第四十五話
「オルタニートという冒険者がいると聞いたのですが」
肩くらいで整えている水色の髪を弄びながら、
シアにそっくりな顔立ちのエルフは、苛立ったように受付に尋ねた。
「ええと……」
受付が困ったようにギルドマスターに合図する。
ギルドマスターはやれやれ、と肩をすくめてそのエルフに尋ねる。
「お嬢ちゃん、そういう情報は個人情報だ。ギルドが教える物じゃない」
お嬢ちゃん呼ばわりされた事に苛立ったのか、そのエルフは
「セルリアよ、お嬢ちゃん呼ばわりはくすぐったいから辞めてくれるかしら?」
そしてギルドマスターの顔を見て、納得したように頷いた。
「貴方がオルタニートね!」
「誰がだ!!!」
先ほどまで持っていた余裕は無くなり、青筋を立てて怒鳴るギルドマスター。
そんなに嫌なのかよ……。
「あれ、おかしいですね。ウザいけど暇潰しにもってこいだと聞いたんですけど」
「それは俺に喧嘩を売ってるのか?」
子供子供しているシアと違って色気溢れる正統派美女エルフ……セルリアさんが手紙とギルドマスターの顔を見比べて、考えるような仕草をしていると
「最悪よ、何度目になるの!」
「また戻されてしもうたのう。やはりダンジョン探索では賢者か盗賊職が必要なんじゃ」
「そもそも、謎解きする前にカレンが勝手に動くのが問題ですわ……」
「か、カレン……おちつこ?」
今朝見なかったから、早朝から出てダンジョンを潜っていたのだろう。
「そうじゃのう……せめて皆で決めてから進んだ方が良かったじゃろうな」
珍しい事にカレンが責められながら、タイミングがいいのか悪いのか。
カレンパーティーがギルドへと戻って来た。
「む、オルタ。今日もギルドでサボリかの?」
俺は机に座ったまま、シアにこっちに来い、と手招きをして呼ぶ。
「……?何じゃ?」
俺がそっとセルリアを指さすと、シアは首を傾げて……
「だから、何なのじゃ……?」
「いや、お前の関係者だろ、あれ」
そう言うと、シアは目を擦り、セルリアの方へと一歩近づき、足の動きを止める。
「ん、んん……?」
セルリアの方は、ギルドマスターとの会話に気を取られているのか、シアの様子に気付く様子が無い。
「……む、むむ?」
そして持った杖を震わせながら、シアはくるりと入って来た方向へと身体を向けた。
「……カレン、儂ちょっと今日は帰る。ぽんぽんが痛いのじゃ……」
「いきなり何よ?今日はシアが奢ってくれる約束でしょう?」
カレンの『シア』という名前に反応して、セルリアがこちらを向く。
「あ、シアちゃん。シアちゃんじゃない!」
セルリアがシアの元へと小走りにやってくる。
「シアちゃん、お母さんよ」
「……ちょ、ちょっとママ。こっちに来て、いやこっちに来るのじゃ!」
見かけの年相応の口調で、シアがセルリアを連れていく。
『スキャム選手と相談!スキャム、スキャム!』
『……何だ?交代か?』
『すまん、あいつらの話が気になる。少しだけスキルを貸してくれないか?』
『盗み聞きか?趣味が悪いな。まぁ、話を聞くくらいの間なら貸してやろう』
その話から俺への選手交代につながるかもしれないしな。
そう言ってスキャムは『観察』を貸してくれる。
じっとシアとセルリアの表情、口の動きを『観察』する。
まるで近くで話をしているように声が聞こえるようだった。
『【観察】って万能だよな』
『うむ、基本のスキルだからな。私が最も愛用したスキルだ』
シアたちの方の話に集中する。
「それでママ……なんで来てるの?」
「のじゃ口調はもう終わり?可愛かったわよ?」
「……なんで来てるのじゃ?」
「貴方が結婚するって手紙が来てたからお祝いに来たんじゃないの」
「そそ、そんな事書いてな…いや書いたけど違……いや、違わないけどじゃな」
「シア、紹介しなさい。きちんと挨拶しておかないと」
「じゃ、じゃが……彼氏とはまだ、清い関係で友達と恋人の間というか、そう、まだなのじゃ!」
「あら?だけど、この手紙には結婚するから里には戻らないと書いてあるんだけど」
「……そ、そうじゃな。恋人と結婚の間というか、そう、まだなのじゃ!」
シアが結婚する、と聞いて驚く。
シアは確かに美少女だが、まだノータッチとするような外見をしている。
めでたいが、相手は最悪なペド野郎だな……。
「まだ会わせられないのじゃ!」
シアの顔をじっと観察していて気付く。
嘘をついている時の顔だった。
「それってシアちゃんを弄んだのに責任を取ろうとしないって事?お母さん、そういうふしだらなの嫌いよ?」
「ふ、ふしだら……?ち、違うのじゃ。そんな関係じゃないのじゃ!」
「もういいわ、お母さんに会わせてごらんなさい。シアちゃんが騙されてないか確認するわ」
他人事で聞いていた所に不意を突くような……
「シアちゃんのお相手のオルタニートさんはどこにいるの?」
その言葉を聞き、俺は手を滑らせて頭を机に打ち付けた。




