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第五十四話

 宰相はアジュールに向けて目を細めた。

「無駄だ。仮令たとえお前が言っている事が本当でも魔力の照合なんてどうにでもなる。最悪は金庫を壊してしまえばいいだけだ」

「そうだね。腕のいい魔法使いなら魔力照合も抜けられるかもね」

 肯定するアジュールに宰相が、安堵したように息を吐く。

「失敗したら、消滅するようなセキュリティがあるから気を付けてね。一発で成功させないと消滅しちゃうよ」

 言葉はやや震えていたが『連れていけ!』と押し出すような声をあげ騎士達が俺達を牢へと連れていく。

 

『実際に消滅するのか?』

『するよ。そのくらいのセキュリティは普通に入れるよね』

 アジュールはそう楽しそうに言った。

 ブラフだと思っていたら本当らしい。

 


 再び牢へと戻る俺達。

「覚えておれ!儂が戻ったらお前ら全員、どうなるか解っておるのじゃろうな」

 叫ぶシアをバカにするように嘲笑う牢屋番。

 

 先ほど入っていた牢屋よりも環境が悪くなっていた。

 ネズミや不衛生の代表とも言える虫が大量におり、牢の端からはきついアンモニア臭がする。

 カビ臭に体臭……汗と垢の入り混じった匂いが充満していた。

 カレンもさすがに横になる気が起きないのか。

 エレノアもシノブもさすがに、この環境には耐えられないのか。

 全員が立って、牢屋番を睨みつけていた。

 

「出すのじゃ!ここから出すのじゃ!」

 騒いでいるのはシアだけだった。

 真っ先に暴れそうなカレンがじっと我慢しているのに。

『おい、アジュール。これからどうするんだよ』

『もう少し待ってれば、何かしら動きがあるんじゃないかな?』


 一時間くらい経った頃。

「こんな事をしてどうなるか解ってるんでしょうね……」

 宰相、セルリア、魔法使いが数人。

 俺達とお揃いの力を封じる首輪を付けられたセルリアは顔を腫らしていた。


「母上!……宰相!貴様、貴様さっきはよくも、裏切りおったな!」

 シアが吠えるのを無視して、魔法使い達と話をする。

 

「どうだお前達、いけそうか?」

「申し訳ありません、シア様の魔力の波長は複雑でして。やはり波長を真似るのは難しいですな」

「やはりダメか。仕方あるまい……取引をしましょう、シア様。エルブンシアの金庫を開けてくださいませんか?」


「……金庫が何かはしらんが、裏切者の貴様の言う事を聞くわけがなかろう」


「エルブンシアの国民が苦しむ事になるのですぞ?」

 そう言うと、宰相は国を憂うような作った表情で続けた。

「シア様にまだ王族の誇りが残っているのなら……最後に国民のために王族の義務として働いて頂けませんかな?」

 偽王族だと叫んだ口で、シアに対して王族の誇りを全うせよ、と罵った。

 厚顔な宰相の言い分にシアが呆気にとられる。


 宰相は、全てエルブンシアの国民のためだったのだ、と口にした。

 

 アジュール王と宰相の間で、政治の方針で揉めたのだ。

 宰相がある法案を通そうとしたが、アジュールにより却下され続けてきた。

 宰相は法案を通すためにはどうすればいいか考えた結果、宰相が取ったのは王の暗殺だった。


 通常、王位継承権第一位のシア王女は王のスペアであるが、

 アジュールの歳はエルフにしてはまだ若かった事と、健康であったこと。

 エルフという自由を愛する平和的な種族特性のためか、シア王女が人の国へ冒険者をするために出て行った時もあまり反対はなかった。


 王が居なくなればシア王女が王位を継ぐまでは暫定的に宰相が権力を握る事ができる。

 

 冒険者という仕事は危険だ。既にこの世に居ない事も考えられる。

 長期間の依頼や遠距離への遠征依頼を受けている事も十分ありえる。

 たとえ無事でも我儘なあのシア王女の事、戻らないという事も十分考えられる。

 

 シア王女を呼び戻すまでの猶予を使って法案を通してしまえばいい。

 そういう宰相の目は、狂気じみた光があった。

 

「偽の王を擁立したのはなぜじゃ?お主の言い分じゃと、儂を普通に呼び戻せば良かろう」


「アジュール王を病死とするため、検査されても検出されない特殊な毒薬を使ったのだが」

 そして宰相は顔を顰め、続けた。

「王は水を操る魔法に長けていた。死を知った王は自らに攻撃魔法を打ち込み……身体中の水分を蒸発させて消えたのだ」


 毒殺したと思ったら、残されたのはアジュール王の干からびたミイラだった。

 明らかなアジュール王の遺体があれば、宰相が権力を握る事ができたのだが、残されたのはミイラだ。

 原型が解らないくらい干からびたミイラをアジュール王だと断ずる事はできない。

 検査すれば解るとしても、それができるのは殺害した者だけだろう。

 アジュール王の私室にあるミイラは趣味の購入品かもしれない。

「貴方のミイラかと思い検査しました」

 アジュール王が戻った時にそんな事を言える訳がない。

 

 仕事が忙しくなると、こっそり逃げ出す癖のあったアジュール王は、いつもの事だろうと受け止められた。

 

『蒸発エルフって……失踪の隠語じゃなくて本当に蒸発だったんだな』

『失踪エルフじゃなかったでしょう?』


 明かな死の証拠が無ければ宰相が権力を握る事はできない。

 権力は失踪中のアジュール王にあるのだから。

 そして宰相が頭を悩ませている所に内乱が発生した。

 

 政策決定が滞りはじめた頃、アジュール王は戻らないのでは、と。

 次の王、シアを身内に引き入れた者が権力を握る事ができるのではないか、と。

 

 そして内乱を治めるために、偽の王を擁立したのだと。

 宰相は悪びれもせず、そう言った。

 

読んで頂きありがとうございました。

あとがきを少々……。誤字報告を頂きました、報告して頂いた方、ありがとうございます!

この話を投下する直前だと、累計PVは35,746アクセス。ユニークユーザーは6,705人になりました。

これからもよろしくお願い致します!

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