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第二十四話

『よし、解決ね』

『いや、どう見たら解決に見えるんだよ……』

『ガタガタ愚痴を言わなくなったわ。どう?満足した?』


 カレンは俺の顔をじっと見つめ、俺に尋ねた。

『何がだよ!期待外れだ、二人をこんなに痛めつけて気まずすぎるだろ!』

 いつもの媚びた口調ではなく、素直に文句を言う俺にカレンはやや身じろぎをした。

『……何かあったら、また私を呼びなさい!』

『呼ばねえよ!』

『うるさい、そう言えって言われてるのよ!お約束らしいんだから我慢しなさい!』

 そしてカレンはそっと俺の身体に重なり、ゆっくりと消えていく。


【選手交代スキルに、特級剣士 カレンが追加されました。名指しで交代する事が可能になりました】

【交代した事がある選手と相談できるようになりました】


 なんだか選手交代スキルのレベルが上がったような気がする。

 

 フォナ、フィナの二人はカレンに叩きのめされ、庇いあうように泣いていた。

 

「なあ、フォナ」

「な、なんだ……私達の負けだ」

「カレンが……俺が言いたかったのは。強さを価値として損得を持ち出した事が間違っているって事だよ」

 カレンは国で指折り数えるくらいしかいない特級剣士だ。

 騎士(こうむいん)になる事も諸手をあげて歓迎されるような存在だ。

 A級パーティーで騎士よりも稼いではいるが、基本的に冒険者は不遇な仕事だ。

 怪我をしても誰も面倒を見てくれないしあっさり命を失う事もある。

 

 そんな冒険者という不安定な仕事をしているのは、ただ

『楽しいからよ、他に何かあるの?』

 楽しむために今を生きているカレンに、オルタよりも私達を入れる方が得だ。

 そういう価値観をカレンは嫌っている。

 

 シア、シノブ、エレノア。全員が指折りの実力者だが

 

 仮令たとえシアが中級魔法使いでも。

 シノブが中級格闘家でも。

 エレノアがただの聖職者でも。

 そして俺がヤクタターズであっても。


 おそらくカレンは自分と気が合う人達と一緒に冒険する事を選ぶだろう。

 

 なにせカレンは子供以下のステータスの俺を庇いながら一月も見捨てなかった自慢のパーティーなのだから。

 俺は結局追い出されたけどな……くそ、いつかザマァしてやる!

 

「まあ、使えないジョブに変わったというお前に、ここまで軽くあしらわれたんだ。しばらくフィナと二人で修行しなおすさ」


 頭を掻きながら、俺は言った。

「普通に混ぜてーって言えばいいんじゃないか?お前らなら断られないだろ。ダメ元で聞いてみろ」

 コピーカレンには嫌われたようだが、現実のカレンでリトライすればいい。

「カレンに強さが、効率が、損得が、とか言うと暴れるぞ。バカっぽく胸を揺さぶりながらパーティー混ぜてって言ってみろ」


 そう、いきなりクールキャラだったと思っていた人物がそんな面白い事をすればカレンは釣れるハズだ。

 あいつヤンキーノリだから面白ければなんでもオッケー出すしな

「そのくらいがちょうどいい。元賢者からのアドバイスだ」


 

 翌日、


「オルタ、ダメだったじゃないか!」

「オルタさんは最低です!私と姉さんを晒し者にしました!」


 フォナとフィナはカレン達のパーティーに、入れて欲しいと伝え……カレンに断られた。

「ごめんね、当分、パーティーメンバーを増やす気はないのよ」


 残ったのはバカっぽく乳を揺らしながら、パーティーに入れてと言う姿を多くの冒険者達に目撃されたあげく断られた痛々しい二人の姿だった。

 

 あ、あれえ……?


