第三十九話
「カガリさんがもし仮に稼げるジョブを持っていたら返済も楽になるだろう?」
「稼げるジョブを持っていなかったらどうするんですか?」
そうフィナが言うと、スキャムは説明を始めた。
「借金の額が三千万イエンになれば利子は週六万程度になるはずだ。最悪でも教会からの給料で返済できるはずだな?」
「ダースさんが認めてくれる訳ないですよ」
そうリルイが言うと、スキャムは笑った。
「リルイさんが自首すればいいだけだろう?ダースさんと一緒になって無い借金を捏造したと」
ダースさんの金の動きを洗ってきちんと調べてくれるだろうさ、とスキャムは言う。
「で、ですがそんな事をしたら……」
「三年くらいは牢屋暮らしだろうな。だが君には三年で五千万イエンを稼げる価値があるのかね?」
そう言うとリルイは俺……選手交代したスキャムを睨みつける。
「三年で五千万イエン稼げる仕事を見つけられるか、という事だ。無いなら牢屋に入ればいいだろう」
「五千万イエンが減額されても、月に六万の利子を払ってたら完済できるとは思いませんが」
「月に二十万の利子を私達が手伝って、というプランでも完済はできないのではないか?」
どっちにしろ完済するというプランは最初から無かったのだ、と。
「三年後には結婚出来てリルイさんの望み通りの結果だろう?借金はのんびり支えあって返していけばいい」
それでも渋るリルイに、スキャムは溜息を付いた。
「茶番は辞めよう。私はジョブが鑑定ができるんだ」
「なんだと!?」
フォナがそれを聞いて、立ち上がる。
「う、嘘よ!そんなスキル聞いた事無いわ。教会の道具でしかジョブは鑑定できないはずよ」
「私のジョブも聞いたこと無かったのではないかね?」
そう言うと。カガリは黙った。
『選手交代』とかいう訳の解らないスキルがあるんだ。
ジョブ鑑定も聞いたことが無いだけであってもおかしくはないだろう。
『便利なスキルを持ってるんだな』
『そんなスキルを私が持っている訳が無いだろう。ただのブラフだ』
「カガリさんもリルイさんと同じ詐欺師だろう?」
カガリは何も言わない。
無言が肯定しているような物だった。
嘘というのは不安定な土台にグラスを積み重ねていくような物だ。
真実と比べて情報は少ないし、齟齬や矛盾が発生しうる。
そんな土台に嘘を積み重ねていくと?崩れるに決まっている。
今詐欺師じゃない、と言っても鑑定すればすぐに証明できる事だしな
『でもスキャムはジョブが解るという嘘をついてたじゃないか』
『詐欺師の神様だからな。自分の担当する職業かどうかくらいは解るさ』
そう言えば神様だったな……、と俺はスキャムを眺める。
「カガリちゃんも詐欺師かよ……」
そうガストが言うと、カガリはリルイに視線を向けた。
リルイが口を開こうとする前に、スキャムが続けた。
「五千万イエンについては……借金を返すためにと口裏を合わせたんだろう?」
「口裏を合わせるとはどういう事だ……?」
フォナが不思議そうにまばたきをする。
「三千万イエンの借金だけなら、借りた額の使い道を考え、カガリさんが給料を貰える事にすぐいきつくだろう。その場合は切羽詰まった状況ではないのだ」
週六万イエン程度の程度返済。
カガリが受けられる教会から貰える所得で十分カバーできる。
後はリルイがまともに働けば借金原資を返済していく事もできるだろう。
八年以上返済にかかるかもしれないが、その見返りとしてカガリとすぐに結婚する事ができるというメリットもある。
「金を貸す方回収の見込みが無い所には貸さないだろう。カガリさんの所得で回収できると考えたはずだ」
リルイを甘く見ていたのか、昔の仲間だからと信用をしていたのか。
リルイは教会へ納める日、カガリの解放をズラして無効な契約を結んだ。
詐欺師相手なら、教会の方へ解放された確認なりを取りに言ってもおかしくはない。
「ダースさんが泣き寝入りしていれば、そのまま踏み倒しておしまいだったんだろうが、金貸しを生業としているんだ。そうはいかないだろう」
『舐められたらおしまい』という言葉があるが、本当にそういう仕事もあるのだ。
金貸しが踏み倒されて泣き寝入りすれば、他の人も踏み倒せるのではないかと考える。
そしてその筋のプロフェッショナルが狙ってくる。
『素人でも踏み倒せる程甘い商売をしている。なら手を出しても大丈夫だろう』と。
「血なまぐさい事をしてきている冒険者出身だ。回収できないならそういう噂が経つ前に始末するに決まってる。犯罪ジョブ持ちだし躊躇う理由は無い」
一呼吸を置いて、想像してみろと手を振る。
「もし私がダースなら、返せないなら始末しておしまいだ。それを冒険者登録させる理由は……昔の仲間のツテで返せるあてを見せるというくらいか」
回収できないなら始末を躊躇う必要はないが、回収できるならそちらを試すだろう。
始末しても一イエンにもならない。
もし回収できるなら、そちらの方がより利があるのだから。
「詐欺師が二人も居るんだ。詐術で丸め込み、稼ぐ仲間を得られれば長期に渡ってお金を産む金の鶏になっただろう」
実際に俺は百六十万出したし、リルイが困れば出す気でも居た。
どうやって解決しようかと悩んでいた程だ。
『これでほぼ解決だが、オルタはどうしたいのだ?』
スキャムが俺に尋ねてくる。どうしたいのか、と。




