第四十話
『解決……してるのか?』
『ほぼ解決だろう。三千万イエンのみの借金で五千万イエンは口裏を合わせた事に否定しなかった』
三千万イエンの借金であれば、返せない程の利子はつかない。
教会から得られる所得から返済していけばいずれ返せる額だろう。
俺達を騙せなくなたから、リルイとカガリは自分で借りたものを返済していくだけ。
「リルイさんとカガリさん、何か言いたい事はあるかね?」
スキャムがそう尋ねると、リルイとカガリは首を横に振った。
「何を言っても無駄でしょう?その通りです。本当は三千万イエン分の借金のみです」
「しかし、ダースが口裏をよく合わせてくれたな」
「口裏を合わせて貰うために、カガリを連帯保証人として入れ直したんです」
『さて、どうしたい?彼らを助けたいと言っていただろう?』
スキャムは俺を値踏みするような目で見ていた。
『借金は返せる額だろう?』
『確かに教会から給与が支払われている間は苦労はしないだろう』
教会から給与が支払われている間は苦労しない……?
『奉仕期間中は解雇の心配は無いが、私がダースの立場でリルイ達を追い詰めるつもりならカガリを教会から追い出すな』
『追い出したらどうなるんだ?』
『給与が利子の支払いにあてられなくなる。リルイか、連帯保証人のカガリの身柄を差し押さえるだろうな』
スキャムは自分の経験を思い出すような遠い目をして、続ける。
『詐欺師の失敗の末路なんて、そんなものだ。後は誰からも同情されず、自業自得だと冷たいを向けられながら二人とも生きていく事になる』
『自業自得だとも言えるが、オルタは彼らを救いたいか?』
…… ……
「教会のリルイ殿、この間、教会から奉仕期間を短縮された助祭カガリ殿について話がある。司教様はおられるかな?」
ダースがやってきたのは、俺達が話をした翌日の事だった。
「姉さん、オルタさんの言う通りきましたね、びっくりです」
「ああ、ここまで読み通り当たるとはな」
「ダースさん、本業が暇なのかい?」
ガスト、フォナ達が軽口を叩くと、ダースは顔を顰める。
「裏切り者が、雁首並べてどうした?まあ、今日の俺は気分がいい」
顔を顰めたのも一瞬の事で、すぐにダースは表情を和らげる。
「カガリさんかリルイを高く売れる算段でもついたのかね?」
そうスキャムが言うと、ダースは俺……スキャムを無視した。
だが表情が変化した所を見るとそうなのだろう。
「お待たせしました、この地域の司教を務めさせて頂いております、エーレンです」
そう言うと、司教、エーレンはゆっくりとした足取りでダースの元へと歩む。
「当教会の賢者と助祭、リルイとカガリについてお話があるらいしですが」
エーレンはリルイとカガリを伴って現れた。
ダースはエーレンの方へ向き、伝えた。
「この度、私共ダース金融は、そこのリルイ殿の要請にてお金をお貸ししているのですが、ご存じですか?」
「ええ、助祭のカガリと家族になりたいとの事で。あなた方のお力添えで奉仕期間を短縮する事ができたと言っておりました」
エーレンがそう言うと、ダースは一つ頷き、不安そうに伝えた。
「実は、俺……私が得た情報によりますと、そこのリルイ殿とカガリ殿はジョブが詐欺師になっているらしいとありまして。本当に返して頂けるのかが不安で」
「はて、なんとおっしゃいましたかな……?」
エーレンは首を傾げた。
「カガリは教会育ちの助祭のため確認をした事はありませんが、リルイは確かに賢者でございましたが」
「ジョブは変わる事もあるのでしょう?現時点でのリルイのジョブが賢者である事は間違いありませんか?」
そうダースが食い下がると、エーレンは折れた。
「それならば、彼らを鑑定致しましょうか?鑑定具の使い方はリルイも担当した事がありますので、リルイに付いていきご確認ください」
「司教様が直接鑑定された方が良いかと思います。これは教会の問題にもなりえますので」
「はて?教会の問題とは……?」
「自分で自分を鑑定した場合、詐欺師だと出てもリルイ殿が賢者だと言い張れば私には判断がつきませんのでね」
「なるほど、教会が嘘の鑑定をするかもしれないとお疑いで?」
司教立ち合いの元、鑑定を行ってほしいとダースは訴え出た。
リルイとカガリは……諦めたような顔をして、断罪の場……鑑定へと引き出される事になる。
「それではまず、リルイから鑑定致しましょう」
エーレンが鑑定具でリルイとカガリのジョブを順に鑑定する。
「ふむ、問題はありませんな」
エーレンがそう言うと、ダースは理解できない、という表情でエーレンを見やった。
「問題はありませんでしたが、これでご用件はお済みですかな?」
それを聞いて、ダースがエーレンに向かって怒鳴る。
「バカな!鑑定票を見せてみろ!」
「それはできませんな。鑑定票は本人の物です。他人がどうこうする権利などありません」
そういうと、ダースはニヤニヤと笑っている俺達に気付いた。
「オルタ……。貴様、エレノアを動かしただろう」
「む、何の事だ?」
「とぼけるな!こいつらの鑑定結果が詐欺師でも偽れとエレノアを使って頼んだんだろう」
そう言うと、優しい表情を浮かべていたエーレンが、不愉快そうに顔を顰めた。
「こいつらは詐欺師のはずだ!」
「いい加減にしてくださいませんか。それ以上教会を侮辱するならこちらも考えますぞ?」
エレノアは聖女である。
その聖女が不正をしろと指示をした。
教会が聖女と認めた人物は自分の都合で不正を押し通そうとする詐欺師で
鑑定を任されている教会は人を騙すために結果を偽るような所だ。
教会への酷い侮辱の言葉を連ねるダースに、エーレンはリルイとカガリに見せてもいいかと尋ねた。
それに二人が頷くと、エーレンはダースの前へ鑑定票を突きつける。
「御覧なさい、リルイは賢者でカガリは聖職者です」
そして、その鑑定票を見て、ダースは力が抜けたように両膝をついた。




