第五十話
シアの案が飲まれたのはアジュールの一言だった。
「シアが国へ戻る事に納得したと思えばいいよね」
全員を叩き潰すとか、王を譲るとかの意見はいったん棚上げしておき
セルリアさんの第一目的……シアを連れ帰るという事は達成できるのだから、と。
「シアの国はどこになるの?」
カレンがギルドのテーブルに、ギルドから借りた世界地図を広げ、シアを膝の上で抱いた。
「この辺りじゃな」
指さしたのは、かなり離れた位置だ。一直線に横断すれば三十近くの国を超える事になる。
「ちょ、長距離移動……」
「移動はどうするんですの?」
エレノアとシノブが地図を見て顔を歪めた。その質問にはセルリアさんが答える。
「うちは連盟だからゲートを使うわ。この国の王都からエルブンシアまでのゲートが出てるのよ」
シアの国……エルブンシア国と王都にペンで丸を描きいれる。
シアの国は連盟加入国である。
大陸の国の多くの国が加盟しているが、特徴として軍事協力や経済協力だと色々とあるが庶民にとって一番身近なのは国同士の移動ゲートだろう。
連盟加入国同士であれば、国から国への移動……港のゲートから港のゲートまでを魔法により一瞬で移動が可能なのだ。
もちろん、途方も無く高額である。
「ゲートってもの凄く高いと聞いたけど、いいの?」
そうカレンが言うと、セルリアは勿論と首肯する。
「陸路や海路を使ってもいいけど、この距離だと荷物を運ぶ訳でもないからゲートの方が安くつくのよ」
海路でも陸路でも半年。それだけの日数になるとゲートを使う方がいいらしい。
「楽しみね、ゲートなんて初めてですわ」
「儂も初めてじゃのう……」
シアもゲートを使うのははじめてだと言う。
「あら?シアさんはこの街に来るまでどうしたんですの?」
「目的地を決めておらんかったからのう。陸路で気に入った所に腰を落ち着けようと思ってな」
ゲートの話をしていると、セルリアがギルドから護衛依頼の指名依頼票を持ってきた。
「はい、じゃあこれはカレンさんに渡しますね」
「確かに。じゃあ手続きを済ませてくるわね」
そう言ってヒラヒラと指名依頼票を振って、カレンはカウンターへ向かう。
通常護衛依頼は陸路等を使う商人達が依頼する物だ。
山賊やモンスター。情報を集めながら問題が起きていないルートを決めながら移動する。
『ゲートって使った事ないんだが、どういう物なんだ、速いのか?』
『ゲートに入って魔力を使って空間を捻じ曲げる感じだね。発動する術式が難しいから十分くらいはかかるよ』
俺の質問にアジュールが答えてくれた。
十分で到着するらしい。
『それなら護衛依頼は要らないんじゃないのか?お金勿体ないだろ』
『必須じゃあないけど、申請が面倒にならない?』
護衛する必要はないが、護衛依頼を出す事でカレン達がエルブンシアへ向かうのに便利になる。
冒険者は自由な職業だと思われがちだが、国と国の間を理由もなくウロウロはできない。
冒険者の場合は書類を書き、移動先、移動目的等の書類を書き冒険者ギルド経由で許可を取る必要がある。
下手すると、数週間どころか数ヶ月のレベルで許可が下りない。
『ああ、そういう事か』
護衛依頼が入れば、良くある事なのですんなりと許可が下りる。
下々の冒険者の護衛依頼にいちいちチェックなんて入れるはずがない。
セルリアさんがダミーの護衛依頼を入れれば数日後には許可が下りるだろう。
「依頼受領の手続きはおわったわよ。国を移動するための書類を貰ってきたから書いてね」
そしてカレンは一枚ずつ、依頼・護衛のためと理由が書かれた書類を一人ずつ手渡す。
『なんで俺……アジュールにも渡してくるの?』
『関係者みたいな物だしね。国が変われば文化も変わる。エルブンシアに来た事がない人なら楽しめると思うよ』
関係者……?
俺はシアに巻き込まれただけのような気がするんだが。
『シアの旦那様じゃないか。来ないとダメだろう?』
『お断りだと言っただろう!』
『タダで高価なゲートを使えて、タダで寝泊まりして、タダで観光して美味しい物を食べられるのに?』
『内戦してるんだろう……?そんなに観光できるような余裕があるのか?』
アジュールは微笑むだけで何も答えなかった。
体調が悪くてなかなかタイプが進んでいません。
少し文字数が少なくなりましたがご容赦ください。




