第四十四話
領主からの命令で冒険者に戻った。
その事については、特に問題は無い。
俺は冒険者ギルドを辞めさせられてから、働いていなかった。
対外的に俺の職業は冒険者でも商人でもない。
マニーが稼いだ金があり生活に困って無いだけの無職だったのだから。
俺は相変わらず何もできない。
ステータスも低く、スキルも選手達に変わって貰う事しかできないままだった。
『なぁ、スキル貸してくれよ……』
『選手交代にしいや……スキルを貸してると落ち着かんねん』
マニーはそう言って選手交代なら聞いてくれるが、スキルを貸すのは嫌だと言う。
『貸すわけがないでしょう?この間はマニーとスキャムの二人が貸したから仕方なくよ』
コピーカレンは現実のカレンに忠実だった。
本当に嫌な事は嫌だと言うが、どうでもいい事なら他の人がやれば付き合う。
人の行動を気にするみみっちい奴なのだ。
『選手交代なら付き合ってあげるわよ?』
カレンも選手交代に拘った。
『貸してやってもいいが、私のスキルだけあっても詐欺くらいにしか使えんぞ?』
戦闘になると相手の心理や取る行動が見える【観察】は強力だが身体がついていかない。
【反射能力向上】と【回避術】がセットでないと戦えないだろう。
『詐欺に使うなら、色々な機微が必要だ。一歩の所で台無しになる。必要なら私を呼べばよかろう?』
スキャムも選手交代をしろと言う。
スキルを貸してくれと頼んでも、あいつらはスキルを貸してくれない。
『なぁ、選手交代には何かお前らに利点があるのか?』
『……呼ばれた時間に応じて、わっちとスキャムは神格が高まるなぁ』
『神格。人の世界で言うと、資産とか地位みたいなもんやね。制限を無くせるんや』
庶民用、貴族用、王族用と区画整理された城下町では、庶民は庶民の区画しか入れない。
そういう地位的な制限がある。
収入以上するパンはどれだけ美味しくても食べられない。
そういう資産的な制限がある。
神格が一定を超えたら下界に使者、眷属を作れるとか
下界の人間と巫女を通じて会話ができるとか
下界へ干渉……神パワーで箱舟を作ったり海を割ったりしてもオッケーになるらしい。
『コピーカレンには何か得があるのか?』
『私も一緒よ。善行や世界への貢献、オルタへの選手交代が神格になるの』
人はいずれ死ぬ。
その時に転生するにしても留まるにしても、神格によって変わるらしい。
『私がオルタと交代し続けて神格を高めれば、こっちのジョブも特級剣士から神級剣士へと至るわ。いい事ばかりよ』
神格によって、与えられるジョブが上がっていくらしい。
『スキルの貸し出しではその神格とやらはたまらないのか?』
『秘伝のタレで人気の焼き鳥屋は、焼き鳥を売ってもタレは売らんで。貸せたらわっちら呼ばなくなるやろ?』
いつでもスキルを借りられれば呼ばなくなるかもしれない。
『いずれ呼ばれなくなるかもしれへんけど、それまでは選手交代しとき』
そういうマニー達に、俺は尋ねる。
『じゃあ、このスキルはあんまり意味が無いのか?』
『オルタが死んだり動けなくなると選手交代……神格を貯める機会が失われるだろう。そういう時には惜しみなく貸すぞ?』
例えば暗殺者に毒殺されそうになった時や、大型魔法を打たれて逃げられないって時はスキルを貸してくれるらしい。
…… ……
「ちっとは依頼を受けたりパーティーに加わったらどうだ?」
そういうギルドマスターに、俺は首を振る。
「今は時期が悪い」
「チッ、その言葉は全然時期が来ないやつだろう」
どこかのスラムで剣に詳しいおじさんが居る。
彼に相談して剣を買おうとするが、無駄なのだ。
『剣を買いたいんだけど、どれがいい?』
『今は時期が悪い。名工のドワーフが最新作を作ってる。一月待て』
『もう買っていい?』
『今は時期が悪い。名工のドワーフの新作は高い。今弟子が廉価でその最新作を模倣した物を作ってる。一月待て』
『もう買っていいよね?』
『今は時期が悪い。今のは廉価だが性能が落ちる。もうすぐ弟子達がほぼ同じ性能で打てるようになる。一月待て』
『もう買うぞ?』
『今は時期が悪い。名工のドワーフが最新作を作ってる。一月待て』
時期が悪いおじさんと言われていた。
彼に相談すると永久に買える機会を逃し続ける事になる。
そして彼と問答した後、相談者は真理に気付く事になる。
買いたい時に買えばいいんだ、と。
「全く依頼を受けないとランクが下がっていくぞ?」
ギルドマスターが脅すように言うが
「構わない。どうせ受けても難しい依頼とかこなせないしな」
ランクが下がったとしても、受けられる依頼の幅が減るくらいだ。最低ランクの依頼もこなせない俺には関係ないのだ。
「パーティーに入ればいいだろう。誘いもたくさんあるだろう?」
「スキルが使えなくなってるんだから、足を引っ張るだけになってしまうぜ?」
「……お前のジョブは本当に謎だな」
俺がギルドマスターと話をしていると、ギルドに一人の美しいエルフが入ってきた。
武器も防具も持っていない所を見ると、冒険者ではなくギルドに何かを依頼しに来たのだろうか。
ギルドの受付嬢が急いで依頼の窓口へ戻る。
シア、フォナ、フィナ、に続いて俺が会うエルフは四人目になる。
レアなはずの種族もこれだけ居るとありがたみをあまり感じないな、とあくびをする。
改めてそのエルフを見ていると、どこかでみたような顔だと気付いた。
シアと同じ顔なのだ。
シアと同じ水色の髪、顔もシアをそのまま成長させたようだった。
そのエルフは受付で、こう言った。
「オルタニートという冒険者さんに会えますか?」




