第四十六話
結婚相手、俺とシアが結婚?
ジト目でシアを見ると、ふいと目を逸らされる。
『やるではないか。私も結婚詐欺はした事があるが、あんな少女……熟少女に手を出した事はないぞ?』
『熟女と少女を合わせたような造語を作るな』
『ロリババアよりもいいと思うのだがどうだろう。【熟少女】』
熟女好きな一人が言った。
「熟って言葉は果実が熟れている……つまり成長しきって食べごろという意味を持つ。つまり、熟女は一番美味しい魅力的な女性なんだ」
それに対して、彼の友達が言った。
「食べ物は腐る寸前、腐りかけが一番美味しいらしいって言うしな」
食べられなくなる寸前だ、と。
熟少女……。いや、無しだなやっぱり。
「オルタさんと結婚するから戻らないって手紙は嘘だったの?」
セルリアがシアの身体を強めに揺する。目をまわしながらシアは答えた。
「そ、それは……嘘というか、本当というか、一言で言い表せない事情があってじゃな……」
いや、嘘だろ。一言で言い表せよ、嘘だよ。
「オルタさんに騙されているんじゃないの?」
「だ、騙されていた……ような騙されていないような気もするのう……」
シアが返答をする毎に、どんどんセルリアの中で俺の立場が悪くなる。
「お母さんに会わせられないような、そんな酷い男に弱みを握られているの?」
「会わせられない事もないようなあるような……」
玉虫色の答弁が続くシア。
こんなのに巻き込まれたらたまった物ではない。
シアが怒りを煽った後、名乗りもせず黙って二人を見ていた。
すっごく悪い男っぽいな……。そっと席を立ち、ギルドの出口へと向かう。
「ちょっと、オルタ。シアに手をだしたの?」
「オルタさん最低ですわね!」
カレンとエレノアが、逃げようとしていた俺に回り込む。
そして、大声でオルタと名前を連呼した結果、
「あの、貴方がオルタニートさんですか?」
セルリアに気付かれてしまった。
後ろでは額に手を当て、やらかした、という顔をするシア。
視線がすごく冷たい。もしこの世界が好感度フラグ管理型ギャルゲーなら攻略を諦める程だ。
シアの方を見ると、手を合わせて祈るようなポーズをしている。
仕方ない……。
「……ええ、はい。挨拶が遅れました、お義母さん」
そう言うと、セルリアの瞼がピクリと動き……ゾクっとした感覚を覚える。
セルリアがそっと腰元に吊ったナイフを流れるような動きで手に取り……。
「選手交代!」
その言葉と同時に、世界が止まる。
セルリアが腰元のナイフに手をやった瞬間に発動したつもりだったが……
その手は俺の喉元まで数センチという所まで伸びていた。
「あっぶねえええええ!!!」
俺の頭上の空間が歪み、歪んだ空間から光が差し込む。
頭に輪をつけた恒例のウグイス嬢……天使が空から優しく俺の前へと降りてくる。
天使の周りには恒例の『解説』チビ天使。
「オルタニート選手、ここで交代でしょうか?交代のタイミングとしてはいかがでしょう」
「ストーリー上は速すぎますが、低ステータスの彼には何もできないでしょう。妥当な所かと」
「事前にスキャム選手の『観察』を借りて無ければすぐにやられていたでしょうねえ」
盗み聞きをするための『観察』が大活躍だった。個人的には命を救う一手だったらしい。
ウグイス嬢が尋ねてくる。
「指名で交代か私のオススメか選べますよ」
『私はダメだ。詐欺師に戦闘を期待するな』
そうスキャムが首を振る。
『わっちもダメやで。商人に何を期待してるん?』
マニーも歪んだ空間からダメだと断ってくる。
『私はいけるわよ?交代してあげるわ』
コピーカレンだけがやる気だった。
カレンの武力ならこの場を納める事も可能だろう。
だが……
『ふざけんな、お前が俺の名前を呼ばなければこんなピンチ無かったじゃないか!』
マッチポンプは許せない、
「本日のオススメで」
ウグイス嬢はにこりと微笑むと、マイクを取り、
「ヤクタターズ、選手の交代をお知らせします」
いつものようにアナウンスを始める。
「オルタニート選手に変わりまして【蒸発エルフ、アジュール】」
蒸発エルフ!?なんだよそれ!
神様や特級剣士と比べて、微妙な称号に俺は絶句していると、歪んだ空間から一人の男が現れた。
エルフは似た顔立ちが多いのだろうか。
水色の短髪、シアに少しだけ似た小柄な男が現れた。
どう見ても十代前半の少年にしか見えないアジュールだが、エルフだ。
ロリババアならぬショタジジイなのだろうか。
「交代だね、ぼくに任……げ、げぇっ……!?」
アジュールはナイフを付きだすセルリアを見て絶望したような声をあげた。
天使とチビ天使達は、俺に軽く手を振ると、歪んだ空間へと帰っていく。
「ま、待って、ぼくも帰る。ぼくも帰して。これ、無理だってば!」
アジュールが天使達に付いていこうとするが、歪んだ空間が消滅する。
「あぁぁぁ……」
悲壮感ただようショタエルフに、俺は近づく。
ナイフを突きつけられた所からスタートなのだ、無理もない。
やがて、ショタエルフは虚勢を張るように立ちあがった。
「オルタくんだったね。仕方ない、後は任せて……」
頼りなくガクガク震えるショタエルフに大丈夫か?と尋ねる。
「あ、ああ。頑張ってみるよ……」