 カレン達のパーティーにそっと近づき、カレンの前に座った。

「なんで断ったんだよ。お前バカだからああいうバカっぽい奴好きだろ?」

「ぶち殺すわよ?」

 赤い髪をかき上げ、カレンは不機嫌そうに俺を蹴った。

 

「前にお前、フォナとフィナなら歓迎だって言ってたじゃん……」


 そういうと、カレンは頬杖をついていった。

「私とキャラが被ってるし」

「ワシとキャラ被っとるしのう……」

「嘘つけ、お前らそんな事気にする奴じゃないだろ。つか暴力ヒロイン枠のお前達は美少女双子エルフと全然被ってないだろ」


 そう冗談めかして言った後、原因はなんだと尋ねてみる。

「……ワシらは楽しくやれればいいんじゃ、そういうのはカレンに任せとるしのう。ワシは中立じゃ」

 そうシアは気まずそうに言う。

「そ、そういうの……は、考えたく……ない」

 中立、とシノブが手を挙げる。

「彼女達なら問題ありませんわよ?ただ私はあまり親しくないので中立ですわ……」

 中立ですわ、とエレノアが首を振る。


 中立三票。原因はカレンだった。

「で、なんでだ?」

「……昨日、オルタに対して気持ち悪い自虐自慢風の愚痴をドヤりながら聞かされた夢を見たのよ」


 俺は沈黙する。

「ああ……価値観が違うなって思ったの」


「……で、でもそれ夢の話じゃん?」

 内心ドキドキしながら、俺は惚けてみる。

 

「でもね、何だかリアルで……夢のようには思えないのよ!」

 胡乱な視線を俺に向けるカレン。


「……あ、あー。選手と相談がしたい」

 あたりの時間が止まる。

 俺の頭上の空間が歪み、歪んだ空間から光が差し込んだ。

 頭に輪をつけた二十代前半くらいの天使のような光り輝く美しい女性が歪んだ空間から顔だけを出している。

「……カレンと相談したい」

 そう言うと、ウグイス嬢はコクリと頷き、バタバタ音をさせた後

「相談って何よ?」

 コピーカレンが顔を出した。


 現実に居るカレンとコピーカレンを見比べて、俺は尋ねる。

「お前のやった事って、本体にも影響があったりする?」

 何をバカな事を、とカレンは笑った。

「当たり前じゃない。私はカレンだもの。私の行動は私が消えた時にフィードバックされるわよ?」

「解った、もういい。あ、すまん。相談を終える時はどうすればいいんだ?」

「相談終了って言えば終わるわよ?」


 そして顔だけを出しているコピーカレンに、そっと手を伸ばす。


「な、何よオルタ……」

「もうちょっと、その空間の歪み?から乗り出せるか?具体的には上半身くらい」

「できるわよ?交代したいの……?」


 そしてカレンがお腹の辺りまで空間の歪みから出てきた所で、俺はカレンの胸を鷲づかみにする。

「そ・れ・を・先・に・言・え!」

「なっ!?こ、殺す」

 七回揉んだ後、相談終了と告げるとカレンが空間の歪みに吸い込まれた。


「お、オルタァァァ!次あったら許さないからね」


 そして時は動き出す。

「ん……?」

 カレンが俺の方を見て、何だか不思議そうな顔をする。

「どうかしたか?」

「……いや、ああ。忘れてた」

 カレンが俺にやや強めの蹴りを入れ、俺はもんどりうって倒れた。

「ど、どうしたんじゃカレン?」

「そういえばコイツに夢の中で胸を揉まれた気がするわ」

「理不尽だ!」


「あとは……」

 カレンが指さした先には、ガストがまた二人を勧誘してふられていた。

「横取りするのは趣味じゃないのよね」

 カレンは微笑ましそうにガストとフォナ達を眺めていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仕事の合間に読みながら、最新話まで追いつきました。やっぱり面白い。 追放した側も、ギルドの人間も、登場時には少しアレな印象のキャラ達も、今回のエルフ姉妹のように普通なら可愛そう、お話の中で…
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