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第五十九話

 エルブンシア東部には広大な穀倉地帯が広がっている。

「うん、なんだ……?今日はやけに水が濁っているな」

 最初は水が土色に濁りはじめ、匂いがきつくなった。

「料理に使えないわね」

「香辛料を入れて匂いを誤魔化そうとしても、匂いが残ってしまうわ」


 水は段々と黒く濁り、飲んだ人は体調を崩し始めた。

「水に良くない物が混じっているんじゃないか?」

 体調を崩す人が増え、育てている作物が枯れた。

 植物が消え、虫が消えた。

「この村はもうダメだ」

 近くの村へと移り、そこも汚染されていく。

 次の村、次の村、と移動していく。

 一つの村が放棄されてからは雪だるま式に増えて行く。

 

 東部、南部、西部、北部。現在の浄化の魔石の生産量からだと、王都分だけで精一杯だった。

「王としての義務を果たせ!」

「王に会わせろ!」

 貴族達は自分の治める土地の報告を聞き、怒りを募らせる。

 

「まさか、ここまで王族に依存していたとは……」

 報告が上がってくるたびに宰相は頭を抱える。

 もはや国の運営どころではなかった。

 毒の沼と化したエルブンシア全土に不毛な砂漠が広がっていく。

 

 浄化の魔石をいまさら使ったところで、土地が肥えるまで浄化の魔石を入れ続ける事はできない。

 惨状を見ると、十年、二十年。もっとかかるかもしれない。

 不毛の大地を浄化し飢えに耐えながら耕し元の水準にまで持っていくのは不可能だろう。

 

 エルブンシア建国時はエルフという種族への迫害があり、種族が一丸となって作り上げた国なのだ。

 

 水と少量の食料しか与えられないような劣悪な環境下で、別の国に搾取されるために生きるか。

 水と少量の食料しか与えられないような劣悪な環境下でもエルブンシアの未来のために生きるか。

 

 そういう二択が前提にあったからこそ、作り上げる事ができた国だったのだ。

 今やエルフは種族としての迫害は無くなっている。

 技術力や魔力の高さ、美しい容姿等で歓迎されるくらいだ。

 

 愛国心はあるだろうが、不毛な大地しか残らないような国で毒でいつ死ぬかもしれないような環境

 であれば、他の国へと移る者も少なくはないだろう。

 

 不毛の大地にしないよう環境を維持する事すらできなかった現体制で

 不毛の大地を浄化し、作物が育つ環境を作り上げる事など不可能に等しい。

 

「くそ、これも全部アジュール王とシア王女のせいだ……」

 もしシアがここにいれば責任を取らせ斬首により貴族達の溜飲を下げる事もできただろうに。

「逃げるしかない。換金できるかさばらない品を集めておけ!」

 そう宰相が発したのは、老貴族達が無理やり押し入って来たのと同じタイミングだった。

 

 自分が治めている領地が滅び、領民を王都へと避難させた。

 王都で難民のような扱いを受けて怒りを募らせた領民達が暴動を起こし、それらをまとめあげて王城の中へと進んだ。

 そこには王の姿も王女の姿も無く、偽物が椅子にふんぞり返っているだけだった。


「よくもまあ、好き勝手にやってくれましたな……」

「驚きましたぞ……全員偽物になっているではないか」

「宰相殿が用意した者は助命を懇願し全てを白状しましたぞ」


「アジュール王を殺害した後に、私に王のふりをさせたのだ!」

「シア様の代わりをしろと言われ、シア様のふりをさせられていたのです」

「貴様ら、私を裏切るつもりか!」


 醜い言い争いの中、エルブンシアの領民達は怒りに震えた。

「私欲の為に国を支える王を殺害したのも許せぬが、シア様とセルリア様はどこにおられるのだ」

「し、知らぬ!」

「王族を騙り不敬を働いた者を牢へ入れて処刑すると言っておったそうだな?本物のシア様とセルリア様では無いのか?」

 まさか二人も処刑したとか言うまいな、と貴族達が宰相を睨みつける。

「それは本当にシア様を騙る偽物だったのだ!それよりも民のために現状を話し合おう、まず他国より支援を得て……」

 

『な、宰相、儂の顔を忘れたか!』

『見苦しい。王妃様を騙ったあの女と一緒に明日にでも処刑してやる。死刑囚の牢へ連れていけ!』


『母上!……宰相!貴様、貴様さっきはよくも、裏切りおったな!』

『シア様にまだ王族の誇りが残っているのなら……最後に国民のために王族の義務として働いて頂けませんかな?』


『もしシアが金庫を開けたとしても、俺達は全員明日処刑されるんだろう?』

『処刑は決定されておる』


『他国の特級剣士を勝手に処刑するのかい?』

『たかが剣士を一人処刑しただけで問題にはなるまい』

『聖女だろうが何だろうが、処刑は国の意向だ。逃がしはせん!』


 アジュールの魔法により記録された宰相の映像が映し出される。


 呆然とする宰相と貴族達に、場内に入ってきていた領民に紛れたアジュールは声をあげた。

「他国の特級剣士や女神教の聖女様を処刑するような方針を出す国で、支援が得られるのかい?」

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