第三話
「突っ込みどころしかないけど、オルタ。職業の【ヤクタターズ】……何これ」
カレンが半目でステータス票を睨む。ステータス票を持つ手は震えていた。
シアとシノブ、エレノアも俺のステータス票を覗いて固まっていた。
「むぅ、ステータスも凄まじいのぅ……子供並み……いや、子供以下のステータスじゃな」
シアが知力を指さす。全部一桁の中で知力がとりわけ低く3だった。
「れ、レベル上限も凄いね。1が上限って事は……も、もう成長しない……とか?」
「スキルも何もありませんね。賢者スキルが残っていれば……それだけでも違うのですが」
子供のステータスは七歳くらいだと全部一桁だ。
そこから上がっていき、十歳くらいになると全てのステータスが百前後くらいになる。
成人して戦士や賢者等のジョブを取得すると補正がかかるのだが、職業上有利なステータスと不利なステータスがある。
カレンの職業、戦士は体力にプラス補正、敏捷性にマイナス補正。
シアの職業、魔法使いは知力にプラス補正、体力にマイナス補正。
シノブの職業、武道家は敏捷性にプラス補正、知力にマイナス補正。
エレノアの僧侶は、知力にプラス補正、敏捷性にマイナス補正。
このプラス補正のステータスを有利ステータス、不利ステータスと呼ぶ。
新人の冒険者で、不利ステータスが二百程度。有利ステータスが五百程度。
商人や農民等の非戦闘職の場合でも、二百程度でまとめられる。
うちのようなA級冒険者パーティーだと、不利ステータスでも五百近く、有利ステータスだと千を超えていた。
俺も賢者時代は六百平均くらいのステータスだったのだが。
「これじゃあ冒険出られないわね」
「そうじゃのう……このステータスだと新人を連れて行った方がマシなレベルじゃな」
「……そ、育てると言ってもレベル上限あるし……無理だよね」
「スキルもありませんし……」
おや、変な流れになってきた。
「待ってくれ【ヤクタターズ】が弱い職業だといつから錯覚していた?」
「ステータス票を見れば解るわよ……」
カレンがそう言うのに、俺は大きく首を横に振る。
「【ヤクタターズ】って職業を聞いた事があるのか?ないだろ?教会にも記録が無いレア職業なんだぞ?」
「レアはレアじゃろうが……このステータスではのう……」
「はぁ?シア。お前【ヤクタターズ】に常時ステータス偽装効果があったら責任とれんの?もしかしたら敵と戦う時にステータス全部千倍とかになったらどうするの?」
ふむ、偽装か……無くはないのぅ、とシアは考え込む。
「レ……レベル上限が1」
「シノブ、もし俺レベルが上がらないままステータスが伸び続けたらどうする?お前らが限界に達しても俺は限界を突破して強くなり続けるんだぜ?」
ろ……ロマン溢れる言葉だ…ね。げ、限界突破……。とシノブも考える。
「スキルはどうなのでしょう。少なくとも賢者スキルは消えていますよね?ダンジョンでも罠解除ができませんでしたし」
「エレノアちゃん、もしそれ以外の有用なスキルが偽装で入っていたらどうする?魔力消費半減とか、みんなの体力にバフとか、信仰値が高くなり、神様の声が聞こえるとか」
記録に無いようなレア職業だから、そういう聖人スキルが発動する可能性も……。とエレノアも考え始める。
「とりあえず冒険行ってみようか!」
俺は明るく町の外に出て……新たな職業を試そうと主張する。
結果。
「ダメじゃない!」
「偽装じゃなくてそのままのステータスじゃったのう」
「い、一週間……冒険したけど、ステータスは……あ、上がらなかったね」
「……」
「ごめん。あとエレノアさん、期待外れだったかもしれないけど無言は辞めて……」
偽装効果なんてなかった。
ステータスもレベルも上がらなかった。
バフもなければ効果も無かった。
冒険者の給料は一週間に一度、ギルドで精算される。
普通の冒険者は週に4万イエン程度が多いが俺たちはAランクパーティーだ。稼ぐ額も桁が違う。
「今週は全部で八万イエンねぇ。五人で分けるから、一人一万六千イエンよぉ」
俺が死なないように気を付けながらまわった結果、
週に二百万イエン。一人頭で四十万イエンは稼いでいた俺たちだけに、みんながこの結果に呆然としている。
まぁ想像ついてたけどな。低級の狩りしかしてないし。
「今、みんなで泊っている宿は週に一人三万イエンだから、一万四千イエンずつ徴収よ」
カレンが青い顔で徴収をはじめる。
「ワシは魔導書のローンでお金が無いのじゃが。先週の稼ぎは全部手付で使っての」
「わ、わたし……お、お師匠様に全額仕送りしてるから……な、ない……よ?」
「私も教会へ全額寄付していたのでお金はありません……。義務ではないのですが、過ぎたるお金は心を蝕むので、お父様に何かあったのかと心配されそうです」
「宿のグレードを落とすと、私達は女性ばっかりのパーティーだから変なのが現れるのよね」
カレンは溜息を付き、俺を睨む。
こいつらはA級パーティーメンバーだ。当然実力も高い。
暴力に訴えて無理やり、という命知らずなバカは居ない。
一番非力なエレノアでも、中級冒険者の戦士と殴り合って勝てるくらいの実力を持っている。
「大丈夫だろ、見合った安宿に移ろうぜ」
俺の言葉は無視され、金策に悩むメンバー達が居た。
「お前ら無計画だな。ま、俺も金は無いけどな」
みんなから誰のせいで、と睨まれる。
「よし、元賢者の俺からのアドバイスをやろう。お前らホストにハマった事にしろ。
貢いでたら金無くなったから支払い一週間待って、と宿屋に言うんだ。
そしたら『仕方ないにゃぁ……いいよ』の法則で解決しないか?」
「「「「バカなの?」」」」
いいアイデアだと思ったんだが。
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