第三十八話
二人とも詐欺師だろう、という言葉が理解できず、俺はスキャムに聞き返した。
「いや、カガリは違うだろ。あいつは教会で仕事をしているぞ?」
「なんで詐欺師は教会で仕事をしないんだ?」
「いや、懺悔を聞いたりするような犯罪行為からかけ離れた職場だろ……」
「だから信用を得やすいだろう?私もギルドを経営したり、騎士や衛兵をしている時期もあった」
専業詐欺師なんてする物ではない。信用が取れないだろう、とスキャムは言う。
「詐欺師だろ?なんで真っ当に働いてるんだよ」
「真っ当に働くから詐欺ができるんだ」
スキャムは自分を指さす。
「このスーツにはシワひとつ無いだろう?」
「……ないな」
「そして身体をある程度鍛えている。筋肉質ではなく、細くしまった身体を心がけている。何故だと思う?」
「なぜなんだ?」
「信用を得やすい。騙すためには信用が必要だからな」
太っている人が売る痩せ薬と、痩せている人が売る痩せ薬はどっちが売れるか。
痩せ薬の効果は関係ない、信用差なんだとスキャムは言う。
痩せている人が毎日飲んでいると言えば痩せると思うし
太っている人が毎日飲んでいると言えばやはり効果はなかったと思う。
「深夜の映像放送にある身体を鍛えるグッズとか。本当に必要なのか?というくらい全員が筋肉質だろう」
実際はジムでまっとうな器具を使って
運動をしながらついた筋肉だとしても関係ないのだ。
効くんですか?
百聞は一見に如かずだ。『俺が答えだ』と言えるのだから。
「身なりを整える余裕がある財力、立場のアピールになる。見る人が見れば良品、という物を身に着けるのだ」
「外見だけじゃないと思うんだが……」
俺がそう言うと、スキャムはフンと鼻で嘲笑った。
「ブランドでかためるのは、そのブランドが好きという理由もあるが、余裕を見せるためだ」
実際に高級ブランド品は目立つマークや目立つカラーの商品の方が人気がある。
商品としてのバランスを崩したような位置にでも主張するブランドも多い。
鞄に大きくマークを打つ事で、高級品である事をアピールするためだ。
「せっかく高級品を無理して買ったのに、ブランドのマークが内布にあるだけなら寂しくなるだろう?」
同じ性能。いや、より高い性能を持っていても、歴史が積み上げてきた高級品というブランドは魅力なのだ。
「高額の物を身に着けている人物の儲け話と生活に貧窮している人物の儲け話のどっちにのる?」
高額商品を身に着けている人を指して、
『そんなのを身に付ける人は詐欺師か金持ちだけだ』
という言葉があるが言いえて妙である。
「私は詐欺師という人物は自分を高貴で金持ちで信用できる人間だといかに偽れるかだと考えている」
詐欺師がまず欺くのは自分なのだ、とスキャムは講釈をたれた。
「ビジネスパートナー、友人、恋人。どれも同じだ。人は信用できる人と結びつきたくなる者なのだ」
「なるほどな……」
それを一番理解しているのは、一番信用できない詐欺師というのが皮肉がきいているな。
「私の事を信じているだろう?詐欺師に食い物にされるタイプだ」
「余計なお世話だよ!もういい、お前に任せる」
…… ……
「もういいですよ、先輩。確かにフォナさん達が言う通り私達が撒いた種なので」
「そうです、みなさんにこれ以上ご迷惑をかける訳には」
カガリとリルイがそう言うと、フォナ達も気まずそうにした。
「冷たいかもしれないが、できるだけの事はやってみろ。どうしてもダメな時は私達が助け……」
まとめようとしたフォナに、スキャムが手の平を差し出して止める。
「カガリさん、そういえばジョブは何だね?」
「……はい?」
俺と交代したスキャムに、急に話を振られてカガリが顔を上げた。
「リルイさんは詐欺師なのは解った。カガリさん、貴方のジョブは何だね?」
冷たい口調に冷たい視線でカガリに問いかける。
その雰囲気の変化に、カガリは戸惑いながらも答えた。
「……私のジョブなんて関係ないでしょう?」
「関係ない?貴方の借金はリルイさんより額も多いから当事者だと思うのだが」
そう言うとリルイは焦ったように割って入る。
「元々は私が原因の借金です。彼女に責任を取らせるつもりはないので彼女のジョブは関係ないですよ」
「そうか。だがその借金の元々の原因は彼女の解放なんだろう?」
フォナの方を見るとフォナが首を傾げた。
「うん……?」
「三千万イエンはどこに消えたんだ?」
「……カガリさんを解放するために教会に払いました」
「八年後にカガリさんはいくら持っているんだ?」
誰も何も言わない。
「奉仕期間だったら八年後にカガリさんが手にするお金は、本来ゼロだろう?」
そしてスキャムは続けた。
「だが彼女は解放された。つまり働けば給料が貰える事になる。三千万イエンはいずれ回収できる金だろう」
つまり、カガリには八年後に、現在苦しんでいる借金の額と同じくらい入ってきているはずなのだ。
「……そうですね。ですが借金には利子が付きますから」
「そのお金には手を付けず、今の借金を我々が手伝う。利子が付くから仕方ない、という結論でいいのか?」
そう言うと、全員が顔を顰めた。




