第三十六話
答え合わせをしようか、と。
カガリにリルイを呼ばせ、ギルドで改めて話をする事にした。
リルイは怯えるような顔をこちらへ向け、震えている。
「それで、借りたのはリルイか?カガリか?」
リルイもカガリも何も言わない。俺は一つ息を付き、リルイの方を向いた。
「リルイだな?カガリの借金なら教会に直接苦情を言うだろ?」
「……そうですよ」
もしカガリが借金をして返せないのだとすれば、ダースは教会に直接出向いて借金を取り立てるだろう。
カガリは教会の資産なのだから。
カガリがどうなるかは解らないが、少なくともダースは自分が貸したお金を回収できるはずだ。
リルイが目を腫らしていた理由を考えると。
「リルイが金を借りて返せなくなり、ダースが激怒して殴りつけた」
「まるで見てきたように言うわね。でもその通りよ」
そう言うと、フォナが首を傾げる。
「オルタがお金を貸す所まで計算していたのか?」
フォナが考え込むようなそぶりをしているので答えてやる。
「いやいや普通に考えたら、フォナフィナとガストがターゲットだろう」
フォナフィナにガスト達。
冒険者の中でも稼いでいる所が二つくっつくかもしれないのだ。
そこに負債者をメンバーとして突っ込めれば長期に渡って回収する事ができるだろう。
ダースがリルイに冒険者をさせると言ったのはそれが目的だと思う。
だがリルイはあの日、『パーティーに入れてくれ』とは言わなかった。
「パーティーに入るためには、最新のステータス鑑定をするよな。犯罪ジョブでもついていたのか?」
「……詐欺師に変わっていたんです」
信用関係が必要なパーティーに詐欺師……欺く事を生業とするジョブは入りづらいだろう。
賢者ジョブは優秀なジョブだ。
剣士程ではないが剣も扱える
魔法職程ではないが魔法も扱える
聖職者職程ではないが治癒や回復もできる。
探索者職程ではないが罠の解除もできる。
回復を売りにする聖職者職
寄付を貰って治癒や回復をしている教会
彼らにとって一番のアピールポイントであるはずの治癒や回復を扱える職である。
そのため中級であっても賢者職は割と高額で雇われる。
衣食住が保証されている教会に勤めており、そちらに金はあまり必要ない。
勤め先が教会なら品行方正な行動を求められる。遊びに金は使えない。
お金や食べ物に困ってる信者の前で嗜好品で身を固めた教会の人間は好ましくない。
嗜好品や贅沢品も基本的には禁止されているだろう。
本や趣味のも教会に寄付されていて困らないし、金の使いどころはあまりない。
そんなリルイが借金をする理由と言えば、
「カガリの奉仕期間の短縮か。いくらだ?」
基本的に教会勤めの人は貞淑である事を求められるが、強制ではない。
だが奉仕期間中のカガリは強制だ。結婚も許されないだろう。
「六歳から十年分。彼女は一昨年から奉仕期間だから残り八年なので二千五百万イエンくらいになります」
お互いに愛し合っているのに、八年を待つのが耐えられなかったんです、とリルイは俯く。
「そしてダースさんから三千万イエンを借りようとしたんですが、ダースさんが解放した彼女を保証人にしろと言いまして」
教会から解放されたら、カガリは教会の資産ではなくなる。
はれてカガリを保証人にする事ができる。
それは、もしリルイの返済が滞ればカガリから直接取り立てができてしまう事になる。
「教会からの給料で返せる予定ではあったのですが、もし万が一があると……カガリの身が危ないので」
そこまで聞くと大体予想はついた。
「三千万円を隠し持ち、カガリを解放した事にして保証人にしました。その後で日時をずらして解放すればカガリの身は守られます」
教会の資産の段階でのカガリの保証人は無効のような物だろう。だが
「いや、それ詐欺だろ……彼女を守るためだろうと綺麗ごとをいってもダースからすれば詐欺だろ」
そういうとリルイは頷いた。
結局、その事がバレてダースさんから怒りを買う事になって顔に痣を作る事になったと。
ジョブも賢者から詐欺師へ、か。
「二つほど聞きたいがいいか?」
二人が頷くと、俺は質問をする。
「三千万イエンはどこへやった?」
「三千万イエンは、彼女を解放するのに使いました。持ったままにしておくとダースさんに取り返されると思ったので」
こいつ度胸があるのか無いのか解らないな……。
「ダースの八千万イエン。五千万イエン増えてるが、それは何故だ?」
「二つ目、五千万イエンは詐欺をした私への示談金として解放されたカガリが新しく追加で借りた事にさせられました」
その五千万イエンが妥当かどうかは別として。借りた事にさせられた、というのであれば、書類は作っているだろう。
どうしたものか、と俺は考えを巡らせた。




