第二十八話
パーティーを組むにあたって重要な事がある。
まず方向性だ。どういう方向へ進んでいくのかがブレると動きがちぐはぐになる。
俺が好きな小説等に出てくる勇者一行は、『魔王を倒す』という目的にみんなが向いている。
「魔王を倒すために武器をそろえる。金を貯めるべきだ」
「魔王を倒すためにスキルを練習したい。訓練所で特訓するべきだ」
「魔王を倒すために新しい魔法書を読みたい。教会の図書館で勉強すべきだ」
目的が一致していても、過程が異なれば当然言い争いになる。
考え方が異なるパーティーメンバーが居ると、何をするにしても反対意見が必ず出てくる。
理想的な事を言えば皆が同じ考え方をしており、皆の意見が一致するのがベストだがそういう事はあまりないだろう。
ほとんどの場合は強力なリーダーシップや信用のある人物、経験のある人物が決定していく形になる。
では、発言力が分散していたらどうだろうか。
船頭多くして船山を登るという言葉通り、意見の押し合いになる。
フォナは年齢で言えばガストよりも年上だし、上級剣士としての技量も優れているがパーティー経験が無い。
人数はガスト達の方が多いし、ガスト達のパーティー経験は豊富だがフォナ達のパーティーに混ざっているような現状。
発言力が拮抗している。
そして悲しい事にこのパーティーは目的から違っていた。
フォナフィナ達は、『仲間を探す』という目的を持ち、ガスト達はメンバーのために稼がないといけない。
目的も違い、考え方も違い、発言力も拮抗している場合……。
その場合がこちらになります。
「フォナちゃんは解ってない!これだけの人数が居れば討伐しかありえないだろう!」
「いいや採取だ!これだけの人数が居るんだ。強敵にあえば守りきれず誰かが怪我をするかもしれない!」
「怪我を恐れてて冒険者ができるかよ!」
「無駄な怪我をする必要は無いだろう!討伐を受けるよりも採取依頼の方が楽しいに決まっている!」
次々とパーティーが依頼に出かけていく中、フォナフィナとガスト達はずっと議論を続けていた。
「だから、採取依頼だと食えないって言ってるだろう!狂ってるのか!?」
「お金じゃない。冒険は楽しむ気持ちが大切なんだ」
「上級冒険者で余裕があるお前らとは違うんだよ!うちは中級が多い。採取依頼だけだと食事もできねえぞ!なんのためのパーティーだよ!」
『余計な事をしやがって……なんとかしろ』
困った顔をするガスト達のメンバーが、そう非難するような目で俺を見ている。
話を中断させ、ガストを呼ぶ。
「……あいつらたまにピクニックっぽく採集依頼を受けてたりすんだよ。お前が譲ってやれないか?」
「一つの採集依頼で同じ場所で同じ物を取って仕事になると思うか?」
だよなぁ……休日を過ごすついでにピクニック気分で採集ならまだしも、大人数パーティーでやる依頼じゃない。
採集依頼を否定する訳ではないが、採集依頼は基本的に安全で初級向けの依頼だ。
野営が多い冒険者は森に籠り、討伐依頼の獲物を狙う事も多い。
野営の際に食べられる森の恵みを集めたり、応急手当のための薬草採取や罠のための毒草採取。
駆け出し冒険者が野営に対する知識を得るために受ける入門のような依頼である。
その分安い。ボランティアかというくらい安い。
具体的には激安の宿と最低限の食事を取れば後には残らないくらい安い。
ガスト達……中堅からベテランの冒険者がするべき依頼ではない。
それもソロではなくパーティーで向かおうと言うのだ。
素材は勝手にポップする訳ではない。自然に育まれ育つ物だ。
採集依頼をこの人数で受ければ、取り尽くして採取しそこね、評価を落とす事もありうる。
フォナとフィナの依頼のチョイスは確かに狂気と言える。
はぁ、と俺は溜息を付き、フォナとフィナを呼ぶ。
俺はそっとフィナに耳打ちする。
「なあ、フィナ……。多数決で決めようって言ってくれないか?お前が言えば全部丸く収まる気がする」
「嫌ですよ。多数決したらガストさん達の方が人数多いから採集依頼にならないじゃないですか」
フォナより空気が読めると思ってたのにお前も採集依頼派か。
みんな討伐依頼したいと思ってるんだったら譲れよ……。
「なぁ、フォナ。討伐依頼にしてやれないか?同じ場所で採集すると採取できる数って決まってる訳でさぁ」
「いやだ、ここは私達のパーティーだ。私が決めて何が悪い!」
どっちも一歩も引かない。
「それにメンバーが増えているんだ。それぞれの動きを把握しないと危険になるだろう。簡単な依頼からやるべきなんだ」
これも一理ある。
単純に人が増えればその分強くなる、という事はない。
実際に単純な事務仕事でも複数人で仕事をする時は【人数×0.6】という効率係数が割り当てられている。
1人だと1の力が出せても2人だと最初の1人を除いて1.6の力しか出せない。
単純な事務仕事でもそうだが個人の技量が物を言う冒険者の仕事はさらに顕著でマイナスになる事もありえる。
気付かれないように倒そうとしていたら誰かが音をたてて気付かれてしまったら逃げられるし不意打ちを受ける事もある。
大物に襲われた時に一人がへたり込んでしまえば逃げる事すら危うい。
そんなメンバーは見た所いなさそうだが、信用や慣れはパーティーの中で積み重ねていく物だ。
慎重に、怪我をしないように進めていきたい、というフォナやフィナ達の言葉も一理ある。
ガスト達でなく冒険者になったばかりの駆け出しが加入したのであれば、この選択は間違っていないのだ。
俺は頭を抱え、呟いた。
「選手交代!」
…… ……
「よし、じゃあ依頼人である俺が決めるぞ?まず初日はパーティーメンバーの顔合わせ、自己紹介として採集だ」
選手が仕切り始める。選手達に依存してダメになってしまいそうだ。
フォナフィナ、ガスト達両方が不満そうに声をあげる。
「やかましい、今回の件は仮とは言え俺が依頼人だ。俺は護衛対象だろう?俺が決める。文句を言うな」
初日は自己紹介、顔合わせ目的だ。
別にどこでやってもいいが、基本的な動きを見るために街の外で動いてもらう。
二日目は簡単な討伐依頼をする。怪我をするような大物は狙わない。連携パターンを練習するぞ
三日目からはガストとフォナフィナで話あって決めろ。
二日間でそれぞれの性格を把握し、簡単な連携を練習してるんだ。
それで討伐対象で揉めるようならお前らはパーティーリーダーの資格がない!。
質問に答えながら、ある時は冒険者達の自尊心をくすぐるように。
ある時は冒険者達を窘めるように。
適格にスケジュールを組んでいく選手。
一週間程のスケジュールを決め終えた所で、
「これでいいな?よし、お前らはこれに従え」
フォナフィナとガスト達が俺の選手の気に当てられ頷く。
ギルドマスターは感心したようにその様子を見て、
「いつもヘラヘラしてると思ってたが中々。パーティーをまとめる才能があるな……」
と……自分だとおそらくそうしたであろう仕切りを見せるオルタに、感心していた。
『これでいいのか?』
『ああ、十分だ。さすがギルドマスターだな……冒険者をまとめる才能があるぜ!』
『しかしこのスキルは面妖だな。そこにも俺が居るというのが気持ち悪い。まぁ、また何かあったら呼ぶといいさ』
『ああ、ありがとう。ギルドマスター!』
【冒険者達の頼れるギルマスのアニキ ダグ】を呼べるようになりました。