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第三十一話

 週に二十万イエンという額はでかい。

 今日、俺達が受けた採集依頼で納品した稼ぎがどのくらいか。

 おそらく一人三千イエンにも満たないだろう。

 採集依頼のように危険が伴わない依頼だと週に二万イエン程度しか稼げない。

 

 必然的に討伐・駆除の依頼かダンジョン探索になる。

 

 俺は依頼板の所を眺め、討伐依頼を眺めた。

『盗賊団の討伐』

『街道、モンスターの駆除』

『畑を荒らす野生動物の駆除』


 通常の討伐・駆除の依頼だと結構稼げる。

 高額の討伐依頼をこなせば返済に手は届くが、基本的にパーティーで受ける仕事だ。

 

 街道のモンスターの駆除野生動物の駆除も面倒だ。

 弱くても巣を見つけて叩かないと駆除にならない。

 戦闘をこなしながら巣を探し殲滅する。

 日数を引っ張られると、清算日に間に合わない。

 

 ダンジョン探索だが、これはバクチみたいな物だ。

 大金を稼げる事もあるが、稼げない事も多い。

 モンスターを倒しても、討伐依頼でなければお金は出ない。


「ダンジョンのすごく奥深くにいる強いモンスターを倒したぜ!」

「すげーな、オイ!」

 それで得られるのは名誉のみだ。

 街に現れて住人をバクバク喰ってたら討伐依頼になるだろうが

 人と関わらない所にいるモンスターを倒したからといって、フーンで終わりである。

 

 餌を呼び寄せるかのようにいつの間にかダンジョンに自動配置される宝箱。

 そしてモンスター自身の素材がダンジョン探索の収益となる。

 

 ダンジョン内にある二十万イエン以上の価値が付く物を宝箱で引く。

 もしくは素材として価値のあるモンスターを倒さないといけない。

 

 素材として価値のあるモンスターとは何か。

 選ばれた人くらいでしか倒せない強いモンスター

 もしくは出会えたら幸運だと言われるくらいレアなモンスター

 それらを倒して何らかに転用できる素材がある事

 これらを満たさないといけない。

 

 さらにダースが付けた一週間ごとの支払い、というのが足を引っ張る。

 ダンジョンの奥深くまで探索する事もできない。

 

 命がけの探索で返済が間に合ったとしても……翌日から次の週の返済のために命がけの探索を繰り返す事になる。

 詰んでるだろ。

 

 だが、誰もリルイに声をかけない。

 リルイも口に出さない。

 

 これは、既に詰んでいる。

 冒険者としてやってきたガスト達もフォナ達も解っているはずだ。

 

「詰んでるじゃねえか」


 いつの間にか話を聞いていたギルドマスターがリルイを見て鼻で笑う。

 このおっさん……暇なのか?

 

「悪い事は言わん。ダースに頭を下げて返済を月にして貰え」

「相談しましたが返済期間は延ばさないと言われました」

「週に二十万イエンって言うのは辛いぞ?それに賢者だとソロでまわれないだろう」

 支援職みたいなものだし、パーティーは必須だろう。

「加入希望を出して数日以内にパーティーに加入したとしても、一週目の清算に間に合う依頼は受けられんだろう」

 ギルドマスターの言葉に、現実が見えてきたのかリルイが震える。

「でも、どうすればいいんですか。このままだと彼女が……」


 リルイがちらっと俺の方を見る。

 なんだよ……


 ギルドマスターの視線が俺に向く。

 なんでこっち見るんだよ。


「オルタ、お前がこの前ギルドからだまし取った金を出してやれないか?」

 ギルドマスターの言い方にイラっとする。

「断る」

 出したとしても、これで出したらギルドマスターが言ったおかげだろ。

「お前は困ってる人に手を貸そうと思わんのか?」


「角を独占して値段をつりあげるクズな商売で大儲けした下種な転売野郎、変なジョブに変わって除名されたろ?大変だな、ザマァ!」

 俺の一言でリルイが肩を震わせる。第十四話あたりでリルイが言った事だ。

 

「そう罵った人にお金を出さないといけないの?」

 リルイと苦情係を交互に指さす。

「俺の個人情報をペラペラと話題のためにバカにしながら話す、そいつの彼女を救うために?」


 俺はやれやれ、と頭を振って続ける。

「今の金を使い切ったら収入元が無い無職の俺が、俺を追い出して無職にしたギルマスの言う事を聞いて金を出せばいいの?」

 三人が目を逸らす。一番最初に目を合わせてきたのは苦情係だった。


「それはアンタが教会勤めをしているリルイさんを馬鹿にしたからでしょう!」

「馬鹿にされたからそいつが困ってる時に助けず嘲笑った。さらに自分が困ったら助けろっていうのか?」

 俺の毒舌にフォナとガストも気まずそうにしている。

「そもそもギルドマスターが出せばいいだろ。ギルドの金庫に金ならいっぱいあるだろ?」

「あれはギルドの金だ!俺の金じゃねえよ……」


 その空気を破ったのはリルイだった。

 

 俺の言葉に怒りだすかと思っていたら、返って来たのは嗚咽混じりの懇願だった。

「先輩……前の事は謝りますから。助けて貰えませんか……。賢者の先輩として私を救って貰えませんか?」

 グスグスと涙声で。涙をこぼしながらそういうリルイ。


 ザマァ!と言いきれたら楽なんだが、俺はチキンで偽善者だ。

 こういう本当に困っている姿を見せられると、気持ちよく眠れないんだよな。


 俺は頭を掻きむしりながら言った。

「元賢者からのアドバイスだ。そういう時は笑いながら『あの馬が来ると思って全額ぶっこんで金が無い。助けてくれ』って言え」

「……あの馬が来ると思って全額つっこみました。お金がありません、助けてください」


 俺は女の涙に弱いと思っていたが、男の涙にも弱いらしい。

 無理やり笑顔を張り付けたリルイの頭を軽く叩いて、俺は言った。

「仕方ないにゃぁ……いいよ。……百六十万イエン貸してやる。利子は付けないが絶対に返せよ?」

 

 俺がそう言うと、ギルマス、フォナとフィナ、ガスト達が俺を見てにやついていた。

 俺は少し赤くなった顔を見られないように顔を背けた。

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