第四話
「レアなジョブなんだから弱いはずは無いはずよ」
レアなジョブは大抵、ピーキーではあるが悪い物は無かった。
剣士は剣全般の装備をした戦いの中で補正がかかる。
剣士のレアジョブである刀使いは刀装備の戦いの中で補正がかかる。
剣士はショートソードでもロングソードでも刀でも補正がかかるが、
刀使いは刀でしか補正がかからない。その代わり補正値は高くなる。
限定された装備であれば、より補正値が高くなる。
マイナス面が強ければ強いほど何らかの能力があるはずだった。
聞いたことの無いジョブにレベル一固定の低ステータス。
これで強くないはずがない!
カレン達は色々な方法を試してくれた。
「何なのよ、このジョブ……もしかしてレアジョブじゃなくて呪われてるとか?」
「ありえるのう……解呪を試してみるか」
呪いかもしれないと解呪も試した。
賢者に戻れるのではないか、と。
さんざん罵られてきたが、こいつらの以外な面倒見の良さに俺は感動していた。
「よし、次はどうすればいい?」
「……なんで偉そうなのよ」
だが、結局は何も効果は無かった。
俺がヤクタターズというジョブになってから一月が過ぎた。
俺達が宿泊している宿屋の一室、カレンの部屋に俺達パーティーメンバーは集まっていた。
「……オルタにはパーティーを抜けて貰うしかないわね」
疲れはて、部屋のテーブルに突っ伏すカレン。
「本当に残念じゃが、これもおオルタのためじゃろう」
枝毛を探しながら、興味なさそうに言うシア。
「か、可哀そうだけど……仕方ないよ……ね」
鎮痛な面持ちで菓子を貪るシノブ。
「そうですわね。オルタニートさんも安全を考えましてもやはり抜ける方が良いと思いますわ」
神様に祈るように手を組みながらエレノア。
俺以外の全員が同じ意見を出す。
主人公気質の冒険者ならとっくの昔に『お前らの足を引っ張るのは辛いから』とカッコイイ事を言って自発的に抜け、引退スローライフを送っているかもしれない。
だが俺は違う!
「……なぁ、俺はもうダメなのか?諦めるなよ!もう少し頑張れよ!お願いだからもう少し頑張ってくれよ!俺の使い道を一緒に考えていこうぜ」
俺は諦めない。パーティーを離れる事は認められない。
美女ばっかりのパーティーで
みんな実力あるから収益も高いため当然一人頭の分け前も多い
何だかんだいいながらみんな根が優しくて素直で面倒見がいい
逃がすともう二度とこんな条件のパーティーに入る事は無いだろう。
彼女達は俺じゃなくてもいいが、俺は彼女達で無ければならないのだ。
「カレン、カレン……ボクを、ボクを捨てちゃうの?ボクが賢者じゃなくなったから?賢者じゃないから、いらない子になってしまったの?」
できる限り可愛らしく見えるように
目を大きく開き、潤ませながら
庇護欲をそそるように甘えた声で言ってみる。
「ボクを捨てちゃうの?」
「そうよ、貴方はいらない子なの。だから捨てるの。あと気持ち悪いからその顔は止めなさい」
「元々ワシらはタンクのカレン、物理攻撃特化のシノブ、魔法攻撃特化のワシ、回復薬のエレノアでバランスが取れておる。本当はダンジョン探索に特化した職が必要だったのじゃよ」
うん、それは解る。俺達あれからダンジョン攻略まともに進んでないもんね。
主に賢者による罠解除やトラップ解析、謎解きが必要だったんだよね。
それは解る。だが断る!
