第二十一話
「聞いてるのか?オルタ」
「オルタさんはもう少し、私達の話を真面目に聞くべきだと思います」
「あ、ああ。聞いてる、聞いてるよ。少し昔を思い出していただけだ」
酔っぱらっい愚痴るフォナとフィナに囲まれ、相槌を打つ。
「だからダンジョンではさぁ……」
「二人でやるというのは大変なんです」
「うんうん、そうだよな。解るよ、解る」
パーティーの悩み
ガストへの苛立ち
カレンやシアの近況
俺の近況
延々と話がループするのに疲れ、やや酒もまわって気分が悪くなってきた。
「聞いてるのか?」
美人との話相手というのは基本的に楽しい行為だ。
だが、その話の内容が愚痴を聞く、惚気を聞く、自慢話を聞く、何かと詮索される。
これらが入ると、その楽しい行為は一気にクソみたいな時間に変わる。
愚痴の時、大まかに言うと三つのパターンに分けられる。
相槌を打たないといけない愚痴。
否定しないといけない愚痴。
肯定しないといけない愚痴。
「最近、私に難しい仕事ばかり回されてる気がする」
「会社が残業ばかりさせる」
「給料が上がらない」
こういう環境的な物は、基本的には相槌を打つのだ。
「うん、酷いですよね。でも期待されてるからですよね」
「うん、残業多いの辛いですよね。頼れそうだからですかね」
「うん、上がりづらいですよね。景気悪いですし」
「私、オバチャンだから化粧しても誰も見ないわ」
「俺はもう出世しないから、俺にお世辞いっても無駄だぞ?」
「あんな見え透いた詐欺にひっかかった私はバカだわ」
こういう自虐・自虐的自慢は基本的には否定するのだ。
「そんな事ないですよ、綺麗じゃないですか!」
「先輩案件大量に抱えてるし、絶対出世しますよ」
「でも焦ってる時にそういう話を持ち出されると誰でも騙されちゃいますよ」
自虐と悩みは特に気を付けないといけない。
『給料が高い自慢をしたいけど、それをすると厭な人間に見られる。残業がきつい事にすれば給料高い事をさりげなく出せるぞ!』
こういう場合は、
「そんなに貰ってるんですか?凄いですね!」から残業のきつさアピールを聞いてワンセットの愚痴になる。
これを悩みと受け取り、
「うっわ、そんなに貰ってても、そんな残業するならやりたくないっすね!」
「最低の職場っすね!」
等と返すと殴り合いになる。
もし立場が違ったり、回答を間違えれば激しい怒りを買う事になる。
愚痴を聞くのは、相手の心情を読み、最適な解を返さないと人間関係をダメにする可能性があるのだ。
延々と話がループするフォナとフィナに疲れ、やや酒もまわって考えるのも億劫になってきている。
気分が悪くなってきた。
もう許してくれ……。俺を解放してくれ……。
「選手交代」
あたりの時間が止まる。
フォナとフィナも一時停止をした時のように不自然な恰好でピタリと止まり……
俺の頭上の空間が歪み、歪んだ空間から光が差し込んだ。
頭に輪をつけた二十代前半くらいの天使のような光り輝く美しい女性が空からゆっくりと俺の目の前に降りてくる。
天使は俺の前に降りると、にこりと蕩けるような微笑みを浮かべる。
天使の衣には『ウグイス嬢』と書かれていた。
天使の周りにはラッパを持った六、七歳くらいのチビ天使が二人。『解説』と書かれた帽子をかぶっている。
チビ天使達のリズミカルなラッパの音が鳴り響く。
「オルタニート選手、追い込まれました」
「ええ、どうやらアルコールがまわって愚痴を聞くのに疲れたようですね」
そうだよ、早く俺を解放してくれ
ウグイス嬢天使がそっと俺の傍に寄ってきて、尋ねた。
「指名交代か私のオススメか選べますよ」
指名交代もできるのか、とマニーを呼ぼうとしたら歪んだ空間からマニーの声が聞こえた。
「なんで一イエンにもならん愚痴をきかんといかんのや!寝ぼけた事いわんといてや!?」
俺は仕方なくオススメで、とウグイス嬢に告げる。
ウグイス嬢天使は、マイクを片手に綺麗な声でアナウンスする。
「ヤクタターズ、選手の交代をお知らせします。オルタニート選手に変わりまして【特級剣士、カレン。特級剣士、カレン】」
「はあ!?」
そして先ほどの空間の歪みから、
「……な、何よこれ!?」
見知った顔の特級剣士、カレンが飛び出してきた。
「ちょっとオルタ……。何よこれ、どういう事?」
天使とチビ天使達は、俺に軽く手を振ると、歪んだ空間へと帰ってい……かせるか!
「待てコラ!!」
俺は『解説』のチビ天使の一人を羽交い絞めにして捕まえる。
「は、放してください!」
「なんでカレンがここに居るんだよ!」
「カレンさん、こういうの得意でしょう?ほら、フォナさんの愚痴を聞くのに最適かな、と……」
「いや、カレンに悪いだろ……こんなので呼びつけたら後が怖いぞ……」
「カレンさん本体のエネルギーの残滓。コピーみたいな物ですから、問題ないですよ。大丈夫です!」
大丈夫なのか?
天使がカレンに何かを耳打ちすると、カレンは納得したように頷いた。
「解ったわ、私は何をすればいいの?オルタを切ればいいの?」
本当に大丈夫なのだろうか




