第四十一話
職業【詐欺師の神様】……詐欺に関する全てのスキル、詐欺に優位なスキル・ステータスを持つ。
神様と呼ばれるくらいの実績を上げた詐欺師が取得する事ができる。
スキャムのスキルの一部で言うと……
『詐術』……詐欺師は信用を取らなければならない。
話をすれば聞きほれ、納得してしまう詐術を持つ。
矛盾していたとしても、その身振り手振り、会話速度。
会話伝達の細かい機微から人を信用させる事ができる。
『観察』……詐欺師は観察力が無くてはならない。
人は感情の動きに対して表情や動作等に反映する。
今、嘘をついているか、怒っているか、喜んでいるか。
観察により、わずかな機微も逃さない。
ジョブであったり、考えであったり、全てが観察により見通せるようになる。
『演技と偽装』……詐欺師は信用を得るために様々な演技・偽装を施す。
ある時は衛兵。
ある時はギルドマスター。
自分と他者に対して様々な偽装を施せるようになる。
「どうするか?ジョブを偽装すればいいだけだ」
リルイは偽装の力で中級賢者に。
カガリは偽装の力で聖職者に。
もっとも、その職業も偽りの職業だ。
本当のジョブは詐欺師で、賢者だ、聖職者だと他者を欺き続けていく事になる。
人はリルイとカガリを見て言うだろう。『詐欺だ』と。
「スキルが使えない?そんなもの、どうにでもなる」
衛兵は戦闘に補正を持ち、計算師は計算に関する補正を持つ。
欺く事しかできない詐欺師はどうするのか?
「三倍、訓練すればいい。寝る間も惜しんで学び訓練すればいい」
衛兵の三倍戦闘訓練すれば補正を持っている衛兵と変わらない。
計算師の三倍計算訓練をすれば補正を持っている計算師と変わらない。
「詐欺師は言ってしまえば信用を売買する職業だ。何かを犠牲にして信用を得て恨まれながら信用を売りつける」
商人として偽装するためには、本職の商人よりも学ばないといけない。
衛兵として偽装するためには、才能を持った人よりも身体を鍛え武を磨かないといけない。
それだけ努力して遜色ない実力を得ても、ジョブを鑑定すればその努力は水泡に帰す
一度、詐欺行為によって消滅した信用を取り戻す事は難しい。
彼らは旅をしながら信用を得ては金に変え、新天地を求めて去っていく。
「私は詐欺師の神様だぞ?神様の前で、その詐欺師を食い物にしようとするとどうなるか」
バチを当てないとな、とスキャムは俺に言って、笑った。
…… ……
司教、エーレンは不愉快そうにダース達と別れると、そこには俺達と両膝をついたダースが残される。
「そんなバカな、昨日リルイ達につけた奴の報告は確かに、詐欺師だと……」
「騙されたのではないか?」
そうスキャムが言うとダースはそんな事は絶対にない、と怒鳴る。
スキャムの『詐術』により、騙されたのではないかという疑念が酷くなっていく。
「なぜ絶対に無いと言い切れる?」
「金融業を立ち上げた時から共に頑張って来たんだ。それに俺は慕われているしあいつとは……」
そんな事は絶対にない。
そんな事はほぼないだろう。
あるかもしれないが、無いと思う。
スキャムが一声かける毎に、ダースは段々と不安になっていく。
「だが、騙して何の得があるんだ?」
「金貸しは恨みを買う仕事だろう?恨みは買っていないか?」
復讐のために弱みを握られて仕方なくやったのではないか?
だとすれば抱き込まれたのは監視の人物か、リルイ達か。
同業者の妨害ではないか?
鑑定書に細工はなかったか?
情報を多く与えて、考える力を奪う。
リルイ達がオルタにやったのと同じ事をスキャムはダースに返していく。
「それより、ダースさんはこれから大変だな」
「……どういう事だ?」
聖女様を抱き込んで不正をしただろう?
司教の言葉を疑う発言もしていた。
脅すように感情で個人情報を見せろと迫った。
失言を突きつけていく。
「司教様から教会を侮辱するなら考えるぞ、と返されていたな。どうなると思う?』
心理学にソーシャル・リアリティ……社会的現実という言葉がある。
実際に正しくなくても、みんなが同じ考えを持っていればそれが正しくなるという物だ。
「トラブルがあると因縁をつけて乗り込んで教会を罵る人物だ、と教会が言えばどうなるのかね?」
この大陸でもっとも力を持っている宗教は、女神教だ。
信心深い人も多く、権力者の信者も多い。
聖女と司教を信用できない不正する人物だと罵り、
教会付けの賢者と聖職者の女性に高利で金を貸し付け
返済が滞っている訳でもないのに鑑定票を見せろと怒鳴る。
「そんな常識外れな所と取引をしようという人はいるだろうかな?」
「そ、そんな事は言ってないだろう。そういう風に受け取られる発言もあったかもしれないが」
「司教様ももし言うとすればあった事をありのままに話すだろう」
どう受け取られるかはしらないがな、とスキャムは続けた。
「そんな事をされれば……俺はどうなるんだ」
「心づけもおそらく受け取ってくれぬだろうしな。司教様はそういう事を嫌う性質だろう?」
清廉潔白な人物でないと司教にまでは決してなれない。
教会が手を振り下ろすだけで、客である民、自分よりも強い立場である権力者が牙をむく。
そう想像したのか、ダースは血の気が失せた顔で、荒い息をする。




