第五十八話
「まだか、まだ見つからんのか!」
「は、はい。シア様は依然として見つかっておらず……」
「何をバカな事を言っているんだ。あれから何日が過ぎたと思っている!」
宰相は執務机に拳を振り下ろし、部下達に怒鳴りつける。
「外に出たら解るよう監視の魔法もかけているのだ!やつらはまだ城の敷地中にいるはずだろう!」
「ですが、いまだに報告もあがっておらず……」
誰かが匿っているとしか思えない。
だが城内は宰相の派閥の人物で埋めてある。
全員が共犯者のような物なのだ、事が事だけに裏切りは自分の身の破滅に繋がる。
なぜ見つからないのか。
「もう既に城の外に出たという事は無いのでしょうか」
「城には結界がはられている。そこから出入りする際には監視の魔法で必ず記録されるのだ」
一週間が過ぎた。
エルブンシアの東西南北、全ての老エルフ……貴族達が王城へと留まりアジュール王への謁見を待っている。
宰相が擁立した偽王を合わせる事はできない。
だが体調が優れない、会いたくないと伝え続けるにも限界がある。
問題なのは浄化の魔石。彼らも浄化の魔石を持ちかえらなければ領地を失うのだから。
「緘口令を出してあるとはいえ、長引けばいつ事が露見するか解らんな」
彼らも情報を集めているに決まっているのだから。
「浄化の魔石づくりはどうなっている?」
「二日で一つ生成できるくらいですね。王族の血統でもなければ難しいかと……」
浄化の魔石を作らせていたが、浄化の魔石は二日に一つ。
直接浄化をかけるよりも、浄化の魔石を作る方が難度が高い。
「シア様を見つければ魔石を作らせる事ができるものを……」
アジュールが居なければ処分して後の祭りだったのだが、逃げられた事でエルブンシアは首の皮一枚繋がっている。
「第一優先はシア様の確保だ」
シアを確保すれば魔石の問題は解決する。
貴族達を追い返してシアには牢で魔石を作らせ続ければいい。
将来に渡って魔石の憂いを無くすためには、水魔法に長けた王族の血が必要になる。
現王との間や宰相の息のかかった水魔法に長けた者と、シア。
どうしても確保できない場合は得るセルリアとの間に子供を作らせ、運用しなければならない。
「第二に浄化の魔石の生産だ」
今城に居る領主達を追い返すためにも魔石の生産が必要になる。
週に一つ。少なくとも十週分、四地点に四十個あれば彼らは自領へと戻るだろう。
なんとしてもペースを上げなければならない。
「水魔法の使い手を増やすしかなかろう」
「しかし王族以外で水魔法の使い手と言うのは中々現れませんので……」
どこかから買って調達する方法もあるが、浄化の魔石はとても高価だ。
水を全く飲まない場合、もって一週間。
浄水設備というのは作るのも運用するのも金がかかる。
浄水設備と比較して安くつく浄化の魔法は世界中で必要とされている。
エルブンシアの主力事業の一つが浄化魔石なのだ。
魔石鉱山の採掘権を持ち、加工して浄化魔石にしてよその国へと売る事で成り立っている。
「なんとしても探し出せ!」
『なんとしても探し出せ、と怒鳴ってる頃だろうね』
『国の生命線じゃないか……』
王しか知らない隠し通路を通り、城の外へと抜けだした俺達は近隣の町の宿屋に宿泊し、エルブンシアを観光していた。
『まあ、のんびり観光すればいいと思うよ。二度と観光できなくなるかもしれないしね』
「オルタ、これでよいのか?」
アジュールは王族にのみ伝わる効率的な魔石の作り方をシアに教え、シアは魔石をいくつか作っている。
「ああ、これくらいなら十分だね」
シアが浄化の魔石を作る速度は一日に百個程度。
セルリアが一日に四十個程度。
「水の魔石がこんなに簡単に作れるとはのう……」
…… ……
さらに三日。十日が経った頃、領主達は……
「宰相殿、どういう事だね?このままでは本当に大変な被害が起きる事になるぞ?」
「いい加減、アジュール様と面会を組んで頂かないと」
「もしやアジュール様もシア様もおられないのではないか?一刻もあればアジュール様なら容易くできるだろう」
「セルリア様でも良いのだ、面会の時間を作って頂きたい」
「我々も水の事ばかりにかまけていられないのだ。他にもする事がたくさんあるのだぞ」
詰め寄る貴族達に宰相は頭を抱える。
そしてエルブンシアの崩壊が起こり始める一方が飛び込んでくる。
「東部の水源が汚染。浄化の魔石の不足により村が放棄されました」




