第二十九話
街から少し離れた所には豊かな森があり、そこには様々な生き物が居る。
モンスターだったり野生動物だったりするが、あまり大きくないため危険はない。
野草やキノコ、薬草や魔草を調べながら採集する。
森の恵みを得ながら歩く。
私達も森の一部なのだと、自然と一体になったような気分になれた。
「駆け出しの頃は余裕が無くて稼がないとって感じだったし、こう経験を積んでからの採集依頼は新鮮だな」
正直言って結構楽しんでいた。
日頃の喧噪、張り詰めた心が癒される感じがする。
「どうだ?採集依頼もいいものだろう?」
フォナとフィナが俺に向かって、ドヤァという顔をする。
「ああ、あんまり採集依頼をやった事はなかったが割と楽しいな。な、ガスト!」
「チッ、あんまりねえな……」
ガストは余裕無く、頭をガシガシと搔きながら採取依頼がかかっている植物を探していた。
稼ぎ目的の依頼じゃないんだから採集依頼なんて最低数拾えばいいじゃない……。
少しはフォナやフィナと話をしろよ、何で話もせず黙々と採集依頼してんだコイツ……。
「これって……依頼のキノコかな?」
「うーん。ギルドから貰った写真に似てるし、あってるんじゃない?」
ガスト達のパーティーメンバー達がキノコを二つ手に持ち悩んでいる。
「どうかしました?」
「ああ、フィナさん。これ採集依頼がかかっていたキノコですよね?少し違うような気がして」
「それは毒キノコですよ?ほら、カサの色と形が違うんです」
フィナがキノコを取り出し見せる。
「確かに違いますね」
「そのキノコは持って行っていいですよ。現物があれば集めやすいし間違いにも気付きやすいので」
フィナがいくらか採集した、採集依頼の植物を手渡す。
「私が採取した野草も持っていくといい。これも似たもので葉の裏が赤くなってるものは毒草だからな」
参考にしようとメンバーが集まり、採集依頼の青空教室が始まる。
「フォナさんとフィナさんって植物の知識が凄いですね!」
胸を張り、先生ぶるフォナとフィナ。
採取依頼に拘っていたのは、この承認欲求からじゃないだろう……。そう思いたい。
「後は、動物とかを手懐けておくと探すのに手伝ってくれたりしますよ」
フィナが草笛を吹くと、茶色い中型犬が現れる。
野犬にしては少し表情が柔らかい事と、お腹周りに無駄な肉がついているからおそらく二人が餌付けしているんだろう。
「わぁ、可愛いですね」
「賢そうな犬ですね」
犬への賛辞にフォナとフィナが気分を良くする。
「賢いでしょう?私達がしつけているんですよ。ほら、リヴ、お座り」
フィナがお座りと言うと、尻尾を振りながら座る犬。
どうやら名前はリヴと言うらしい。
「リヴ、お手だ」
フォナがお手と言うと、犬はそっと手を乗せる。
基本の芸だが、飼っている訳でもなく森に放しているのに従順に言う事を聞くリヴにガスト達のメンバーが感嘆の声をあげる。
「他にも芸ができるぞ、ほらおまわり」
フォナが言うと、尻尾をおいかけるようにしてグルグルと回転する。
「次はチンチンだ」
「リヴ、チンチンですよ」
フォナとフィナの声で犬が前足をあげて二本足で立つ。
中々調教が出来ているようだ。
その声を聞いて、ガストがニヤニヤしながらフォナとフィナに近づき言った。
「若い女がチンチンって連呼するのは何だかいいよな!」
シモネタの投下だ。
「うわぁ……」
ガスト達のパーティーメンバーの中で女性達が軽蔑の目を向ける。
「最低だな……」
「最低です……」
フォナとフィナ達も気持ち悪そうに自分の身体を抱いた。
女性メンバーの目が酷く冷たい所に、ガストがたじろぐ。
「な、なんだよ……ちょっとした冗談だろ」
ガストが焦って言うが、女性メンバー達の目がさらに一段と冷え込む。
男性メンバーも、空気を読まないガストの発言に目を逸らした。
何と言う事でしょう。
せっかくいい雰囲気になっていたのがガストの一言で一気に険悪な雰囲気に。
仕方ない、ここは元賢者の俺が一肌脱いでやるか……。
「なぁ、フィナ。犬がこういう風に二本足で立つ芸の事を『チンチン』って言うだろ?なんでだか解るか?」
唐突に話を振り、全員の視線が集める。
「なんでですか?」
俺は真剣な表情をして厳かに言った。
「元気よくたってるだろ?」
「……?……え!?」
女性メンバー達は言っている意味が解らなくて首を傾げた後、言葉の意味に気付いて顔を赤くした。
鎮座から来ているとか、顎をあげるから、と色々な説があるが。
元気よく勃ってるからだと思うんだ。
ストレートなシモネタギャグに女性メンバー達が言葉を失う。
「うぁ……」
ガストまでやや引き気味になっていた事に傷つき、初日の採集依頼は無事に終わった。




