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第三十話

 採集依頼を終えてギルドの受付に納品していると 

「ガスト達じゃねえか。お前らがつるむのは珍しいな」

 聞き覚えのある声にガストとフォナ、フィナが身体を固くした。

 

 元上級槍使い冒険者、ダースだった。

 元、ガスト、フォナ、フィナ達のパーティーリーダーだった男だ。

 顔は赤くなっており、片手に持った酒瓶から随分と寄っているのだろう。

 

 フォナとフィナが抜けガストとリルイが抜けた事で解散したダースはソロで討伐依頼に挑み大怪我を負った。

 一般人と比べればまだ強いが、モンスターと向かい合うと恐怖から動きが鈍るようになり、そのまま冒険者を引退した。

 

 冒険者時代に貯め込んだお金で街の金貸しを開業し

 冒険者時代に培われた度胸とやや強引なやりくちで、あっというまにのし上がった。


 金貸しというのは卑下される職業ではない。

 商機にお金が足りない人へお金を貸すというシンプルな職業は、必ず利子を含んだ回収とセットになる。

 

 英雄視され、皆から感謝され褒めたたえられる名誉ある上級職冒険者から

 取り立てて恨まれる金貸しになった時は、酷い荒れ方をして衛兵に取り押さえられた事もある。


 時折酒場で客達に管を巻いていた。

『俺は不当に冒険者をやめさせられたような物だ。身勝手にパーティーを抜けやがって』

 冒険者への未練、ガストやフォナ達への恨みがまだ残っているのだろう。


「聞いたぜ、お前らパーティーを組んだんだってな。俺を追い出して満足か?」

 金貸しでのし上がったダースは街の有力者と言っても過言ではない。

 彼の息のかかった店舗……彼から金を借りている弱みを持った店舗を動かせば、生活がしづらくなるだろう。


 ガストがフォナとフィナを庇うように立つ。

 

「お久しぶりです。上級槍使いのダースさんが冒険者ギルドに顔を出すのは珍しいですね」

 敬語で相手をたてるような事を言いながら、ガストはダースを刺激しないように会話をしている。


 俺だったら

「冒険者は引退したのでは?何か依頼ですか?」

 くらい言って怒らせているかもしれない。

 まあ俺も除名されているから今は冒険者じゃないけどな。

 

「冒険者登録をお願いしようと思ってな。もうすぐ約束の時間だから来るはずだ」

 そしてしばらくしてギルドに顔を出したのは、片目を赤黒く腫らした整った顔立ちの青年。

 賢者の証である鷹の意匠のペンダントを付けた神官服。

 教会付き賢者のリルイと、その彼女の苦情係だった。

 

「教会に泥棒が入ったらしくてな。教会の司教が運用資金を借りたのに返せないと言ってきてな」


 ダースがニヤニヤしながら説明する。

 

「借金額はいくらなんだ?」

「八千万イエンだな。工事の支払いの金を盗まれた。返済は週に二十万イエンだな」


 一般的な冒険者で週にだいたい四万イエンくらい稼げるくらいだ。

 その額を返済できるようなパーティーはあまりない。

 ガスト達も稼いでるパーティーだが週に二十万イエンという額は無理だろう。

 性質が悪いのは、それが利子分だという事だ。

 いくら返済しようとも、原資は減らない。利子だけの返済は永遠にかかり続けるのだから。


「教会は一つの結論を出した。この苦情係の女だな」

 ダースは苦情係の女性の髪を引っ張り俺達の前へもっていく。


「シスターは雇われているだけだが、孤児から育てたこいつ……彼女は教会の資産になっていてな」

 教会は孤児を育てる機関でもある。

 衣食住を与え教育し、成人するまで育てるのだが、当然お金がかかる。

 教会にいる孤児達は、成人するまでにかかったお金を返済するための期間が設けられている。

 成人してから養われた年数までは、教会の仕事を無償で行うのだ。


 十五歳で成人とした場合、十歳で孤児となった子はニ十歳までの労働義務が生じる。

 

 それとは別に、人頭税という一人あたりにかかる税金がある。

 勿論子供にもかかる。通常は親が払うのだが、孤児の場合はその払う親が存在しない。

 大量の孤児達の人頭税を支払えば教会は存続する事ができない。

 ほとんどの孤児は労働義務機関が終わるまで、奴隷身分とされて人頭税が免除されている。

 

 勿論、奴隷だからという扱いをする人は居ない。形式上の奴隷なのだ。

 教会で管理している奴隷、それは資産になる。

 

「こいつを貰い受けて娼館で働かせるかと思っていたら、なんとそこには見知った顔のリルイ君が居てな」

 そしてダースは、リルイを指さした。

「彼女の代わりに借金の利子分を支払って貰う事になったってわけだ」

 そうダースは説明をした。

 

「大丈夫なのかよ、リルイ」

 心配そうにガストがリルイへ声をかける。

「大丈夫だ。司教様も教会の上層部へかけあってくれている。返済するまでの期間だけだ。多少無理をすれば、稼げない事もないだろう」


 冒険者の再登録をするリルイを確認して、ダースはニヤニヤと笑いながら返済額に対する契約書を作成する。

「返せなかったら、最初の予定通り教会の資産を持っていくだけだ。せいぜい頑張るんだな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝 30話!更新お疲れ様です。毎回楽しみに読んでます。 正統派ヘイトキャラ登場という感じですね。 主人公がクズというわけでも善人というわけでもなく 無双でもなければ(能力はチートですが)…
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