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第四十八話

 役場にいけば貰える一枚の届出用紙……婚姻届けを机の上に置き、シアは頭を下げた。

 目を落とすと、既にシアの名前は記入済だった。


 俺が……シアと結婚?

 腰まで伸ばした水色の髪がさらりと背で別れる。

 その姿に、少女のシアに少しばかり俺はときめきを感じた。

 

 だが……と考えて気付く。

 あれ、どうして俺はこんな好条件を蹴ろうとしていたんだ……?

 告白をすっ飛ばしたプロポーズに、俺は頭の中が真っ白になる。

 エルフの美少女、のじゃ口調を除けばほぼ完璧な美少女。合法なのだ。

 

 バブりオギャる事も受け入れてくれそうな美少女。

 ややヒステリックな面もあるが、基本的には冷静で、いつも俺の事を助けてくれる特級魔法使い。

 気心が知れており、一緒に居て自然なままでいられるシアはもしかして凄くいい相手なんじゃないか?

『し、仕方ないな……そのかわり俺をきちんと養ってくれよ?』

「待った、シアはまだ若いんだ。結婚なんてまだ早いよ。うん、考え直そうか」

 さすがに娘の結婚となれば、アジュールも思うところがあるようだった。

 

 今の俺は交代した選手、アジュールのもの。俺に回答権は無かった。

 

 片手で水色の髪を手で梳き、ばつが悪そうにシアは、

「実はじゃな……儂達の国。小国じゃが連盟にも加入しておるちゃんとした国なんじゃが……問題が起きたらしい」

 それでセルリア……儂の母がやってきたんじゃが……とシアは言う。

「どんな問題だい?シアが結婚する理由もそれなのかい?」

 

「実は、儂達の国の恥を晒すようじゃが、国王陛下が失踪で居なくなってしもうてのう……」


 ピクリ、とアジュールが震える。

 言い辛そうに失踪した、とシアは言う。

 

 どこかで聞いた事があるような話だった。

 

『一大事じゃないか……』

『そ、そうかな……?で、でもお飾りの王様だったし、多分居なくてもみんな元気に』

「陛下の失踪と言うのは外聞が悪いから、病という事にしておったようじゃ。じゃが、何年経っても陛下は現れない」

 ついに失踪が国の中枢にバレたらしいのじゃ……。

 

「陛下を欠いたまま国は動かせん。王政は滞り、民は飢え、治安は悪化して酷い状態らしくての」

「な、なんでだよ!仕事はセルリアがやってたし、そんな事にはならないだろう」

「見てきたようにいうのう……母は国政の殆どをやっておったが、それも陛下がおられての話じゃろう」


『おい……まさか』

 俺の呼びかけにアジュールは無視を決め込む。

 

「それですぐに代替わりをせねばならんのじゃが、陛下には王女一人しかおらんかったのじゃ」

「ふ、ふうん。大変だねえ」

 アジュールがシアから目を逸らし、わざとらしく口笛を吹く。


 少しでも空気をなごませようとしたのだろうが、真面目に聞いてないと受け取られたのかカレン達が顔を顰めていた。

 俺の好感度だだ下がりじゃないか……。

 

「……それで、その王女の争奪ゲームになり、内乱が起きとるらしいんじゃ」

 美しく聡明な特級魔法使いじゃからな、とさりげなく自分を持ち上げる発言をするシア。

 国のピンチなのに……どんだけ承認要求が強いんだよ。

 

 王が失踪し内乱が起き、王女を手に入れた者が国を手に入れられる。

「まあ、もう解るじゃろうが。その王女が儂じゃ……」


 意見を通す王女が不在で、どうやって結婚相手を決めるか。

 内乱に勝利して王家に匹敵するだけの力を持てば、ほぼ決まる。

 選ばれなければ、王家に弓を引く事もあるくらいの力を持てればベストだ。

 

「セルリアは、内乱が泥沼になる前にシアを戻して誰かとくっつけようとしたんだね」

 肩を落とすシアに、アジュールは

『いやあ……酷い事になってるね』

『……お前のせいでな』

「儂は結婚相手は自分で決めたいのじゃ……」

 権力の象徴……トロフィーのような物になりえるのも納得ができないのだろう。

 

 お姫様の我儘。ノブレスオブリージュ。

 そうきっぱり切って捨てるには、シアとは仲良くなりすぎた。

 

「そ、それでの……儂はあんまり男の知り合いがおらんのじゃ。国では箱入り、家出してからはカレン達と一緒じゃからな」


 こいつも家出かよ。

 というか、王女が家出って何だよ……。


 王が失踪、王女が家出。

 家来は止めろよ!

 

「儂が知っとる男はオルタしかおらんのじゃ……」

 知ってる男が俺だけ、と目を潤ませるシアに、アジュールは俺の方を睨んだ。


『誤解を招きそうな表現だが、そのままの意味だぞ?俺はノータッチだ……。』


 じと目でこちらを睨んでくるリルイに、

『リルイとかガストとかダースもいるだろう、と言ってやれ』


 俺の記憶をシェアしているアジュールは嫌そうな顔をして

『詐欺師とバカとチンピラじゃないか!』


 本質をついた代名詞だった。俺の周りにはろくな男がいなかったんだな。

 

 しかし、ろくな男ばかりなのに俺がモテないのは何故なんだろう。リルイですらカガリがいるのに。


「ちょ、ちょっと待ちなさい」

 カレンが焦ったように間に入る。

 顎の動きで俺を指し、

「オルタよ?このオルタなのよ?自分の身体を粗末にするもんじゃないわ」

 焦点の合わない目を俺……アジュールに向けて頭を抱えるシア。

「ああああ、い、嫌じゃ……嫌じゃぁ……」

 失礼だなこいつ……。


「ね、どんな最低な貴族に当たってもそっちのがマシかもしれないわよ?考え直しなさい……」

「うむ……さっきまでの儂はどうかしておったかもしれん……」

 一気に先ほどまで抱いていた、シアへの愛しさとが霧散するのを感じた。

 

『オルタくんがうちの可愛いシアとくっつくのは許さないからね』

『原因はお前だろうが、とっとと蒸発してないで戻れよ!』


 コピーカレンのような選手だと、俺は勝手に思い込んでいた。

 その一言にアジュールは全く反応しない。

『無理だよ』

 アジュールは表情を曇らせて、首を振り続けた。

『だって、ぼくはもう生きてないからね……』


電車が止まって休暇にしたため、今日は少し早めに投下します。

いつも読んでくださってる皆さま、ありがとうございます(*^^*)


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