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第五十六話

「き、貴様……なぜ首輪をつけているのにこんな真似ができる!」

 宰相は砂のように落ちた自分の腕の付け根を触り、アジュールに叫ぶ。

 

「この首輪?」

 アジュールが首輪に手をかざすと頑丈そうな鉄でできた首枷がポトリと落ちる。

「ば、バカな!それには魔封じ、スキル封じ、力封じの魔法陣が刻まれているのだぞ!」


『実はこの首輪、仕組みを知っていれば簡単に解除できるんだよね』

『どうやるんだ?』

『内側に刻まれている魔法陣が機能しなくなればいいんだよ』

 アジュールが落ちた首輪の裏面を見せると、一部が茶色くなっていた。

『水魔法を使えば鉄分子と水と酸素で水和酸化鉄になるんだ』

 水和酸化鉄……サビだ。

 鉄が錆び、魔法陣の一部が盛り上がり魔法陣の一部を機能しなくする。

『首輪を着ける前に魔法陣が刻まれているの一部を錆びさせてたんだよね』

 

「こ、この魔法は……もしかしてアジュール王」


 首輪をはめられた本人の力を封じる首輪だ。

 一人がスキルを使えるようになれば、後は簡単だ。

 シア、カレン、エレノア、シノブ、セルリアの首輪を水魔法で腐食させ落とす。


「で、この鉄格子の鍵も、スキルが使えると簡単なんだよね」

 鍵部分を錆びさせて落とす。一瞬で体内の水分を蒸発させられる程の水魔法の使い手だ。

 鉄格子の鍵も水をまとわせて錆びさせる。

 シノブが軽く鉄格子を殴りつけると、錆びて脆くなった鉄格子の扉があっさりと壊れた。


「お、お前ら!脱走だ。取り押さえろ!」

 残った片手で牢番に指示をすると、腰に佩いた剣を抜き構える。

 

『アジュール王を病死とするため、検査されても検出されない特殊な毒薬を使ったのだが』

 先ほど宰相が喋った内容が、アジュールの魔法により再生される。

『たかが剣士を一人処刑しただけで問題にはなるまい』

『聖女だろうが何だろうが、処刑は国の意向だ。逃がしはせん!』


「その武器を向ける先はこっちでいいのかい?」

 そうアジュールが言うと、宰相は笑った。

「バカめ!この城に残っているのは全て儂の派閥の者だけだ!いけ!」

 牢番が武器を振り下ろした。

 

 エルブンシアの牢番は四直三交替制。

 八時から十六時、十六時から二十四時、二十四時から八時の時間で交代される二人ずつのシフト制で運営されている。

 

 牢番が服役者と仲良くなり脱走の手引きや便宜を測る事を防止する意味合いがある。

 ずっと顔を突き合わせていれば、多少なりとも情がわく。

 これが交代制になると、問題が起きそうな行動は連帯責任だ。


 王城から少し離れた位置にある地下牢だが、間には複数の鍵がかけられている。

 

 複数人で交代しながら牢に入れられた人だけでなく、牢番自体もお互いで見張るシステムになっている。


 地下牢へと降りる階段の扉で一つ。

 

 階段の途中に広がる牢番の待機室。

 上り側へ一つ、下り側へ一つ。

 

 牢が並ぶ入り口に鍵が一つ。

 牢の中、鉄格子の鍵がそれぞれの数だけ。

 

 鍵はバラバラの人が管理するようになっている。

 

 脱走するとすれば、まず鉄格子の鍵を持っている職員を抱き込み、開けてもらわなければいけない。

 その後、牢への入り口の鍵を持つ職員から鍵を受け取り、

 待機室への入り口の鍵を持っている職員から鍵を受け取り待機室へと移動する。

 待機室から、地上へと続く扉への鍵を受け取り、最後に牢屋の外で待っている牢番に鍵を開けて貰う。

 

 長年脱走が無い状況への慣れからか、緩みからか。

 帳簿上はバラバラの人が鍵を管理しているとされながらも、牢屋の外で待っている牢番が全ての鍵を持ち、必要時に鍵を借りる。

 そういう運用がされていた。

 

 朝のシフトで交代する組。

「今日のシフトは朝かよ」

「夜よりマシとはいえ、この寒さは堪えるな」


 牢番が三人が欠伸をしながら持ち場につこうとする。

「入口に誰も立っていないな……」

「何かあったのか?」

 

 牢番達が中に入り、待機室へ降りるがそこにも誰も居ない。

 何か異変があったのかと三人が頷きあい、牢へと降りる。

「俺が見てくる……」

 三人の中で年長の牢番がそっと牢へと続く扉を開けると、芋虫のように這いずっている物があった。

「ひっ……!」

 吃驚して声をあげ、様子を伺うと、そこには見知った顔。前シフトの牢番だった。

 牢番達、宰相つきの魔術師達は全員手足を失い、転がされていた。


「な、何だこれは……だ、脱獄か?」

 牢の奥には宰相だった者がうずくまっていた。

 

「さ、宰相殿……?」

 三人が近づくとそこには力を封じる首輪を嵌められた片手を失った宰相が転がっていた。


「ねえ、シア。王女に戻りたい?」

 アジュールがそう尋ねると、シアは首を横に振った。

「面倒臭いのは嫌じゃ。……しかしオルタ、お主今回は大活躍じゃったのぅ」

 そう言ってシアは嬉しそうな顔で俺……アジュールに抱きつく。

 アジュールも慣れたように、シアの頭を優しく撫でた。

「セルリア、君はどうだい?王族としてエルブンシアに残りたい?」

 エルブンシアの王妃と王女。その立場を捨てられるか、と尋ねたアジュールに首を振る。

「アジュールが居ないなら、私はエルブンシアに未練は無いわ」

 民の為。国の為に、という思いは消え去ったようだった。


「しかし、奴らに一泡吹かせたい気分はあるのう……なぜ宰相をあまり痛めつけなかったんじゃ?」

「もうすぐアジュール王の魔法の効果も切れる頃だし、責任を取る人がいるからね」

 痛めつけられた人に石を投げるよりも

 健康な人に石を投げる方が留飲が下がるだろう?

 そうアジュールは言った。

最近、頭痛が酷くて更新できていませんでした。

気圧のせいかな……。今日はやや痛みがマシなので投下します。

鎮痛剤は胃潰瘍持ちなので……。


読んで頂きありがとうございました!

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