第三十三話
翌日、ギルド顔を出すとフォナとフィナ、ガスト達が集まっていた。
どれにするかを話し合っているようだが、時折罵声が聞こえる。
なんでこいつら喧嘩ばかりするんだよ……。
手をあげながら近づくと、フォナとフィナが駆け寄ってくる。
「オルタさん、聞いてください。ガストさんが最低なんです!」
フィナがつばを散らしながら俺に掴みかかって揺さぶる。
フィナがここまで取り乱すのは珍しい。
「どうしたんだよ……。今日は簡単な討伐するんだろ……」
フォナとガストがそれぞれ一枚ずつ持っている討伐依頼票を渡してくる。
どっちの依頼がいいか見てくれ、という事らしい。
まずフォナが持っている方から目を通す。
『ゴブリンイーターの捕獲 十万イエン』
ゴブリンイーターはネコ科の動物を人よりやや大きくしたようなモンスターだ。
じゃれつくようにゴブリンの首を飛ばし顔を突っ込んで体液を舐める。
ゴブリンイーターと名前が付いているが、別にゴブリンだけを襲う訳じゃない。
数が多く群れて狙われやすいだけで、人が居れば普通に人を襲う。
動きは素早く、一撃を当てる事も難しい。
討伐依頼だと、一匹当たり二十万イエンくらいが相場だろう。
安全に行くなら、回復できる職を含む十人くらいで向かいたい所だ。
カレン達なら嬉々として受けるだろうが普通の冒険者だとまず受けない。
命がけとまではいかなくても、大怪我してもなんら不思議はないのだから。
フォナやフィナは良くてもガスト達は誰かが怪我をするだろう。
そして、『捕獲』の文字に目を落とす。
倒しきらなくてもいいから。半殺しの捕獲でいいから半額でよろしくって事か?
ふざけんなよ……?
不意をつき一撃で首をとばす討伐が一番危険が無い。
死なない程度に何度も攻撃を加えるのが一番危ないのだ。
「フォナ、この依頼はありえない。こんな依頼ボランティアでも受けねえぞ、ふざけんなよ?」
「な……なんだと……?」
もしどうしてもこれを受けたければ、まず金額の間違いではないかと問い合わせる。
次に相場を言って、捕獲の難しさを伝えて倒しきってもいいかを妥協させる。
それでどうしても捕獲する理由があるなら、桁を一つ間違えている。
いや、百万イエンでも安いんじゃないだろうか。
生け捕りにすれば好事家や動物園なら五百万イエンくらい出してもおかしくないだろう。
「本当にふざけんなよ!」
次にガストが持っている方から目を通す。
『虫型モンスターの討伐 二十万イエン』
虫型モンスターだ。固い外骨格は素材とされる事も多いため、討伐以上に旨味がある。
ただ虫型モンスターはピンキリだ。
台所に居る黒い害虫をそのまま大きくしたようなのもあれば、蜂を大きくしたようなのもいる。
そしてぶっちゃけ俺は虫が苦手だ。
「ガスト、この依頼もありえない。気持ち悪いもんもってくんな!想像しただろ、ふざけんなよ?」
こんなのしかないのか……?
『ゴブリンリーダーの討伐、 十五万イエン』
これでいいじゃん!
「これでいいだろ……。場所も近いし安全だし報酬も悪くない」
俺がそう言うとガストもフォナとフィナも微妙そうな顔をした。
「つまらなそうだ」
「面白く無さそうだな」
「楽しくなさそうです」
仕事に楽しさを持ち込むなよ、これでいいじゃないか……。
「ほら、今日はこれだ。ぶつくさ言うな!」
半ば強引に俺が依頼を受け、ふと気付いて掲示板の方をまわる。
パーティー参加希望の掲示板にリルイの名前が無かった。
まあまだ昨日の今日だ。夕方くらいに貼られてるだろ。
…… ……
「ゴブリンリーダー結構強かったな」
「群れで行動するから、なかなか手ごたえがあったな」
「モンスター討伐よりも盗賊退治に近かったですね」
こいつら結構息が合ってるよな。フォナフィナが遊撃、ガスト達が主力をパーティーで抑え撃破していく。
依頼を決めたりパーティーで何かを決断する時はボロボロだが、戦闘だけで言うとこいつらのパーティーの相性はいいんじゃないだろうか。
ギルドの受付に報告して、ふと気付きパーティー参加希望の掲示板を見る。
夕方になってもリルイの名前が無かった。
翌日は探索に決まった。
身近なダンジョンへ探索、これは特に揉める事もなくすんなり決まった。
「探索、浅い階層とは言ってもハズレばっかりだったな」
「まあこういう事もあるさ」
まあ探索は当たり外れが大きい。
こういう日もあるだろう。
パーティー参加希望の掲示板を見たがリルイの名前が無い。
もしかして、もう解決したんだろうか。
そう思っていると、苦情係の女が薬草を持ってカウンターに報告しているのが見える。
「おい、お前……。苦情係」
「何よ……きちんと名前で呼びなさいよ」
名前聞いたことあったか……?
そう言うと苦情係はカガリ、と名乗った。
「カガリ、リルイはどうしたんだ?」
「……ゴブリンイーターの捕獲を受けたんだけど、倒せなくて」
あれ受けたのかよ……。
「他のパーティーに助けられて。幸い怪我はしなかったんだけど、戦いになると震えてスキルが使えなくなってしまったの」
そしてスキルが使えないまま他のパーティーに混ざる訳にもいかず、パーティー募集を諦めてリハビリ中との事だ。
その間、少しでも足しになるかとカガリが一人で採集依頼を受けているらしい。
「司教様が教会の上層部へかけあってくれているんだろ?そっちはどうなんだ?」
そう言うと、苦情係は首を横に振る。
「ああ……解った」
ダメだな、やっぱりエレノアに頼むしかないか。




