブ、よう見てみ?美しないか?」
「……ああ、確かに。いいなこれ」
酔っ払った冒険者は、白い石を撫でながら言う。
「せやろ?それとある筋から手に入れた石やねん。六万イエンやで。安う買えたから、高く売ったろうかと思うてな」
「はぁ!?六万イエン、バカかお前、こんな石で六万イエンとか」
無いわ、と石を返そうとする冒険者。
「六万イエンやで……?こんな石に出会える事は無いやろ?よう見てみ?」
「……ん、んん?」
石を撫でまわした後、路傍の石を拾い見比べてみる。
「……う、む?」
川で磨かれた石は表面が削れ綺麗に研磨されたようになっている。
路傍の石とは表面が違うのだ。
「確かに違う気がするな。ツルツルしてる」
「せやろ?」
そして石を冒険者から取り返し、そっと十三万イエンと書かれた場所に戻す。
「実は六万イエンで買ったのはこの石だけでな。そっちの十二万イエンって書かれてある石見てみ?そっち実は五百イエンやねん。いうたらアカンよ?」
そして五百イエンという石を触る冒険者。
「……ん、確かに感触も違うな。さっきの石と輝きも違う」
そして酔っ払った冒険者は、先ほどの石へと戻る。
なぜこれが六万イエンするのか、理由を考えているようだった。
『おい、マニー。これ全部俺が拾った石だろ、大丈夫なのか?』
『大丈夫やって』
そして自分なりに六万イエンする理由を付けて納得したのか、満足した顔をして石を置いて去ろうとする所へ、マニーが声をかける。
「あ、ちょっと待ち。ほんまに他の石が五百イエンやと言わんといてや?」
「ああ、言わねえよ。じゃあな」
「おおきに、お礼にこの一番ええ石、八万にしといたるで?」
「高えよ、バカ!お前石の転売で二万イエンも持ってくんじゃねえよ」
そしてヤレヤレ、と首を振り、マニーは冒険者に流木の方を見せる。
「こっちの流木も買ってくれるなら仕入れ値の六万でええで?」
「……流木?それこそ無料じゃねえか」
「アホやな。流木やで?水を吸い、打ち上げられ乾かされた流木は天然の芸術品や。自然の声が聞こえてきそうやろ?これも職人が加工しとるからタダっちゅう訳ないやろ。ほら、これ何に見える?」
『ただのゴミにしか見えんのだが』
俺がそう言うとマニーは俺に黙ってろと睨みつける。
もっとも俺の声はマニーにしか聞こえないようだが。
そして冒険者は何かハッと気づいた顔をする。
「こ、これもしかして」
「せやで?」
『何がせやで、なんだ?』
『知らんがな……』
そして冒険者がそっと自分の剣を流木に置く。
「やっぱり、剣の飾り台か」
「お、よう気付いたな!せやで、それは剣の飾り台や。加工した職人も気付かれて喜んでるやろな」
「ま、まさか……おお、俺は二刀流なんだが、二本の剣をこうクロスに置くと……カッコイイな」
『流木に剣を置いただけに見えるんだが』
『わっちはそんなん知らんわ……人の感性はそれぞれ。かっこええ思うたらそれはかっこええんや』
そいつの中ではな!と付け加えるマニー。
「これはいくらだ?」
「十二万イエンやね」
「高えな……でも、うん。よし、買ってやるよ!」
「毎度ありぃ!」
…… ……
「なんで売れたんだ?」
俺がマニーに尋ねると、マニーは平然とした顔で言う。
「物っちゅーのは理由が見つかれば欲しくなるもんやで?」
よく見て考えてって言うと、色々考えて工夫して使い道を探す。
使い道が見つかったら、それを活かせるのは自分だけって考えが湧いてくる
そういう事らしい。
「商売の神としてのスキルで、わっちが取り扱う品物はすごくエエもんに見える。やたらと高い時計で聞いたことが無いメーカーでも、店員の話聞きながら綺麗なガラスケースに入ってたら欲しくなったりせえへんか?」
「それはお前が知らないだけで、高いなりに有名なメーカーだったりするんじゃないか?」
「今日がギルドの清算日。給料日やろ?懐があったかく酒に酔うて理性がきかん所に無理やり買えとねじこむんや。酒に酔わせて女を抱くような手口と同じやで。さ、金も入ったし宿屋にいくで」
そう言って軽やかな足取りで宿屋に向かうマニー。
「……なるほど」
でもな、マニー。
それはアルコールレイプっていう犯罪だ。
マニー「なぁ、少し下にある☆を押したならへん?」