第四十三話
朝の冒険者ギルドは忙しい。
依頼を受けに来た冒険者達が集い、仲間や親しい冒険者達と情報交換をしながら受ける依頼を話し合う。
「あの依頼がいいんじゃないか?」
「いやあの依頼は、あの森を抜けないとダメだからな……」
喧噪の中、俺はギルド内の喫茶店でぼんやりとその様子を眺める。
今の俺は趣味を『人間観察』と言ってもいいかもしれない。
依頼掲示板の傍にガストとフォナが見える。
結局、ガスト達とフォナ達はメンバーの期間が終わると何も揉めずに別れた。
「あいつらはダメだ……。冒険者が仕事じゃなく趣味になってやがる」
実力はあっても、基本的に採集依頼とか金にならない依頼を受けたがる、とガスト。
「あいつらはダメだ……。冒険を楽しもうという心意気が無い」
金しか考えてない。あと汚らしい、とフォナ。
しつこい勧誘が無くなったら、次は汚らしいとか大雑把だと人間性を攻撃するようになった。
お前ら実はガストが嫌いなだけだろう……。
変わったのは、ガストがフォナ達に対してしつこい勧誘をしなくなったのと
フォナ達が『パーティーの仲間』という存在への過度な期待をしなくなった事。
そして変化がもう一つだけ。
「オルタ、どうせ暇なんだろ?俺達に付き合えよ」
「嫌だよ、俺は趣味の人間観察中なんだ。そっとしておいてくれ」
「……そうか、じゃあな」
ガスト達が俺に手を振り、ギルドの外へと向かう。
「オルタさん、暇なんでしょう?私達と一緒に行きませんか?」
「嫌だよ、俺は趣味の人間観察中なんだ。そっとしておいてくれ」
「……そうですか。それでは」
フォナ達が俺に会釈して、ギルドの外へと向かう。
「オルタさんですか?私達と冒険に行きませんか?」
「オルタニートさんですよね、ぜひ僕たちのパーティーに」
面識のないギルドのパーティーが俺を誘ってくる。
「すまんな、俺は趣味の人間観察中なんだ。そっとしておいてくれ」
冒険者達からパーティーに誘われるようになった。
鑑定票のジョブはヤクタターズのままで、ステータスも子供並みというのは変わらない。
変わったのは、【選手交代】のスキルだった。
【交代した事がある選手から、スキルを借りる事ができるようになりました】
これにより、俺は最強の力を得る事ができるようになったのだ。
マニーのスキル、カレンのスキル、スキャムのスキルが使いたい放題なのだ……。
『はぁ?なんで貸さなアカンねん……』
『何ふざけた事を言ってるの?治るまで叩くわよ?』
『なぜ貸さないといけないのだ』
等と言う事はない。
ケチな選手達は俺にスキルを貸してくれなかった。
『そもそも、オルタはんにわっちらのスキルを貸したとしても魔力が足りへんからほとんどのスキルは使えへんよ?』
子供並みのステータスのせいで、ほとんどのスキルが使えないのだ。
じゃあ、なぜ俺にこれだけ誘いが来るかと言うと……
『あんまりだ、酷すぎる。俺も凄いスキル欲しいよ、神スキルとまで言わなくてもいいから何かスキル欲しい!』
フォナ達とガスト達の臨時パーティーが残っているんだ。
せっかく使えるスキルがあるんだから貸してくれてもいいじゃないか。
涙をこぼしながら仰向けで手をジタバタさせながら駄々をこねる俺に、三人は仕方ないと一つずつスキルを貸してくれた。
『仕方ないなぁ……フォナ達とガスト達に付き合う今週だけやで?』
マニーからは『幸運』と『素材取得』を。カレンからは『反射能力向上』と『回避術』を。スキャムからは『観察』を。
全てが魔力を使わないパッシブスキルだった。
久々にまともなスキルを手に入れた俺が、ガスト達、フォナ達のパーティーに加わった結果……
『幸運』
「ええ……?ね、姉さん。またレアアイテムじゃないですか!」
「うぉ、すげえ……こっちもだ」
ダンジョンに潜ると明らかに以上なぐらい宝箱が増えていた。
通常潜っても、一日五個手に入ればいい所、十倍の五十個は手に入った。
ダンジョンの誰が配置しているのか解らない謎宝箱が増えまくったのだ。
『素材採取』
「まただ、なんなんだこれは……。こっちは牙でこっちは毛皮か」
「傷つけたはずの革素材も綺麗なままで落ちてくるんだな」
敵を倒すだけでモンスターの売れる素材がゴトリと新品のような綺麗さで分類されて落ちてくる。
野営をした時に、牛型モンスターを倒したところ、フィレ、ロース、等と部位ごとに綺麗に分けられて落ちてくるのだ。
『反射能力向上』『回避術』
モンスターは基本的に弱い者から落とそうとする。
メンバーの中で子供並みのステータスしか持たない俺は、最強の囮だった。
誘因されるように群がられても特級剣士の【反射能力向上】と【回避術】。
さらにはスキャムの【観察】からモンスターがどう動くかを測できてしまう。
「すっごく楽ですね、オルタさんに夢中でこっちの攻撃がほぼ必中ですよ」
「なんだこれは……こんな簡単な狩りは初めてだぜ……」
そして一週間、レジャーの気分でスキルを使って戦った結果、様々な冒険者達にその姿が目撃された。
「宝箱が増えるらしい」
「敵を倒すと素材が勝手に解体不要で落ちてくる?」
「敵にどれだけ囲まれても躱すから戦闘が楽らしいぜ、最強の壁役だな」
『ほな、返して貰うで』
『止めて、返してよ!それが無いともう生きていけないの!』
一週間後、スキルを全部持っていかれた俺に残ったのは冒険者達からの過大評価と過度な期待だった。
いや、俺のスキルじゃないんだけどさ。
「ほら、オルタ……」
「ギルドマスター、これ何ですか?」
「何って……冒険者の登録票だ。お前と組みたいと冒険者達のクレームが多い」
「だが断る!」
「……この地方の領主様からの命令だ。お前、フォナ達と一緒に領主様の依頼を受けただろ。文句は直接領主様に言え」
ついでに冒険者にも戻る事になってしまった。
さすがに領主様に逆らおうとする気はおきない。
「オルタさんですか?冒険つきあってくれませんか?」
すまない、行けないんだ。
壁役したらすぐ潰されるし、宝箱も解体も無理なんだ。
十万字を突破する事ができました。
読んでくださった方達から評価、ブックマークをして頂けたおかげで、書く気力を持ち続ける事ができました、ありがとうございます(^^*
2020.12.12
とんでもない間違いをしていたので、直しました、すみません(._.)