俺は懐から最終兵器を取り出した。
「なぁ、お前ら。この小説を知ってるか?」
「何よそれ……安っぽいカバーね」
「冒険者ギルドのベストセラー小説、パーティーメンバー追放小説だ」
カレンが何を言ってるんだコイツと呆れたような目で見る。
「何を言ってるんだコイツ……」
実際に口に出してもいたが、その言葉を無視し、咳払いして俺は続ける。
「冒険者ギルドの書籍販売部に売っているんだが、今の俺達みたいだなって思ってな」
「どんな話なのじゃ?」
一応聞いてやろうとシアが続きを促すように手を振る。
「俺達みたいなA級パーティーが無能だと思っていた奴を追放するんだ」
「ふむ……?」
そして俺はできる限り感情を込めて伝える。
「そいつを追い出した後でそいつの大事さに気付く。実は影でそのパーティーを支えていたのは無能と思われていたそいつだったのだ。そしてA級パーティーは落ちぶれていき、追い出したそいつに戻ってきて欲しいと頼むのだがもう遅い。彼は別のパーティーのリーダーとしてみんなに尊敬されながら……」
「無いわね」
「無いのう」
「な、無い……よ」
「ありませんわよ?」
そしてカレンは厳しい目を向けて言う。
「追放追放って言うけど、オルタのステータスだと危ないでしょ?」
確かにダンジョンの比較的浅い階層でも死ねると思う。
「子供がダンジョン楽しそうだから連れていってと言ってても連れていかないでしょ?」
そうだな、冒険者を舐めんなよって言うと思う。
「今のオルタはそういう子供以下のステータスなのよ?」
確かに俺のステータスは七歳くらいの子供以下だ。
「無能と思われていた者がパーティーを支えると言っても限度があろう。立ち回りとか見ていたら普通に無能かどうか解るじゃろ」
「この小説ではパーティーメンバーを超強化したりチーム間メンバーのコミュニケーションを円滑にしたりするらしいぜ?」
「きょ、強化なら……気付くよ……ね?」
「コミュニケーション……?私達はオルタさん以外、全員仲がいいですわよ」
「じゃあこっちの小説は?こっちは売上が落ちるがパーティーに居るだけで敵にデバフがかかる。これならどうだ?」
デバフなら弱体化していてもあんまり解らないだろ?
「いや、どうだって言われてものう……なんでお主は小説の話をしとるんじゃ?」
小説の話だと……?現実と小説は違うと……?
「じゃあ俺抜きで一回冒険してみれば?俺が支えていたのが解るんじゃないですかねえ」
不貞腐れたように、俺はテーブルに足をのせ、椅子によっかかる。
小説によると思ったようにダンジョン攻略が進まず、やっぱり俺が居ないとダメだってなるはずだ。
「昨日潜ったわよ?いつもよりもスムーズにすすめたわ。あんたが賢者だった時よりもスムーズだったわ」
やれやれ、と頭を押さえてカレンは言いづらそうに言った。
「バカな!?」
「バカはお主じゃ……お主がワシらの身体を凝視しておるから服が乱れぬように普段から激しい動きが制限されておるのじゃ」
「待て、という事は服を乱して戦っていたのか!?なんで、なんで俺を呼んでくれなかった!」
シアが気持ち悪そうに俺の顔を杖で打つ。
「こ、これもオルタのためだ……よ?わ、私達は私達だけでやっていけるから……ね?」
「オルタさん、貴方のためですの。解ってくださいまし」
シノブとエレノアが悲しそうに言う。
「嘘だ!お前ら自分のためだ!俺が使えないから追い出すんだ!俺のためとか言ってるけど、嘘だ!俺嫌だもん!俺を捨てないでくれよ、な?なぁ……?」
カレンがシアを。シアがシノブを。
シノブがエレノアを。エレノアがカレンを見、メンバーの視線がカレンに集まる。
「解ったわよ……これもリーダーの仕事よね」
そしてカレンは溜息を付き俺の前に来て真顔で言う。
「そうよ、追放よ。貴方はいらないの。ギルドマスターにも相談済なの」」
そして俺はギルドでパーティー除名の同意書にギルドマスター同席のもと無理ありサインさせられ……
カレン達のパーティーを追放された。
覚えてろよ……!いつかざまぁしてやるからな!
読んで頂きありがとうございました!