第五十一話
国を移動するためのゲートは王都に配置されている。これはどこの国でも同じである。
なぜ王都にゲートを置くのか。
一つ目の理由として利権である。
ゲートを利用するのは富豪が多い。経済効果が高いのだ。
異国へ来て財布の緩んだ富豪が、治安が最も良く発展した王都へと到着するのだから。
ゲート自体の利用料金も高くそれに伴う税収は、地方に渡すには大きすぎる利権の塊である。
二つ目の理由として人材である。
ゲートを運営するために、魔法使いも優秀な人材が必要となる。
一番、優秀な人材が集めやすいのは環境の良い王都になる。
三つ目の理由として戦争時の利用のためである。
戦争が始まった時、ゲートを利用して王都は守れるように援軍を送る事ができる。
国家移動の許可書はカレン達が申請した翌日にはすぐ届いた。
『ロット国、ファーストの街の住民、彼らにエルブンシアへ移動する事を認める』
「ここ、ロット国という名前だったんじゃな」
「街の名前も初めて知りました。ファーストっていうんですね」
シアはエルブンシア。エレノアは西部の国。シノブも東部の国だ。
この国の住人でもなければ、特に国の名前や町の名前は気にならないのかもしれない。
『ここはロット国、ファーストの街だよ』
そう教えてくれる感情の無い門番や町の住人が居る訳でもない。
必要になるか興味が無ければ知らない人も割と居るのだ。
セルリアさんの引率の元、馬車で二日かけてカレン達と俺は王都へと移動する。
「王都、セブンね」
そう言ってセルリアさんが、そわそわしている皆を一瞥し
「エルブンシア行きの予約を取ってきたわ。出発は明日、二十の時くらいには宿屋に帰って来てね」
「お店がいっぱいあるわね」
ファーストの街も王都から数日馬車を使えば来れる距離だ。決して田舎ではない。
だがファーストの街とは比べ物にならない数の店舗で溢れている王都を見て、感嘆の声をあげるカレン。
「人がいっぱいおるのう」
「セブンは街並みが美しいですわね」
カレン達は王都……都会独特の洗練された雰囲気に飲まれ、おのぼりさんのようにキョロキョロしていた。
カレンとシノブは屋台へ。エレノアは王都の教会へ。
各々が行きたい所へと行く中、俺は……
「オルタ、あの店は何じゃ?」
シアが尋ねてくる。今の選手はアジュールだ。
身体を使っているアジュールの希望で、俺はシアと王都を観光していた。
『何のお店だい?』
『なんで俺が王都に詳しいと思ってるんだ?』
そう言うとアジュールは肩を竦め、シアの手を引っ張り店へと向かった。
「ああ、これは見た事があるね、魔道具屋かなあ?」
「おお、さすが王都じゃな。この店ファーストの街にも来てくれんじゃろうか」
珍しそうに魔道具屋の商品を眺めるシア。
商品を見ては店員に何をする魔道具かを尋ねて、解説を受けると目を輝かせて欲しそうに弄ぶ。
値段を聞いて、シアはそっと魔道具を元の位置へと戻す。
「魔導書のローンが終わっていれば何個か買って帰りたかったんじゃが……」
そう言って肩を落とすシア。
「よし、じゃあぼくがシアにプレゼントしてあげるよ」
「ほ、本当か?な、何でもいいんじゃな?」
『おい……』
父親の甲斐性を見せようとしているのか、シアを甘やかすアジュール。
だがそのお金は俺のだ……。
シアと一緒に行動するアジュールを眺めながら、その日は過ごした。
アジュールが持つ雰囲気からか、王都という都会で気分が高揚しているのか。
いつもは仏頂面のシアが楽しそうにはしゃぐ姿を見る事ができた。
その代金は高くついたけどな……。
翌日、予約した時間でセルリアさんが点呼した後、ゲートへと向かう。
「ここを出ればエルブンシア国の王都になるわ」
カレン、エレノア、シノブの順にまず入り、後にセルリアとシアが続く。
一応護衛という体を取るのか、カレン達が安全確認として先に入る。
しんがりを守るのは俺……アジュールだった。
『じゃあ、ぼくらも行こうか』
一呼吸おいて、アジュールがゲートをくぐる。
「よ、弱い……ね。クリア」
「手ごたえがないわね。クリア」
ロット国でも見たゲートの管理員と同じ腕章を使た人達……エルブンシアの魔法使いが数人倒れていた。
「あ、貴方達?」
「ちょお!?おぬしら何をしとるんじゃ!」
シノブは体術で身体を倒した後、締め技で。
カレンは殴りつけて、意識を刈り取ったらしい。
「何の騒ぎだ!」
エルブンシアのゲート管理員に囲まれる。
カレン達が動こうとする前に、次の凶行はセルリアが止めた。
「もう……これ以上問題を起こさないで。少し話をしてくるわね……」
うちの国じゃなかったら、犯罪者として牢に入れられるわよ……。
そしてセルリアさんが話し合ってくると言って一時間後。
……カレン達と俺は、ついてこいと牢へ入れられる事になった。




